2023年11月19日日曜日

Regal 2504NA 再び

ニッポンのレジェンド靴 2504NA。

いまの時代、レトロ感のあるモデルとして評価されているけれど、フィッティング重視のトレンドからは少し離れた位置にある靴

これまでも、そしてこれからも唯一無二の立ち位置で「定番」として受け継がれていくであろう靴。

「REGAL/リーガル」の商標はもともとは米国企業のものだったことからもわかるように、この2504NAもアメリカ靴を意識したことを感じるようなデザイン。J.PRESSのジャケパンスタイルやBrooks Brothersのスーツあたりに合いそう。


今年、2504NAを買い足しました。


2023年11月に値上げがあり28,600円、10%税込みでは30,800円とついに3万円を超える靴に。たった10年ころ前には個人輸入でチャーチのコンサルが日本円換算で5万円台で買えていたと思うと隔世の感がある。

革靴の中ではエントリー的な価格ともいえるけれど、ふだん使いにそこそこいいスニーカーが1万円~2万円程度で手に入るとなると、やっぱり革靴は少し高いねという印象を持つ人多そう。


以前と比べフィッティングやパターンに微妙なマイナー修正があったのか、履き初めにあった外側のくるぶしにあたる感じが全くなく、タンの足首へのあたりも柔らかい。土踏まずからかかとのサポートが若干入ったような気さえする。かかともほんの少し丸みを帯びたような。


2504NAって履き始めはくるぶしや足首あたりにエッジが食い込んでくるような靴という印象があって、履きおろし日を選ぶと思ってしまっていたのに、今回はとても拍子抜け。購入して軽く慣らし履きしたらあとは丸一日履いてみても全く痛いところがない。不思議。

見た目の印象とは違い甲の革はあまり固くはないという点は変わらず。タンや羽根のあたりのカチコチな硬さもやや軽減されている。履き始めのギシギシいうようなところが全体的に少ない。

ラストそのものは従来と同じはずだから、この足首周りの印象からすると僕の足が少しふっくらと変わったというよりは、外側のくるぶし周りのパターンにおいてラインが微妙に下がっている可能性が高い。全体的なパターン自体の修正が入っているのか、それとも単にこの個体を作るときの差異なのか。どちらにしても僕にとっては良い方向だからアタリと言える。


結構薄めの足である僕でさえこれなのだから、もし本当にパターン修正がされているのであれば2504NAでの最初の難関であるくるぶしや足首へのアタックを受ける人が減ることになる。やや立体的なつくりになったようで、「定番」として続けるにはいい方向への変化ではないだろうか。

今回の2504NAは当年製造っぽいのでまだ日がたっていないこともあるのかな。ガラス仕上げの甲革はその樹脂仕上げによりちょっとビニールっぽさが感じられるものの、しわの入り方は穏やか。このぴかぴか具合がオンオフ兼用のポイントだったりもする。


リーガルの定番はこの2504NAといい、2589N、2235NAといい外羽根スタイルが多い。あとはスリッポン系も。


あくまで経験則上、自分の周りにいる先輩方を見るに、その先輩方のさらに先輩方をターゲットとした販売開始当初の日本人の足の形は現代の平均よりももう少しごついと思われることに加え、当時の日本文化的に靴の脱ぎ履きにおいてひもを緩めない人たちがたくさんいたであろうから、踵をあまり攻めずにしておいて、フィッティングは紐の締め具合で設計しているのではないだろうか。

単なる緩い靴になってしまうと長時間の歩行で疲れが多くなる。足首から前方は歩くことを前提にある程度のフィット感を担保しなければならない。

「日本人の足」といっても千差万別で一つの形に集約させるのは難しい中で、外羽根モデルは羽根の開きを少し多めに取っておけばゴツイ足から薄っぺらい華奢な足までアジャストできる範囲が広くなる。

足首に近いところでしっかり抑えることができれば、かかとが多少大きくても脱げることは無い。逆に指先側にも余裕が出るので指に与えるダメージもほとんどない。

極上の履き心地を目指すのではなく、広く浅く、草履履きの日本人にとって無理のない履き心地を狙うとこうなるのではないかという気がする。大量生産をする場合のお手本のようなラストとデザイン。

少しごつい靴ではあるが、スーツスタイルも以前はずっとゆったりしていたので、この靴くらいのバランスで良かったと思われる。

2235NAのほうが少し足首周りの締め付け度合いは少ない気がするのは、ひょっとして履く靴下の厚みまで考慮されてミリ単位の修正が入っていたりして。


そんなわけで、ちいさめ薄めは僕の足に対しては紐を緩めている時点ではやや大振り感が出るけれど、しっかり紐を締めると緩さを感じない歩きやすい靴に変化する。

計算上EからEEの範囲(EE寄り)の僕は01DRCDと比較してハーフサイズダウン、ショーンハイトSH111ラストと同サイズを選択している。01DRCDは少し緩めな感じなので、01DRCDをタイト目に履いているのであれば同サイズ、SH111は外羽根タイプのSH111-4と同サイズだと気持ち大きめのような感じだが問題ないというサイズ感。外羽根比較ではシェットランドフォックスのインバネスよりハーフ落としてもまだ2504NAのほうが大きめに感じる。

全体的にボールジョイントでの窮屈さは全く感じない。指先に行くほどゆとりがあり、いちばん足首側のひもはしっかりと締めることができて履いて歩く分には緩さを感じない。

こうした巾着のような靴の作りだから、足幅が細めの人だとさすがにこの靴は厳しいのかもしれない。足首のホールドが不十分だと、指先にむけた左右のゆとりがあだとなって歩く際に指に力が入りづらくなる。タンの足首への影響も大きくなる。大きい靴の欠点が出てしまい、歩くストレスが増えてしまう。

タイトフィッティングで行くならもうハーフサイズ下げても履けそうとは思いつつ、全長詰めて買ったばかりの靴で小指にタコマメを作るのはもう歳的にターンオーバー不可能な不可逆損傷になるのでここ数年はあまり攻めていないチョイスになっている。

ローファーの2177Nを履くと、2504NAと同サイズだと明らかに甲まわりがタイトかつボールジョイントの先が窮屈に感じる。特に小指部分。伸びる部分を計算しているのか、それともラストの違いなのか。2177Nだと全長は2504NAのハーフ上げのほうが快適、ただ今度はくるぶし周りにゆとりがありすぎて踵ではなくサイドのぶかぶか感が出てしまう。僕自身の足に厚みがないところが目立つ感じ。なので、同じリーガルの定番というカテゴリーであっても単に数字上のサイズ比較ではなくラストとの相性も含めてフィッティングをして靴は買うべきという思いは変わらない。

ちなみに、僕の中で最高に小指と踵がやられたのがRENDO R7702サイズ6で、全体的にきつすぎて購入当初に頭痛したりで挫折しそうになったのがW134の24。RENDOは何とか当時は頑張って履くものという意識が強かったため乗り越え、W134はしばらくお蔵入りしていたものを、経済的に苦しい時期に単に履く靴がなくなってあきらめて履いたことで、両方とも最後には靴が変化してとても履きやすい靴に変貌した。どちらもある意味事情があったので履き続けられたものの、その過程において足にも相当な負担をかけたので、若くないいまとなっては指に負担の少ない靴を選びたくなる。

あくまでもターンオーバー能力の劣化(?)によって、以前よりも緩さに対しての許容度が上がり、きつさに対してのそれが減った。



2504NAは多くの声がいうその靴の立ち位置が故に、ほかのスムーズレザーの靴に比べて扱いが雑になりがち。

雨に降られた後も、ほかのスムーズレザーの靴は軽く水ぶき(場合によっては洗ってしまう)して乾いたころにクリームを入れるなんてことをやるのだけれど、ガラス仕上げの2504NAはついつい表面の汚れを落としたらそのまま放置なんてことをやらかしてしまう。

