2019年12月15日日曜日

土井縫工所のシャツ - DOIHOKOSHO -

土井縫工所のシャツ、通称「土井シャツ」はここ10年近く僕の定番シャツ。


それ以前はメーカーズシャツ鎌倉、通称鎌倉シャツをよく着ていたのだけれど、よりコンパクトかつかっちりして、既製では袖丈の長さなどディテール全体が土井シャツのほうが自分に合っている気がしているので、以来土井シャツ派だった。


その土井シャツのホームページが消費税増税に合わせて(?)この10月にリニューアルされた。

僕にとって衝撃的だったのが、
  • Entry Line の廃止に伴う(僕にとって)実質大幅値上げ
  • スプリットヨークの廃止を含むディテールの変更
  • バッグの廃止
あたり。



今年の冬はシャツを何枚か新調しようと思っていて、ちょうどロイヤルカリビアンコットンの評判が良いのでトライしようとしていた。そんな中での Entry Line 廃止。

僕のなかでの土井シャツの位置づけはもともと「お値ごろでありながら(僕にとっては)抜群に良い」というものだったが、繰り返される値上げでもはや「お値段それ相応」なシャツになってしまった。

価格改定というのはそこで働く人たちの雇用、福利厚生や賃金などに反映されるので、良いものを永く続けていくためには仕方ないところもある。

そもそも経済学の原則を無視した最低賃金改定が連発されるなかで、販売単価を変えずに製品を一定の品質で維持していくというのはなかなか大変なのだろう。
実際僕が働く会社でも原価の上昇を企業努力で抑えるのには限界があり、同じサービスを提供する価格を少しずつ(時には大胆に)値上げしている。


ただ、さすがにこの10年で倍近く、今回はこれまで高品質の定義のひとつとして謳っていた「スプリットヨーク」の廃止など、土井シャツにおけるシャツづくりの矜持を疑ってしまうような改定はちょっといかがなものかと思ってしまう。

よほどパターンの見直しなどで改善されていない限り、これまで「ドレスシャツのあるべき姿」としていたものの廃止は「このフィット感を更に高めるために」としていたことの取りやめなので、フィット感は確実に悪くなっているはずである。

もっとも国内外、高品質を謳うシャツメーカーでもスプリットヨークを採用していないことは意外とあるのでそれ自体を騒ぎ立てるほどのものでもないかもしれない。

なので割り切ってしまえばどうでもよいことでだけれど、なんというか梯子を外された感が否めない。よく見ると前立ての一番下のボタンホールの扱いが変わっていたり、明らかにダウングレード。


と、いろいろ書いてしまったけれど、いまでも土井シャツは良いシャツの代表グループ入りしていることは間違いなく、今回のリニューアル(値上げ)がシャツづくりの技能伝承も含め、職人さんの地位・待遇向上につながることを願ってやまない。



で、今回リニューアル後に土井シャツを購入したのでちょっと感想を書いてみる。

購入したスペック
  • ワイド(従来のセミワイド相当)
  • ダーツモデル38をベースに次を調整
  • 裄丈85(従来同様)
  • カフス回り23(従来同様)
  • 着丈80(従来+1cm)
  • 袖型スリム
  • ウエスト88cm(従来-2cm)

今回のリニューアルはパターンの変更も入っていて、いわゆる背中にダーツが入ったスリム系のサイズガイドを見てみると、いかに土井シャツがスリムを目指しているかがわかる。
バストからウエストにかけてのカーブはほかのシャツよりも明らかにシャープなラインに仕上げられていて、デフォルト指定だとかなり逆三角形な体系でないと腹周りが協調されてしまうシャツになる。

実際、身長170cm、体重60kgでかつオッサンの僕は88cmで作ってみたけど、あと2cm細いデフォルトだと少し腹が目立つつくりになってしまいそうだ。

裄丈は少し長めにしている。ジャケット前提のサイズなのでこのくらいの長さが欲しい。購入してから気づいたけど、時計をしない僕はカフス回りはあと5mmくらい小さくてもよかった。

「シャツは下着」という原理主義的な場合は裄丈はやはり長めのほうが良いけれど、高温多湿の日本ではジャケットを脱ぐことも多い。ジャケットを着ない前提ならば、シャツの裄丈は「シャツは下着の教科書」で説明されている長さより(身長170cm前後なら)2cm短いくらいがちょうどよいと思う。
あながち土井シャツのデフォルトである38/82は170cm前後の身長の人にはジャケットを脱いだ時に違和感が少ないサイズかもしれない。

