2020年6月19日金曜日

クールビズでのシャツ選び

クールビズのビジネスシーンではどんな視点でシャツを選ぶのが良いのだろうか。

オフィスのカジュアル化に加えて、新型コロナウイルスによる在宅ワークの奨励などによって、スーツを着る機会はどんどん減っている。
そもそも「クールビズ」なんて施策がヒットしてしまったものだから、もはや基本のスーツスタイルは崩れまくっている日本の夏ではジャケットを着ている人なんてほとんど存在しない。

そんななかで「シャツ」はインナーの枠を超えた意味を持つようになっている。

「シャツは下着~」は「cultureとcultivateは~」と同じく、共感を得られると思う仲間内だけで使ったほうが良いうんちくで、得意げに人前で使うようなものでない気がしてならない。
シャツは下着云々はもはや過去の記憶として、シャツを「見られるもの」としてスマートに着こなすことがどういうことだろうか。ただジャケットを脱いでタイをやめただけではやっぱり残念な姿になってしまう。

ファッションに限らず、引き算の哲学は難しい。
完成されたと考えられているものからあるものを取り除いたとき、その行為が全体をぶち壊してしまうことがある。ある人にとってどうでも良い引き算がほかの人にとって壊滅的な印象をもたらすこともある。シンプル・イズ・ザ・ベストというのは、それだけシンプルが難しいということの裏返しでもある。

日本ではもはや違和感なくあたりまえのスタイルであるビジネスシーンにおける半袖シャツだけれど、やはり肌の露出は控えるほうが清潔感がある。パンツ(スラックスorズボン)を半ズボンにしてオフィスに登場したらさすがにこの日本でも厳しい。すね毛があろうがなかろうが関係ない。シャツの半袖も似たような印象を持つ人もいる。
少なくとも職場の女子はオッサンの汚い腕を見たいと思っていないだろうから、袖を切り捨てて自分だけ涼しい顔をしているよりも、満員電車で人に肌で触れないように隠しておくほうがオッサンとしての礼儀ではないかと思えてならない。


僕はもともとは真夏でもジャケット着用、タイドアップ(ネクタイ使用)というスタイルが好きな人なのだけれど、さすがに暑苦しい日にお客様先にこの格好でいくと引かれることもあるし、そもそも僕が住んでいる東京は温暖湿潤気候(Cfa)と、スーツ発祥の地である英国の気候(Cfb)より一段暑い。
そういうわけで、歳も取ってきたし、世の中ジャケットないほうが主流だし、相手にも暑苦しい印象与えないし、無理して体に負荷かけることもないしで、最近はジャケットレスへの抵抗が薄れてきた。

そういうジャケットなしで一日を過ごすようになると、改めてシャツの重要度がわかってくる。色、襟の形、サイズ、生地、etc...

ジャケットを着ている場合、はっきり言ってシャツの重要度はネックサイズとカフス幅があっていて、裄丈に適度なゆとりがあれば、案外あとはどうでもよい。
(といっても、このサイズを合わせるのも大変だけど)

ところがジャケットを脱いでタイをやめた場合、どちらかというとボディサイズと襟の雰囲気が重要になり、裄丈は腕まくりによってどうでもよくなるし、カフス留めたとしてもジャケット用より数センチ短いほうがすっきりする。

僕は身長170cmで、裄丈は採寸で81cmくらいなのだけれど、洗濯で縮むことも想定し、シャツの裄丈は最低でも84cm、多くは85cm~86cmくらいで作製する。
このくらいで作るとカフスボタンを留めない限りはだらんと長く、親指の付け根くらいまでの長さがあるものの、カフス周りをきつめに作るので、ボタンを留めれば手首に固定され、手を自由自在に動かしてもカフスは動かない。立とうが座ろうが、カフスは手首をしっかり覆う。

本来の腕の長さより十分にシャツの袖丈が長いため、シャツ一枚での立ち姿だとひじのあたりにかなりしわが寄る。
これがジャケットを脱いだ時に意外と目立ち、どことなくサイズが合っていないようなだらしなさを感じてしまう。
裄丈を長めにするというのはジャケット着用を前提としたときには100%正解でも、ジャケットを脱いだ時はシャツのツウには理解されるかもしれないが、これはこれでサイズが大きく見えてスマートではない。

シャツ姿をすっきり見せるにはジャケット前提より2~3cm短めのほうがすっきりとして、僕の場合は裄丈82cmくらいがジャストっぽく感じる。
そもそもスーツを着ないシーズンは腕まくりをしていることも多く、ジャケット着ていないのだから袖が出るかくれるなんてことはなく、裄丈が短いことが目立つシーンは少ない。

ということで、裄丈一つとってみても、ジャケット着用のクラシックの教科書スタイルではいまいちしっくりこない、日本のクールビズなりのシャツ選びがあると思う。



そんな古典的な考えを持つ僕が、若かりし頃の自分にクラシックをベースに少し肩の力を抜いてアドバイスするならこんな感じになる。
以下、丁寧な文体で。


「シャツはサイズが命、選ぶなら小さいほうにしよう」

先日、とあるシャツ屋でクールビズ用にシャツを買うため採寸してもらいましたが、「37-81もしくは38-82のどちらでもよいと思います」と提案されました。

僕が迷わず購入したのは37-81です。

体形がBMIで標準に入る人であれば、二つから選ぶことを提案されたときは小さいほうがおおむね正解です。
「大は小を兼ねる」といいますが、ファッションの世界では兼ねればよいというものではなく、だらしなさを強調するだけです。靴もそうですがわざわざ採寸してそもそも着られないようなサイズを提案する店員さんはいません。

たいていの人は大きめのサイズに関しては許容度が高く、小さい方向の違和感を強く感じがちです。また、クリーニングに出す頻度やアイロンのかけ方によっても縮む度合いが異なってくるのでお客様に提案するときはワンサイズ大きめも提案してみるという気持ちはわかります。ただ、僕はこれまでシャツ屋さんで「このシャツは自宅で洗濯する予定ですか、それとも毎回クリーニングに出しますか?」みたいなことを聞かれたことが一度もありません。

