2015年6月20日土曜日

革靴を選ぶ

6月も後半です。

4月から社会人になった人は、会社によってはそろそろ最初のボーナスが出ることではないかと。
そんな時期、靴を新たに新調しようとしてインターネットで調べてみる、なんてことをしている人も多いかと思います。

誰もが限られた予算の中で最良の選択をしたい。調べる動機はそんなところにあったりするわけですが、玉石混交のネットの世界で提示されているアドバイスは、いったい誰をターゲットにしているかわからないものがしばしば見られます。ファッションに唯一の正解はないけれど、王道や正統はあると思いますし、狭い範囲に限定すれば求める答えに近いものが得られることもあります。そんなことを考えながら軽く僕なりの革靴の選び方を考えてみました。

以下、いつもの文体で。

僕は靴に関しては堅めな人なので、巷にあふれる革靴を3足選ぶみたいな記事を見るたびに「?」な気がすることが多い。

僕自身、人様に靴の選び方を偉そうに語るほどの素養があるとは思っていないのだけれど、それでもあまりにも個々人が置かれる「環境」を無視した「靴選びの基本」が蔓延していて不安になる。書き手の「企業」に対する理解度があまりにも限定的、というかどういう職場を想定して書かれているのかわからないものが多い気がする。

その靴選びはどの業界のどんな仕事に従事する人のためのものなのか?

商社や金融、コンサルやファッションなど業種や日系、外資などマネジメント層のカラーによって靴選びの基準は千差万別であるのに、誰に向けての記事なのかが書かれていることが殆ど無い。
文脈から想定するに、日本企業の最大公約数的なビジネスパーソン向けではないかと思われるが、そこには最も大切な視点が抜け落ちている。

「靴選びは平均ではない、最も手堅い路線で選ぶべき」

いまでこそ茶靴も許容される職場が多いけれど、黒靴が暗黙の了解として履かれている職場がある。そういう企業に内定を受けたフレッシュマンが、3足目は茶色のUチップなんて話を真に受けて購入してしまったらどうだろうか?会社で減点をくらい、靴はお蔵入り。残りの2足でローテーションというハメになってしまう。

最初の3足というテーマであれば、どんな職場でも外しのない、極めて保守的な選択をするほうがリスクが少ない。そうでなければ、たとえばこんな企業を想定みたいなガイドがあってもよいと思う。

ビジネスシーンで要求される個性とは、環境を無視した身勝手な主張とは全然違う。社会にはそれ相応の職場観があって、そこから逸脱していると一般的な評価はマイナスに傾く。
金髪鼻ピアスの小学校の先生だとか、古着Tシャツから見える腕にタトゥーの住職だとか、ジャージ姿のホテルフロントなど、実際に能力が高かったとしても僕は避けたい。

それぞれの場には相応しい(=他者がそうであると期待する)スタイルがあり、スーツを着る職場であれば、その範疇で期待されるスタイルが存在する。

集団の中で、外見は同じようなのだが何かが違う。突き詰めていえば外見は同じなのに、ほかの人とは同じとは思えない、というのが社会人に要求される個性なのだと思う。

手堅い選択をして外すケースは少ない。
手堅いということは基本であり、基本が基本たるゆえんは時代を超越して存在するからだ。人類の進化レベルの話まで行くと靴を履いている期間なんでごく最近始まったのかもしれないけれど、それでも個々人の一生からみたら十分長い間クラシックな靴の基準は変わっていない。

どうしても見た目の差別化をしたいというのであれば、靴がいつもお手入れされていてメチャクチャ綺麗だとか、実はツープライススーツでも、いつもプレスがきちんときいているだとか、そういうところにまず気を配る差別化のほうが受け入れられやすい。仕事をするうえでのモノに対する情熱はビジネスシーンという場に限定すれば人に仕事上より良い印象を与えるのは間違いない。

ここでは一般的なスーツ着用が求められている職場をイメージしている。だから、ジャケパンスタイルやブレーザーが許されたり年中ノータイでも構わないような職場向けではなくて、ファッションにあまり興味のない上司が大半で、でも顧客はあなたがスーツを着ることが当たり前だと思っている職場で通用する靴選びというテーマで考えることにする。