余談になるけど、僕も30代半ばまでこの「シャツは下着」原理者だったのでシャツは素肌に着ていた。ただこの場合、シャツを下着扱いしている以上、ジャケットは脱いではいけないという事実を理解していない中途半端な行動だった。暑いからと言ってパンツ(いわゆる「ズボン」)を脱いだらヘンタイなのとおなじで、シャツを下着と言いながらジャケットを脱いで乳首が透けている恥ずかしさに気づいてからは、原理主義者から何と言われようとシャツの下にアンダーウエア(平たく言うとTシャツ)を着るようになった。


土井シャツはもともとつくりはとても丁寧で、しかも長持ちする。
最近の生地はわからないものの、いわゆる「敷島綿布」時代の生地は圧倒的に質が良くて、数年着てもそうそうへたらず、襟を修理すればまだまだいけるんでないの、という状態。

ある程度ヘビーユースを前提に作られている生地だとは推察するも、生地の作り一つとっても日本の製品はよいことがわかる。

ボタン付けや細かい運針などに日本人の丁寧な仕事が見られる。

ちなみに、以前の(リニューアル前の)土井シャツの仕上げは細かいところまで素晴らしかった。


今回のリニューアル後のものを着てみた限り、大きな着心地の変化は感じられなかった。

値段上がってディテール簡素化なので世でいうコストパフォーマンスは大幅に低下しているものの、着心地は劇的に変わっているようなところはなかった。
冒頭のスペックの土井シャツと、ネックサイズ37を基準にちょっと調整した鎌倉シャツの Made to Measure とで比較すると、やっぱり土井シャツのほうが着心地が良い感じがする。(鎌倉シャツは少し攻めて作ったからかもしれないけど)

なぜか省略しても機能的にはほとんど変わらない(と思われる)ガゼットはそのまま継続されていたりするので、ひょっとすると何らかのポリシーをもって不必要と思われる部分をカットしながらコスト増を抑えようとしているのかもしれない。
フラシと思われる芯地や裏前立てのステッチなど地味な部分は継続されていたりする。

中国製造のカミチャニスタあたりと比べると、ミシン縫いの丁寧さや糸のほつれの少なさなど圧倒的に品質が上であることがわかる。



最も安価なシャツで1万円なので、これだと鎌倉シャツのパターンオーダーとガチンコ勝負になる。ディテール部分にもあまり差がなくなってくる。
逆に1万円以下はカミチャニスタ、アザブザカスタムなど通販で手に入るものだとか、コルテーゼのような店舗+ネットみたいなこれまた激戦区なわけで、シャツ界隈も結構にぎやかになっているように見える。

サイズに不安があれば、東京と大阪なら阪急MEN'Sでオーダーできる。
鎌倉シャツの Made to Measure した人なら、基準ネックサイズを1cm上げて首回り0.5cm減らすと近いかも。僕は土井シャツは38/85で作っているが、鎌倉シャツは37/84でネックだけ+0.5cmしている。

シャツは靴よりも許容範囲が大きいものの、とはいえ合うサイズが見つかるまでには試行錯誤になることもあるので、無駄を減らすにはやっぱり実店舗が安心かと。
どうしても近くに店舗がない場合は、勉強代覚悟でサイズ表見ながら既存シャツとの比較して1枚だけトライとか。



靴、タイ、シャツが決まっていればトータルでの印象がよくなると言われている。自分に似合うものを現実的な世界で見つけるには時間がかかるだろうし、なかなか見つからないかもしれない。
けれど、それを見つけようとする意志に価値がある。

2019年6月7日金曜日

「一生モノ」とは期待ではなくて結果

よく雑誌の煽りで「一生モノ」とか言ってお高めの商品が紹介されている。


欲しいものを手に入れたとき、金額にかかわらず「一生モノ」と思うことは多い。
けれど、それが一生モノかどうかは、結局は結果でしかないのではないかと思う。


神にまで誓った「あなたを一生愛し続けます」でさえ3割は離婚に至ってしまうわけで(ここでは「離婚率」の計算方法が妥当かどうかは問わない)、自分の気分で買ったモノを愛し続けるのはそれほど簡単なことではない。

大切なのは「一生モノ」を見つけることではなく、付き合っていく過程で「一生モノ」になることにある。


人付き合いだってそうだ。

生涯の友人と思って付き合い始めるなんてことはなくて、出会いはたまたま、時には衝突をすることもあれ、時間をかけてお互いを理解しあい尊敬しあい一生の友になっていくのだと僕は思う。


革靴であれば、履き始めは足に合わなくて違和感を感じたり、ややもすると痛いという思いもする。ところが、よほど大きなズレがなければ時がたつにつれて馴染んできて、愛着もわいてくる。そのころにやっと気が付く。

