2020年6月19日金曜日

クールビズでのシャツ選び

クールビズのビジネスシーンではどんな視点でシャツを選ぶのが良いのだろうか。

オフィスのカジュアル化に加えて、新型コロナウイルスによる在宅ワークの奨励などによって、スーツを着る機会はどんどん減っている。
そもそも「クールビズ」なんて施策がヒットしてしまったものだから、もはや基本のスーツスタイルは崩れまくっている日本の夏ではジャケットを着ている人なんてほとんど存在しない。

そんななかで「シャツ」はインナーの枠を超えた意味を持つようになっている。

「シャツは下着~」は「cultureとcultivateは~」と同じく、共感を得られると思う仲間内だけで使ったほうが良いうんちくで、得意げに人前で使うようなものでない気がしてならない。
シャツは下着云々はもはや過去の記憶として、シャツを「見られるもの」としてスマートに着こなすことがどういうことだろうか。ただジャケットを脱いでタイをやめただけではやっぱり残念な姿になってしまう。

ファッションに限らず、引き算の哲学は難しい。
完成されたと考えられているものからあるものを取り除いたとき、その行為が全体をぶち壊してしまうことがある。ある人にとってどうでも良い引き算がほかの人にとって壊滅的な印象をもたらすこともある。シンプル・イズ・ザ・ベストというのは、それだけシンプルが難しいということの裏返しでもある。

日本ではもはや違和感なくあたりまえのスタイルであるビジネスシーンにおける半袖シャツだけれど、やはり肌の露出は控えるほうが清潔感がある。パンツ(スラックスorズボン)を半ズボンにしてオフィスに登場したらさすがにこの日本でも厳しい。すね毛があろうがなかろうが関係ない。シャツの半袖も似たような印象を持つ人もいる。
少なくとも職場の女子はオッサンの汚い腕を見たいと思っていないだろうから、袖を切り捨てて自分だけ涼しい顔をしているよりも、満員電車で人に肌で触れないように隠しておくほうがオッサンとしての礼儀ではないかと思えてならない。


僕はもともとは真夏でもジャケット着用、タイドアップ(ネクタイ使用)というスタイルが好きな人なのだけれど、さすがに暑苦しい日にお客様先にこの格好でいくと引かれることもあるし、そもそも僕が住んでいる東京は温暖湿潤気候(Cfa)と、スーツ発祥の地である英国の気候(Cfb)より一段暑い。
そういうわけで、歳も取ってきたし、世の中ジャケットないほうが主流だし、相手にも暑苦しい印象与えないし、無理して体に負荷かけることもないしで、最近はジャケットレスへの抵抗が薄れてきた。

そういうジャケットなしで一日を過ごすようになると、改めてシャツの重要度がわかってくる。色、襟の形、サイズ、生地、etc...

ジャケットを着ている場合、はっきり言ってシャツの重要度はネックサイズとカフス幅があっていて、裄丈に適度なゆとりがあれば、案外あとはどうでもよい。
(といっても、このサイズを合わせるのも大変だけど)

ところがジャケットを脱いでタイをやめた場合、どちらかというとボディサイズと襟の雰囲気が重要になり、裄丈は腕まくりによってどうでもよくなるし、カフス留めたとしてもジャケット用より数センチ短いほうがすっきりする。

僕は身長170cmで、裄丈は採寸で81cmくらいなのだけれど、洗濯で縮むことも想定し、シャツの裄丈は最低でも84cm、多くは85cm~86cmくらいで作製する。
このくらいで作るとカフスボタンを留めない限りはだらんと長く、親指の付け根くらいまでの長さがあるものの、カフス周りをきつめに作るので、ボタンを留めれば手首に固定され、手を自由自在に動かしてもカフスは動かない。立とうが座ろうが、カフスは手首をしっかり覆う。

本来の腕の長さより十分にシャツの袖丈が長いため、シャツ一枚での立ち姿だとひじのあたりにかなりしわが寄る。
これがジャケットを脱いだ時に意外と目立ち、どことなくサイズが合っていないようなだらしなさを感じてしまう。
裄丈を長めにするというのはジャケット着用を前提としたときには100%正解でも、ジャケットを脱いだ時はシャツのツウには理解されるかもしれないが、これはこれでサイズが大きく見えてスマートではない。

シャツ姿をすっきり見せるにはジャケット前提より2~3cm短めのほうがすっきりとして、僕の場合は裄丈82cmくらいがジャストっぽく感じる。
そもそもスーツを着ないシーズンは腕まくりをしていることも多く、ジャケット着ていないのだから袖が出るかくれるなんてことはなく、裄丈が短いことが目立つシーンは少ない。

