2019年12月15日日曜日

土井縫工所のシャツ - DOIHOKOSHO -

土井縫工所のシャツ、通称「土井シャツ」はここ10年近く僕の定番シャツ。


それ以前はメーカーズシャツ鎌倉、通称鎌倉シャツをよく着ていたのだけれど、よりコンパクトかつかっちりして、既製では袖丈の長さなどディテール全体が土井シャツのほうが自分に合っている気がしているので、以来土井シャツ派だった。


その土井シャツのホームページが消費税増税に合わせて(?)この10月にリニューアルされた。

僕にとって衝撃的だったのが、
  • Entry Line の廃止に伴う(僕にとって)実質大幅値上げ
  • スプリットヨークの廃止を含むディテールの変更
  • バッグの廃止
あたり。



今年の冬はシャツを何枚か新調しようと思っていて、ちょうどロイヤルカリビアンコットンの評判が良いのでトライしようとしていた。そんな中での Entry Line 廃止。

僕のなかでの土井シャツの位置づけはもともと「お値ごろでありながら(僕にとっては)抜群に良い」というものだったが、繰り返される値上げでもはや「お値段それ相応」なシャツになってしまった。

価格改定というのはそこで働く人たちの雇用、福利厚生や賃金などに反映されるので、良いものを永く続けていくためには仕方ないところもある。

そもそも経済学の原則を無視した最低賃金改定が連発されるなかで、販売単価を変えずに製品を一定の品質で維持していくというのはなかなか大変なのだろう。
実際僕が働く会社でも原価の上昇を企業努力で抑えるのには限界があり、同じサービスを提供する価格を少しずつ(時には大胆に)値上げしている。


ただ、さすがにこの10年で倍近く、今回はこれまで高品質の定義のひとつとして謳っていた「スプリットヨーク」の廃止など、土井シャツにおけるシャツづくりの矜持を疑ってしまうような改定はちょっといかがなものかと思ってしまう。

よほどパターンの見直しなどで改善されていない限り、これまで「ドレスシャツのあるべき姿」としていたものの廃止は「このフィット感を更に高めるために」としていたことの取りやめなので、フィット感は確実に悪くなっているはずである。

もっとも国内外、高品質を謳うシャツメーカーでもスプリットヨークを採用していないことは意外とあるのでそれ自体を騒ぎ立てるほどのものでもないかもしれない。

なので割り切ってしまえばどうでもよいことでだけれど、なんというか梯子を外された感が否めない。よく見ると前立ての一番下のボタンホールの扱いが変わっていたり、明らかにダウングレード。


と、いろいろ書いてしまったけれど、いまでも土井シャツは良いシャツの代表グループ入りしていることは間違いなく、今回のリニューアル(値上げ)がシャツづくりの技能伝承も含め、職人さんの地位・待遇向上につながることを願ってやまない。



で、今回リニューアル後に土井シャツを購入したのでちょっと感想を書いてみる。

購入したスペック
  • ワイド(従来のセミワイド相当)
  • ダーツモデル38をベースに次を調整
  • 裄丈85(従来同様)
  • カフス回り23(従来同様)
  • 着丈80(従来+1cm)
  • 袖型スリム
  • ウエスト88cm(従来-2cm)

今回のリニューアルはパターンの変更も入っていて、いわゆる背中にダーツが入ったスリム系のサイズガイドを見てみると、いかに土井シャツがスリムを目指しているかがわかる。
バストからウエストにかけてのカーブはほかのシャツよりも明らかにシャープなラインに仕上げられていて、デフォルト指定だとかなり逆三角形な体系でないと腹周りが協調されてしまうシャツになる。

実際、身長170cm、体重60kgでかつオッサンの僕は88cmで作ってみたけど、あと2cm細いデフォルトだと少し腹が目立つつくりになってしまいそうだ。

裄丈は少し長めにしている。ジャケット前提のサイズなのでこのくらいの長さが欲しい。購入してから気づいたけど、時計をしない僕はカフス回りはあと5mmくらい小さくてもよかった。