「この靴は自分だけのためのもの」

自分の足に合わせて沈み込んだ中底、何度も履かれたことで足の形に合わせて変形した甲の部分や履き口。
僕以外の誰が履いても僕が感じるフィット感は得られない。


時間はお金で買うことができない。
だから多くの時間を共有したモノに価値がある。


鼻息荒く「一生モノ」を探さなくても、縁あって自分の手元に来た目の前のものを大切にしていけば、いずれは軽い言葉のイッショウモノではない真の一生モノが手元に残る。


人間の本質的な価値が偏差値で決まるのではないように、モノの価値は金額で決まるのではない。

僕たちは「偏差値で人を判断すること」を良いことではないと思いつつ(自分はそれだけで判断されたくないと思いつつ)、偏差値に重きをおいて人を見てしまうことがある。一つの側面だけで優劣が語られてしまう。

高価な素材をつかって一流の職人さんが手塩にかけたものは素晴らしい。ただそれが自分にとっての「一生モノ」かどうかは別次元の話だ。
両親がエリートな小学校から私立に行って金かけて育った高学歴イケメンは素晴らしい。ただそれが世の中すべての人にとって理想の一生の相方になるかどうかはわからない。

自分が本当に愛せるものを振り返ると、数字やうんちくはどうでもいい、ってものが最後は強かったりしないだろうか。


一生モノを追い求めることが悪いことだとは思わない。

でもそれが単なるブランド志向だったり、値段で決まっていたりしてしまうのであれば、見失っているモノも多いのではないだろうか。


僕にとっては手元にある靴のすべてが言わば一生モノだ。

とても嬉しいことがあった日に買った靴、かみさんと最初にお出かけした日に履いた靴、結婚式に履いた靴、子どもたちとの外出用に買った靴。
いまは無きGoogle+のコミュニティで話題になって買った靴。ブログを書くために買った靴。
まだ先の娘(あわよくば孫)の結婚式に履くつもりの靴、息子の社会人初日にお揃いで履こうと思っている靴。


すべての靴に想い出があり、思い入れがある。


過去には僕の手入れが悪くて、最終的には手放した(ストレートに言えば「捨てた」)靴もある。革靴に限らず、スニーカー、スーツやシャツでさえも手放すときは何とも言えない寂しさと苦しさを感じるのは、やはり単なるモノとはいえ、時の経過とともに想い出が生まれるからに違いない。


僕は他人が決める勝手なイッショウモノではなく、縁あって出会い、自分の人生をともに歩んでくれているものをこれからも大切にしていこうと思う。


・・・・


先日、しばらく履いていなかった靴を箱から出してお手入れしました。
シューズクロークに限りがあるので、いくつかの靴は別の場所にしまっているのですが、忙しさを口実に長い間そのままになっているものもあります。

靴を箱から取り出して、ていねいにお手入れをしていたその時、その靴を買った時の想い出、履いた時の想い出が沸き上がってきました。


「そう、この靴は『一生モノ』として買ったんだった!」


歳を重ねるにつれ、モノに対する態度が熱くなりすぎず、かといって冷めた目になることもなく自然に付き合っているとおもっていましたが、手に入れたときの気持ちでさえ忘れ、想い出がある靴さえも大切にしていなかったことに気づかされました。

今回は僕自身の自戒を込めて書いています。


・・・・


「一生モノ」はすでに目の前にある。

僕たちが存在に気づきさえすれば人生に彩を与えてくれるそのものを、気づくことなく外に追い求めるだけならば永遠に心を満たすことはできない。本当に大切なものはいつも目の前にある。

2019年3月18日月曜日

平成の逸品 その3「靴」 ~ RENDO R7702 ~

僕の平成における想いを綴る平成の逸品の最終回、今回は「靴」。


やはり平成を代表する靴といえばこれになる。

RENDO R7702 Punched Cap Toe Oxford」



平成の時代に登場し、この先もずっと輝きを失わないだろうと思われる靴。


団塊の世代に愛され、信頼されてきたリーガルの 2504NA2235NA は昭和という時代を色濃く反映した靴だと感じる。
いま思えば父が僕の今の年齢だったころは世の中がもっと活気づいていたこともあるのか、僕に比べるとずっと骨太な生き方をしていたと思う。

そうした時代を生き抜いた人に愛されてきた 2504NA やサントリーオールドやカミュは、今では価格だけを見ればミドルレンジ(下手したらローエンド扱い)かもしれないけれど、なんとなくごつさというか歴史の重み的なものを感じずにはいられない。


その団塊の世代の子どもたちにあたる団塊ジュニア世代が義務教育を終えるころ平成という時代が始まった。バブルははじけ、繊細かつ弱気な世の中に移っていったように感じる。
こうした時代にも力強い人がいて、いまではだれもが知る企業をスタートアップし、これまでの暗い印象から一転して華やかな世界観を持つようになったテックベンチャーでのスマートな仕事のスタイルが共感を集めるようになってきた。
ベンチャーの成功者は成金が多いので持つもの身に着けるものはより高価でファッショナブルなものとなり、インターネットの普及でそうした人たちのライフスタイルを身近に知るようになった。苦しい時代ではあったものの希望も同じくらいある時代。それが僕にとっての平成だった。

