2013年11月17日日曜日

Shetland Fox 3043SF KENSINGTON

シェットランドフォックスで現在入手できる唯一のローファー3043SF(Kensington)
すでにケンジントンは生産中止ということで、在庫限りとなっている。

ケンジントンはシェットランドフォックス渾身の製品だっただけに、おそらくこのまま廃盤になるであろうと思われるのはとても残念。

レースアップのケンジントンはノーズも短く感じられてややコンパクトな雰囲気だけれど、このローファーは意外とロングノーズに見えるのが不思議なところ。ややボリュームのあるトウがこれまたローファーに合っている。
モカシン縫いもていねいなスキンステッチで美しい。

フィッティングは紐がない分甲のあたりがかなりタイト。
初日はあまりにも甲が痛くて4時間着用で歩けないくらいになった。
毎週履いているとだんだんと馴染んでくるのだけれど、1ヶ月くらい間をおいてしばらくぶりに履くと一日の終りには結構痛くなるので、まだまだ履き慣れていないというところ。通算で十数回くらい履いていてそんな感じ。革が伸びることはあまり心配しなくても良さそう。
またこの靴はシューツリーをきちんと入れておくときっちり皺が伸びる。ラディカ皺が残りにくい気がする。

ローファーは紐で調整できない分、購入当初はかなりタイトなものを選ぶべきといわれていて、そのせいなのか実際に靴の作りも同ラストである3014SFに比べて甲はややタイト。比較的甲が薄い僕でもこれだけ痛くなるので、本来ケンジントンにピッタリ合う足を持っている人だと、なれるまでに相当な時間がかかるかもしれない。(僕は、3014SFだと羽根が数ミリしか開かないので、甲というか周囲はそれほどあるとは思えない)
また、捻れ具合も少し控えめでケンジントンにしては直線的。

甲はキツキツだけれど、さすがケンジントンラストだけあって指周りは全く窮屈さを感じない。本当にケンジントンは良ラストだと思う。ラストが良いと紐がなくてもかかとも抜けず歩きやすい。

ケンジントンのローファーはもともと色違い(ベージュ)を持っていて、その履き心地がかなり気に入っていて結局色違いで二足揃えてしまった... そのくらいこの靴は気に入っている。(生産中止だし、ブラックも買おうかと思うほど)

アッパーのイルチア社ラディカは特にブラウン系の色がわかりやすく格好いい。
濃淡があるため表面が立体的に見えて、また艶やかな革。クリームを上手に塗らないとクリーム自体がしみになりかねないので薄塗りでていねいに塗ることが大切かも。
ただ、リーガルに入ってくる革はあまりグレードが高くないのか、ところどころ鮫肌だと思うくらいザラザラしていたり、乾燥肌のようにヒビが入っていたりする。イルチアのゴタゴタが革に現れていることがよく分かる。
リーガル(ビナセーコー?)の職人さんがなるべくアッパーには綺麗な部分を、目立たない部分に質の悪い部分を割り当てているようだけれど、質の悪い部分が多すぎてカバーしきれていない感じ。(バイヤーがそれを承知で買っているのだからしかたないけど...)

ラディカ独特のムラ感で懐が広く、オシャレ感度が低い僕でも合わせやすく、ジーンズからコットンパンツまで不思議とキマってしまう。使い回しの良い靴。

ケンジントンのローファーはBASSあたりが作るローファーとは根本的な方向性が違って、どちらかと言うと上品なスタイルに合うと思う。
トウにもかかとにもしっかりと芯が入っていてよくあるコインローファーよりもフォーマルよりの雰囲気を出している。
ラディカの入手難で生産中止となったこの靴も、国産キップの焦がし仕上げでもすれば十分格好いいのにな。もうシェットランドフォックスではローファーはレギュラーのラインナップに存在しないし、リーガルブランドでもまともな茶系のローファーはなかなか見当たらないので、サイズが合う人は一度現物をみて足入れしてみると良いかも。

ラディカは雨に濡れるとシミが出てしまう。ただ、適当に乾かしてクリームを塗るとほとんど元通りになることが多い。たまに残るシミも、またそれはそれで靴の味でもあるので、あまり神経質に手入れをする程でもないかなと。ソールも耐久性があり、意外と濡れた路面にも強いようなので、あまり天候を気にせず履けるのが良い。(ちなみにこのソール、製造元のビナセーコーが出しているペルフェットでも同じものが使われているモデルがある)