ということで、裄丈一つとってみても、ジャケット着用のクラシックの教科書スタイルではいまいちしっくりこない、日本のクールビズなりのシャツ選びがあると思う。



そんな古典的な考えを持つ僕が、若かりし頃の自分にクラシックをベースに少し肩の力を抜いてアドバイスするならこんな感じになる。
以下、丁寧な文体で。


「シャツはサイズが命、選ぶなら小さいほうにしよう」

先日、とあるシャツ屋でクールビズ用にシャツを買うため採寸してもらいましたが、「37-81もしくは38-82のどちらでもよいと思います」と提案されました。

僕が迷わず購入したのは37-81です。

体形がBMIで標準に入る人であれば、二つから選ぶことを提案されたときは小さいほうがおおむね正解です。
「大は小を兼ねる」といいますが、ファッションの世界では兼ねればよいというものではなく、だらしなさを強調するだけです。靴もそうですがわざわざ採寸してそもそも着られないようなサイズを提案する店員さんはいません。

たいていの人は大きめのサイズに関しては許容度が高く、小さい方向の違和感を強く感じがちです。また、クリーニングに出す頻度やアイロンのかけ方によっても縮む度合いが異なってくるのでお客様に提案するときはワンサイズ大きめも提案してみるという気持ちはわかります。ただ、僕はこれまでシャツ屋さんで「このシャツは自宅で洗濯する予定ですか、それとも毎回クリーニングに出しますか?」みたいなことを聞かれたことが一度もありません。

どちらにしてもどうせクールビスではネクタイしませんし、腕もまくることが多いので、ネックサイズが少しきつくても問題ありませんし、裄丈もくるぶしに乗るくらいあれば心配ナシです。

BMIでやせ型に該当する場合でも小さめがおすすめです。
この体形であれば下手にバストやウエストが余るとより貧相に見えてしまいます。満員電車とかではエチケットでカフス留めておくとしても、それ以外では袖をまくることを前提にしましょう。
どうしても腕を隠す場合はパターンオーダーでボディサイズを極力コンパクトに、裄丈を適正サイズに持っていくのがベストです。

体形が標準よりかなり太めの人はどうしたらよいのか僕は自分の体験談を持ち合わせていないため、お店の人の採寸に従い、伸縮率をよく確かめたうえでサイズ決定が良いと思います。



「シャツの色は白がいいかも」

クールビズでは淡いブルーなども合うとは思うものの、素材によっては汗が目立ちます。

わきの下や背中、襟や胸部などどこであっても汗が目立つのは清潔感の真逆です。単純に汚らしい印象を与えてしまいます。

白はそんな汗シミも目立ちにくく、陽の光の下で映える色です。
まずどんな色のパンツ(ズボン)にも合いますし、暑い日も涼しい日もいつも清潔感をキープできます。洗濯機に漂白剤と一緒に入れて気にせず洗えるという衛生面でも優等生。
冠婚葬祭どこでも通用しますので無駄がありません。

このブログを見ている人であれば常識かもしれませんが、ボタンの色や糸が黒かったり、カフスや襟に余計な柄が入っているのは中学生のオシャレ意識っぽいので絶対に避けましょう。少なくとも大人の身だしなみとしては完全NGです。なので、そういうシャツを販売していないブランド・店舗でシャツを購入すると地雷を踏む確率が減ります。


「襟の形はワイドなほうがいい」

アンタイド(ノーネクタイ)の場合は襟は開き目なものが(おしゃれ上級者でない限り)似合うことが多いです。

ワイドカラーやそれ以上に広がったホリゾンタルカラーは、正面から見たときの襟の占める割合が減るため、アンタイドでもすっきりします。

ホリゾンタルカラーはジャケット着用の時は微妙な感じがしてならないのですが、アンタイドにした瞬間に流れるような襟のデザインが自然に見えて、ネクタイを必要としないデザインに感じます。

ちなみに、よくアンタイドの時はボタンダウンが良いみたいな話を聞きますが、ボタンダウンってビジネスシーンで格好よく着こなすのは至難の業です(僕にはそう思えます)。
安易にボタンダウンに走っても、パンツが細身だったり靴がクラシックだったりするとよほどのおしゃれ上級者でない限りセンスのなさが強調されるだけです。
ボタンダウンはやっぱりカジュアルでこそその本領を発揮します。おしゃれ上級ではない一般のビジネスパーソンが無理してビジネスシーンに持ち込むことはないデザインに思えます。