どちらにしてもどうせクールビスではネクタイしませんし、腕もまくることが多いので、ネックサイズが少しきつくても問題ありませんし、裄丈もくるぶしに乗るくらいあれば心配ナシです。

BMIでやせ型に該当する場合でも小さめがおすすめです。
この体形であれば下手にバストやウエストが余るとより貧相に見えてしまいます。満員電車とかではエチケットでカフス留めておくとしても、それ以外では袖をまくることを前提にしましょう。
どうしても腕を隠す場合はパターンオーダーでボディサイズを極力コンパクトに、裄丈を適正サイズに持っていくのがベストです。

体形が標準よりかなり太めの人はどうしたらよいのか僕は自分の体験談を持ち合わせていないため、お店の人の採寸に従い、伸縮率をよく確かめたうえでサイズ決定が良いと思います。



「シャツの色は白がいいかも」

クールビズでは淡いブルーなども合うとは思うものの、素材によっては汗が目立ちます。

わきの下や背中、襟や胸部などどこであっても汗が目立つのは清潔感の真逆です。単純に汚らしい印象を与えてしまいます。

白はそんな汗シミも目立ちにくく、陽の光の下で映える色です。
まずどんな色のパンツ(ズボン)にも合いますし、暑い日も涼しい日もいつも清潔感をキープできます。洗濯機に漂白剤と一緒に入れて気にせず洗えるという衛生面でも優等生。
冠婚葬祭どこでも通用しますので無駄がありません。

このブログを見ている人であれば常識かもしれませんが、ボタンの色や糸が黒かったり、カフスや襟に余計な柄が入っているのは中学生のオシャレ意識っぽいので絶対に避けましょう。少なくとも大人の身だしなみとしては完全NGです。なので、そういうシャツを販売していないブランド・店舗でシャツを購入すると地雷を踏む確率が減ります。


「襟の形はワイドなほうがいい」

アンタイド(ノーネクタイ)の場合は襟は開き目なものが(おしゃれ上級者でない限り)似合うことが多いです。

ワイドカラーやそれ以上に広がったホリゾンタルカラーは、正面から見たときの襟の占める割合が減るため、アンタイドでもすっきりします。

ホリゾンタルカラーはジャケット着用の時は微妙な感じがしてならないのですが、アンタイドにした瞬間に流れるような襟のデザインが自然に見えて、ネクタイを必要としないデザインに感じます。

ちなみに、よくアンタイドの時はボタンダウンが良いみたいな話を聞きますが、ボタンダウンってビジネスシーンで格好よく着こなすのは至難の業です(僕にはそう思えます)。
安易にボタンダウンに走っても、パンツが細身だったり靴がクラシックだったりするとよほどのおしゃれ上級者でない限りセンスのなさが強調されるだけです。
ボタンダウンはやっぱりカジュアルでこそその本領を発揮します。おしゃれ上級ではない一般のビジネスパーソンが無理してビジネスシーンに持ち込むことはないデザインに思えます。

襟の素材はフラシ芯を使ったふわっとしたものがアンタイド向きです。安価なシャツに使われるトップフューズ芯だと襟がパリッとしすぎて、襟が主張しすぎてしまいネクタイが無いことを余計に目立たせてしまいます。襟が紙飛行機の羽根みたいな人がいますが、自然なロールのほうが夏向きに思えませんか。

この数年購入したシャツでは、鎌倉シャツのワイドカラーの芯地がいちばん好きです。土井シャツはロールがイマイチで僕のアイロン技術だと右襟と左襟でロールが均一になりません。5,000円クラスでかなり頑張っているカミチャニスタは、ブロードに使われている薄っぺらな硬い芯地はアンタイドでうまく着こなせる自信が僕にはありません。最近鎌倉シャツも接着芯を使ったフランチェーゼシリーズを出してきました。個人的には接着芯でもコストダウンに見せないどころかかえって値段を上げるための秘策としての襟型ではないかと勘繰ってしまいますが、デザイン自体はとてもよく、これをフラシ芯でふっくら作ってくれたら、ホリゾンタルいらずな感じです。


「素材はざっくりふわっとしたものがいい」

定番のブロードは生地が薄くてよい気もしますが、汗で張り付きやすくしわも目立ちます。なかなかシャツ初心者泣かせです。アイロンがけも結構難しい。
僕はアンダーウエアを着る人なので、直接背中や胸がべったりということはないものの、オクスフォード系やツイルといったやや厚手の生地のほうが汗も目立ちにくいし、かえって涼しい見た目にもなったりします。

薄手になればなるほど、肌がアンダーウエアが透けやすく、清潔感が減ってしまうというのは皮肉です。ピンポイントオクスフォードは一見暑苦しいですが、上記のようなべったりすることが少ないので、汚らしい印象を人に与えることは少ないです。


「気軽に洗えることが最優先」

100番手以上の繊細な生地になると取り扱いも注意が必要ですが、シャツは2シーズン持てばいいほうと割り切って、思い切って気にせず洗濯機でどんどん洗いましょう。クールビスのシャツスタイルは清潔感あってなんぼです。

よく「シャツの耐用年数は2年と法律で決まっている」と書いてある記事を見かけるので、それってどういう根拠で成り立っているか知りたくて根拠の条文を探そうにもなかなか見つかりません。1枚で考えるなら労働基準法的に週5回を2年間来たら500回着られることになります。工作機械やサーバ機とかなら24*365の連続運用を基準に考えているでしょうし、PCなら1日8時間×週40で考えてもよさそうとか何らかの目安がありそうですが、シャツの耐用年数の考え方はよくわかりません。単純に10着くらいのローテーションで2年くらい着たら結構みすぼらしくなるという感覚的な問題です。

なので、僕は最低でも5着、できれば10着でローテーションが良いと考えています。5着持っていても週1回程度着たら1年間で50回程度、2年で100回着用(つまりは100回洗濯)です。何とか10枚まで頑張ってそろえるのが清潔感への近道です。