「シャツは下着」という原理主義的な場合は裄丈はやはり長めのほうが良いけれど、高温多湿の日本ではジャケットを脱ぐことも多い。ジャケットを着ない前提ならば、シャツの裄丈は「シャツは下着の教科書」で説明されている長さより(身長170cm前後なら)2cm短いくらいがちょうどよいと思う。
あながち土井シャツのデフォルトである38/82は170cm前後の身長の人にはジャケットを脱いだ時に違和感が少ないサイズかもしれない。

余談になるけど、僕も30代半ばまでこの「シャツは下着」原理者だったのでシャツは素肌に着ていた。ただこの場合、シャツを下着扱いしている以上、ジャケットは脱いではいけないという事実を理解していない中途半端な行動だった。暑いからと言ってパンツ(いわゆる「ズボン」)を脱いだらヘンタイなのとおなじで、シャツを下着と言いながらジャケットを脱いで乳首が透けている恥ずかしさに気づいてからは、原理主義者から何と言われようとシャツの下にアンダーウエア(平たく言うとTシャツ)を着るようになった。


土井シャツはもともとつくりはとても丁寧で、しかも長持ちする。
最近の生地はわからないものの、いわゆる「敷島綿布」時代の生地は圧倒的に質が良くて、数年着てもそうそうへたらず、襟を修理すればまだまだいけるんでないの、という状態。

ある程度ヘビーユースを前提に作られている生地だとは推察するも、生地の作り一つとっても日本の製品はよいことがわかる。

ボタン付けや細かい運針などに日本人の丁寧な仕事が見られる。

ちなみに、以前の(リニューアル前の)土井シャツの仕上げは細かいところまで素晴らしかった。


今回のリニューアル後のものを着てみた限り、大きな着心地の変化は感じられなかった。

値段上がってディテール簡素化なので世でいうコストパフォーマンスは大幅に低下しているものの、着心地は劇的に変わっているようなところはなかった。
冒頭のスペックの土井シャツと、ネックサイズ37を基準にちょっと調整した鎌倉シャツの Made to Measure とで比較すると、やっぱり土井シャツのほうが着心地が良い感じがする。(鎌倉シャツは少し攻めて作ったからかもしれないけど)

なぜか省略しても機能的にはほとんど変わらない(と思われる)ガゼットはそのまま継続されていたりするので、ひょっとすると何らかのポリシーをもって不必要と思われる部分をカットしながらコスト増を抑えようとしているのかもしれない。
フラシと思われる芯地や裏前立てのステッチなど地味な部分は継続されていたりする。

中国製造のカミチャニスタあたりと比べると、ミシン縫いの丁寧さや糸のほつれの少なさなど圧倒的に品質が上であることがわかる。



最も安価なシャツで1万円なので、これだと鎌倉シャツのパターンオーダーとガチンコ勝負になる。ディテール部分にもあまり差がなくなってくる。
逆に1万円以下はカミチャニスタ、アザブザカスタムなど通販で手に入るものだとか、コルテーゼのような店舗+ネットみたいなこれまた激戦区なわけで、シャツ界隈も結構にぎやかになっているように見える。

サイズに不安があれば、東京と大阪なら阪急MEN'Sでオーダーできる。
鎌倉シャツの Made to Measure した人なら、基準ネックサイズを1cm上げて首回り0.5cm減らすと近いかも。僕は土井シャツは38/85で作っているが、鎌倉シャツは37/84でネックだけ+0.5cmしている。

シャツは靴よりも許容範囲が大きいものの、とはいえ合うサイズが見つかるまでには試行錯誤になることもあるので、無駄を減らすにはやっぱり実店舗が安心かと。
どうしても近くに店舗がない場合は、勉強代覚悟でサイズ表見ながら既存シャツとの比較して1枚だけトライとか。



靴、タイ、シャツが決まっていればトータルでの印象がよくなると言われている。自分に似合うものを現実的な世界で見つけるには時間がかかるだろうし、なかなか見つからないかもしれない。
けれど、それを見つけようとする意志に価値がある。