お手入れはサフィールノワールクレム1925のニュートラルを使っている。クリームを塗りこむとき、布に色が少し移るので徐々にアッパーの色は落ちていると思う。ローファーなのであまりつやつやさせたくないこともあってメンテナンス頻度が少ないことと、少し明るくなってもいいかなと思っているので今のところあまり補色は考えていない。

ところでこのローファー、いつになっても専用シューツリー(_291)がきつくて入らない。
おそらくは甲の部分がタイトすぎて、ツリーの前半部が奥まで入っていないからだと思っている。冒頭の写真でも純正キーパーSのバネがかなり閉じている。
専用シューツリーの検品時には実際の靴に入れてチェックしているみたいなので、理屈上は入るはず。日比谷のシェットランドフォックスでも展示品の3043SFに専用ツリーが入っている。ただ、これを無理やり入れてしまうと、せっかくのタイトなフィッティングが緩くなりそうなのでいまのところバネ式使っている。なんだかなぁ。

2013年10月26日土曜日

靴なんだからキズくらいつくでしょ

靴を磨こうと手にすると、ときどきつま先に結構なキズがあることがある。
今回3048SFを磨こうとしたら、身に覚えのないキズが両足についていた。
なぜか両足とも真ん中より外側に同じようについている。
前回履いた時についたキズなんだろうけれど、どこでついたのか記憶が無い。

こういう時こそメンテナンスのし甲斐がある。

僕は鏡面仕上げをしない人なので、つま先やかかとに擦れたキズが入ることはままある。キズが入ったり雨に降られたりは、ちょっとていねいにメンテナンスするいい機会だ。

今回もいつもどおり使うのはサフィールノワールクレム1925。
このクリームは日常のお手入れから、こうしたちょっとした補修目的まで、本当に便利。
キズの補修目的なので靴と同色のブラックを使う。

まず、クリームをいつもより多めの量を取り(今回の程度であれば爪楊枝の頭くらい)キズに塗りこんでいく。塗りこむときははじめはソフトに、次第にキズをならすような感じでぬりぬりする。

待つこと10分。ここでいったんクロスで磨いてみる。

このくらいでほぼキズは目立たなくなる。

あとはふつうのメンテナンス。
傷ついたトウも含めていつもどおりにクリームを塗って、ブラッシングする。今回は最後にクロスをひたすら(と言っても2、3分)かけて終了。


つま先のキズもほとんど目立たなくなっている、というかキズがあることがわからないくらい。


こんな感じで元通りになるので、お気に入りの靴はどんどん履いてしまう。

今回メンテナンスしたシェットランドフォックスの3048SFのアッパーに使われているフラスキーニ社のチプリアは、もともと擦り傷に弱い感じがあるのだけれど、クレム1925を少し多めに塗って磨くと結構回復する。僕はクリーム超薄塗りが基本なので最近まで気がつかなかった。
逆に言えば、この特性は比較的靴のメンテナンス経験が浅く、クリームを多く塗りすぎてしまう人にとっては有利に働くと思うので、シェットランドフォックスの中では比較的エントリー価格に位置するグラスゴーでチプリアが採用されているのはひょっとしたら意図的なのかとも思えてくる。

ま、いずれにしても「靴なんだからキズくらいつくでしょ」という軽い気持ちで考えている。

キズが付いたり雨に濡れたりしても、きちんとメンテナンスすることを繰り返して、新品の靴では絶対に得られない味が出てくるのではないかと。時間の経過とともにみすぼらしくなるのではなく、なんとも言えない奥深な味が出てくるから靴磨きって楽しいんだよなぁ。


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2013年10月12日土曜日

Shetland Fox 502F EDINBURGH

イルチア入荷が無くなって、既に在庫のみの販売になっていると思われる伊勢丹別注エジンバラ、502F。

セミスクエア外羽根クオーターブローグという中途半端(だと思う)なデザインの靴。
ただ、この中途半端さのおかげで、アンタイドなスタイルにも合うので意外と重宝する靴。

アッパーのラディカカーフはブラックだとその艶やかでエレガントな雰囲気がスーツに合い、ブラウンだとムラ感のある立体的な表情がキレイ目カジュアルに合う趣きのある革。シェットランドのイチオシであったのに、入手困難になり今後は使われることは無いだろうと思われる。いま(2013年10月)ならまだイセタンメンズで手に入るのかな。

