2021年3月3日水曜日

Arch Kerry - Algonquin Split Toe Blucher Oxford

靴好き界隈ではいまいちばんホットともいえるブランド「アーチケリー(Arch Kerry)」

(写真が影になっていてへたくそですが...これはオーダーと同型のサンプル)


仕事で履く靴はもう打ち止めという感じなので、オフ寄りできればオンでも、という靴を新たにオーダーしてしまった。納品は4か月後あたり。

Arch Kerry Algonquin Split Toe Blucher Oxford、通称アルゴンキン。Vチップと呼ばれることも多い。


Arch Kerry についてはこのブログを見ているような人であればすでにご存じだとは思うものの、少しだけ。

アメリカンビンテージにこだわるあまり、履いていたら気づく人はまずいないであろうラバーのヒールをオリジナルで作ってしまったり、言われなければこちらもまた気づかないであろう靴紐までコットン100%のオリジナルにしていたりなど、見えないところ、気づきにくいところまでも徹底して追及する、そんなブランド。

製造を担当としているTate Shoesさんとしては、もはやこの作りになるとハンドソーンしたほうが早いのではないかという状態なのに、ビンテージはグッドイヤーウェルテッドなんだからわざわざリブ寝かせて機械通すとか、現代ではなかなか手に入りにくい色や質感を実現するためにタンナーに足を運び毎回色の確認をして最終仕上がりのイメージを毎回考えるとか、とにかく自分の思うものに妥協をしない靴づくりに対する熱意が伝わってくる、そんなブランド。

とはいえ靴は履くものだから、木型にもこだわり、特にかかとのおさまりを重視してラストを工夫したり、スマートに見せるために履き口を少し大きめにしたり、ハンドプリッキングで見た目のわかりやすい雰囲気も大切にする、そんなブランド。


単にデザインを再現するのではなくて、そのコンセプトや意味までを再現してしまうアーチケリーにしてみれば、ラインナップに入れているナイロンメッシュの素材感はまだ当時を完全に再現できる域にはいっていないということだし、靴紐についても目の細かさがまだまだ粗くて、当時と同じ細やかさのものは日本では見つけられていないとのこと。

アメリカンビンテージの再現にあたっては、表面的な形をコピーするのではなくて、その時代考証も含めて数多くの資料にあたられていて、そのうえでステッチ一つの意味、素材の意味などを考えて企画されているそう。

ほかの革製品についても当時はどういうものを使っていたのかも調べているのだけれど、靴以外は資料が足りなくてきちんと時代考証ができないことが悩みだったり、財布などの小物系はその時代に必要とされた機能による作りがなされていて、そのまま再現すると現代では意味をなさないものになってしまったりと、いろいろ難しいらしい。

ここまでいくと「再び現れた」という「再現」という文字どおりで、その時代の一部が切り取られて現在にタイムスリップ、そこで単に作っている側から見ればごくごくあたりまえの靴を作っていることと同じとしか思えない。シンプルにオリジナル。


僕が購入する前にすでにご購入されている方々に、日本の革靴界隈での超有名人が多いということは、単なる話題性だけではなくて、それに裏打ちされるプロダクトの群を抜く立ち位置があるからこそ。

正直なところ、単に革靴を履いている人レベルの僕にはこの靴の意味や本当の良さなんて解っていないなんてことには気づいているものの、靴好きが自分の作りたいものを徹底して作ったというストーリーにわくわくしてしまう。そう、機能を中心とした道具を買うのではなくて、大げさに言えば文化や歴史に投資する感覚すら感じてしまう。


とはいえ、10万円レベルの靴なので僕にとっては気分でホイホイ買える靴ではないのもまた事実。
「欲しいけど、やっぱり手を出せないな」という気持ちでずっといたものの、ちょっとしたきっかけがあり「頑張れば手が届くし、やっぱり欲しい」に変わってきていた。

RENDOが始まった頃もそう思ったのだけれど、本格的な革靴が衰退するのではないかと思われるこのニッポンで、世界に通用しようとする革靴を企画し、作っている人がいて、それが自分の目の前にあって、なんとか(かなり)頑張ったら買える価格で手に入る。

そういう靴ってものすごくわくわくしないだろうか。安藤坂に行けばそういう作り手の声を聞きながら靴を選ぶことができる。ステッチ一つ、靴紐ひとつまで作り手の熱い思いを聞きながらどれにしようか選べるなんて、国内でそんな体験はジョン・ロブでさえできない。


デザインはいわゆるVチップ。アーチケリーでいうところのアルゴンキン。
40代以上であれば、若いころにAldenのコードバンVチップにやられちゃっているひと多いのではないだろうか。ほしいほしいと思っていても、結局手に入れられずいつの間にか歳とっちゃいました、なんて人いないだろうか。

全体の印象を決める素材として僕が選んだのは大東ロマン社のブラウン。直近の仕上がりは気持ち赤味が差したダークブラウンという感じだとか。この手の茶系は自然素材だけに毎回きめの細かさや色合いなどが微妙に違うらしい。それを「あたり」だとか「はずれ」だとかいう月並みな言葉ではなくて、個性としてどれも楽しめるところがアーチケリーの楽しいところでもある。

サンプルを触れた感じではいわゆる国内メーカーが使っている国産キップに比べると遥かに薄手に仕上げられていてとても柔らかな印象。試作段階ではイタリアの革なども試してみたが、大東ロマン社のカーフにたどり着いたそう。クリームをよく吸う革なので染料などによる変化も楽しめるとか。せっかくだから手元に来たら少しだけ色合いの違う染料系クリームを使って楽しんでみようか。