よくある3足の選び方でまず違和感を受けるのが、どれもこれもストレートチップ(キャップトウ)が1足しかチョイスされていないこと。

前回の記事でも書いたのだけれど、ストレートチップが冠婚葬祭に必要と言うのであれば、むしろ最初の3足すべてストレートチップにするべきだと思う。
結婚式の日が雨で、次の日お葬式で、その次お堅い会社の大切な商談だったりしたら同じ靴を3日連続して履くのだろうか。「婚」はともかく「葬」はいつ起きるかわからないし。
シーン、TPOを語るなら、連続してストレートチップが必要とされる状況を当然に考えるべきではないのか。なのに1足しかないというのも変な話。よく言われているからストレートチップを入れているだけで、真のTPOを考えていないのではないかとさえ思ってしまう。

次に茶靴やUチップが出てきてしまう点。
茶靴をダメとする職場がある。僕の最初に勤めた会社は「黒い靴」というドレスコードがあった。こんなドレスコードがある会社で、それ知る前に茶靴買っていたら悲劇。
よほどカジュアルな職場ならまだしも、スーツを着るということが要求されている職場であれば入社した後に慎重にチョイスすべき靴になる。
確かに茶靴は女性にもウケがいい。色にグラデーションがついていたりするとさらにポイントが上がったりする。茶靴を履くことが洒落者というような風潮さえある。
しかし、大半のビジネスシーンでは「洒落者であること」が評価されるのではない。

最後に「ストレートチップ」「プレーントウ」といった靴のカテゴリだけが紹介されていて、靴全体の形に関する考察がない。
いくらストレートチップと言ってもロングノーズつま先反り返りでは本来「なぜストレートチップ選ぶんでしたっけ?」という視点からすれば疑問符が付く。
実際にはほとんどのシーンで、「ふさわしいストレートチップ」が要求されることはない。だから一般論的には黒を選択しさえすれば後はなんでも良いということになるのだけれど、「冠婚葬祭に必要だから〜」の件でストレートチップというのであれば、「冠婚葬祭に使える」ストレートチップをチョイスしないことには話の辻褄があわない。


それを踏まえて3足選ぶなら、次のチョイスになる。

1足目:ブラックのストレートチップ(キャップトウ)
2足目:ブラックのストレートチップ(キャップトウ)
3足目:ブラックのプレーントウ

これ、以前に書いたものと同じ組み合わせ。何回考えても、この組み合わせしか考えられない。

まず色は黒に限る。
少なくとも手持ち5足までは全部黒でいいくらい。
男の革靴は「黒に始まり、黒で一息つき、黒を追い求める」とさえ思う。(終わりは無い)
こと日本社会でいえば、黒の靴、白のシャツ、紺のスーツを極めるのが王道なんではないかと。この格好で就活生とはまるで違う、エグゼクティブな雰囲気が出せたら、その人のビジネスファッションは超一流といえるのではないだろうか。僕もそうでありたいといつも思う。

ブラックのストレートチップが2足になるのは、先に上げた2日連続冠婚葬祭でも対応できるようにするため。また冠婚葬祭+堅い営業先などの組み合わせも考えられる。
それと単純にストレートチップならスーツスタイルに外しがないという理由。

ストレートチップが真面目で面白くないと考える人もいるかもしれない。たいてい基本とか基礎というものは面白くないもの。基礎トレーニングとか、基礎問題とか、つまらないものかもしれないけれど極めて応用範囲が広い。基礎問題・基本問題で満足してしまうのではなく、その過程を経て鋭い応用に活かすのが大多数の人の定石ではないだろうか。基礎をしっかり作るのが真面目な大工の仕事。ゲルニカなどの作品ばかりが注目されるが、ピカソは普通に絵をかいてもやっぱり一流。

靴に変化を求めるならば、某靴ファクトリーの社長さんのように人様から賞をいただくという大切なシーンでもカジュアルで攻めればいいのではないかと。なぜそういうシーンでこそ自社最高のドレスシューズを履かないのかは僕には理解できないけれど、そういう真面目な仕事として作ったプロダクトより、コンセプトシューズのほうが会社を代表するということなのだろう。このブランドは真面目さを売りにしていて好印象をもっていたけれど、ブランドが言う「真面目」の定義が少し僕の感覚と違う気がして、購入意欲がガクッと減ってしまった。
(頑張っている職人さんの名誉のために書き足せば、お店で見た限りはとてもいい靴で、それを比較的リーズナブルに展開できるのはよい職人さんがいてよい技術があるからだと思います)