ラバーソールも濡れたからといって手入れが必要なものでもなく、靴全体が水に強そうに見えるぶん、お手入れもおざなりになってしまっていた。

そうなるとどこが最初にダメージ食らうかというと、ウェルトがダメになる。ここは普通に革が使われている部分であり、ウェルトにはしっかりとクリームを入れておかないと表面は何ともないように見えてボロボロな靴が出来上がる。最後はウェルトが我慢しきれなくなり、ソールをつなぎ留められなくなる。


グッドイヤーウェルト製法のキモはこのウェルトにあるので、いくらアッパー素材やソールが雨に強そうとはいっても、靴全体で見てウィークポイントになるところをしっかりケアする必要があるというのもこの靴から学んだ。


よく「ガラスレザーは雨に強い」とか「お手入れが楽」とか言われることがあるけれど、それはこのガラスレザー単体の話で、靴としてみるとウェルトやインソール、靴紐とかほかのスムーズレザーと変わらないものがたくさんあるので、靴全体で見たときにお手入れの必要性という意味では変わらないと思う。2504NAについていえば、アッパーやソールのお手入れ頻度を下げても、ウェルトだけはクリームやミンクオイルを使い捨ての歯ブラシみたいなものでときどき塗り込んでおくといい。

ラバーソールだからってお手入れ頻度が少なくていいことないので、あくまでも製法全体で見た靴としてどうかという観点でお手入れ頻度や方法が決まるのであって、特定の場所の部材で決まるわけではない。

それと、2504NAに使われているガラス仕上げの革はお手入れし甲斐がないみたいなこと言われることが多い。そうかなぁ、BootBlackの黒色クリーム塗ると結構イメージ変わるよ、特に何年か履いて靴が少しくたびれてきたときには特に。


多くの2504NAがこうしたよく言われる情報のもと、案外雨の日向けみたいに扱われていたり、簡単お手入れな靴として扱われているケースが多そう。ただ、逆に言えば扱いやすいというアピールがされることでたくさんの人に履いてもらうからこそ「定番」であり続けることができている。

2504NAのターゲットはビジネスで(一部カジュアルでも)革靴を履く人全体を見ているよう。みんながみんなお手入れをしっかりできているわけでもないだろうし、そもそも興味がない人もたくさんいる。ローテーションをせずに同じ靴を履き続ける人もたくさんいて、むしろそちらのほうが多数派でもある。

2504NAは決して履きつぶすような靴ではないけれど、ここまで売られ続けるとニッポンのビジネスパーソン層における使われ方もある程度わかったうえで作られ、販売されているのだろう。修理もできるけれど、買い替えしながらずっとこれ一本という人がいたっていい、という雰囲気。

だからデザインを毎年変えたり、ラストを微調整し続けたりなんてのはこの靴のビジネスではなくて、むしろ同じじゃないと困るという人たちにいつまでも過剰に高い価格にならないように大量生産しつつ販売し続けるような靴である必要がある。同じ形をたくさん作ることができるということは、生産コストをわずかながらでも下げることができる。

それは材料の調達であったり、作り手の確保、設備やツールの投資であったり、一定量を裁くための販売チャネルであったり。リーガルシューズ専売モデルではないから、通販サイトで何割引きなんて売られ方もしている。

日本の商習慣的に結局のところ定価からの割引みたいな感じになってしまうので、リーガルシューズのようなリーガル管理下の店舗では一定の価格を維持しないとならないからこうした定番モデルが却って売りにくいなんてことにならないのかな。モラルが完全に欠如してしまうと、お店で試着、通販で購入なんてフリーライダーも出かねない。もっとも、その肝心な店舗でもバックヤードのサイズや在庫の関係もあり、すべてのモデルですべてのサイズを常時置いておくのは難しい。取り寄せに数日かかってまた店舗に行くくらいなら、通販サイトで家に送ってもらっても一緒、になってしまいかねない。

そこまで含めてリーガルが全社的に戦略をとっている可能性もあるのだろうけれど、さすがにそれはないかな、どうなんでしょうね。割り切って店頭をフィッティング相談室にできるのであれば、それはそれでとてもありがたく重要な場として機能しそう。全体的にはリーガルシューズの試し履きは本当に履いてみて確かめてちょっとしたアドバイスがあるくらいで、ボールジョイントのフィッティングだとか甲の締め具合、履き口のフィット感などはほとんどみてもらったことがない。最終的な判断はお客様というのがある意味徹底されてしまっていて、フィッティングについてよくわからない初心者は何度か履けばフィットするはずのサイズは「小さいものを勧められた」といい、夕方に店頭でフィットした靴が「やっぱりリーガルサイズは大きい」とかいうコメントにつながったりする。フィッティングに詳しい人がいるのに残念。

大きい市場で、靴に対する知識がほとんどない人も相手にしなければならないリーガルでは、こうした本来大切なアドバイスがしたくてもできないというのはなんとなく予想が付く。なので、顧客側としてはあくまでも靴の販売と切り離したフィッティング重視の場がどうしても欲しくなってしまう。ラスト毎に色違いでもフルサイズさえそろえておけば、フィッティングはできる。なんなら倉庫併設の場所でもいいくらい。

最近は行っていないのでわからないけれど、以前のREGAL TOKYOはそのあたり、結構細かく見てくれた。メジャーで全長やボールジョイントの周囲を測って、そのうえでいくつか靴を履いて、でもやっぱり買わなくて帰るなんてこともあったけれど、そうした安心感があってシェットランドフォックスも含めたリーガル系の靴はすべてここで修理に出していた。修理についても「これはまだ出さなくてOK」とか、靴についてよくわからない常連でもない僕に修理のタイミングやらクリームの塗り方やら丁寧に説明してくれるなど、いわゆる靴好きがいうところの本格靴についてのリーガルの真の実力を垣間見ることができる店舗だった。定番靴がないのが残念。ここはオーダーとビスポーク以外はあまりやる気ないかな。


2504NAは定番と言われつつ、身近で履いている人を見つけにくい靴でもあったりする。職場や取引先などでも履いている人見たことないし、いっぱい売れているような気もするけれど、いったいどこで履かれているんだ?という気もする靴。


靴好きであれば一度は通るところのような靴だけど、その一度で通り過ぎちゃったままなのはなんとももったいない。



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いつでもあちこちで買える安心感が2504NAのいちばんのいいところかもしれません。


お手入れもふだんはデリケートクリームのみで、たまに光らせたいときだけ色付きのクリームを使います。

ウェルトは色付きクリームを塗ることが多いですが、ソールに使うこちらでもよいかと。

2023年10月26日木曜日

Schoenheit SH111-1D Cap Toe Leather Sole

ショーンハイト (Schoenheit/Schönheit) のマスターピース SH111-1D。

きわめてオーソドックスなスタイルのキャップトウ(ストレートチップ)。

かかと部分がドッグテイル型になり、型番の最後にDが付き従来の武骨な感じの靴から最近の一般的な形の靴になった感じです。


ショーンハイトとのお付き合いは SH111-4 を買ってからなのでもう8年くらいになります。
結論から言うと、めちゃくちゃ丈夫でビジネスユースに最適な靴です。

雨の日も雪の日も、もちろん晴れた日も神経質にならず仕事道具として履き続け、8年を前にして靴の底に穴が開きました。アッパー側も少し切れてきました。

レザーソールの靴はつま先が結構削れるのでそこだけ修理をすることが多いのですが、だいたい週に1回弱くらいのローテーション、比較的軽めな体重だからなのか、足をあまりすらないのかソールが減りにくくショーンハイトの SH111-4 に限ってはつま先の修理はしないまま、そこに穴があくまで履き続けました。