バブルという狂騒曲が終焉し、地に足をつけて地道に生きていくことの価値を見直すことになった平成においては、日本の独自進化すぎた高番手の打ち込み本数を競うソフトスーツよりもややしっかりした生地のクラシックスタイルが合っていた。そしてその足元もビットモカシンよりはクラシックな靴が似合うようになった。



RENDOの靴は英国調のクラシックをベースに、日本の素材を一部使って、ニッポンの感性でまとめ上げた実用靴。


価格は相対的な感覚的なものなので、4万円の靴を妥当を思う人もいれば、ありえないと思う人もいる。20万円の靴を妥当と思う人もいるし、ビスポークがあたりまえの人もいる。そもそもモノを売価と原価の差額といったモノサシだけで測るのは失礼だという意見もある。それらの意見があることを理解したうえでなお言いたい。RENDOの価格設定は極めて良心的で、僕にとっては過度に神経質にならずに履けて、でもここいちばんという時にも履きたい靴なのだ。コストパフォーマンスなどという言葉は似合わない。僕が買うことできて、履いていることがとても嬉しくなる靴だから。


平成に入ったばかりの頃はオールデンやらジョンロブやらがまだ10万円前後くらいに手に入り、ストール・マンテラッシやドゥカルも元気で、とにかく色気、作り、イメージともに海外勢の圧勝だったように思える。
国産も平和堂さんだとかが頑張っていたけれど、いわゆる「靴好き」というカテゴリーに属する人が見ていたのは海外であり、いまでいうとスーツの生地のように海外のブランドが上位、国産はあか抜けないけれど実用的、みたいな位置づけだった。並木通りにあったこのころの REGAL TOKYO は靴のセレクトショップっぽくって確かオールデンのVチップをダブルネームで売っていたり、アルフレッド・サージェントのOEMと思われる靴を自社ブランドで販売したりもしていた(記憶がややあいまいですが)。

平成も20年も過ぎると日本でもチャーチやらクロケットアンドジョーンズやらを履いている人が増えてきて、そうした海外の靴を好んでいた層に直球勝負をするブランドも登場してきた。


そのひとつが RENDO だった。


僕はたまたまAll Aboutの飯野さんの記事で RENDO を知り、単純に文字通りに受け止めてよいものだという先入観を持って購入した。

ところが最初のうちはかかとは痛いわ小指はマメできるわで、フィッティングはそれほどでもないどころかただの痛い靴だった。
よく RENDO の靴を最初に履いた瞬間にピッタリ感を感じるという意見を目にするけれど、そうして購入した人がその後3か月くらいどうだったのかぜひ聞いてみたい。

僕はもうだめかと何度か思うものの、RENDO 設立のストーリーに共感していたこともあるし、痛い靴でもそのうちフィットが良くなるという教科書的な話も頭の片隅にあるし、そもそもせっかく買った靴なので何とかしようと履いているうちに、驚くほどフィット感が良くなった。
いまはややかかとのタイト感がやや失われている気がするものの、総じてフィット感は良く、履いていて気持ちいい。

長時間歩くような場合は 01DRCD に軍配が上がるけれど、オフィス履きでちょっと外出するくらいならこれほど快適な靴はない、という印象。



僕が RENDO に惹かれたところは、素材がどこ産だとかデザインがどうだとかではなくて、単純にビジネスパーソン(に限らないが)にとって良い靴とは何かを突き詰めていったときの一つの答えがここにあるような気がしたから。
僕がビジネスで履きたいと思っていた靴を具現化したものと出会ったような気がした。
外国コンプレックスなどはなく、単純に「いい靴とは何だろうか」を考えていったらできました、という雰囲気がものすごく素敵に感じた。


アッパーに使われている国産キップは少なくても僕が購入したものはしわが大味に入るなど見た目の良さではおフランスのカーフにはかなわない。



だけど、ソールもヒールも丈夫でほつれてくるようなこともなく、国産キップもいつの間にか柔らかくしなやかになった。厚手に感じるけれど柔らかい。
つくりに関しては製造を請け負っているといわれるセントラルの実力がとてつもないのだろうけれど、きっちりと企画して品質管理して自らのブランドで売っているのは RENDO なのだから、ここは RENDO を評価すべきだと僕は思う。



昭和の時代に生まれた 2504NA が平成になっても全く色あせないのと同じように、RENDO R7702も次の時代、そのまた次の時代になっても決して色あせずに、むしろ輝きが増すだろう。