最後がプレーントウなのは、最低限の変化をつけるならこれという選択。プレーントウは冠婚葬祭でも許容範囲であるため、意味合い的には3足ストレートチップとそう変わらない。3日連続ストレートチップが必要になる確率は小さいこともあるし、1足くらいは違ってもいいのかなと。

2015年時点で、この基準にあてはまり、現実的なプライスの靴は次のものあたりでないかと思っている。ストレートチップのみ書いてみる。

「リーガル 01DRCD」
これはリーガルの新定番と言ってもいいくらいのベーシックなストレートチップ。アノネイベガノは水に弱いと言われているけれど、ボカルーよりはふやけの度合いも少ないし、水洗いしても大丈夫だった。5万円以下のビジネスシーンでは最強クラスの靴。

「リーガル W131/W121」
01DRCDが出るまでは、これが定番ともいえた靴。国産キップでデザインも古典的と普通すぎるためあまりヒットしていないと思うけれど、これこそ日本の靴ではないかな。

「シェットランドフォックス インバネス」
リーガルの回し者みたいな感じになってしまうけれど、この靴も比較的手に入りやすいオーソドックスな靴。01DRCDより薄く、小さく作ってあるので若い人向けかな。ボカルーは雨に降られるとかなりふやける感じがするので天気を気にしてしまう人は最初の靴に選ばないほうが精神上よいかもしれない。

「RENDO R7701」
W131を現代風に再構築したような靴。いまイチバンのおすすめかもしれない。最初はかなり固い靴なので、足が頑張れるかどうか。かかとは確かに小さめ。入手が困難なので東京以外に住んでいる人は通販でしか買えないのが難点か。

国産以外に目を向けると、アルフレッドサージェントのEPSOMもビジネスっぽい。
サージェントは輸入で関税がかかっていることを考えると、手に入れやすい価格でいい靴を作る。以前は履き心地がふかふかしていて革靴の概念を覆してくれた。いまはどうなのかな。


電車に乗っても、街を歩いても、意外と定番の靴をしっかりお手入れして履いている人は少ない。だから、ちゃんとお手入れして、適度に履きこんだ靴を履くだけでも十分な差別化になる。よほどの上級者でないと形や色の差別化は難しそう。
僕はあまりファッションは得意ではないので、どうしてもこういう定番から抜け出せないのだけれど、僕の身の程からするとこのくらいがちょうどいいのかなと思いながらパンチドキャップトウでささやかな差別化を楽しんでたりするのでした。

2015年6月14日日曜日

RENDO R7702 2nd Report

RENDOの7702が10か月経過した。

この靴、いままで履いた靴で購入直後に初めて小指に強烈なタコができたりかかとが擦れたり、第一印象は自分に合わない靴だった。

ところが10ヶ月経ったいまでは当初こうなるとは思えなかったほどにジャストフィットになっている。購入当初といまとの印象はまるで別の靴のよう。

RENDOの靴は芯地がほかの靴に比べて固いと感じる。またラストは細いと言われている。
おそらくはEEの僕の足では少し横幅が窮屈なことと、このような靴作りのコンセプトから最初に固いと感じたのだろう。

いまはそういう痛い思いは全くない。
だいたい週に1度くらいの登板頻度なので延べ50回くらい履いたことになる。
底面の減り具合から想像するに、比較的詰められているコルクも厚い。これも購入当初からの変化の一因か。
ヒドゥンチャネルの部分が減らないのはコルクが体重で変化することを想定してある程度中央を盛っているからだと推察される。
この靴は天候を気にせず雨の日も履いているが、ソールのヘリは少ないし、乾くと何事もなかったように戻っている(気がする)。ソールにはごくごくたまにソール用のクリームを入れている。

RENDOはビジネスマンの靴というコンセプトもあるみたいで、その通りの真面目で朴訥な印象で、これはこれである意味日本の靴っぽい。

いまのところほつれたり型崩れしたりもなく、あまりロングノーズでないこともあるのかつま先の減りも少ない。僕の場合は週1ローテーションなら1年くらいは軽く持ちそう。

アッパーに使われている国産キップは履きこむにつれてだんだんと柔らかく、しなやかになる。購入時は固い印象を受けるが、きちんとクリームを入れて履きこむことで、想像以上に変化する。