たまにソールをメンテナンスするとはいえ、雨の日も履きますし、1日に12時間以上履くことはざらでお世辞にもていねいに扱っているとは言えないほどです。そんなビジネスシーンで5年を軽く超え、8年ほど履き続けました。

頻繁に買い替えるよりしっかりした靴のほうが長持ちするので結局はお得であるという話をよく耳にします。しかし修理費用、お手入れの手間(time is moneyですので)を考えると必ずしもお得とは言い切れません。むしろ高級靴といわれるゾーンではやっぱり趣味性が高いです。

10万円で5足買ったらそれほど神経質にならないでも、たまにお手入れしていれば5年は持つと思われます。まっとうな革靴を履き続けることに必要なコストが1年あたり2万円、靴クリーム代やらなんやら入れても月2,000円といったところでしょうか。

20年以上お手入れをしながら履き続けるのはなかなか簡易度が高いとはおもうものの、しっかりとした作りであるので、中2日くらいのローテーションができれば数年単位では優に履き続けることができる良い靴です。


ショーンハイトの SH111-1D はきちんとした革靴の入門としてもよさそうです。

初めてレザーソールを履くような場合、雨に降られた後のメンテナンスがわからなくてソールを早めにダメにしてしまったり、ウェルトやられてしまったりすることもあります。

アッパー側も塩が出てきたり、しみがついたり傷ついたりと、ふだんのビジネスシーンで履いていれば少なからず痛みます。

それなりの歴史の中で生き残ってきた革製品ですので、多少の傷には強く、濡れたらすぐにダメになるというほどではありませんが、お手入れ次第で持ちが劇的に変わります。

化繊やビニール等に慣れてしまった現代では、こうしたメンテナンス経験が無く習慣化されていません。雨にぬれてもそのままで、それが革が雨に弱いという印象を強めているように見受けられます。

スムーズレザーでレザーソールというのは高級靴でも根本は同じです。ディテールそのまま、お手入れとかを勉強するにも適していますね。


2023年10月現在で税抜20,000円(税込22,000円)って、8年前と販売価格同じなんですね。どうやったらそういう価格が維持できるのでしょうか?

8年前にも書きました

値段から入るのはどうかと思いつつも、これだけのインパクトがあるとどうしてもここに触れたい。
革の調達価格が上がったということでどんどん革靴が値上げされる中、税抜2万円ジャストの革底グッドイヤーウェルテッドというだけで驚き。

と。

8年の時を経ても全く同じ価格って、革靴界ではもう突き抜けちゃってショーンハイトかそれ以外か状態です。 

製造をしている東立製靴さんがリーガルの工場で比較的生産効率が良いとか材料の調達が有利だとかいろいろあるのでしょうけれど、もはやそれだけでは説明つきません。この8年間で最低時給の全国加重平均が2割くらい上がっています。材料費一定だとしても人件費原価部分は上がっていないとビジネスとして釣り合いません。

というわけでショーンハイトはもともと驚異の価格設定だったのが、さらに実質値下げ状態となって、ビジネスシーンで選択肢に入れない理由が無いくらいの独走状態です。

ここまでそうとうヨイショしていますが、客観的にみてエントリー価格(エントリーレベルではない)でこれだけの品質を担保している靴ってほかにあるんでしょうか?


惜しむらくは購入できる場所が限られていること。
靴のサイズ標記は単なる数字で、しかも同じ数字であっても大きさや履き心地がまるで違うため、試着をしてから買うことが大前提です。

ある程度靴のサイジングに対して理解がある人であれば返品交換できる通販サイトで購入することができますが、初回は店頭で試着しながら店員さんのアドバイスも聞いて選ぶべきものだと思っています。

やっぱり一度は店舗でとなると、首都圏くらいの人しかアクセスできないというところが泣き所でしょうか。



さてこのショーンハイト、外羽根の SH111-4 や SH111-4D と比較すると、内羽根キャップトウの SH111-1D は明らかに緩く感じます。

外羽根モデルは羽根が少し外についているので、履き口で結構しっかり締め付けできます。アジャストの範囲が広めなようで甲が薄い人でもフィットしやすいです。内羽根モデルは筒の最小径が少し大きいので何となく緩い感じです。靴用語的に言うならば、インステップガースの調整幅が少ないです。

8年前に東立製靴さんで試着した際にも内羽根は緩い感じがしたので外羽根プレーントウを買いました。この微妙に感じる緩さ加減は今でも印象が同じです。木型が同じ SH111-4 もボールがーすのあたりは結構ゆとりがある同じような形なのですが、外羽根の作りによって締め付けられる点が異なります。

薄くなる傾向がある現代の若い人にはちょっと全体的に筒が大きめかもしれません。私は若いわけではなく単に足が薄いだけですが。リーガルトーキョーの靴に似ているフィッティングで、東立製靴さんの工場で作られる靴は、もともとのターゲットは当時の30代、いまの50代以上ですかね。スペック上は2Eですが、ボールガースの幅は明らかにハーフサイズ上のインバネスよりもゆとりを感じますのでちょっとほかの靴に比べると緩いです。

SH111-4 で紐をきつく締めた際に足首寄りの穴で羽根と羽根の間が1cm残らない人は SH111-1D だと緩い印象になるはずです。足が比較的薄めで、かつタイトフィッティングが好みの人は通販サイトのレビューやブログにとらわれず、試着して確かめるべき靴です。


全体的には足長と同じようなサイズ感だと思われます。足の長さの実測が23.5cmであれば23.5、25cmであれば25が合う気がします。タイト目フィッティングを好むのであればハーフマイナスという考え方もありますが、靴の形的に長さを下げると小指側の指先が当たりやすくなるのでフィッティング向上を目的にサイズダウンするのは要検討です。

踏まずは特に押し上げるような感覚はなく、一方でかかとは小さくはありませんが、底面はやや収まるような作りです。

タンパッドなどで調整できる範囲であれば入れてみるのもありです。逆にインソールはせっかくの足あたりを変えてしまうので個人的にはあまり好きではないです。レザーソールの革靴はやっぱり余計なインソールを入れないほうが良いですし、それであればもう少し小さいウィズでカスタムオーダーを検討するほうがよさそうです。


アッパーは山陽のキップレザー。東立製靴さんのウェブサイトを見ると「オランダ製の原皮を、姫路の工場にて丁寧に鞣(なめ)し、美しく仕上げたキップ」だそうです。特段グレードなどは書かれておらずきめが細かいとまではいきません。ぷつぷつ感があるものの、きちんとお手入れすると普通に艶が出ます。実用上は十分です。


初回に履き下ろす前、しっかりとクリームを入れていることもあり、しわは結構細かく入ります。履きおろし時点では多少硬さを感じるものの、しわができる部分では革自体はしなやかな印象です。以前購入した SH111-4 よりも柔らかくなっている気もします。

トラが目立つところもあります。ここが価格を抑える一つのポイントであるとすれば、個人的には気にならないのである意味歓迎。

ソールは以前より少しばかり薄くなった気がしないでもないです。以前はちょっと厚手の底という印象でしたが、いまはほかの靴と同程度ですね。ドッグテイルと合わせて現代的なスマートさに寄せてきたような印象です。コンビネーションオーダーに2.5mm厚底というのがありますが、これをやると従来の印象に近くなるのかな。

少し乾きやすい印象のソールです。まだ履き始めということがあるのと、今回はミンクオイル薄塗だけをしているので脂分がそれほどないからかもしれません。ソールはやりすぎてもべたべたになってしまうと滑るし通気性も落ちそうだし、でも一方で乾きすぎるとヘリが早いし雨の日水吸いすぎてしまうしと、スイートスポットはどこなんでしょう。個人的には全天候型を目指して、気持ち多めにミンクオイルを塗っています。継続的にメンテナンスをしてどうなるか興味深いです。