外羽根エジンバラは内羽根に比べてややボールジョイント周りが緩く、全体的に大きいような気もするけれど、誤差の範囲かな。この緩さのためシワの入り方がイマイチになってしまっている。

ブラックの502Fはセミスクエアでメダリオンのないトウだけをみるとドレッシーだけれど、ギザつきタンの外羽根ブローグはカジュアル感強めと、最初に見たときは違和感ありありだったのが、実は絶妙な立ち位置にある靴なのではないかという気がしてきた。
502Fのタン部分。ギザ付きブローグのためカジュアルな印象。

そもそもこの靴に惹かれたのはこの半端感で、キャップトウでは堅すぎて、セミブローグではビジネス感出過ぎで、フルブローグだと行き過ぎだなと思われるきわめてニッチなスタイルに合いそうだなと。アッパーのおかげもあるのか、外羽根でありながら色気を失っていないところがいい。
ま、個人的にはこの定番から少し踏み外したデザインが気に入ったのだけれど、こういうケースは極稀で、この靴が気に入ったのは偶然の産物だと思う。

ビジネスユースのため、もう少しムラ感は抑えられている方が良いかな。時々ブラックのクリームで手入れをしているけれど、なかなかムラ感が落ち着かない。
キャップの部分に白いムラがある。ブラックのクリームを使い過ぎると、この何とも言えないワインっぽい色が無くなりそうなので5回に1回くらいしかブラックを使っていないけれど、もう少し頻度を増やそうかなとも思う。

シェットランドフォックスはよくも悪くも定番から少しズレた商品展開をする。
やっぱり定番といえば内羽根キャップトウ、内羽根セミブローグ、内/外羽根フルブローグにプレーントウかVフロントあたりじゃないかと思うのだけれど、このラインナップに近いものを揃えているのはアバディーンとアーバインくらい。しかしアバディーンはロングノーズで見た目が定番とは言いがたい(ただ、この靴はエレガントなのでやはりキマるシーンがある)し、アーバインはせっかく見た目はド定番なのにどういうマーケティングからそのラストになったのかと問い詰めたい。だいたい甲が緩いという評価に対してタンパッドで修正ってのが安易すぎる。「ミリ単位」でラストを作っているのではないのか。
一方でラストが人気のインバネスは格好良いのか悪いのか解らない3030SFだとか、ビジネスでもカジュアルでも履くシーンが全く想像できない3033SFだとかだし、このエジンバラにしても当初は他に内羽根プレーントウ(ブローグあり)で、キャップトウが出たと思ったらカラグレインカーフと、実験でもやっているのかと思う。

国産靴に4万も5万も出して買うような人たちは比較的オーソドックス寄りかと思うのだけれど、もうそういう頭のカタイ人はBOSかREGAL TOKYOの九分仕立て作ってって感じなんですかね。
むしろこういうヘンタイ仕様のデザインが欲しい人ほどオーダーって感じだけど。

イルチアを使った靴は生産中止方向だから伊勢丹別注モデルもリニューアルか在庫限り打ち切りかどちらかなんだろうけれど、エジンバラのニーズは結構あるだろうから今度はボックスカーフで作ってくれないかなぁ。そうしたらキャップトウ追加で買っちゃうかも。

2013年9月5日木曜日

シェットランドフォックスのケンジントンが生産中止

シェットランドフォックスのケンジントンが生産中止らしい。

なんでもイルチアの革が調達できなくなったとかで、継続生産ができないとか。
シェットランドフォックスのホームページでアナウンスがされている

ものすごく残念だなぁ...

Made in JAPANの量産型既製靴としては最高にコストパフォーマンスが良い靴で、しかもめちゃくちゃ履きやすい靴だったのに残念でならない。

思えば数カ月前に八重洲のREGEL SHOESで「もうイルチアの革は生産していなくて在庫のみなんです」なんて話を聞いた。
その時はネットでいろいろ調べてみてもそんな情報もなかったし、イルチアのホームページ上でも時にアナウンスが無かったので気にしていなかった。

ただ、この前日比谷のシェットランドフォックスでも「ケンジントンの革が入らなくなっており、追加生産は未定」のような話を聞いていたので、当面は手に入りにくいのだろうと思っていたけれど、まさか生産中止になるとは思いもよらなかった。
ケンジントンについてはブラックの3014SFについて以前書いたけれど、ブラウンのほうが革の表情としては面白く、追加で書こうと思っていたけれど生産中止になってしまった以上、紹介してもあまり意味が無いものになってしまった。
(ちょっとだけここで書くと、ケンジントンのローファー3043SFは本当にいい。僕はブラウンとベージュを持っているけれど、カジュアルに合わせる実力があればブラックも欲しいくらいだ。)

いま思えばストレートチップの3013SFを購入していなかったのが悔やまれる...