リーガルの国産キップと同じタンナーなのか、それともキップというグレードに共通なのか、しわはかなり大味に入る。購入するときに受けた説明では良い部分を使っているとのことだけれど、僕のレベルではよくわからない。表面のつぶつぶ感が目立つことからも、W10BDJ1のようにしっかりグレージング仕上げされたキップとは違う気がする。

太いしわが入ってもクラック防止のため丁寧にブラッシングさえすれば実用上は全く問題がないと思うのだが、しわの入った靴は一般的にウケが悪い。うちの家庭内でもこの靴のほうが、これよりはるかに履きこんでいる01DRCDより「古く見える」といわれる。

この靴のお手入れにはBoot Blackを使っている。
Boot Blackの乳化性クリームは革に浸透し易いため、表面は素材を活かす仕上がりになる。このクリームのみだとキャップの部分も凹凸感が残ってしまうので、鏡面寄りに仕上げたいときはサフィールノワールクレム1925を使うか、ワックス併用のほうが良さそう。

表面の仕上がり点ではヨーロッパタンナーのボックスカーフとは傾向が違う。表面の凹凸が目立つ感じで、これが光の反射を分散させてしまい、結果として艶が出にくい。
ガラス仕上げの靴が格好良く見える向きには向いていないかもしれない。
左がウェインハイムレダー、右が国産キップ。艶感がだいぶ違う。これは仕上げによるものかな。グレージングをしまくれば意外と近いものができたりして。
ただ、ネットでRENDOの靴を見ると、僕のものとはまた違った艶をもっているものがちらほらあるので、クリームやワックスの使い方でより高級感が出せるはず。

若いサラリーマンでも、お小遣い制のお父さんでも何とか頑張って買える範囲で長く使える本格的な靴。履きこむことでわかる靴の良さがこの靴にはある。

冒頭にも書いたように購入した当初は小指にもかかとにも結構なダメージがあって、この靴でできたタコがいまだに残っているが、いつの間にかこの靴はどこも痛くないジャストフィットの靴になっている。固い作りではあるけれど、きちんと足に合わせて変わる靴。
購入時にも「足の形状からすると、ラストのほうが少し細いのできついかもしれない。その時はストレッチします」という提案を受けたのだけれど、結果としてストレッチなしで十分なフィットを得られる靴になった。このあたりは試着だけではわからない。そこが靴購入の難しいところ。
逆に言えば、僕のようなEEではなくもう少し細いい人だとコルクの沈み込みなどによって少し余ることが出てくるのかもしれない。

よく言われる「小さめのかかと」については、確かに他のブランドの靴よりコンパクトな仕上がり。前回も書いたように購入時そのまま履くとかかとのサイドがかなり当たり、まともに履けたものではなかった。当たる部分の芯地を指で慣らしてみることで、ちょうどいい感じのコンパクトさを感じられるかかと周りになった。

ところでこの靴、ネット上の情報からするとセントラル製だと思われるのだけれど、同じセントラル製と思われる三陽山長のおよそ6割の価格。アッパーで使われている革が違うにしても、かなり良心的な価格設定なのではないだろうか。

RENDOって、靴好きの人ならそのコンセプトとそれから導き出される良さが理解できると思うのだけれど、これから靴好きになる予備軍である若い世代に訴求するには今ひとつパンチが足りない気がする。いわゆる真面目すぎてモテない君で、作り手の伝えたいメッセージを受け取る側もこの真面目さを受け止めるだけの余裕が必要とされてしまう。
一巡して、クラシックな普段履きが欲しくなった人が立ち返る靴なのではないかと。

個人的にはこうした真面目なコンセプトにもっと光があたって欲しいし、こういう靴こそが日本のベーシックとして広まったらいいなと思う。実際に自分で購入してみて履いてみて解ったのは、本当に期待を裏切らない靴。目立たないけれどなぜか安心。

足馴染みも良いし、ビジネスシーンで必要十分なRENDO。これからも天気を気にせずどんどん履いていきますよ。


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AmazonでRENDOの取り扱いが始まっています。いまのところ7702はダイナイトソールモデルのみみたい。キャップトウはレザーもある。万人向けでいい靴だと思う。中でもAmazon専売のネイビースエードはかなり格好いい。これがレザーソールだったらなぁ...



ツリーはディプロマットヨーロピアンを入れています。


クリームは何となくブートブラック。