かかとはオリジナルのゴムヒール。ビジネスの定番ですね。
かかとがゴムになるだけでだいぶ滑りやすさが変わると思います。そのへんもビジネスユース向けとして有利な点です。

全体的にソールはシンプルです。ステインも必要最低限に仕上げられています。
前回購入した8年前に比べると安定的にきれいな感じです。

ソール凝りまくってもすぐ削れるしビジネスシーンではあんまり役に立たないし、変にデザインに流行を入れて商品入れ替え対象になることもないし、同じような形を繰り返し作るから作りても経験値がたまりやすいしと、総じてビジネスシーンで必要十分な靴をまとめ上げたらこうなるというお手本のような靴です。

REGALの01DRCDもビジネス定番としてかなりのポジションにあると思っていますが、SH111-1D をはじめとしたショーンハイトの破壊力たるや、右に出る靴を見つけるのは大変そうです。



購入して箱を開けてみて気が付いたのは、とても丁寧に梱包されていること。

作り手が大切に作って、大切に使ってほしいという気持ちが伝わってきました。
シューズバッグがついているような靴を除いては、たいていは紙に包まれて箱に入っています。これまで見てきた中ではその梱包の丁寧さについて3万円の靴も8万円の靴も案外大差がない。

ショーンハイトの梱包は、この手の2倍、3倍もする価格の靴とは一線を画す丁寧さで梱包されてきました。今回の購入で一度交換してもらうことがありましたが、交換前も交換後も梱包の丁寧さは変わりませんでしたので、たまたまよかったというのではなく、これがショーンハイトの「あたりまえ」なんだと思います。
(一方で私は包み方がヘタクソで、きれいにお返しできませんでした... すみません)

その包み紙をおそるおそる開いて出てきた靴は、それこそきれいに仕上げがされていました。

ショーンハイトのコストパフォーマンスについて語るのであれば、そのパフォーマンスはプロダクトとしての靴に対する作り手側の気持ちが圧倒的に高いというところにあるのではないでしょうか。

「オレたちの靴すげーだろ」的なものでは決してなくて、ニッポンのビジネスシーンを支える靴として一つ一つ丁寧に、それこそ職人の仕事に対する姿勢が伝わってくる靴。

靴を包んでいる紙なんて、履き心地には何の影響もないし、包み方が丁寧であっても中身はよくなるわけでもない。そこで値段を上げることもできない。

ただ、そうした細やかなことができる人たちが作り出す製品にはインチキなんてあるわけがなく、自分たちがしている仕事に対する矜持が伝わってきます。


大切にしたいと思うものは、価格で決まるのではない。

今回ショーンハイトの靴を買って改めてそんなことを感じました。
買ってよかったです。


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お手入れはブートブラックシリーズで

ブートブラックのデリケートクリームは万能なので、ひとつあると便利。
新品時だけでなく、革が乾いたなと思うときに使います。



普段のケアは色付きのクリームで。


今回は使っていませんが、より見た目重視する場合はアーティストパレットを入れることがあります。

サイズ23.5の場合、サルトレカミエ300BHの38がぴったりでした。

2023年10月12日木曜日

革靴のプレメンテナンス

ひさしぶりに革靴を買いました。

今回もビジネスユースなので必要以上に気にせず、最初によく手入れをしておくと結果的に長持ちするのではないかという程度の気持ちで、インターネットで最近の情報を調べながら自分なりにプレメンテナンス(プレメンテ)してみました。

初回のお手入れについては、いろいろな方が研究(?)されていたりして、確かにコレはいいなと思うものがたくさんあります。

ほぼすべてのところで共通しているのが初回メンテナンスの理由です。「保管されている間乾燥したかもしれない革靴に油分を補給する」ということをどうやるかということに尽きる感じです。

その目的に沿って、ある人は何種類ものクリームを順序良く塗り、またある人は乳化性のシュークリーム一本で完結しています。

革に油分を補給するという意味でいうならば、デリケートクリーム塗っておけば事足りるのですが、ちょっと渋めに光るとかお手入れ頻度を少し減らしたいとか考えるとやっぱり乳化性クリームもあったほうがいいかなと思っています。

用意したもの

  • 大きめの馬毛のブラシ
  • 豚毛のブラシ
  • 適当な布切れ
  • Boot Black デリケートクリーム
  • Boot Black シュークリーム(黒)
  • コロンブスミンクオイル
  • ウェットティッシュ
  • シューツリーを買ったときにおまけでついていたグローブ
とりあえずこれを用意。

リッチデリケートクリームだとか、プレミアムクリームだとか靴のお手入れグッズもバブル状態のようで、どれを選んでいいのか迷います。そんな時だから、いったん初心にかえってシンプルイズザベストな感じのものを選びました。

適当な布切れは着古したインナー用のシャツから作りました。おまけグローブはまぁ、ネル生地の代わりみたいなものです。

お手入れ期間は2日間(と外での慣らし履き)。最初の日はデリケートクリームとソールのミンクオイル、2日目に乳化性クリームと室内での試し履きをしました。週末を使ってやりましたので、2日に分けていますが、日にちをあけることに特に意味はありません。


今回のターゲット

今回お手入れするのはショーンハイトのSH111-1D。既製品のキャップトウです。国内タンナーのキップが使われているといわれています。


ショーンハイトさんはグッドイヤーウェルト製法の本格靴をどうしたらこの価格で提供できると思うほどにインパクトのある価格で販売しているビジネスパーソンの頼もしいパートナー。

ここ何年かにわたり革靴の値段が高騰しまくっていますが、レザーソールの既製品は消費税8%の時代から変わらず税抜き2万円、税込みで22,000円です。プレーントウのSH111-4に至ってはセールとなって当時より値段下がってたりします。Made in Jpaanで従来からのこの価格のどこに値上げしない企業努力の余地があるのかと驚きとしか言いようがありません。

リーガルの01DRCDがこの11月から税込46,200円だということを考えると、交換の手間考えても通販したり、都内の人なら本社とかサロンとか行ってショーンハイトを試し履きして買ってもいいんじゃないかと思うレベルです。

それなりにお手入れすればかなりヘビーローテーションでも5年は余裕、ソールの張替えも驚きの1万円以下。おそらくラバーソールを買えばアッパー側がダメになるほうが先かと。既製品は高級路線ではないかもしれませんが、同一価格帯の中では素材も含め、フェルスタッペンばり断トツのクオリティです。

何らかの理由で採算度外視でやっているのでなければ、この金額で展開できる技術・ノウハウは世界レベルで展開できちゃう実力なのでは、と思わずにはいられません。

おっと、今回はプレメンテの話ですのでショーンハイトの話題はこのへんで。



では早速始めてみます。

1日目

全体をブラッシングしてウェットティッシュで拭う

まずは全体を軽くブラッシング、次いでアルコール含有のウェットティッシュでぬぐいます。除菌とか油分の汚れ落としというよりは、ほとんどおまじないとか儀式みたいなものです。

今回購入した靴は、ていねいに仕上げをされているのかきれいな状態で届きました。なのでさっとやって終わりです。


お湯を固く絞ったタオルでていねいに拭う

ここからお手入れ本番。40度ちょっとのお湯を使い、固く絞ったタオルで靴全体をしっかりと拭います。これは靴の表面を少しばかりふやかせ毛穴を開くことでクリームが入りやすいようにするという意図です。

ふだんのお手入れの時はお湯ではなくいわゆる「おしりふき」で代用することが多いです。今回は初回のプレメンテナンスなので少していねいにしています。


デリケートクリームをたっぷり塗る

まずは油分や水分補給のデリケートクリームを塗ります。後ほど仕上げに乳化性の靴クリームを塗るので、ここでは乾いた革に油分がしっかり入ればいいという感じです。

今回はブートブラックのデリケートクリームを使っています。ブートブラックの良いところは主成分が「ろう、油脂」とされていて有機溶剤が入っていません。(入っていたとしても表示の義務以下です)