せっかくの良ラストなので、何も革が調達できなかったからといって生産を止める必要なんて無くて、アッパー素材を変えればいいのだと思うのだけれど、ケンジントンのウリのひとつがイルチアのラディカだったのだから、生産中止はやむを得ないのか。

ま、シェットランドフォックスで一番人気のモデルだし、ホームページ上でも木型をブラッシュアップかつ、アッパーもイルチアと同程度のクオリティを持つものを開発予定とのことなので、次のモデルに期待するとしよう。ウェインハイムレダーのボックスカーフで作ったシンプルなストレートチップなら欲しくなるかも。次回はラインナップにパンチドキャップトウもしくはセミブローグもお願いします。
伊勢丹別注モデルも追加生産は無いだろうから、新しい別注モデルが出ることを期待したい。

日比谷でもアバディーンやグラスゴーが人気ということなので、次のモデルは多少甲が薄くなってかかとが小さくなることが予想される。それはそれで期待できるかもしれない。

2013年9月1日日曜日

Church's CONSUL 173

キャップトウのド定番、チャーチのコンサル (Consul)。


世界中、どんな場所で冠婚葬祭に出ても、これを履いていれば間違いない。
コバが張り出していて、キャップもぷっくりしているデザインは、やや無骨のように見えるが、英国正統のクラシックスタイルに決まってしまうのだから洗練されているといってもいいのかもしれない。

ちなみに、チャーチ純正の靴紐はかなり太めかつ柔らかめのものが用意されているのだけれど、僕は一般的な(リーガルで買えるコロンブス製の)丸紐に変えている。

7万円を超える国内価格は、一般的には高級靴の範疇に入るのだろうけれど、同価格帯のクロケットアンドジョーンズのハンドグレードラインや、国産シェットランドフォックスよりもアッパーの革質が良いわけでもなく、作りにこだわりがあるわけでもなく、極めてオーソドックスな靴。

素材は「ヨーロッパの最高級タンナーの革を慎重に選んだカーフ」だそう。やや皺が大味に入るところを見ると、国産基準で言うところのキップよりに近い革が使われているとおもわれる。ただしリーガルの国産キップより肌理は細かく、ある程度手入れをしたあとの艶もいくぶんしっとりしている。

このモデルはプラダ買収後の173Fラストなので、旧チャーチに比べるとややロングノーズ。イマドキ基準で言えばふつうといったところか。
シェットランドフォックスのエジンバラとの比較。長さ自体はほぼ同じだが、コンサルのほうがトウにややボリュームがあるため短く見える。

コンサルは最初に履いたときは少し歩いただけで小指が痛くなるなど、やはりつま先がタイトと思ったいたけれど、革の伸びがあるのか比較的沈みやすいコルクなのか3回目くらいで気にならなくなってしまった。

アングロサクソン向けのやや薄いラストのようで、ボールガースから甲までタイト目で薄い僕の足にはわりと合っている。ただ、かかと大きめな作り(だと思う)。あと、当たるほどでは無いけれど、くるぶしのあたりは高めな気がする。
フィッティングはなんとも特徴がなく、土踏まずの絞り込みもがカスタムグレードというたいそうな名前がついている割にはそれほどでもなく、突き上げられる感もない。ボールジョイント周りにも特筆すべき点もなく、いたって何もない。ただ、それだけ履いている間に意識をさせない靴であるとも言える。

チャーチのコンサルは不思議な靴だ。素材も、作りも、履き心地もこれといって目立つところが無いのに、じゃぁたいした靴じゃないかというと絶対にそんなことは無い。デザインのなせる技なのか素材感なのか、極めてフォーマルなスタイルだけでなく、アンタイドの少しラフな格好でも決まってしまう。同じラストと作りでプレーントウがあれば、それこそジーンズにもいけてしまうだろう。コンサルはフォーマルの範疇のカジュアル寄りもカバーする懐の深さがある。