作り手としてはもう少しお洒落な領域に位置付けているとは思うものの、僕にはとてもビジネス向けの靴に思える。こういう靴がこのニッポンで企画され、Made in Jpaan であることは日本人である僕にとってはこのうえなく嬉しい。

もちろん、RENDO の靴は実用靴である一方で、ちょっとした色気もある。伊達男な色気ではなくて、理系男子的な理詰めな恰好良さ。



RENDO は頑張ってお金をためて買うに値する靴。
だからこそ、初回は絶対に店頭でサイズ合わせをして履いてほしい。リピーターであれば通販を使うのもありかなと思うけれど、初めの一足は店頭でじっくりと履き比べ、見比べて欲しい。RENDO の良さを感じる最初の一歩がそこにある。




2019年3月5日火曜日

平成の逸品 その2「クリーム」 ~ Boot Black Shoe Cream ~

なんとなく思い付きでやっている「平成の逸品」シリーズ。
その1で「汚れ落とし用のクリームと乳化性クリームだけあればよい」とも書いたので、今回はもう一方の乳化性クリームを。

なんといっても平成の逸品を挙げるならばこれになる。

Boot Black Shoe Cream



このブログ、国産靴を中心としているブログなので、クリームもニッポン製を贔屓。

一昔前の靴お手入れムックなどを見ていると、サフィールノワールクレム1925の圧勝で、僕もその意見に同感ではあるものの、「平成の」逸品というタイトルで選ぶならばこちらのブートブラックに票を入れたい。

クレム1925のガチンコ対抗馬としてはブートブラックのアーティストパレットがあって、これはこれでかなりいい感じのクリームであるものの、コロンブス社の方針で手に入れにくいのが残念。逸品対象からは外している。コレクションシリーズのクリームもそのストーリーを聞けば聞くほど惹かれるけれど、やはり一つを選ぶならばベーシックなこちらのクリームを挙げたい。


ブートブラックは僕がこのブログを始めてから何度も登場してきたクリームで、RENDO R7702W10BDJショーンハイト2504NA など、国産靴の傑作と思う靴に使うことが多い。

最近はやりのビーズワックス強めのしっとり感満載で、クリーナーを使うと結構色が落ちるので、顔料もそれなりに入っているお化粧クリーム。保革だけではなく、ある程度「見せる」クリームなので、使う側の技量によってつややかさに違いが出るかもしれない。

黒い靴にブラック(黒色)のクリームを使うとしっとりとした強めの黒感が長持ちする。
まだ数年レベルではあるものの、ブートブラックでお手入れしている靴にクラック等は発生していないので、保革という観点からも問題なさそう。
(僕はあまりリムーバーなどは使わないので、クリーム重ねがけ状態になることもしばしば)


ブートブラックのクリームはいかにもニッポンのメーカーが靴ブームに乗っかるような形で登場したものの、あか抜けない真面目さが見えてくるようないかにも「ものづくり」しました的なクリーム。ちょっと洒落たデザインを纏っているけれど、やっぱり良くも悪くも工業製品っぽい。
均一な品質管理、幅広い温度レンジといった高スペックを、一瓶ずつ手できっちりぎりぎりまで職人技で充填。感性に訴えるような香りよりも素材組み合わせによる効能を追求したマニアっぽさ。

こういう真面目なものがモテるかどうかは別ではあるものの、ときにはそういうものづくりの姿勢に心惹かれてしまう。大企業の製品でありながら、町工場の技術を感じてしまうのに似た感情を受ける。

なので、日本のタンナーによる素材を使っている日本製の靴にはブートブラックを使うことが多い。Made in Japan つながり。



ブートブラックには多くの色が用意されていて、茶系などもかなり細かな選択ができる。革靴にはあまり見られないストレートすぎる青や黄色があるのもコロンブスならでは。(在庫を抱えなければならないお店は大変だろうに)
ビジネスシーンは黒い靴推しの僕にとっては、黒かニュートラルかという選択で、一つだけ選ぶならば敢えてニュートラル(無色)を選びたい。


ブートブラックは黒蓋の「ブートブラック」と銀蓋の「ブートブラックシルバーライン」がある。前者は当初「プロ向け」みたいな感じだったと思うけれど、いまは「磨きのプロ達が創りあげた」という表現で、後者は「未来のシューシャイニストのための」と書いてある。

意図するところとしてはお手入れがある程度しっかりできる人はブートブラックで、あまりお手入れに時間をかけたくないみたいなライトな人にはシルバーラインという位置づけかな。後者のほうが硬めなクリーム。


それにしても磨きのプロ達が創りあげたというブートブラックシリーズにおいて、プロならまず使わないと思われる小さな使いづらそうなブラシがセットになったシリーズがあるのがなんとも落ち着かない。磨きのプロ達はこれをどう使うつもりなのか。ブランドイメージにイマイチ安っぽさが残ってしまうのはこの辺にもあるような気がする。