ブートブラックのデリケートクリームは塗っているときにややべとつくものの、乾くとそれほどでもなく感じられるので靴の内部にも使っています。カビとかどうなんだろうと思うこともありますが、いまのところデリケートクリームを塗って内部がかびたことはありません。

塗る量はそれこそたっぷりといった感じで、靴がデリクリ中毒になるほどべたべたに塗ります。これでよいのかまったく根拠はありませんが、靴を洗う時などは靴がびしょびしょになって、それでも乾けばもとに戻ると思えば、少し多めに塗っても問題ないのではないかと思っています。

デリケートクリームは2回に分けて塗り、1回目は表面に少しばかりデリケートクリームが残るかなという程度の量で様子を見ながら塗り、数時間おいて表面がもとに戻っているように見えたところで2回目にべたべた塗ります。今回は黒の靴なのであまり意識しませんでしたが、薄い色の靴であれば1回目は慎重にして様子を見て2回目の量を決めるのがいいかもしれません。

時間が無い場合は、2回目のデリケートクリームを翌日にして、都合3日でやってもよいと思います。日数が大切なのではなく、そもそもの油分を補給するという目的にかなっていればよいので、急いでいるなら寝かせの時間を短くして、忙しいなら少しずつ進めてもよいのではないかと。気にすれば多少の仕上がりの違いはあるにせよ、履く前にそこそこ油分さえ補給できればいいので。

ブートブラックやM.モウブレイのデリケートクリームやは過去にもたくさん塗りまくったことがあります。雨に濡れた後や水洗いの時などは、もはや水なのかデリケートクリームなのかわからないくらい塗りましたが、塗りすぎて靴がダメになった気はしていないので気にせずたくさん塗ります。目安としては片足で小さじすりきり一杯くらいの量を使いました。


ソールにミンクオイルを塗る

ソールは伝統的なミンクオイル。スムーズレザーではあまり使い道が無いということもあり最近では話題にも上がらないようですが、一昔前までは硬めの革を柔らかくする系では大活躍のオイルでした。今でもリーズナブルかつ意外と手に入りやすいメリットがあります。

最近はソールケアの商品もたくさん出ていて、それぞれがソールの特性に合った製品であることは間違いないのですが、今回はシンプルにいこうとしているので従来型のミンクオイル作戦で行きます。

ミンクオイルは浸透性が強いことからスムーズレザーの表面に使ってしまうとどうしようもなくベタベタして、質感が変わってしまうと言われています(確かめたことはないです)

ただその浸透性の良さは、ソールのような固くて稠密な仕上げがされている革には却って都合が良かったりもします。

新品のソールはつるつるですのでごくごく少量を伸ばします。表面が少し油っぽくなったなーという程度で、塗り込むというよりは表面にごくごく薄い膜ができたところで十分としています。

どうせ滑るならそもそもミンクオイルを買わなくてもニュートラル(無色)の乳化性クリームでもよいのではないかという気もします。ミニマル志向であれば、乳化性クリームは黒でなくてニュートラルにしてもうこれ1本でいけちゃいます。ミンクオイルよりは浸透力は低いのではないかと推察しますが、まぁそもそも外で履いてもいない状態で浸透も何もあったもんではないので。とりあえず何か塗っておこうという程度です。

ここまでやったらいったん初日は終了。時間があれば次もそのまま進めてしまって終わらせるもありなんですが、デリケートクリームの油分が浸透し、水分が蒸発して落ち着く時間もいるのではないかということで、一晩おきます。一日パターンであれば休日の午前中にここまでやって、夜に次の作業でもいいかもしれません。


2日目

コバに乳化性クリームを塗る

見落としがちですが、コバ、特にウェルトの部分にクリームを塗りこみます。

アッパーより先に塗っておくと、アッパー側に少しばかりクリームがついても気にすることありませんし、一緒にブラッシングできるので楽です。

使い捨ての歯ブラシなどが無くても、布の切れ端を使ってもある程度はできます。布に少し多めにクリームをとり、ぐいぐい押し込むような感じで塗っていきます。多少のムラが出たり、隙間にクリームが詰まりますが、どうせ最後に豚毛ブラシでブラッシングするのであまり気にせず進めます。

今回は用意していませんが、ふだんのお手入れではコバのメンテナンスに使い捨ての歯ブラシを使うことが多いです。出張が多い人はアメニティで出てくる歯ブラシを使ったら、きれいに洗って持ち帰りストックしておくのもありかと。ちなみに、新品でも業務用の歯ブラシだと1本20円以下で買えるので何もペネトレイトブラシを買う必要ないんじゃないかと思ったりしています。


アッパー側に乳化性クリームを塗る

最後に表面に乳化性クリームを塗ります。

初回なのでふだんのお手入れよりは少し多めに塗ります。僕はウエスで塗る人なので、軽く取っては表面に塗りこみ、しみこんでいくような感じであれば追加するみたいなイメージで塗っていきます。

ブローグ系の靴であればウエスだけだとどうしても塗りにくいので、ここでは歯ブラシを使うことが多いです。

ブートブラック(シルバーラインではないほう)の乳化性クリームはやや粘度が低く、するすると表面からクリームが吸収される感じです。いったん表面に留まってからじわじわ浸透していくようなクレム1925のような油性クリームとは塗っている感覚が違います。

少し表面がべたついてきたような気がするようなしないようなという程度で塗ります。靴の片方で小指の爪にクリーム山盛りといった程度の量でしょうか。

ひととおり塗ったらすぐに豚毛のブラシで全体をシャッシャと手際よく、少し力を入れてブラッシング。先ほど塗ったコバの部分もていねいにブラッシングします。

終わったら10分ほど寝かせて、布切れで余ったクリームをぬぐいます。あまり色がつかないようであれば初回より少しクリームの量を減らしながらもう一度繰り返し、布切れにクリームが過剰に残るような感じがしてきたら終了です。

塗り終えた直後は気持ち全体がべたべたした感じになりますが、その一方で革が少しだけ柔らかくなっていることがわかります。

目的は油分を革の内部に浸透させることなので、表面に残ったクリームは不要です。ここでは布切れで光沢を出すというよりは、余計なクリームをとるというイメージでふき取っていきます。

もし光らせるとか表面を整える方向であれば Boot Black アーティストパレットやクレム1925などの油性クリームを最後に使い整えれば良いかと。


履きならし

靴は割と長時間履いて歩くものですので、一日中履く前にまずは軽く履き慣らします。室内でややきつめに紐を結んで少しずつ曲げていきます。

まずは足を入れ、紐を結び足の形と靴の形の違いに意識します。ボールガースが少し抑えられているなとか、一の甲が緩いなとか、少し踏み込んだり力をかけたりして足を通して靴の形をイメージします。

次は屈曲です。最初は踵を数センチ上げるような感覚でつま先立ちをします。かかとをあげたり下げたり、あまり大きな動きではなく軽めに動かします。本格的に曲げたらどの辺が折れるのかを確認する意味合いもあります。

何度か繰り返してシワが表面に入り、靴の折り目のようなものができてきたら少し歩いてみます。最初は靴が硬くてかかとが付いてこない(靴が折れない)ですが、最初はあまり無理をせず少しずつつま先に力を入れるようにして靴を曲げていきます。

手でおるような強者もいるようですが、体重に任せてふつうに歩くほうが折れ曲がる位置や折れ曲がり方が足と合うので良い気がしています。

ある程度曲がるようになったら、つま先に力を入れるような感じで少し強めにしわを入れていきます。新しい靴はここでミシミシ音が出たりします。ソール側が少しずつ伸びるようにゆっくりと行います。