いちいちクリーニングやら手洗いやらもよいですが、洗濯機でじゃぶじゃぶ洗って自分でアイロンかけるで十分です。
ニオイが気になるシーズンだからこそ、脱いだら間髪入れずに洗濯できる家庭での洗濯機洗いが楽です。
クリーニングでパリッとしたシャツは確かに格好良い。でも、素人感が出てもきちんとアイロンがけした感が出ていれば問題ないですし、僕はそういう人のほうが好印象です。

手を出せる価格には制限があるので、フラシ芯を使ったしっかりしたシャツを選ぶと枚数をたくさん揃えらないなんてこともあります。その場合は無理して高いシャツに走らず、迷わず安価なシャツでもよいのでまず数をそろえましょう。


ここまでいろいろ細かいことをこれまで書いていますが、「清潔」に勝る「清潔感」はありません。どんなおしゃれなきれいめシャツでも臭かったり襟の汚れが目立ったり、袖口がボロついていたりするのでは台無しです。

以前のブログでも書きましたが、僕は衣服を捨てるのが苦しい人なので極力長く使おうとしますが、シャツに関しては襟か袖がだめになったら諦めます。コットン100%で襟が柔らかいものは寝間着や作業着などに使うこともありますし、分解して布切れとして活用することもあります。
残念ながらビジネスシーンでのシャツは「経験変化による味」というものは評価されないので、ここは割り切ることにしています。

洗濯し、アイロンがきちんとかかっているシャツを着ている人に対して「あれは素材が悪い」とか「襟のロールが」とかいうのは一部のファッション意識高い系だけなので心配無用です。少なくとも清潔感あるシャツを着ている人を見下すような人は(ファッション業界の一部を除いて)出世していませんのであなたの評価者になることはありません。なので、成長を阻害する要因にはまったくもってなりえません。



ここからいつもの文体。

ということでシャツを選ぼうとすると、お店があって(採寸できて)、ある程度リーズナブルな価格で手に入るシャツがやっぱりいいなということになる。
一部の人を除き、ビジネスアイテムにかける現実的なお金は有限なので数をそろえる時期、質を優先して入れ替える時期と、それぞれのタイミングによって何を優先するかが変わる。

若いうちならまずは数が勝負。
若さと快活さがあればちょっとくらいシャツが安っぽく見えても大丈夫。袖口や襟がきれいなシャツならば上司からも同期の異性からも高評価は間違いない。ボーナス出たらある程度追加するとか、毎月少しずつ積み立てて、2、3か月に1枚追加みたいな感じを1年続けるといった工夫でワードローブを充実させよう。

ビジネスでの経験や、責任ある役割になるにつれ身だしなみも一つの戦略的ツールとなるシーンがあることを理解する必要も出てくる。シャツの選択も、素材や形などが「ちゃんとしている」ものが必要になってくる。間違ってもボタンホールの縫い糸が違うものなんて着てはいけなくなる。
このころになるとシャツも着なれてきているのでサイズ感や職場の雰囲気に合わせてパターンオーダーするのもおすすめ。


「外見ではなく中身で勝負だ!」
と息巻く人の多くが外見についての知識はほとんどなく、中身も大して磨いていないということもある。ほとんどのビジネスパーソンにとってファッションは目的ではないが、ビジネス上の目的を達成する手段の一つでもある。期待される役割、モノの持つ価値や意味を考えることを放棄した人には手に入れらないないものがある。

たかがシャツ、ではあるがビジネスシーンで最初に目に入るのもシャツ。
されどシャツ、なのである。


スーツを語る人はたくさんいる。
でも、シャツにこだわってみるのも格好いい。

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2020年4月3日金曜日

4年経過 Boot Black と M.MOWBRAY 比較

Boot Black と M.MOWBRAY の比較も4年が経過した。

当初はクリームを塗った直後のツヤ以外にはあまり違いがないと思っていたが、4年たって決定的な差が出てしまった。

光が強めにあたっているところでは気づきにくいのだけれど、
M.MOWBRAYでお手入れしていた右足にクラックが入っている。

この差がクリームによるものなのか、それとも僕のお手入れ技術によるものなのか、歩き方の癖によるものなのか、たまたま素材に問題があったのか。
いろいろ考えるところはあるけれど、意外と目立つところに決定的なクラックが入ってしまった。
太陽光の下で見てみると結構目立つ。

塗比べをしているショーンハイトは、晴れの日も雨の日もあまり気にせず履いていて、時にずぶぬれになることもあった。お世辞にも丁寧に扱っていたとは言い難い。

とはいえ、最低限のクリームやブラッシングをしていたので、他の靴ではあまり見られない場所に4年ほどでクラックが入ったのは意外だった。
気が付いたら傷ついていたので、ひょっとすると別の理由で傷が入ってしまっただけかもしれないが、この場所を強打したりかすったりするようなことは記憶にないし、この向きに傷が入りやすいこともしていないと思う。

クリームを塗った直後の表面の感じや、クリームを落とした時の顔料の落ち方とかを見ると、Boot Blackのほうが革に負担が大きいと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


伝統的な技術に基づくクリームと、日本の工業製品として研究開発に基づいて作られたクリームは、どうやら後者のほうが僕にとっては安心できそうだ。
たまたま僕の扱い方によるのかもしれないけれど、だとしても少なくとも僕の塗り方やその量、間隔とか、靴の扱い方においてはBoot Blackのほうが合っているのかもしれない。

4年にわたって比べてきたBoot BlackとM.BOWBRAYについてはいったんここで終了としたい。
クラックが入ってしまったのは残念だが、それもまた靴の表情でもあるので、この靴とは今後は自然なお手入れで付き合っていきたい。

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2019年12月15日日曜日

土井縫工所のシャツ - DOIHOKOSHO -

土井縫工所のシャツ、通称「土井シャツ」はここ10年近く僕の定番シャツ。


それ以前はメーカーズシャツ鎌倉、通称鎌倉シャツをよく着ていたのだけれど、よりコンパクトかつかっちりして、既製では袖丈の長さなどディテール全体が土井シャツのほうが自分に合っている気がしているので、以来土井シャツ派だった。


