革靴のクリームと言ったらサフィールやM.モゥブレイあたりが有名ドコロで、靴のお手入れが半ば趣味みたいな人ならば誰もが持っているだろうけれど、わが日本でもこれらに負けない(と思う)靴クリームがある。日本の靴ケア商品の最大手であるコロンブスが販売しているBoot Blackだ。
コロンブスというと、どうもチューブ入りの靴クリームや、アンメルツヨコヨコの容器みたいなものに入っている水っぽいケアグッズなど、どちらかと言うと本格的な革靴のメンテナンスというよりは、単に靴を光らせるだけのものという印象が強くて、これまでは縁がなかった。レザリアンシリーズなど普通の靴クリームもあったのだけれど、はっきり言ってコルドヌリ・アングレーズやモゥブレイと比べて、あえて買うほどのものでもなかった。
ベビーブーマーが就職する前後から、いわゆる高級靴ブームが一部の間に出てきて、革靴の素材に注目が集まるにつれ、そのメンテナンスも脚光を浴びるようになった。そこで満を持しての登場である。
ちなみにこれまた日本のメーカーであるリーガルブランドのケアグッズの多くもコロンブスが提供しているが、高級ラインのクリームはサフィールだったし、リーガルトーキョーではコルドヌリ・アングレーズが売られていた。ちなみに現在リーガルトーキョーに置かれているクリームはサフィールノワールとシェットランドフォックスのクリームで、後者はコロンブス製である。やっと日本のメーカーで靴とクリームを揃えることができるようになった。
(ま、日本の革靴市場が成熟していなったというのもあるけれど、職人気質のあるメーカーだったらニュートラルとブラックだけでも良いので高級靴にも使えるクリームを前々から用意しておいて欲しかったな。)
ふだんのメンテナンスにはモゥブレイのデリケートクリーム、それにコルドヌリ・アングレーズのビーズワックス、かなり稀にモゥブレイのステインリムーバーでやっているのだけれど、せっかく日本のメーカーが本格的なメンテナンスグッズを出したのだから買ってみようということで購入した。
Boot Blackには「プロ向け」のBoot Blackシリーズ(黒い蓋のほう、以下ブートブラック)と、「中級者向け」のブートブラックシルバーライン(銀色の蓋、以下シルバーライン)がある。今回はどちらが良いのかわからないので両方買っちゃいました。
靴磨きに関して私はプロではないので、まぁシルバーラインで十分なのだろうが、なんとなくコロンブスだけにディフュージョンラインは「とにかく艶を出さないと」的な商品になってそうな予感がする。
外観
ブートブラックはシールで、シルバーラインは瓶に直接印字されている。印字のほうが良さげなのだが...
大きさとしてはM.モゥブレイのクリームの瓶を一回り大きくした感じ。
クリームの感じ
ブートブラックのほうがウエット。どちらも蓋ギリギリまで充填されている。買ってきた時瓶が傾いてもクリームが偏ることが無いので良いかも。でもその程度のメリット。
シルバーラインは乳化性クリームの割りには固めな印象。果たして伸びはどんな感じか。
香り
致命的に悪いと思う、どちらも。
いかにも灯油っぽい臭いがする。サフィールあたりはクリームそのものの香りも良くて、それが一種のアクセントになっているけれど、ブートブラックもシルバーラインもこの点はまるでダメ。ケアが楽しくなくなる。プロは香りなんてこだわらないのかもしれないが、シルバーラインのターゲットである人たちはこれで満足するのかな。
サフィールはなぜあんなに良い香りなのだろう。この差はなんなんだ?