このあたりはクロケットアンドジョーンズのオードリーやシェットランドフォックスのケンジントンのキャップトウとは決定的に異なるところで、こちらの2つはよほどの洒落者でも無い限りは、やっぱりきっちりとしたスーツスタイルにのみ合うように思える。

お手入れはサフィールノワールのブラックを使っている。もともと僕は鏡面仕上げはしない人なのだが、コンサルに関しては特に鏡面じゃないほうがその良さを活かせるような気がする。

シューツリーはいつものディプロマットヨーロピアンを使っている。ネットの情報を見ると、ヨーロピアンでは少し幅が足りないかなという感じも受けたけれど、実際に入れてみると特に革が余っている感じがしないので、多分フィットしているのだろう。

どこかで
「コンサルに始まり、コンサルに終わる」
という名文句を見た。本当にそう思う。
チャーチのどこがいいの、コンサルのどこがいいのと聞かれてピンポイントでどこがいいと答えるのは難しい。でもコンサルは履いてみればわかる靴で、これほどまでに良さを具体的に説明するのが難しい靴も無い。

よく「質実剛健」というキーワードで語られるチャーチ。でも正直、質実剛健だけならリーガルあたりもすごいよ。20年前に買った2236NAなんていまでもふつうに履けるし。(ま、この靴は異常に長持ち。あとに買ったジョンストンアンドマーフィーLS46のほうが先にダメになってしまった)

もし僕が今後手持ちの革靴から一種類しか履けないとなったら、選ぶのはこのコンサルになるだろう。項目別に見るとコンサルに勝っている靴は山ほどある。でも懐の広さでコンサルに勝る靴はそうそう見かけない。

不思議な魅力のある靴なんだな、チャーチのコンサルは。

2013年8月31日土曜日

社会人3年生のビジネスシューズ

「これから革靴をどう揃えるか?」
というテーマで書かれた本やブログを見ていると、多くに次のパターンが紹介されている。
  1. ブラックのプレーントウ
  2. ブラックのストレートチップ
  3. ブラウンのブローグやUチップなど(記事を書く人のセンスと教養による)
これはこれでひとつの回答なのだけれど、ふつうにスーツを着ることが必要とされる職場であれば僕はもう少し保守的な方がいいと思う。

僕がもし社会人3年目で、もう一度新たに靴を揃え直していこうという立場だったらどんな靴を買うだろうか。

社会人も3年目くらいになると、とりあえず晴れの日も雨の日も毎日履いていく靴は最低限あるだろうけれど、周りからもフレッシュマンと違って「社会人」としてやっと見られ初めるようになるこの時期だから、靴も大人入りを目指すのもいいのではないかと。

まずオシャレであるとか、自分の好みよりも「相手にどう見られるか」をキーにして、どんな場所に行っても恥ずかしくない組み合わせを優先する。

結局、
  1. ブラックの内羽根ストレートチップ
  2. ブラックの内羽根ストレートチップ
  3. ブラックの外羽根プレーントウ
という組合せに落ち着く。

手持ちが少ないうちはまずブラック中心に揃えるのがベストかなと。さまざまな価値観を持つお客様に接したり、年配の人に会うような場合はブラウンはキケンである。
堅い職場でブラックの靴がほぼ暗黙の了解として履かれるのは、決して意味のないルールではなく、大きな商談を決裁するキーマンがどういう人かを考えて、正統的で無難なものが選ばれているのではないかと思う。

ブラックとブラウンではブラックのほうがフォーマル度で格上とされている(冠婚葬祭の定石もブラックのストレートチップ)。ビジネスでブラウンの靴を履いて会うという事は、ややカジュアル態度であり、相手の格をややくだけた服装で会う人とみなしている、というメッセージになってしまう。髪の色でも「黒=真面目、茶=軽い」というイメージを持つ人が結構いるわけで、靴でも同じ事が言える場合がままある。

イギリスでは「ブラック=仕事用」「ブラウン=休日用」という考えを持つ人がいるという。さすがに日本ではそう考える人は少数派なものの、ビジネスシーンでのオシャレ感度が高い人はそういう情報を持っているだろうから、意図せずにその情報が人を判断するときに影響することもある。

そこまでを考える人がいると認識をすることがビジネスシーンにおいてとても重要なはず。とにかくブラックにしておけばマイナス点がつかないのだから、あえて自滅するような選択肢を取る必要は無いと思う。