その土井シャツのホームページが消費税増税に合わせて(?)この10月にリニューアルされた。

僕にとって衝撃的だったのが、
  • Entry Line の廃止に伴う(僕にとって)実質大幅値上げ
  • スプリットヨークの廃止を含むディテールの変更
  • バッグの廃止
あたり。



今年の冬はシャツを何枚か新調しようと思っていて、ちょうどロイヤルカリビアンコットンの評判が良いのでトライしようとしていた。そんな中での Entry Line 廃止。

僕のなかでの土井シャツの位置づけはもともと「お値ごろでありながら(僕にとっては)抜群に良い」というものだったが、繰り返される値上げでもはや「お値段それ相応」なシャツになってしまった。

価格改定というのはそこで働く人たちの雇用、福利厚生や賃金などに反映されるので、良いものを永く続けていくためには仕方ないところもある。

そもそも経済学の原則を無視した最低賃金改定が連発されるなかで、販売単価を変えずに製品を一定の品質で維持していくというのはなかなか大変なのだろう。
実際僕が働く会社でも原価の上昇を企業努力で抑えるのには限界があり、同じサービスを提供する価格を少しずつ(時には大胆に)値上げしている。


ただ、さすがにこの10年で倍近く、今回はこれまで高品質の定義のひとつとして謳っていた「スプリットヨーク」の廃止など、土井シャツにおけるシャツづくりの矜持を疑ってしまうような改定はちょっといかがなものかと思ってしまう。

よほどパターンの見直しなどで改善されていない限り、これまで「ドレスシャツのあるべき姿」としていたものの廃止は「このフィット感を更に高めるために」としていたことの取りやめなので、フィット感は確実に悪くなっているはずである。

もっとも国内外、高品質を謳うシャツメーカーでもスプリットヨークを採用していないことは意外とあるのでそれ自体を騒ぎ立てるほどのものでもないかもしれない。

なので割り切ってしまえばどうでもよいことでだけれど、なんというか梯子を外された感が否めない。よく見ると前立ての一番下のボタンホールの扱いが変わっていたり、明らかにダウングレード。


と、いろいろ書いてしまったけれど、いまでも土井シャツは良いシャツの代表グループ入りしていることは間違いなく、今回のリニューアル(値上げ)がシャツづくりの技能伝承も含め、職人さんの地位・待遇向上につながることを願ってやまない。



で、今回リニューアル後に土井シャツを購入したのでちょっと感想を書いてみる。

購入したスペック
  • ワイド(従来のセミワイド相当)
  • ダーツモデル38をベースに次を調整
  • 裄丈85(従来同様)
  • カフス回り23(従来同様)
  • 着丈80(従来+1cm)
  • 袖型スリム
  • ウエスト88cm(従来-2cm)

今回のリニューアルはパターンの変更も入っていて、いわゆる背中にダーツが入ったスリム系のサイズガイドを見てみると、いかに土井シャツがスリムを目指しているかがわかる。
バストからウエストにかけてのカーブはほかのシャツよりも明らかにシャープなラインに仕上げられていて、デフォルト指定だとかなり逆三角形な体系でないと腹周りが協調されてしまうシャツになる。

実際、身長170cm、体重60kgでかつオッサンの僕は88cmで作ってみたけど、あと2cm細いデフォルトだと少し腹が目立つつくりになってしまいそうだ。

裄丈は少し長めにしている。ジャケット前提のサイズなのでこのくらいの長さが欲しい。購入してから気づいたけど、時計をしない僕はカフス回りはあと5mmくらい小さくてもよかった。

「シャツは下着」という原理主義的な場合は裄丈はやはり長めのほうが良いけれど、高温多湿の日本ではジャケットを脱ぐことも多い。ジャケットを着ない前提ならば、シャツの裄丈は「シャツは下着の教科書」で説明されている長さより(身長170cm前後なら)2cm短いくらいがちょうどよいと思う。
あながち土井シャツのデフォルトである38/82は170cm前後の身長の人にはジャケットを脱いだ時に違和感が少ないサイズかもしれない。

余談になるけど、僕も30代半ばまでこの「シャツは下着」原理者だったのでシャツは素肌に着ていた。ただこの場合、シャツを下着扱いしている以上、ジャケットは脱いではいけないという事実を理解していない中途半端な行動だった。暑いからと言ってパンツ(いわゆる「ズボン」)を脱いだらヘンタイなのとおなじで、シャツを下着と言いながらジャケットを脱いで乳首が透けている恥ずかしさに気づいてからは、原理主義者から何と言われようとシャツの下にアンダーウエア(平たく言うとTシャツ)を着るようになった。


土井シャツはもともとつくりはとても丁寧で、しかも長持ちする。
最近の生地はわからないものの、いわゆる「敷島綿布」時代の生地は圧倒的に質が良くて、数年着てもそうそうへたらず、襟を修理すればまだまだいけるんでないの、という状態。

ある程度ヘビーユースを前提に作られている生地だとは推察するも、生地の作り一つとっても日本の製品はよいことがわかる。

ボタン付けや細かい運針などに日本人の丁寧な仕事が見られる。

ちなみに、以前の(リニューアル前の)土井シャツの仕上げは細かいところまで素晴らしかった。


今回のリニューアル後のものを着てみた限り、大きな着心地の変化は感じられなかった。

値段上がってディテール簡素化なので世でいうコストパフォーマンスは大幅に低下しているものの、着心地は劇的に変わっているようなところはなかった。
冒頭のスペックの土井シャツと、ネックサイズ37を基準にちょっと調整した鎌倉シャツの Made to Measure とで比較すると、やっぱり土井シャツのほうが着心地が良い感じがする。(鎌倉シャツは少し攻めて作ったからかもしれないけど)

なぜか省略しても機能的にはほとんど変わらない(と思われる)ガゼットはそのまま継続されていたりするので、ひょっとすると何らかのポリシーをもって不必要と思われる部分をカットしながらコスト増を抑えようとしているのかもしれない。
フラシと思われる芯地や裏前立てのステッチなど地味な部分は継続されていたりする。