で、この2つのラインにどれほどの違いがあるのか、実際に確かめてみた。
今回比較に使う靴は、これまた日本のリーガルが販売するプレーントウのW134。
リーガルブランドのBTOのラストを使ったモデルで、アッパー素材はキップ。生後6ヶ月から2年くらいの革で、カーフ程ではないがそこそこキメが細かい革と言われている。
アネノイのボカルーあたりと比べてみると締りのない感じがあるけれど、比較的シミになりにくいし、革も厚めなのでデイリーユースには十分ありだと思う。
比較をするにあたって、まずモゥブレイのステインリムーバーで古いクリームを落とす。この靴は最近はサフィールクレム1925のニュートラルで磨いているので、いつもよりていねいめにリムーバーをかけてみた。
ちなみに、ステインリムーバーはあまり使わないほうが良いという意見もあり、個人的にもそう思う。ふだんは固く絞った綿布で表面を拭ったり、汚れや塩吹きがひどい場合は濡れたティッシュを貼り付けて汚れをとっているので。(濡れティッシュによるメンテナンスを始めてから、ステインリムーバーやサドルソープの出番がほとんど無くなった。これについては後日書いてみたいと思う)
前処理として、ふだんはM.モウブレイのデリケートクリームを薄く塗るのだけれど、今回はBoot Blackの素の実力だめしということでいきなりクリームを塗ることにする。
※この方法は色が薄い革だとシミになりやすいかもしれない。
クリームは布に取り、出来る限りうすーく塗り伸ばした。
クリームの量が結果の差にならないように、出来る限り同じ量を入れるように注意した。よく言われる米粒単位で数えて4から5粒程度の量を塗りこんだ。デリケートクリームを塗っていないためふだんよりちょっと多め。
塗り終わって15分くらい放置して、それからひたすら乾拭き。
ブラシを使うと他のクリームが移ってしまい、違いがわからなくなりそうだったので、今回はていねいに乾拭きをした。
コルドヌリ・アングレーズのクリームはしばらくおいてから乾拭きをすると、なんとなく引っかかるような感じを受けるけれど、Boot Blackはどちらのラインもそういうことがない。ワックスに含まれる蜜蝋の違いだろうか。
結果
右足(向かって左)がブートブラック、左足がシルバーライン。
一度だけしか塗っていないのであまり差がわからない...
しばらく使い続けると差が出るのだろうか?
強いて違いをあげるならば、写真ではわかりにくいがブートブラックのほうが光に当てた時白くなる部分が明らかに広い。最初は同じ靴でも革の違いが出ているのかなと思ったのだけれど、あちこちの部分でみてみると、全てブートブラックのほうが光の帯の幅が広かった。一方シルバーラインは光がまとまるというか、幅は細くても反射の最大値は高い傾向がある。何度も磨いて同じような状況にしていると考えられるので、思うに、ブートブラックのほうが多少ウェットな仕上がりをしているのだと思う。プロが磨いたら大きな違いがわかるのだろうか。
つま先を拡大するとこんな感じ
ネットの書き込みをみるとブートブラックシリーズは艶がキツメに出るというものが多いけれど、まぁ、確かにそんな感じがする。
サフィールノワールはしっとり鈍く光ることに比べると、特にシルバーラインはピカピカした感じに仕上る。
今回はあまりキメの細かい革ではなかったので、この反射感がかえってビニールっぽさと言うか、なんとなく安物っぽい方向に出てしまっている。まだ1回目なのと、磨いた直後ということもあり、しばらく様子を見ると変わるのかもしれない。
私自身は靴磨きは全然プロでもないし、上手い方でも無いと思う。ただ、これまでずっとコルドヌリ・アングレーズを使ってきてその質感に慣れているので、どちらかと言うと瓶を開けた時の見た目としてはブートブラックのほうが違和感が無い。
ということで、価格差も数百円なので自分で使うならブートブラックとなる。どこでも売っているというわけではないが、ちょっと高級な靴を扱う百貨店の靴売り場でふつうに売っている。(私は出張先のそごうで買った)
なんといっても残念なのはあの灯油のような臭い。靴磨きがどうしても作業のような感じになってしまう。素材を突き詰めていってあの臭いになってしまうのであれば、変な香料を入れるよりもマシな部分もあるのだろうけれど、せめてシルバーラインは一般向けなのだからもう少し何とかならなかったのだろうか。
ひとつのクリームを塗り重ねることで靴を育てていくというポリシーがある人にはわざわざ乗り換えを薦めるほどのものでも無いというのが正直な感想だけれど、日本の環境に合わせて日本で作ったクリームと言うことらしいので、しばらく使い続けて様子をみてみようと思う。
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