ラストはDウィズということになっているが、芯の入れ方や素材で使われているカーフそのものの柔らかさによって窮屈さを感じない。

サイズ把握のためのサンプルシューズは内羽根で、今回のアルゴンキンは外羽根なのでおそらく完成時点でのフィッティングは違ってくる。アルゴンキンのラストはつま先が少しゆとりあるつくりという話もあるので、どう出るか楽しみでもある。

試着した感じでいうならば、サイズ感はシェットランドフォックスのケンジントンあたりに近い。ただ、実際に数字無視して足入れしてみるといいかも。かかとの包み込みや甲の外側のフィット感を感じるのは少し小さめのサイズにしたとき。サイズバランスが良かったこともあるのか、かかとのおさまりはこれまで履いた靴の中でもトップクラスどころか明らかにトップ。

コバの仕上げはホワイトステッチナチュラルトップを選択。

こんな色。
ビジネスユースを考えるとブラウンの糸にしてコバも塗りつぶすのだろうけれど、カジュアル用途にはこっちのほうが圧倒的に格好いい(と思う)。
当然目付はハンドプリッキング。3月以降の改定でハンドプリッキングが標準化されるためあえてこのオプションは外そうかどうかちょっとばかり悩んだものの、やっぱり実物目にするとやりたくなってしまったので。

アメリカンビンテージという位置づけとしてはキャンバスライニングで、それはそれで格好良いところもあれど、内側が破れた時のメンテナンス性などは革に一日の長があるということだったので、超長期ユースを考えている僕はそのあたり踏まえてライニングはレザーを選択。


今後は2235NAのようなウイングチップや、Alden 990 のようなプレーントウも作ってみたいとのこと。そういえばアメリカではAlden 990、イギリスではシャノン、日本では2504みたいな少しぽってりしたプレーントウって息長い。
(しかもどれも素材の違いはあれテカテカしているモデルというのも共通)

休日に2235NAなどを履いてはいるものの、僕自身は実はアメリカンビンテージよりはブリティッシュクラシックが好み。そんな僕に新しい世界を見せるための神さまのちょっとした計らいなのか、ひょんなご縁がありアーチケリーの靴を手に入れることになった。

僕はいつの日か息子とおそろいで2235NAを履くことが夢のひとつで、そんな話をディレクターの清水川さんに話したところこんな一言が。

「リーガルで無くなってもアーチケリーで作りますよ」

僕の中でアーチケリーが「買いたい靴」から「買う靴」に変わった瞬間だった。
うん、息子がちゃんとした革靴を履くようになったら今回購入したアルゴンキンでお揃いにしよう。


アーチケリーはアメリカンビンテージを推しているとされているけれど、実は推しているのは「アメリカンビンテージそのもの」ではなくて、「好きな靴を現実化する楽しさ」ではないかと思えてならない。その一つの形として、清水川さんは自らが使命感とさえ考えているアメリカンビンテージの次時代への継承という「こだわり」をアーチケリーというブランドの製品を通じて見える化しているのではないかと。靴の形という外形的な分類だとアメリカ靴ということになるだけれど、では、いま店頭で売られているジョンマーやアレンと同列の靴を日本人が作った、というとそれは違う。そもそも勝負している分野が違う。

アーチケリーは単なるレプリカとしての靴を売っているわけではない。

僕にとってアーチケリーはもちろん歩くために履く靴という道具の面はあれど、それだけではない。靴はこれからたくさん積み重なる想い出を詰めていく入れ物でもある。家族の想い出、仲間との想い出それぞれの瞬間をともにする靴だからこそ、機能性や数字だけでは語れない「何か」を感じる靴であることが大切なのだ。

靴を10足以上持っている人であれば、11足目、12足目、13足目に買おうとしていた靴をちょっと後にして、その3足分の予算をもってアーチケリーの門を敲くのも有りではないかと強く思う。靴に対する考え方、単なる既成靴を超える細やかなつくりはもちろん、オーダーの際の会話によってよい革靴の基本について学ぶことができる。

比較的お金が自由に使える若手にもありではないかと。不透明な時代で手堅くお金を残すという選択も悪くはないけれど、将来の投資とみてボーナスの一部を使えば手に入れることができる。単に商品としての靴を買うのではなく、日本の靴界隈の有名人の心をつかむ靴をプロデュースする人の話を聞けるというサービス付きで靴を選ぶことができるなんでいまのうちだけかもしれない。いまなら著名人のClubhouseでも聞けない「濃い」話が聞けるかもしれない。


お客様がこの革で作ってほしいといえばできる限り持ち込み対応も考えたいという驚きの発言もあるくらいなので、ステッチやパイピングなどのデザインもある程度は希望に沿ってくれる。

ディレクターとして自分が妥協せずに目指して作り上げたデザインについて、いろいろな人が好き勝手に手を入れるのはどう感じるのかと尋ねてみたら、自由に楽しんでもらえればという回答だった。この安藤坂コインにアーチケリーのユーザーが集まって、みんなでそれぞれのこだわりをあれこれ言い合ったり、思い思い好き勝手に「こんな靴どうだろう」みたいな話ができたら面白いですね、なんて話で盛り上がった。


自分の好きなことに対して徹底的にこだわることに楽しみを見出した人だからこそ、同じように自分の好きなようにあれこれ考える人の気持ちに共感できる。安藤坂の一角から始まったブランドの想いや志は、果てしなく大きい。