前回のブラシの時も思ったのだけれど、どのブランドもこういう小さいブラシを初心者キットに入れてくるのだけれど、これから靴のお手入れを始めようとしている人にこそ大きいブラシを使ってほしい。

カラーについても、もう黄色とか青とかはニュートラルでよいでしょう。色落ちてきたら専門家に染め直してもらえばよいのだから。


ブートブラックはいろいろな商品が展開されているのだけれど、お手入れグッズとしてはこのクリームとソールコンディショナーとコバインキくらいがあればまずは十分かと。お手入れに興味ができたらデリケートクリームとツーフェイスプラスローション(汚れ落とし)買ったらほぼ完成。
靴のお手入れが趣味の領域までくれば、あとは好きなものを好きなだけ買うのでよろしではないかと。


良くも悪くも日本らしさがあるブートブラック。僕の人生において多くの割合を占める「革靴を履いて仕事をする時間」を楽しいものにしてくれる大切なピースだ。



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ブートブラックのシュークリーム。賛否両論あるかもしれませんが、僕は好きです。



デリケートクリームもこれ一本で結構行けちゃうので好みです。


2019年2月10日日曜日

平成の逸品 その1「ブラシ」~ 東急ハンズオリジナルクリーニングブラシ ~

唐突に始めました「平成の逸品」。
平成時代に登場した革靴にまつわる商品を、その想いとともにご紹介するシリーズ。

限定品や廃盤品は除いて、記事を書いた時点で手に入れることができるものを取り上げる予定です。



雑誌を見ながらあれが欲しい、お金を貯めたらこれを買おうなんて想いを馳せた10代後半、自分のお給料でドキドキしながら買った靴をやり方もわからずクリームを塗りたくっていた20代、人生のバブル期とその崩壊を経験し何足も靴をダメにしてしまった30代、やっと人並みの生活に近づいた40代と、僕の人生多くを過ごした「平成」がもう少しで終わる。

そんな中で出会い、いまも愛すべき靴にかかわるモノをつらつら書いていきたい。



記念すべき(?)初回に取り上げるのは

「東急ハンズ×コロンブス 東急ハンズオリジナル クリーニングブラシ 馬毛」。


名前が長い。


2017年の秋冬、長期の出張の際に出会ったブラシ。
当時、出張の際にいくつか靴をもっていったのだけれど、汚れ落とし用のブラシを忘れるという失態をおかしてしまった。ブラシがないことに気づいて、近くにあった東急ハンズで購入したのがコレ。

実はこの東急ハンズのオリジナルブラシは以前からちょっとばかり気になっていた。
ただ、汚れ落とし用のブラシはすでにそこそこ使いやすいコロンブスのジャーマンブラシがあったので、あえて購入する必要もないことから気にはなりつつ買わずにいた。

そんなブラシを結局手に入れることになったのは、一つのご縁ではないかと思う。

当時は、仕事も深夜になることが多くてなかなかクリームをつかったお手入れができない日々が続いていたものの、ほんの数秒このブラシを使って汚れを払うくらいのことはやっていた。



靴のお手入れグッズとして、誰もが一つは持つべきものと思うのがこの「汚れ落とし用のブラシ」。

お手入れの入り口である「汚れを落とす」だけではなく、保管時の埃を落としたり革の表面を整えるなどとにかくこの「汚れ落とし用のブラシ」は必須といえる。

個人的には「汚れ落とし用のブラシ」と「乳化性クリーム」だけ買えば、あとは家にあるもので十分代用できる。このブラシは「あったら良いもの」ではなくて、「ぜひ用意すべきもの」。革靴を履くようになったら真っ先に手に入れるものだと思う。

職人レベルまで行ってしまうともう少しブラシにこだわりが出てくるのかもしれないけれど、僕も含め、靴のお手入れがせいぜい趣味レベルの人にとってはまずは馬毛のそこそこ大きなブラシがあればお手入れは十分ではないだろうか。


そう、汚れ落とし用のブラシは大きさが使い勝手に影響する。
小さいブラシだと扱いにくいし、そもそも全体をブラッシングするのに時間がかかる。ある程度大きくてそれなりに毛がふさふさしていたほうが良い。

よく「初心者向けお手入れグッズ」みたいな感じでクリームやブラシなどのセット商品が売られているけれど、そこに入っているブラシは絶対的に大きさが足りない。毛の絶対量も少ない。僕の周りで靴のお手入れをそれなりにしっかりしている人で、あんな小さなブラシを使っている人はいないので、やっぱり使いづらいのだろう。
「初心者は小さいブラシでOK」なんていう根拠も理由もないので、ブラシこそ単品でしっかりしたものを買うべきである。