中国製造のカミチャニスタあたりと比べると、ミシン縫いの丁寧さや糸のほつれの少なさなど圧倒的に品質が上であることがわかる。



最も安価なシャツで1万円なので、これだと鎌倉シャツのパターンオーダーとガチンコ勝負になる。ディテール部分にもあまり差がなくなってくる。
逆に1万円以下はカミチャニスタ、アザブザカスタムなど通販で手に入るものだとか、コルテーゼのような店舗+ネットみたいなこれまた激戦区なわけで、シャツ界隈も結構にぎやかになっているように見える。

サイズに不安があれば、東京と大阪なら阪急MEN'Sでオーダーできる。
鎌倉シャツの Made to Measure した人なら、基準ネックサイズを1cm上げて首回り0.5cm減らすと近いかも。僕は土井シャツは38/85で作っているが、鎌倉シャツは37/84でネックだけ+0.5cmしている。

シャツは靴よりも許容範囲が大きいものの、とはいえ合うサイズが見つかるまでには試行錯誤になることもあるので、無駄を減らすにはやっぱり実店舗が安心かと。
どうしても近くに店舗がない場合は、勉強代覚悟でサイズ表見ながら既存シャツとの比較して1枚だけトライとか。



靴、タイ、シャツが決まっていればトータルでの印象がよくなると言われている。自分に似合うものを現実的な世界で見つけるには時間がかかるだろうし、なかなか見つからないかもしれない。
けれど、それを見つけようとする意志に価値がある。

2019年6月7日金曜日

「一生モノ」とは期待ではなくて結果

よく雑誌の煽りで「一生モノ」とか言ってお高めの商品が紹介されている。


欲しいものを手に入れたとき、金額にかかわらず「一生モノ」と思うことは多い。
けれど、それが一生モノかどうかは、結局は結果でしかないのではないかと思う。


神にまで誓った「あなたを一生愛し続けます」でさえ3割は離婚に至ってしまうわけで(ここでは「離婚率」の計算方法が妥当かどうかは問わない)、自分の気分で買ったモノを愛し続けるのはそれほど簡単なことではない。

大切なのは「一生モノ」を見つけることではなく、付き合っていく過程で「一生モノ」になることにある。


人付き合いだってそうだ。

生涯の友人と思って付き合い始めるなんてことはなくて、出会いはたまたま、時には衝突をすることもあれ、時間をかけてお互いを理解しあい尊敬しあい一生の友になっていくのだと僕は思う。


革靴であれば、履き始めは足に合わなくて違和感を感じたり、ややもすると痛いという思いもする。ところが、よほど大きなズレがなければ時がたつにつれて馴染んできて、愛着もわいてくる。そのころにやっと気が付く。

「この靴は自分だけのためのもの」

自分の足に合わせて沈み込んだ中底、何度も履かれたことで足の形に合わせて変形した甲の部分や履き口。
僕以外の誰が履いても僕が感じるフィット感は得られない。


時間はお金で買うことができない。
だから多くの時間を共有したモノに価値がある。


鼻息荒く「一生モノ」を探さなくても、縁あって自分の手元に来た目の前のものを大切にしていけば、いずれは軽い言葉のイッショウモノではない真の一生モノが手元に残る。


人間の本質的な価値が偏差値で決まるのではないように、モノの価値は金額で決まるのではない。

僕たちは「偏差値で人を判断すること」を良いことではないと思いつつ(自分はそれだけで判断されたくないと思いつつ)、偏差値に重きをおいて人を見てしまうことがある。一つの側面だけで優劣が語られてしまう。

高価な素材をつかって一流の職人さんが手塩にかけたものは素晴らしい。ただそれが自分にとっての「一生モノ」かどうかは別次元の話だ。
両親がエリートな小学校から私立に行って金かけて育った高学歴イケメンは素晴らしい。ただそれが世の中すべての人にとって理想の一生の相方になるかどうかはわからない。

自分が本当に愛せるものを振り返ると、数字やうんちくはどうでもいい、ってものが最後は強かったりしないだろうか。


一生モノを追い求めることが悪いことだとは思わない。

でもそれが単なるブランド志向だったり、値段で決まっていたりしてしまうのであれば、見失っているモノも多いのではないだろうか。


僕にとっては手元にある靴のすべてが言わば一生モノだ。

とても嬉しいことがあった日に買った靴、かみさんと最初にお出かけした日に履いた靴、結婚式に履いた靴、子どもたちとの外出用に買った靴。
いまは無きGoogle+のコミュニティで話題になって買った靴。ブログを書くために買った靴。
まだ先の娘(あわよくば孫)の結婚式に履くつもりの靴、息子の社会人初日にお揃いで履こうと思っている靴。


すべての靴に想い出があり、思い入れがある。


過去には僕の手入れが悪くて、最終的には手放した(ストレートに言えば「捨てた」)靴もある。革靴に限らず、スニーカー、スーツやシャツでさえも手放すときは何とも言えない寂しさと苦しさを感じるのは、やはり単なるモノとはいえ、時の経過とともに想い出が生まれるからに違いない。


僕は他人が決める勝手なイッショウモノではなく、縁あって出会い、自分の人生をともに歩んでくれているものをこれからも大切にしていこうと思う。


・・・・


先日、しばらく履いていなかった靴を箱から出してお手入れしました。
シューズクロークに限りがあるので、いくつかの靴は別の場所にしまっているのですが、忙しさを口実に長い間そのままになっているものもあります。

靴を箱から取り出して、ていねいにお手入れをしていたその時、その靴を買った時の想い出、履いた時の想い出が沸き上がってきました。


「そう、この靴は『一生モノ』として買ったんだった!」


歳を重ねるにつれ、モノに対する態度が熱くなりすぎず、かといって冷めた目になることもなく自然に付き合っているとおもっていましたが、手に入れたときの気持ちでさえ忘れ、想い出がある靴さえも大切にしていなかったことに気づかされました。

今回は僕自身の自戒を込めて書いています。


・・・・


「一生モノ」はすでに目の前にある。

僕たちが存在に気づきさえすれば人生に彩を与えてくれるそのものを、気づくことなく外に追い求めるだけならば永遠に心を満たすことはできない。本当に大切なものはいつも目の前にある。