ブラックで統一すると、カバンやベルトもブラックだけで良いので手持ちが少ない時は使い回しがきくというのもある。
メンテナンスグッズもブラックとニュートラルの乳化性クリーム、ブラシも汚れ落としと磨き用1つずつで事足りるのでかさばらない。靴紐のストックも1色で済む。

それに、ブラックの靴はどんな色のスーツにも合わせやすい。


まず最初はストレートチップを2足。
ストレートチップはマジメなスーツスタイルの満額回答で、社会人であれば必ず持っているべきものといわれている。だから最低2足は欲しい。
というのも、冠婚葬祭はブラックのストレートチップに限るのだけれど、1足しか無いとストレートチップを履いた日に雨に降られて、翌日急なお葬式などが入ってしまうと困ってしまう。濡れた靴を連続するか、違う靴を履くか。天気予報が外れることもあるのだから、やはりストレートチップは2足持っているべきなんじゃないかと。
人によってはかなりドレッシーなデザインなのでややくだけたスタイルに合わせるのに違和感を持つ人がいるかも知れない。でも社会人3年生にとって「正装すぎる」ことが問題になることはまずないので(逆は大いに有り得る)、やはり最初に必要なのはストレートチップではないかと思う。

無難なストレートチップ、リーガルの01DRCD。ふだんのビジネスシーンから冠婚葬祭までオールラウンドに活躍する靴。雨に降られるとシミになりやすいので、どちらかと言うと晴れの日向き。

ややスクエアなトウのリーガルW131。アッパーは国産キップ。この素材はややエレガントさに欠けるものの、傷がつきにくく比較的丈夫で雨でもシミになりにくく扱いやすい。デイリーユース向けにはとても適していると思う。僕は雨の日にこの靴を履くことが多いけれど、今のところアッパーは傷んでいる感じでもない。さすがにレザーソールなので少し経つと水が侵入してくるけれど、この靴はレザーソールにしては濡れた時の減りが少ない。ソールが乾いたあとも毛羽立ち感が少ない。


最後にプレーントウ。
はっきり言ってストレートチップ3足でもいいくらいなのだけれど、せっかくなので3足目はプレーントウにしてみる。
オーソドックスな5穴の外羽根プレーントウでも穴の少ないVフロントと呼ばれるタイプのどちらでもいいと思う。3年目なら5穴のほうがいいかな、くらい。過度にトンガリなものを避ければ長い間履けるしスーツスタイルを選ばない。
まだ社会に出て数年の20代ならプレーントウで冠婚葬祭に出てもまぁ許容されるだろうし、比較的マジメスタイルからやや崩し目のスタイルまでカバーできる便利な靴だから、初期のワードローブにあると便利。ただ、シンプルなプレーントウは意外と売っていないもので、国内でそこそこの価格で容易に手に入るものは少ない。
リーガルW134。都道府県庁所在地にはたいていあるリーガルシューズで購入できるプレーントウ。極めてベーシックな形でサイズのほかウイズ(幅)も3種類から選択できる。アッパーはストレートチップのW131と同じ国産キップ。実用的な靴だと思う。


とりあえずこの3足があればなんとかなる。
僕はレザーソール派なので、3足ともレザーソールをピックアップしているけれど、今後、天候にかかわらず外回りが多い仕事に就くことがわかっている場合はプレーントウとストレートチップのうち1足をラバーソールにするかもしれない。
社会人1、2年生の時にラバーソールの靴を何足か買っているので、雨の日対応はそれに任せるというのもある。

本来、ドレスシューズにはレザーソールが合うし、レザーソールの履き心地に慣れてしまうとラバーソールは履きたくなくなるのだけれど、社会人3年目であればそんなにお給料が多いわけでもなく、また他にも使いたいことがたくさんあるので、減りにくい丈夫なラバーソールを選ぶという選択肢も十分考えられる。一方レザーソールの通気性は間違いなく良く、夏に靴内の温度が上がりにくいので快適。多分悩んでレザーソールを買ってしまうだろう。