セット商品は売手側から見ると単価は上がるしいずれ買い替えるしでいいのかもしれないけれど、靴のお手入れ道具をそろえるのであれば中途半端なものを一式そろえるよりも一品ずつ必要に応じてそろえていったほうが無駄がない。僕はこうしたセット商品を紹介している靴ブログを見ると、本当に自分でそれを使うイメージを持って心から紹介しているのか真意を聞きたくなる。



で、汚れ落とし用のブラシとして、比較的入手がしやすくて価格がお手頃で、そこそこサイズが大きいブラシの一つがこのブラシ。

「東急ハンズオリジナルクリーニングブラシ」(略しました)


これ、逸品である。

僕は黒い靴にもそれ以外の靴にもこのブラシ一本でお手入れしている。汚れ落とし用のブラシはそれほどクリームの影響を受けないので。

大きさは靴のサイズと比較しても十分な大きさがあり、また毛の長さもそこそこ長く、あまり力を入れずに全体をサッサッとブラッシングするだけで日々のお手入れは完了してしまうラクチンさ。


ブートブラックの缶と比較してみるとこんな感じ。それなりに大きい。

コロンブス定番商品のジャーマンブラシに比べると、毛並みがやや大雑把であるものの、比較的柔らかめかつ長めの毛足のため、普段使いの汚れ落としにはちょうどいい。
コバの奥など少し硬めのブラシ入れたいときは使い終わった歯ブラシあたりでも十分なので、全体にはこのブラシだけ。


色のついたクリームを塗っている靴も、最後にからぶきしている段階で余計なクリームが取れていることもあり、同じブラシを使っていても色移りするようなことはない(ような気がする。ミクロレベルで見ると影響あるかもしれないけど)

淡い色の靴が多い人は黒(そのほか濃いめ)用と薄い色用に分けてもよいかもしれないが、しっかりからぶきしている人であればそれほど気にすることないと思う。
色移りを気にするよりも、ブラシがかかっていない状態のほうがよっぽど靴に悪いので、そっちを優先して気にしたほうが良いかも。

もし、舗装されていない道路を歩くことが多くて、泥などが付きやすい環境にある人は、泥落としを中心に使うブラシを用意してもよいかもしれない。その場合、ブラシに移った泥に含まれる砂によって傷だらけになるのを防ぐために、少し小さめの馬毛ブラシを用意するか、事前に丁寧にからぶきか場合によってはウェットティッシュで汚れ落としをしておくと安心。


東急ハンズのコロンブスコラボシリーズはデザインも含めなかなか凝ったものが多い。コラボ商品なので購入できる場所が限られるのが難点であるものの、店舗が近い人はぜひ一度店頭で見てみてほしい。


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東急ハンズのブラシ。コレ一本で汚れ落としは十分かと。



コロンブスのブラシ。店頭でみて気に入ればこれでもよいと思います。

2019年2月7日木曜日

REGAL 2235NA

REGAL 2235NA。

日本在住で革靴に興味がある人は一度は目にしたことのある靴ではないだろうか。2504NA と並ぶニッポン革靴界のレジェンド。


正直、僕がまだ学生だった頃はこのデザインはあまり好みではなかった。20代前半まではどちらかというとシンプルなデザインが好みで、革靴でもカジュアル系であればウォークオーバーのビブラムソールみたいなモノとか、スエードのチャッカなどを好んで履いていた。

2235NA をはじめとしたウイングチップに施されるブローギングはジジ臭い、なぜデコラティブが受けるのかとさえ思っていた。スコッチグレインレザーもまたシンプルの対極にありとにかく押し出しが強くて苦手だった。


どうして同じモノに対する見方が180度変わってしまったのか自分でも不思議なくらい、いまはこうしたブローグ系の革靴「も」好きになっている。特に秋冬のカジュアルには茶系のブローグは本当に合う。

ここ数年、いわゆる高級靴ブームといわれる波があって、そのあおりなのかそうではないのかリーガルが軽く見られることがあるような気がしないでもないけれど、3万円台でこのレベルを安定供給できるのは国産の底力なのではないだろうか。

ビジネスシーンで定着しているデザインではないし、カジュアルに革靴を履く人が少ない日本で、これだけの長い間作られ続けてきたことが奇跡な靴。
僕はこの靴の魅力に気付くのに20年を要してしまったけれど、若い人が「フルブローグの教科書的呪縛」にとらわれずに自由にこの手の靴を楽しんでいる姿をみると、格式・礼節が求められる場合を除き、もう少し肩の力を抜いてもいいときあるんだよな、という気持ちになったりもする。