最後はキャッチャー座りのような感じで、靴が90度屈曲、と言いたいところですがまだ靴が固いので、無駄な負荷をかけないよう45度~60度くらいは折れるように屈みます。実際に履こうとすると靴ひもを結ぶときにはもう片方の足は90度以上折れるようになるので、ここでしっかりと曲げておくとよいです。

事前にしっかりと曲げておくと、歩く際のつま先にかかる負担を少し減らせるので、新品時にありがちなつま先が猛烈に減っていくことを少し軽減できます。

90度以上曲がるようになったら仕上げとしてソールにミンクオイルを薄塗りします。靴底が伸ばされて、曲がった部分は革が少し開く(傷ついて広がる)ので、そこから浸透させ、潤いを与えることが目的です。量は少な目で、その代わりていねいに擦り込むように塗ります。その後は半日くらい放置しておきます。


外履き前のお手入れ

いよいよ外出デビューです。

家の中ではなかなか歩くということができませんので、靴を曲げるところまでやったら外で歩きます。できればアスファルトよりはOAフロアのようなところのほうが良いですが、気にしだすときりが無いのでふつうに外出します。

外履きしていよいよ本格的に1日履く前に、最後のお手入れをします。

アッパー側は馬毛のブラシでていねいにブラッシングしたら、ウェルトの部分にクリームを再度入れます。しわの部分にごくごく薄く乳化性クリームを塗り、ネル生地のようなもので徹底的にからぶきです。しわの部分はほかの部分に比べて水分を吸収しやすいため、少しクリームを追加したうえで、全体的に光沢を出して終了です。


本格運用

いよいよ外出デビューです。

一日連続して履くと足が痛くなることが予想されるので、できれば靴を脱ぐことができるような日に投入します(オフィスワーク中心とか、歩く移動が少ない時とか)

結果として歩くことになったり、天気予報が外れて土砂降りになったりするかもしれませんが、もうここまで来たら大きく気にせず履くことにします。

ちなみに、仮にずぶぬれになってしまっても、ちょうど油分がたっぷり入っている状況ですので、軽く水洗いしてデリケートクリームからやり直しの油分補給すればもとに戻ります。

むしろ連騰してクリームが抜けかけた(靴が疲れているような)時に濡れるほうが靴に対するダメージが多いです。

最初の数時間はアスファルトを歩く時だけかかとからの着地を意識して、それ以外は全く気にせず歩きます。初日は5,000歩くらい歩きました。



満員電車で踏まれてしまったり、思わぬ雨に降られてしまったり、思わず段差でガリっと傷つけてしまったりとか、靴を履いて歩いている以上こうしたトラブル(?)は避けようがありません。

そんなことを心配しながら履かなければならない靴だとすると、もはやその人を幸せにするアイテムではなく、不安の種でしかありません。靴を踏まれれば踏んだ人を、天気予報が外れれば予報士を悪人に仕立て上げ、おまけに「きょうの自分は運が悪い」という暗示をかけてしまいます。

でもそれって確率の話ですよね。工夫や努力で減らすことはできてもゼロにするのは難しい。

だからこそ、自分でコントロールできるお手入れでリカバリすればよいと思っています。雨に降られるのが嫌だから履かないではなく、雨に降られることは避けようが無いので心のダメージを減らすためにも正しいお手入れを知るというスタンスです。

もし雨に降られたならこの手順でお手入れすれば元どおり、もしくはこれをやると実はより一層革が丈夫になるなんて方法を知っていれば天気なんてどうでもよくなります。(面倒という別の感情はありますが)

「レザーソールは雨の日履くな」と言っている靴屋さんは晴れの日と思って出かけても雨に降られることがあるという事実を直視していないだけです。天気予報でも雨は降らないとなっていて、確かに空を見ても晴れていたので出かけて振られた経験ないでしょうか。

私たちは将来を確実に予測なんてできないので、晴れかと思って雨に降られることはあるあるです。地域によっては晴れの日は必ずと言っていいほど夕立が来るなんてところもあります。

降られてしまったのは事実なのだから「履かなければよかった」ではなく「履いていた時に雨が降った」という単なる事実からどうするかが考えるところ。

「昨日の天気が晴れだったら...」と嘆いても「俺の見た目が竹野内豊だったら...」と言っているおっさんと何も変わらず、もうすでにそうでないのだからいまの状況から考えうるベストにフォーカスしたほうが健康的です。

ネットでは靴のお手入れのプロの方々から、それこそ靴磨きが趣味の個人の方までそれぞれの立場と重視することに沿ったお手入れ方法がたくさん紹介されています。そのどれもが靴を大切にしようとするところから始まっているのですから、ダイバーシティの時代、こうした多様性の中で情報の受け手がどうするか考えるのもまた面白いのかもしれませんね。


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まずはブラシ、汚れ落とし用に大きめの馬毛とブラッシング用に豚毛が必要です。


デリケートクリームはお手入れの必需品。私はブートブラックを使っていますが、定番のM.モゥブレイでもよいかと。

クリームはブートブラック

ソールのケアには専用のものがたくさん出ていますが、ミンクオイルでも十分だと思っています。少し滑るので、レザーソールに慣れていない人は専用のソールコンディショナーのほうが良いかもしれません。

2022年12月30日金曜日

Arch Kerry S-1421 ALGONQUIN

Arch Kerry(アーチケリー)のVチップ、Algonquin(アルゴンキン)

もうだいぶ前に買ったのですが...


最近は既製品の展開もあって、日本の靴ブランドのトップランナー一角を占めるアーチケリー。そのMTOモデルです。


履き心地のファーストインプレッションは

「とても柔らかく軽い」

僕のグッドイヤーウェルテッド製法のイメージは、とにかく重くてごつくてだからとっても丈夫、みたいなところがあって、それは若い時に見たリーガル広告の印象を引きずっている。
これまでも当のリーガル2504NAやらRENDOやら、どれもこれも履きはじめが堅くて、それが履きなれるにつれて自然な履き心地になってくるなんてことがあたりまえだったために、革靴とはそういうものだと思い込んでいた。

グッドイヤーウェルテッドの革靴で、履き始めがこれまでにこれほどに柔らかく、軽いものは初めてだ。
頑丈だけれど重くて、履きはじめはカチコチだけれど、マメを作りながら文字どおり血のにじむ思いをして足に慣らしていくというイメージとは対極に位置する靴。

同じ柔らかく軽い靴である靴下のような感覚に近いソフィスアンドソリッドとも違う。アーチケリーは柔らかいものの明らかにグッドイヤーウェルテッドな履き心地。つま先から土踏まずのあたりでしっかり感じ取ることができる。僕の表現力だとこうとしか書きようがない。

この軽い履き心地は薄手に仕上げられている大東ロマン社のレージングカーフによるものなのか、ソールも含めたパーツひとつひとつの素材なのか、それとも製造のTate Shoesの作りこみなのか、とにかく履いているとグッドイヤーウェルテッドで作られている新品だということを一瞬忘れてしまいそう。ソールの返りも自然で、アッパー側も変に力がかかっている感じがない。


新しい靴を買うと、きつい場合はかかとや小指にダメージがでたり、緩めの場合は薬指の裏側に水ぶくれができたりくるぶしを痛めたり(これはパターンにもよる)することがあるけれど、そんなことは一切なかった。ありがたい。

もう歳も歳(50近いので)だし、固い靴を足になれるまで履き続けるよりは、ある程度最初から足なじみが良い履き心地を意識して選んだということも大きい。中年以降の人が4Eなんていう靴を履きたがる気持ちもわからないでもない。もちろん、無駄に大きい靴を履いてしまうと靴の中で足が動いてかえってダメージになるので、きつすぎず、緩すぎず、柔らかな履き心地というのがおっさん靴選びの案外重要なポイントかもしれない。