ちなみに、レザーソールでもメンテナンスさえしっかりすれば雨の日に履いてもそんなに大きな心配をすることはない。ソールがなんであれアッパーは濡れるわけで、違いは滑りにくさと減りにくさくらいではないだろうか。むしろ歩くことが多いからレザーソールの通気性を取るということもあるだろうし、雨の日もレザーソールのほうが蒸れない。減ったら張り替えれば良いと割り切ることもできる。(ただし、お客様先で靴を脱ぐことが多い仕事であればレザーソールは水が滲み込みやすく靴下を濡らすので避けたほうがいいかも)

ついでにお給料がでたりボーナスがでたら買い増ししたいものは、

4足目「ブラックの外羽根クォーターブローグ」
5足目「ブラックの内羽根パンチドキャップトウもしくはクォーターブローグ」

あたり。夏にクールビズ強制の職場だとストレートチップより少しスポーティな感じが入るブローグがあると便利。トウのメダリオンは(若い)女子ウケがあまり良くないことがあるので敢えてクオーターブローグあたりで。(靴に対して正統派の人からすれば下世話なチョイスだけれど、「社会人3年目」という立ち位置を考えると、礼節を保ちつつ、女子ウケすることも大切なので)
ストレートチップ2足に対して、ブローグ系も2足で。4足目を敢えて外羽根にしたのは、ややドレスダウンを意識している。また5足目とあまり被らないようにというのもある。
ブラックのクオーターブローグならネクタイ締めてもサマになるし、アンタイドスタイルにも合う。ブラックなのでカバンやベルトを買い増しする必要もない。

5足あれば当面はビジネスシーンで困ることはなくなる。
3足だと2日連続雨となった時、十分に靴を乾かせたり休ませたりすることが出来ないことがあるので、できれば頑張ってベーシックなものを5足揃え、ここを新たなスタートにしたい。

6足目以降は職場の雰囲気を見ながら好きなものを揃えていけばいいと思うし、少しずつ高い靴を揃えても良いと思う。別にビジネス用の靴はこれで当面(ヘタすれば数年)買う必要もないので他のモノにお金を回してもいいと思う。

靴はその人のファッションに対する意識と傾向をいちばんはっきりと表す。クラシックな基準に合わせればどんな場所でも誰にあっても外すことがない無駄のない選択になるのは間違いない。

実際に僕が3年目あたり(もう20年近く前だけど)に買った靴は旧ジョンストンアンドマーフィーアリストクラフトの外羽根ストレートチップ(なぜかこんなモデルがあった)、モンクストラップ、Uチップ(色は全てブラック)と今考えてみるとビジネスシーンにはちょっとズレたものばっかりだった。当時は雑誌でもスーツスタイルにUチップなんてのもわりとふつうに紹介されていたし、プレーントウといえばオールデンがあちこちで取り上げられていた。初めて内羽根のストレートチップを買ったのは30歳を超えてからと、いま考えると遠回りな揃え方をしていた気がする。



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2013年8月1日木曜日

Shetland Fox 3029SF INVERNESS

シェットランドフォックスが定番として位置づけているインバネス(Inverness)。


とはいえラインナップされているものはデザインがかなりアグレッシブなので、定番とはいえベーシックなモデルといえるのはこのストレートチップ(3029SF)くらいなんじゃ...
ホールカットのようなウィングチップだったり、羽根の部分だけ色違いのプレーントウだとか変わり種のデザインを用意しているのに、ストレートチップはブラックしか無い等、正直商品開発の人は何を考えて定番としているのか謎なモデルといえる。

丸めのトウ、小さめのかかと、低いけれどあまりそう見えない甲周り。ややロングノーズ。

アッパー素材は仏アノネイ社のボカルー。
キメの細かさとか、手入れしてる時の楽しさとか、磨きこむにつれて鈍く光るところとか、価格を考えるとかなり満足度の高い靴。
ボカルーやベガノは購入時点だとやや艶やかさが足りなくて、どちらかと言うとさらっとした感じなのだけれど、手入れを繰り返すと恐ろしいほどに底光りしてくる。イルチアのラディカとは異なり、ムラ感は無くて極めてシンプルにブラック。クリームの乗りというか吸収が他の革よりも良くて、極めて薄く塗るとどこまで塗ったかわからなくなるくらい。

ボカルーはちょっとでも水が跳ねるとすぐにシミになる。濡れた直後は少し水ぶくれっぽくなって、その後乾いてくるに従いシミとして残る。この手のアニリンカーフの靴を購入するたびに、「今度はていねいに扱おう」と思うのだけれど、帰宅後ていねいにブラッシングすればある程度目立たなくなることが多いし、きちんとメンテナンスすればほぼ元通りになることが多いのでしばらく経つと気にしなくなってしまう。(ズボラになる)