2235NAを購入して3カ月くらい。
この間ほぼ毎週末に履いている。

当初予想したほど痛いところも出ず、思ったより付き合いやすい靴。
つま先も多少削れてきて、足に合ってきたという感じか。

当初、室内履きでトータル2時間ほど履きならした後に外出投入。
初回のお手入れが終わって、ある程度クリームが馴染んだかなと思うくらいで早速外に出てみた。靴は外で履いてなんぼ。
初日は夜のコンビニ買い物程度(平日だったので)。次の日に履いて出かけたら結構な雨にいきなり遭遇するというなかなかのデビューだった。

くるぶしにあたる感じはやはり健在で、特に右足側に違和感を感じるところは 2504NA と一緒。かかと周りのパターンは似ているようだ。

同じフルブローグの W10BDJ と比べるとくるぶし周りのえぐりがないフラットなパターン。伝統的なリーガルの靴はこの部分のパターンで損をしているように思える。


一方で、履き口周りは意外とコンパクトで足首が包み込まれるせいなのか、同じサイズでの比較では W10BDJ に比べて甲の外側のフィット感が良い。


こうしてみると、W10BDJ はかなりかかとを絞っている一方で、履き口が少し広い。

タンは作りが違うのか、足首への洗礼はほとんどなくて、ここはちょっとばかり覚悟をしていたので一安心。2504NA のような足首に食い込んで血が出そうみたいなこともなくて、履き始めからそれなりに快適。

甲のフィット感の違いなのか、長時間履いた時の快適度は 2235NA のほうが W10BDJ より上。明らかに歩きやすい。僕の足との相性なのかもしれないけれど、この点は意外だった。
正面から見るとやや峰の外側が削られているようにも見えるので、そこがフィット感に影響しているかもしれない。



アッパー側は購入時点で思っていたほどの硬さはなくて、2504NA よりは馴染みやすい印象。屈曲部が柔らかめなので指に乗るような感覚もそれほどでもない。
履くにつれ、屈曲部が少し下に湾曲するようなしわの入り方になったので、やはりアッパー側は少し余裕が多いようだ。


とはいえ、2504NA のように大きくしわが寄らないということもあり、見た目的にもきれいにまとまっている。

クリームは適量がわからないのでとりあえず薄塗りの繰り返しをしている。僕はコットンにクリームを掬って塗る派なので、こういう凹凸のあるスコッチグレインレザーかつブローグシューズは磨きにくい。ギンピングの部分は塗りにくい、というか塗るのが無理。適当にクリーム入れたあと、豚毛のブラシでなじませているので、その時に塗れているものと思いたい。使っているのはブートブラックのニュートラル。


ソールはさすがに硬い。購入当初に室内履きで軽くスクワットしてみたのと比較的タイト目に紐を縛っているのでかかとがついてこない感じはそれほどないものの、手で曲げるとか無理でしょうコレという感じ。なのに歩いているときにはその硬さをあまり感じない。やっぱりサイジングをきちんとして紐をきちんと縛ると歩きやすい。


伝統的なラストでありながら、意外やちょっとした包み込まれる感があって、購入直後は 2504NA よりは足と一体化している感があるなと気づいた。かかとに少しだけ柔らかさを感じるところは W10BDJ に近いかも。

惜しいのはやはり甲が少し高い点。
僕はきつめに結ぶので、力を入れると羽根がほぼ閉じてしまう。
新品の時点でこの状態なので、いずれ緩い靴になってしまうのは間違いなさそうだ。中敷きを入れるのも気分ではないし、その時にどうするか。

似たような靴との比較で言えば、2504NA よりは全体的に柔らかみがある感じ。



2235NA の良さに改めて気づく。

これだけの靴を、4万円を軽く切る価格で手に入れることができるのは長年販売され続けられているモデルならでは。
パターンや木型の償却も終わっているだろうし、よくよく見れば比較的原価を抑えた革やパーツを使っているという理由があるにしても、これだけの満足度が得られる靴はそうないのではないかとも思えてくる。

2504NA と同じように REGAL SHOES 専売モデルではないので、街の靴屋さんから通信販売まで広く売られているし、ディスカウントされていることもある。

フィッティングが命の靴でもあるので、初回は通販ではなくて靴屋さんで履いてみて選ぶことを強くお勧めしたい。きちんとしたサイズを選べば、決して「大きな靴」ではない。



2235NA や 2504NA は40年以上販売され続けてきた実績がある。20年後ももし残っているようであれば二世代どころか三世代で同じ靴を履くことができる。
売れる時期も売れない時期も一貫して守られてきた歴史的な重み。そんなウンチクが頭に入っているのでこの靴を履くときは何か凛とした気分になる。僕の中で想い出を積み重ねていく安心感のある靴、REGAL 2235NA。



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2235NA にはブートブラックを使っています。




ソールはこれで拭いています。アッパーに使っても安心かと。




きわめてまれにソールにのメンテナンス。いつものブートブラックで。