2019年3月18日月曜日

平成の逸品 その3「靴」 ~ RENDO R7702 ~

僕の平成における想いを綴る平成の逸品の最終回、今回は「靴」。


やはり平成を代表する靴といえばこれになる。

RENDO R7702 Punched Cap Toe Oxford」



平成の時代に登場し、この先もずっと輝きを失わないだろうと思われる靴。


団塊の世代に愛され、信頼されてきたリーガルの 2504NA2235NA は昭和という時代を色濃く反映した靴だと感じる。
いま思えば父が僕の今の年齢だったころは世の中がもっと活気づいていたこともあるのか、僕に比べるとずっと骨太な生き方をしていたと思う。

そうした時代を生き抜いた人に愛されてきた 2504NA やサントリーオールドやカミュは、今では価格だけを見ればミドルレンジ(下手したらローエンド扱い)かもしれないけれど、なんとなくごつさというか歴史の重み的なものを感じずにはいられない。


その団塊の世代の子どもたちにあたる団塊ジュニア世代が義務教育を終えるころ平成という時代が始まった。バブルははじけ、繊細かつ弱気な世の中に移っていったように感じる。
こうした時代にも力強い人がいて、いまではだれもが知る企業をスタートアップし、これまでの暗い印象から一転して華やかな世界観を持つようになったテックベンチャーでのスマートな仕事のスタイルが共感を集めるようになってきた。
ベンチャーの成功者は成金が多いので持つもの身に着けるものはより高価でファッショナブルなものとなり、インターネットの普及でそうした人たちのライフスタイルを身近に知るようになった。苦しい時代ではあったものの希望も同じくらいある時代。それが僕にとっての平成だった。

バブルという狂騒曲が終焉し、地に足をつけて地道に生きていくことの価値を見直すことになった平成においては、日本の独自進化すぎた高番手の打ち込み本数を競うソフトスーツよりもややしっかりした生地のクラシックスタイルが合っていた。そしてその足元もビットモカシンよりはクラシックな靴が似合うようになった。



RENDOの靴は英国調のクラシックをベースに、日本の素材を一部使って、ニッポンの感性でまとめ上げた実用靴。


価格は相対的な感覚的なものなので、4万円の靴を妥当を思う人もいれば、ありえないと思う人もいる。20万円の靴を妥当と思う人もいるし、ビスポークがあたりまえの人もいる。そもそもモノを売価と原価の差額といったモノサシだけで測るのは失礼だという意見もある。それらの意見があることを理解したうえでなお言いたい。RENDOの価格設定は極めて良心的で、僕にとっては過度に神経質にならずに履けて、でもここいちばんという時にも履きたい靴なのだ。コストパフォーマンスなどという言葉は似合わない。僕が買うことできて、履いていることがとても嬉しくなる靴だから。


平成に入ったばかりの頃はオールデンやらジョンロブやらがまだ10万円前後くらいに手に入り、ストール・マンテラッシやドゥカルも元気で、とにかく色気、作り、イメージともに海外勢の圧勝だったように思える。
国産も平和堂さんだとかが頑張っていたけれど、いわゆる「靴好き」というカテゴリーに属する人が見ていたのは海外であり、いまでいうとスーツの生地のように海外のブランドが上位、国産はあか抜けないけれど実用的、みたいな位置づけだった。並木通りにあったこのころの REGAL TOKYO は靴のセレクトショップっぽくって確かオールデンのVチップをダブルネームで売っていたり、アルフレッド・サージェントのOEMと思われる靴を自社ブランドで販売したりもしていた(記憶がややあいまいですが)。

平成も20年も過ぎると日本でもチャーチやらクロケットアンドジョーンズやらを履いている人が増えてきて、そうした海外の靴を好んでいた層に直球勝負をするブランドも登場してきた。


そのひとつが RENDO だった。


僕はたまたまAll Aboutの飯野さんの記事で RENDO を知り、単純に文字通りに受け止めてよいものだという先入観を持って購入した。

ところが最初のうちはかかとは痛いわ小指はマメできるわで、フィッティングはそれほどでもないどころかただの痛い靴だった。
よく RENDO の靴を最初に履いた瞬間にピッタリ感を感じるという意見を目にするけれど、そうして購入した人がその後3か月くらいどうだったのかぜひ聞いてみたい。

僕はもうだめかと何度か思うものの、RENDO 設立のストーリーに共感していたこともあるし、痛い靴でもそのうちフィットが良くなるという教科書的な話も頭の片隅にあるし、そもそもせっかく買った靴なので何とかしようと履いているうちに、驚くほどフィット感が良くなった。
いまはややかかとのタイト感がやや失われている気がするものの、総じてフィット感は良く、履いていて気持ちいい。

長時間歩くような場合は 01DRCD に軍配が上がるけれど、オフィス履きでちょっと外出するくらいならこれほど快適な靴はない、という印象。



僕が RENDO に惹かれたところは、素材がどこ産だとかデザインがどうだとかではなくて、単純にビジネスパーソン(に限らないが)にとって良い靴とは何かを突き詰めていったときの一つの答えがここにあるような気がしたから。
僕がビジネスで履きたいと思っていた靴を具現化したものと出会ったような気がした。
外国コンプレックスなどはなく、単純に「いい靴とは何だろうか」を考えていったらできました、という雰囲気がものすごく素敵に感じた。


アッパーに使われている国産キップは少なくても僕が購入したものはしわが大味に入るなど見た目の良さではおフランスのカーフにはかなわない。



だけど、ソールもヒールも丈夫でほつれてくるようなこともなく、国産キップもいつの間にか柔らかくしなやかになった。厚手に感じるけれど柔らかい。
つくりに関しては製造を請け負っているといわれるセントラルの実力がとてつもないのだろうけれど、きっちりと企画して品質管理して自らのブランドで売っているのは RENDO なのだから、ここは RENDO を評価すべきだと僕は思う。