履き心地としてはグラスゴーが見た目以上にゆったりなのに対して、こちらは見た目よりタイト。
甲が低いので、シワが出にくく、また二の甲、三の甲ともに低めで薄めの足でも羽根が適度に開くため、紐でキリキリ締めることができる。購入時点ではキツ目に締めて左足で1cmくらい、右足で1.5cm弱開いていたが、20回くらい履いて左足で数ミリ、右足で5mmちょっとくらいに落ち着いた。
グラスゴーはボールジョイントのどちらかと言うと親指側で支持する感じが強いが、インバネスは親指側のフィット感はそのままに、小指側のフィット感をさらに強めた感じ。ロングノーズとはいえ靴の先端のカーブに入るところが早いのかもしれない。。
土踏まずの感じはグラスゴーとそれほど差がないと思う。
このラストはかかとがコンパクトなため、いい感じにかかとを掴む。このかかとのフィッティングを体験してしまうと、緩めのかかとでは物足りなくなる。

ソールの返りもよく、歩きやすい。ソールのデザインも新品状態ではややもするとゴム底っぽい見た目のグラスゴーよりインバネスのほうがクラシックな感じがする。(誰も見ないけど)
しかも、エジンバラやグラスゴーのソールより減りにくい。

シェットランドフォックスはフラッグシップのケンジントンがかなりマニアックな作りをしているため他の靴が目立たないのだけれど、このインバネスはボカルーを使いていねいな縫製。シンプルなグッドイヤーウェルトであればソールの張替えが何度かできるので、長く履くことができそうなのも安心感。目立たないけど、優等生な靴。
価格もほぼ4万円で、靴が好きな人から見たら高くない、というかむしろ安いくらい。靴はある程度履きこまないとその良さがわからないし、10年後どうなるかはまだわからないけれど、海外のスタンダードクラスの靴と比べても決して劣るところは無いのではないかと期待している。

返すがえすもなぜ定番ラストといっておきながら、セミブローグだとかプレーントウだとかの定番デザインが出てこないのだろう。(REGAL TOKYOの九分仕立てにあるようなプレーントウがあったら速攻で「買い」なのだが)この手の先端が丸い靴のほうがプレーントウとして使い勝手が良いと思う。Vフロントよりは5アイレット外羽根あたりが似合いそう。

インバネスはシェットランドフォックスのパターンオーダーでもモデル別2位と人気なモデルだし、とんがり靴が苦手な人にはベーシックなデザインはウケると思うけどなぁ。
インバネスのようなモデルはチャーチのコンサルやディプロマットのような長く愛されるモデルになってほしい。この辺りのポジションは比較的新しいアーバインがその役割を担うのか?アーバインは甲が緩すぎるのが欠点。

シューツリーは靴のサイズ6に対して、ディプロマットヨーロピアンの39を入れている。
購入当初はバネが完全に閉じるくらいキツキツだったが、今だと5mmから1cmくらいの隙間がある。
バネ式ツリーは常にテンションが掛かった状態になるので、長期に(1ヶ月以上)入れたままだとトウスプリングがなくなってしまうので、ネジ式がいいらしいと日比谷のシェットランドフォックスでは言っていた。プロが言うんだからそうなのだろうけれど、ただネジ式でもそれなりにパンパンにセッティングしたらやっぱり伸びた状態で固定されるんじゃないかなと素人的には思ったりもする。ま、テンションが掛かったままなのと、一定以上は伸びないのとでは確かに長期保管に差が出るかもしれない。

メンテナンスは日々はブラッシングだけ。だいたい3、4回履いたら薄めにサフィールノワールクレム1925を塗り、何回に一回かM.モゥブレイのデリケートクリームを薄く塗る(気休め)。10回も繰り返せば見た目もしなやかになってきて、ソールも馴染んできてかかとが抜けなくなる。

シェットランドフォックスで最初のストレートチップを買うならば、インバネスの3029SFがイチオシ。デザインは奇をてらったものではないし、アッパーも手入れ次第でどんどん成長する。リペアも全国のリーガルシューズで受け付けてくれるしで、安心してガンガン履ける。ブラックはシミになるといっても目立ちにくいので雨に降られてもきちんとアフターケアすれば良いのだから。