改めて僕が語るまでもなく、アーチケリーはアメリカンビンテージを現代に再現した靴。表面的な形のレプリカではなくて、アメリカ靴の文化や思想に基づいて、いったん時計を巻き戻したうえでその当時の考え方に立って素材や作りこみなど細かい部分をできる限り近づけることを極限までに意識して再現された靴。

アメリカ靴というと日本ではIVY影響が大きいのか、オールデン人気が大きいのか、2235NAがインパクト強いのか、ごつくて大きめの靴がイメージされやすい。
一方で、パークアベニューに代表される米国産ドレスシューズメーカーであるアレン・エドモンズによる美しいドレスシューズも存在する。

グッドイヤーウェルテッド製法がアメリカで発明されたのはよく知られているところ。チャールズ・グッドイヤー・ジュニアによっていまから150年近く前に発明されたこの製法により、現代において美しいといわれている靴も作られている。古き良きアメリカには十分に美しい靴を作る技術と文化があって、それをいかに量産できないかという工夫が、この製法を生み出した。

ビンテージ靴が実際に作られた年代と現代とでは技術的・経済的背景によって現実的に再現することが難しいところがある。当時の機材や工具がもう作られていなかったり、材料はもはや同じものを再現する技術が無かったり、いまでは市場が小さすぎて誰も作らないなんてものがあったりで、完璧に同じものを再現するのは難しいそうだ。アーチケリーでビンテージ靴を再現するにあたって、紐の質感が同じようなものをそれこそ足が棒になるまで探してみても、いまのところビンテージ靴に採用されているものと同レベルのものは見つからないとか。

こういう歴史的な教養は実際にそれを好きな人には到底かなわない僕にとっては、アーチケリーの再現性というよりは、完成された靴としての履き心地についてだけ感じることができるのだけれど、わかる人にはたまらないでしょうね。


僕の足はラストを作る際に想定していたものよりも外側が薄いのか、少しばかり羽根の位置がずれる。それでも甲が低めに設計されているようで、紐をきっちり締めると足と一体化している感じがする。これは柔らかめなつくりも貢献していると思う。

Dウィズといわれる甲周り、幅が細いというよりは甲を低くしていて幅はそれなりに取られているようにも感じる。丸っこいヨーロピアンの足型よりは、少し平べったい足に合うような気がする。

アルゴンキンに採用されているスプリットラストに関していえば甲が緩くて締め付けが弱いという状態になる人はごく少数ではないかと思う。紐がちぎれるくらいに思いっきり引っ張っても羽根が閉じることはないし、たとえソールが沈み込んでもこれが閉じきる気は全くしない。サンプル履いてそれでも緩いならせっかくのMTOなら羽根の形状を少し短くするとか外に数ミリずらすとか、紐を通す穴をオフセットしてもよいかもしれない。(デザイン的にOKかどうかは知らない)


アーチケリーのサイトや各種情報をみて履き口が少し大きめかと思っていたら、実際にはインバネスあたりと同じ感じでそれほどでもなかった。タンが少し短い分足首に刺さるような感じはしないので、それも自然な履き心地につながっている。

僕は01DRCDだと24がちょうどの履き心地を感じる人で、アーチケリーは6をチョイスした。気持ち大きめな気がしたけれど、この靴は休日履き前提のざっくり感を優先してみた。休日に履く厚手の靴下や履く頻度、残された履く回数を想定して選んだサイズではあるものの春夏薄手の靴下考えるとハーフ落としてもよかったかもしれない。購入時に試し履きした限りでは5.5のほうがいつのもの靴に近い感覚だった。

外羽根の靴は特にそうだけれど、靴のサイズというのは全長だけではなくて足周やボールジョイント部分とのバランスもあって、この2点でしっかりホールドできれば多少の長さ違いはあまり気にならないのも事実。Width細めの靴を買うときにハーフサイズ上げるという提案がなされるのも、そんな理由だと思う。

これまで僕はタイト寄りが好みだったので迷ったときは小さめを選択して、多少足が痛かろうと履き馴らすことで靴の形を変えてきた。
もうこれ以上靴を買わなくても一生持ちそうな状況で、ターンオーバー機能が衰えてくる年齢にもなると初回からの履き心地を求めてしまってサイジングに対する考え方が変わってきた。いまでも若い人は少しピッタリサイズを選ぶべきだという考え方は変わらないけれど、自分より年配の人に勧めるならばもうすこし力入りすぎない選び方がいいのではないかすら思い始めている。


初回のお手入れはサフィールノワールのレノベイタークリームを塗った後にニュートラルのクレム1925を何度か薄塗り。

レージングカーフはすぐにツヤツヤ光るというよりは、少しばかりじっとりしつつも少し引いてみるとサラッとした仕上がりになる。この革であればレノベイタークリームだけでも十分にも思える。クレム1925を塗ったのは購入当初の保護的な意味合いが強い。防汚と防水みたいな。

同じデザインでもコードバンで作ったのであれば徹底的に光らせたほうが格好いいでしょうね。レージングカーフはつま先やかかとだけ光らせるような立体的なほうが似合いそう。僕はこの靴は休日の少しくだけたカジュアル専用なので、あまりテカテカさせずもともとの素材感を活かすようにしている。

仕上げが薄手ということもあって、初めからすごくしなやかな革。タンを触ってみるとカチコチ感が無くとても柔らかい。この革で靴を作るのは結構難易度が高いのではないかな。芯をしっかり入れないと型崩れしそうだし、だからといってむやみに入れてしまうとそれこそ芯が浮き出る硬い靴になってしまう。

ロットによって色合いが少し違うというのも良くとらえると楽しみな部分。今回のうっすら赤を感じられる茶色を維持するためにも、しばらくたったらクレム1925のエルメスレッドのような少し赤みのある色付きクリームを使ってみよう。

イカともよばれる独特のソール形状は、履いてみると気持ち安定感があるような気持ちになるのが不思議。かかとがオリジナルのラバーヒールで、ここに関しては履いている限りは絶対に気づかれないところではあるものの、ヒールをオリジナルにするあたりにアーチケリーの矜持を感じる。こういう型を用意してオリジナル品を作ろうとするとそれなりのロット頼まないと単価上がっちゃうし、その分ロッド頼むと今度は在庫が積みあがってしまう。

そんなソールにはBoot Blackのソールコンディショナーを軽めに塗っておいた。


アーチケリーの靴って、それこそ革靴は痛くて...とか言っているご年配の金持ち層にこそ教えてあげたい。

パターンオーダーで1足10万円を超える価格というのは、一般的なサラリーマンお父さんにとっては高根の花という気がしないでもないけれど、資産10億円を超える層にしてみれば足に合う靴が10万円で手に入るのだからいい買い物ではないだろうか。

そこまでいかなくても、企業勤めである程度出世した人で、スーツスタイルが好きまたはそれが必要な人にとって、こういう履き心地が良くどこに出しても安心なオンからオフまで対応できるアーチケリーは選択肢の一つとして十分検討に値する。

よくあるスーツの金額指南みたいなところでは部課長クラスで10万円なんて記載がある。スーツに10万円かけるなら靴にも10万くらいかけてもよいと思う。そんなサイトではなぜかスーツより靴のほうが安価な提示がされている。赤タグゼニアしか着ないような人ならば結果としてそうなのかもしれないけれど、量販店~パターンオーダーくらいまでのスーツであれば靴の価格を上げたほうが文字どおり印象の底上げになる。

僕が知る限りのニッポンビジネスシューズのベストバイであるリーガルの01DRCDが4万円で、これさえ履いていればスーツがツープラであろうとTROFEOフルオーダーだろうと問題ナシなので、そもそもスーツと靴の金額比を出すこと自体が無駄活動に思えてならない。