昭和の時代に生まれた 2504NA が平成になっても全く色あせないのと同じように、RENDO R7702も次の時代、そのまた次の時代になっても決して色あせずに、むしろ輝きが増すだろう。

作り手としてはもう少しお洒落な領域に位置付けているとは思うものの、僕にはとてもビジネス向けの靴に思える。こういう靴がこのニッポンで企画され、Made in Jpaan であることは日本人である僕にとってはこのうえなく嬉しい。

もちろん、RENDO の靴は実用靴である一方で、ちょっとした色気もある。伊達男な色気ではなくて、理系男子的な理詰めな恰好良さ。



RENDO は頑張ってお金をためて買うに値する靴。
だからこそ、初回は絶対に店頭でサイズ合わせをして履いてほしい。リピーターであれば通販を使うのもありかなと思うけれど、初めの一足は店頭でじっくりと履き比べ、見比べて欲しい。RENDO の良さを感じる最初の一歩がそこにある。




2019年3月5日火曜日

平成の逸品 その2「クリーム」 ~ Boot Black Shoe Cream ~

なんとなく思い付きでやっている「平成の逸品」シリーズ。
その1で「汚れ落とし用のクリームと乳化性クリームだけあればよい」とも書いたので、今回はもう一方の乳化性クリームを。

なんといっても平成の逸品を挙げるならばこれになる。

Boot Black Shoe Cream



このブログ、国産靴を中心としているブログなので、クリームもニッポン製を贔屓。

一昔前の靴お手入れムックなどを見ていると、サフィールノワールクレム1925の圧勝で、僕もその意見に同感ではあるものの、「平成の」逸品というタイトルで選ぶならばこちらのブートブラックに票を入れたい。

クレム1925のガチンコ対抗馬としてはブートブラックのアーティストパレットがあって、これはこれでかなりいい感じのクリームであるものの、コロンブス社の方針で手に入れにくいのが残念。逸品対象からは外している。コレクションシリーズのクリームもそのストーリーを聞けば聞くほど惹かれるけれど、やはり一つを選ぶならばベーシックなこちらのクリームを挙げたい。


ブートブラックは僕がこのブログを始めてから何度も登場してきたクリームで、RENDO R7702W10BDJショーンハイト2504NA など、国産靴の傑作と思う靴に使うことが多い。

最近はやりのビーズワックス強めのしっとり感満載で、クリーナーを使うと結構色が落ちるので、顔料もそれなりに入っているお化粧クリーム。保革だけではなく、ある程度「見せる」クリームなので、使う側の技量によってつややかさに違いが出るかもしれない。

黒い靴にブラック(黒色)のクリームを使うとしっとりとした強めの黒感が長持ちする。
まだ数年レベルではあるものの、ブートブラックでお手入れしている靴にクラック等は発生していないので、保革という観点からも問題なさそう。
(僕はあまりリムーバーなどは使わないので、クリーム重ねがけ状態になることもしばしば)


ブートブラックのクリームはいかにもニッポンのメーカーが靴ブームに乗っかるような形で登場したものの、あか抜けない真面目さが見えてくるようないかにも「ものづくり」しました的なクリーム。ちょっと洒落たデザインを纏っているけれど、やっぱり良くも悪くも工業製品っぽい。
均一な品質管理、幅広い温度レンジといった高スペックを、一瓶ずつ手できっちりぎりぎりまで職人技で充填。感性に訴えるような香りよりも素材組み合わせによる効能を追求したマニアっぽさ。

こういう真面目なものがモテるかどうかは別ではあるものの、ときにはそういうものづくりの姿勢に心惹かれてしまう。大企業の製品でありながら、町工場の技術を感じてしまうのに似た感情を受ける。

なので、日本のタンナーによる素材を使っている日本製の靴にはブートブラックを使うことが多い。Made in Japan つながり。



ブートブラックには多くの色が用意されていて、茶系などもかなり細かな選択ができる。革靴にはあまり見られないストレートすぎる青や黄色があるのもコロンブスならでは。(在庫を抱えなければならないお店は大変だろうに)
ビジネスシーンは黒い靴推しの僕にとっては、黒かニュートラルかという選択で、一つだけ選ぶならば敢えてニュートラル(無色)を選びたい。


ブートブラックは黒蓋の「ブートブラック」と銀蓋の「ブートブラックシルバーライン」がある。前者は当初「プロ向け」みたいな感じだったと思うけれど、いまは「磨きのプロ達が創りあげた」という表現で、後者は「未来のシューシャイニストのための」と書いてある。

意図するところとしてはお手入れがある程度しっかりできる人はブートブラックで、あまりお手入れに時間をかけたくないみたいなライトな人にはシルバーラインという位置づけかな。後者のほうが硬めなクリーム。


それにしても磨きのプロ達が創りあげたというブートブラックシリーズにおいて、プロならまず使わないと思われる小さな使いづらそうなブラシがセットになったシリーズがあるのがなんとも落ち着かない。磨きのプロ達はこれをどう使うつもりなのか。ブランドイメージにイマイチ安っぽさが残ってしまうのはこの辺にもあるような気がする。

前回のブラシの時も思ったのだけれど、どのブランドもこういう小さいブラシを初心者キットに入れてくるのだけれど、これから靴のお手入れを始めようとしている人にこそ大きいブラシを使ってほしい。

カラーについても、もう黄色とか青とかはニュートラルでよいでしょう。色落ちてきたら専門家に染め直してもらえばよいのだから。


ブートブラックはいろいろな商品が展開されているのだけれど、お手入れグッズとしてはこのクリームとソールコンディショナーとコバインキくらいがあればまずは十分かと。お手入れに興味ができたらデリケートクリームとツーフェイスプラスローション(汚れ落とし)買ったらほぼ完成。
靴のお手入れが趣味の領域までくれば、あとは好きなものを好きなだけ買うのでよろしではないかと。