襟の素材はフラシ芯を使ったふわっとしたものがアンタイド向きです。安価なシャツに使われるトップフューズ芯だと襟がパリッとしすぎて、襟が主張しすぎてしまいネクタイが無いことを余計に目立たせてしまいます。襟が紙飛行機の羽根みたいな人がいますが、自然なロールのほうが夏向きに思えませんか。

この数年購入したシャツでは、鎌倉シャツのワイドカラーの芯地がいちばん好きです。土井シャツはロールがイマイチで僕のアイロン技術だと右襟と左襟でロールが均一になりません。5,000円クラスでかなり頑張っているカミチャニスタは、ブロードに使われている薄っぺらな硬い芯地はアンタイドでうまく着こなせる自信が僕にはありません。最近鎌倉シャツも接着芯を使ったフランチェーゼシリーズを出してきました。個人的には接着芯でもコストダウンに見せないどころかかえって値段を上げるための秘策としての襟型ではないかと勘繰ってしまいますが、デザイン自体はとてもよく、これをフラシ芯でふっくら作ってくれたら、ホリゾンタルいらずな感じです。


「素材はざっくりふわっとしたものがいい」

定番のブロードは生地が薄くてよい気もしますが、汗で張り付きやすくしわも目立ちます。なかなかシャツ初心者泣かせです。アイロンがけも結構難しい。
僕はアンダーウエアを着る人なので、直接背中や胸がべったりということはないものの、オクスフォード系やツイルといったやや厚手の生地のほうが汗も目立ちにくいし、かえって涼しい見た目にもなったりします。

薄手になればなるほど、肌がアンダーウエアが透けやすく、清潔感が減ってしまうというのは皮肉です。ピンポイントオクスフォードは一見暑苦しいですが、上記のようなべったりすることが少ないので、汚らしい印象を人に与えることは少ないです。


「気軽に洗えることが最優先」

100番手以上の繊細な生地になると取り扱いも注意が必要ですが、シャツは2シーズン持てばいいほうと割り切って、思い切って気にせず洗濯機でどんどん洗いましょう。クールビスのシャツスタイルは清潔感あってなんぼです。

よく「シャツの耐用年数は2年と法律で決まっている」と書いてある記事を見かけるので、それってどういう根拠で成り立っているか知りたくて根拠の条文を探そうにもなかなか見つかりません。1枚で考えるなら労働基準法的に週5回を2年間来たら500回着られることになります。工作機械やサーバ機とかなら24*365の連続運用を基準に考えているでしょうし、PCなら1日8時間×週40で考えてもよさそうとか何らかの目安がありそうですが、シャツの耐用年数の考え方はよくわかりません。単純に10着くらいのローテーションで2年くらい着たら結構みすぼらしくなるという感覚的な問題です。

なので、僕は最低でも5着、できれば10着でローテーションが良いと考えています。5着持っていても週1回程度着たら1年間で50回程度、2年で100回着用(つまりは100回洗濯)です。何とか10枚まで頑張ってそろえるのが清潔感への近道です。

いちいちクリーニングやら手洗いやらもよいですが、洗濯機でじゃぶじゃぶ洗って自分でアイロンかけるで十分です。
ニオイが気になるシーズンだからこそ、脱いだら間髪入れずに洗濯できる家庭での洗濯機洗いが楽です。
クリーニングでパリッとしたシャツは確かに格好良い。でも、素人感が出てもきちんとアイロンがけした感が出ていれば問題ないですし、僕はそういう人のほうが好印象です。

手を出せる価格には制限があるので、フラシ芯を使ったしっかりしたシャツを選ぶと枚数をたくさん揃えらないなんてこともあります。その場合は無理して高いシャツに走らず、迷わず安価なシャツでもよいのでまず数をそろえましょう。


ここまでいろいろ細かいことをこれまで書いていますが、「清潔」に勝る「清潔感」はありません。どんなおしゃれなきれいめシャツでも臭かったり襟の汚れが目立ったり、袖口がボロついていたりするのでは台無しです。

以前のブログでも書きましたが、僕は衣服を捨てるのが苦しい人なので極力長く使おうとしますが、シャツに関しては襟か袖がだめになったら諦めます。コットン100%で襟が柔らかいものは寝間着や作業着などに使うこともありますし、分解して布切れとして活用することもあります。
残念ながらビジネスシーンでのシャツは「経験変化による味」というものは評価されないので、ここは割り切ることにしています。