良くも悪くも日本らしさがあるブートブラック。僕の人生において多くの割合を占める「革靴を履いて仕事をする時間」を楽しいものにしてくれる大切なピースだ。



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2019年2月10日日曜日

平成の逸品 その1「ブラシ」~ 東急ハンズオリジナルクリーニングブラシ ~

唐突に始めました「平成の逸品」。
平成時代に登場した革靴にまつわる商品を、その想いとともにご紹介するシリーズ。

限定品や廃盤品は除いて、記事を書いた時点で手に入れることができるものを取り上げる予定です。



雑誌を見ながらあれが欲しい、お金を貯めたらこれを買おうなんて想いを馳せた10代後半、自分のお給料でドキドキしながら買った靴をやり方もわからずクリームを塗りたくっていた20代、人生のバブル期とその崩壊を経験し何足も靴をダメにしてしまった30代、やっと人並みの生活に近づいた40代と、僕の人生多くを過ごした「平成」がもう少しで終わる。

そんな中で出会い、いまも愛すべき靴にかかわるモノをつらつら書いていきたい。



記念すべき(?)初回に取り上げるのは

「東急ハンズ×コロンブス 東急ハンズオリジナル クリーニングブラシ 馬毛」。


名前が長い。


2017年の秋冬、長期の出張の際に出会ったブラシ。
当時、出張の際にいくつか靴をもっていったのだけれど、汚れ落とし用のブラシを忘れるという失態をおかしてしまった。ブラシがないことに気づいて、近くにあった東急ハンズで購入したのがコレ。

実はこの東急ハンズのオリジナルブラシは以前からちょっとばかり気になっていた。
ただ、汚れ落とし用のブラシはすでにそこそこ使いやすいコロンブスのジャーマンブラシがあったので、あえて購入する必要もないことから気にはなりつつ買わずにいた。

そんなブラシを結局手に入れることになったのは、一つのご縁ではないかと思う。

当時は、仕事も深夜になることが多くてなかなかクリームをつかったお手入れができない日々が続いていたものの、ほんの数秒このブラシを使って汚れを払うくらいのことはやっていた。



靴のお手入れグッズとして、誰もが一つは持つべきものと思うのがこの「汚れ落とし用のブラシ」。

お手入れの入り口である「汚れを落とす」だけではなく、保管時の埃を落としたり革の表面を整えるなどとにかくこの「汚れ落とし用のブラシ」は必須といえる。

個人的には「汚れ落とし用のブラシ」と「乳化性クリーム」だけ買えば、あとは家にあるもので十分代用できる。このブラシは「あったら良いもの」ではなくて、「ぜひ用意すべきもの」。革靴を履くようになったら真っ先に手に入れるものだと思う。

職人レベルまで行ってしまうともう少しブラシにこだわりが出てくるのかもしれないけれど、僕も含め、靴のお手入れがせいぜい趣味レベルの人にとってはまずは馬毛のそこそこ大きなブラシがあればお手入れは十分ではないだろうか。


そう、汚れ落とし用のブラシは大きさが使い勝手に影響する。
小さいブラシだと扱いにくいし、そもそも全体をブラッシングするのに時間がかかる。ある程度大きくてそれなりに毛がふさふさしていたほうが良い。

よく「初心者向けお手入れグッズ」みたいな感じでクリームやブラシなどのセット商品が売られているけれど、そこに入っているブラシは絶対的に大きさが足りない。毛の絶対量も少ない。僕の周りで靴のお手入れをそれなりにしっかりしている人で、あんな小さなブラシを使っている人はいないので、やっぱり使いづらいのだろう。
「初心者は小さいブラシでOK」なんていう根拠も理由もないので、ブラシこそ単品でしっかりしたものを買うべきである。

セット商品は売手側から見ると単価は上がるしいずれ買い替えるしでいいのかもしれないけれど、靴のお手入れ道具をそろえるのであれば中途半端なものを一式そろえるよりも一品ずつ必要に応じてそろえていったほうが無駄がない。僕はこうしたセット商品を紹介している靴ブログを見ると、本当に自分でそれを使うイメージを持って心から紹介しているのか真意を聞きたくなる。



で、汚れ落とし用のブラシとして、比較的入手がしやすくて価格がお手頃で、そこそこサイズが大きいブラシの一つがこのブラシ。

「東急ハンズオリジナルクリーニングブラシ」(略しました)


これ、逸品である。

僕は黒い靴にもそれ以外の靴にもこのブラシ一本でお手入れしている。汚れ落とし用のブラシはそれほどクリームの影響を受けないので。

大きさは靴のサイズと比較しても十分な大きさがあり、また毛の長さもそこそこ長く、あまり力を入れずに全体をサッサッとブラッシングするだけで日々のお手入れは完了してしまうラクチンさ。


ブートブラックの缶と比較してみるとこんな感じ。それなりに大きい。

コロンブス定番商品のジャーマンブラシに比べると、毛並みがやや大雑把であるものの、比較的柔らかめかつ長めの毛足のため、普段使いの汚れ落としにはちょうどいい。
コバの奥など少し硬めのブラシ入れたいときは使い終わった歯ブラシあたりでも十分なので、全体にはこのブラシだけ。


色のついたクリームを塗っている靴も、最後にからぶきしている段階で余計なクリームが取れていることもあり、同じブラシを使っていても色移りするようなことはない(ような気がする。ミクロレベルで見ると影響あるかもしれないけど)

淡い色の靴が多い人は黒(そのほか濃いめ)用と薄い色用に分けてもよいかもしれないが、しっかりからぶきしている人であればそれほど気にすることないと思う。
色移りを気にするよりも、ブラシがかかっていない状態のほうがよっぽど靴に悪いので、そっちを優先して気にしたほうが良いかも。

もし、舗装されていない道路を歩くことが多くて、泥などが付きやすい環境にある人は、泥落としを中心に使うブラシを用意してもよいかもしれない。その場合、ブラシに移った泥に含まれる砂によって傷だらけになるのを防ぐために、少し小さめの馬毛ブラシを用意するか、事前に丁寧にからぶきか場合によってはウェットティッシュで汚れ落としをしておくと安心。


東急ハンズのコロンブスコラボシリーズはデザインも含めなかなか凝ったものが多い。コラボ商品なので購入できる場所が限られるのが難点であるものの、店舗が近い人はぜひ一度店頭で見てみてほしい。


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