洗濯し、アイロンがきちんとかかっているシャツを着ている人に対して「あれは素材が悪い」とか「襟のロールが」とかいうのは一部のファッション意識高い系だけなので心配無用です。少なくとも清潔感あるシャツを着ている人を見下すような人は(ファッション業界の一部を除いて)出世していませんのであなたの評価者になることはありません。なので、成長を阻害する要因にはまったくもってなりえません。



ここからいつもの文体。

ということでシャツを選ぼうとすると、お店があって(採寸できて)、ある程度リーズナブルな価格で手に入るシャツがやっぱりいいなということになる。
一部の人を除き、ビジネスアイテムにかける現実的なお金は有限なので数をそろえる時期、質を優先して入れ替える時期と、それぞれのタイミングによって何を優先するかが変わる。

若いうちならまずは数が勝負。
若さと快活さがあればちょっとくらいシャツが安っぽく見えても大丈夫。袖口や襟がきれいなシャツならば上司からも同期の異性からも高評価は間違いない。ボーナス出たらある程度追加するとか、毎月少しずつ積み立てて、2、3か月に1枚追加みたいな感じを1年続けるといった工夫でワードローブを充実させよう。

ビジネスでの経験や、責任ある役割になるにつれ身だしなみも一つの戦略的ツールとなるシーンがあることを理解する必要も出てくる。シャツの選択も、素材や形などが「ちゃんとしている」ものが必要になってくる。間違ってもボタンホールの縫い糸が違うものなんて着てはいけなくなる。
このころになるとシャツも着なれてきているのでサイズ感や職場の雰囲気に合わせてパターンオーダーするのもおすすめ。


「外見ではなく中身で勝負だ!」
と息巻く人の多くが外見についての知識はほとんどなく、中身も大して磨いていないということもある。ほとんどのビジネスパーソンにとってファッションは目的ではないが、ビジネス上の目的を達成する手段の一つでもある。期待される役割、モノの持つ価値や意味を考えることを放棄した人には手に入れらないないものがある。

たかがシャツ、ではあるがビジネスシーンで最初に目に入るのもシャツ。
されどシャツ、なのである。


スーツを語る人はたくさんいる。
でも、シャツにこだわってみるのも格好いい。

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洗たくの時に襟、袖にこれを使うと結構きれいになります。
クールビズのシャツスタイルには必須かも


洗剤は弱アルカリ性がいい気がして、これを使うことが多いです。

2020年4月3日金曜日

4年経過 Boot Black と M.MOWBRAY 比較

Boot Black と M.MOWBRAY の比較も4年が経過した。

当初はクリームを塗った直後のツヤ以外にはあまり違いがないと思っていたが、4年たって決定的な差が出てしまった。

光が強めにあたっているところでは気づきにくいのだけれど、
M.MOWBRAYでお手入れしていた右足にクラックが入っている。

この差がクリームによるものなのか、それとも僕のお手入れ技術によるものなのか、歩き方の癖によるものなのか、たまたま素材に問題があったのか。
いろいろ考えるところはあるけれど、意外と目立つところに決定的なクラックが入ってしまった。
太陽光の下で見てみると結構目立つ。

塗比べをしているショーンハイトは、晴れの日も雨の日もあまり気にせず履いていて、時にずぶぬれになることもあった。お世辞にも丁寧に扱っていたとは言い難い。

とはいえ、最低限のクリームやブラッシングをしていたので、他の靴ではあまり見られない場所に4年ほどでクラックが入ったのは意外だった。
気が付いたら傷ついていたので、ひょっとすると別の理由で傷が入ってしまっただけかもしれないが、この場所を強打したりかすったりするようなことは記憶にないし、この向きに傷が入りやすいこともしていないと思う。

クリームを塗った直後の表面の感じや、クリームを落とした時の顔料の落ち方とかを見ると、Boot Blackのほうが革に負担が大きいと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


伝統的な技術に基づくクリームと、日本の工業製品として研究開発に基づいて作られたクリームは、どうやら後者のほうが僕にとっては安心できそうだ。
たまたま僕の扱い方によるのかもしれないけれど、だとしても少なくとも僕の塗り方やその量、間隔とか、靴の扱い方においてはBoot Blackのほうが合っているのかもしれない。

4年にわたって比べてきたBoot BlackとM.BOWBRAYについてはいったんここで終了としたい。
クラックが入ってしまったのは残念だが、それもまた靴の表情でもあるので、この靴とは今後は自然なお手入れで付き合っていきたい。

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ということで、コレを使い続けることにしました。