きちんとしたつくりの靴のメリットは適切なお手入れさえすれば案外長持ちすること。適切なローテーションをする前提であれば革靴は10年以上持つこともあり、50歳以上の人であればアーチケリー2足を手に入れて残りは手持ちの靴でローテーションしたらもう一生靴を「買い替える」必要はない。買い足すたびに靴が増えるだけで、ますますローテーション頻度が長くなり捨てることはなくなる。


アメリカンビンテージの再現へのあくなき追及がこのブランドの大きな差別化。
レプリカではなく、再現によって現代に持ち込まれたデザインはわかる人にはド刺さり状態で、それがこのブランドを支持する人の声に表れている。

僕のようなそういう教養があまりない人間にとっては、この靴のもう一つの側面で履きやすさや細かい作りこみ、パターンオーダーの自由度には強く惹かれる。世界中探せばこの靴に近い履き心地を実現する靴はあるのかもしれないけれど、手に入れやすい既成の靴しか履いたことがない僕にとってはこの靴は唯一無二の履き心地で、それこそ快適だった。

次々に買い足しできるようなものではないけれど、想いをあれこれ言いながら靴をオーダーする楽しみまで含めて考えたら十分に満足度が高いものだった。


これ、グッドイヤーウェルテッドの靴なんですよね。

アメリカンとかブリティッシュとかそういう話はいったん脇においておいて、革靴を「履きたい人」も「履かなければならない人」も、すべての人に伝えたい、

革靴が痛いのか、痛い靴がたまたま革靴だったのか。革靴を履くのなら、まず試してみる価値がある靴がありますよ、と。

靴は履いて歩いて(走って)なんぼであるので、履き心地というのは実際に終日歩いてどうかというのが僕にとっては大きい。静止状態で「収まりがいい」とか「かかとをつかんでいる」とかはどうでもよくて、実際に歩いたらどうか、それも50回くらい履いて靴が落ち着いた段階でどうかを大切にしていた。それまではマメができようが血が出ようがそういうプロセスが大切だとさえ思っていた。

それがいまや新しく購入した休日用の靴を50回経過するのはいつだよ、という年齢になってしまった。そうなるともうカチコチの靴よりも、あたりのいい靴のほうがありがたい感じで、履き心地はそれこそ10回目に履いたあたりを完成形の基準としたくなる。

アーチケリーはとにかく足へのダメージが少ない。まだ履いた頻度が少なすぎるので雨の日晴れの日履き続けた時の耐久性は未知数だけれど、いまはこの履きはじめから快適な履き心地こそが価値だった。

アーチケリーの良さはどこにあるのか。
僕にとっては「履いて歩く」という靴としての本来の目的に寄り添う雰囲気が感じられた靴なんだということに気づく。

世の靴好きといわれる人たちがこぞって評価するアーチケリー。この靴がそれこそビンテージになるくらいまで大切に履いていこう。


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メンテナンスはいまのところレノベイタークリームが中心です。


ごくごくまれにクレムのニュートラルを薄塗しています。

2022年1月24日月曜日

REGAL 01DRCD - 10 years have passed

01DRCDもほぼ10年。

2013年に購入してから、晴れの日も雨の日も、時には雪の日にも、長期出張時のヘビーローテーションにも負けず頼りになるビジネスツールとしていつも傍にあった靴。

平均的には1週間に1度くらいの登板をしている。洗って乾かしている期間とか、新しい靴を買って登板頻度が減った時期を考慮して控えめに考えても300回以上は履いている。

ソールに穴が開いたら張り替えようと思っていても、かろうじてまだ開いていない。この間にはつま先の補修をしたくらいで、本格的なリペアのお世話になることもなく10年持ってしまった。かかとも異常なほどに減ることはなく、ほつれたりはがれたりしてくることもない。同じようなローテーションをしていたインバネスのほうが先にソールを張り替えたので、01DRCDのほうがなんだかんだで持ちこたえている。

細かく見ていくと、アッパー側はクリームの蓄積なのか光り方が少し人工的っぽくなっていたりクラック出ていたりで、コバも歪んでいる。内部に至ってはもうボロボロ感が出まくっている。

このくらい履きこんでしまうとソールの返りなのかフットプリントなのか、とにかく靴全体の形が足と一体化してくるのでかえってソールを交換したくなくなる。ほぼ無敵の履き心地である01DRCDをオールソールしてしまうことで一部がリセットされてしまうくらいなら、ソールが壊れて物理的に履くことができないという状況になって初めて修理でもよいかな。


サイトはSNSでもこの01DRCDの良さが語られていることも多い。

ある程度靴のお手入れはしてきたつもりだけれど、どちらかというと気が向いたときにやっている程度。
いろいろなサイトで見ると結構ていねいにお手入れされている靴が出てくることが多く、それに比べると自分は扱いが雑だなぁと毎回思う。

そんな扱いなので出張時にはほとんどお手入れせずに3か月くらいヘビーローテーションということもあったけれど、10年はきちんと持つ作りになっている。
すごくていねいに履く人であれば、本当に15年や20年持ったとしても不思議でもなんでもない。
300回って、毎日同じ靴履いても営業日ベースで1年半近くなる。半年に1度履きつぶすような靴選びを10年続けるよりは、10年履ける靴を5足かってローテーションのほうがいい気がする。


この靴はブログでもときどき書いていたのでそれぞれの頃の扱いと状態が残っている。
当初は比較的ていねいにお手入れしたり洗ったりをしていた。
中盤になると履き心地が完成されてきて、とても歩きやすい靴に。このころはブラシ掛けと本当にたまにクレム1925を塗るくらい。
最近もお手入れは同じ傾向だけれど、クラックも入ってきたので少しデリケートクリームなどを入れたりしてこれ以上壊れないように気を使っている。


いちばんのダメージが大きいソールについては、適度(3ヵ月に一度くらい)にソールコンディショナーを入れてソールが締まっているためか、かなり薄くなってきた感があり、そろそろかもしれない。

屈曲が厳しいところはひび割れが大きい。ソール全体では踏み固められるくらいが稠密さを保つことができるようで、とにかく雨に降られたら適度に乾かしソールコンディショナーを塗ったら気兼ねなくまた外を歩き回ればよいようだ。

つま先は何度かメンテナンスしてしまっているので少しダメージが多かったのか裂け始めてきてしまっているので、さすがにソールはそろそろ限界かな。

アッパー側はどちらかというと表面が少しヤレてきたという感じがする。
数年に一度くらいの頻度で靴を洗っていたためか、つま先が少し色落ちしてしまっている。
通常利用では黒のクレム1925を入れているので目立たないが、ちょっとお手入れをさぼっていたり、クリーナーで古いクリームを落とそうとすると目立つ。
僕は鏡面をしない人なので、つま先にクリーナーを使うといってもボコ染みだらけになって塩を吹いてきたときにぬぐう程度。
暑い日寒い日雪の中でも履いていたため、靴にとってはダメージ大きい環境だったからアッパー側も少しくたびれてきていてもおかしくない。

ソックシートと内部は結構ボロボロ。

やはり靴の内部は湿気が多いので内部の補油(加脂)も少しは意識したほうが良いかもしれない。(洗った後のメンテナンスが悪かっただけかもしれないけれど)
塩分抜きと汚れ取りを兼ねて、おしりふきのようなほぼ水しか入っていないウェットティッシュできれいにして、軽くデリケートクリームみたいなものを入れておいたほうが良いのだろうか。
なんとなく、靴の中にクリームを入れると菌のエサになりそうで、水洗いしたときの油分補給以外でのデリクリ投入は少し気が引けてしまう。


さすがにいろいろとボロが出てきていて、僕の技術だとこのあたりまでが見た目の雰囲気を維持する限界かな。

とはいえ、10年間もビジネスの道具として第一線で活躍してきた靴であり、(週1回くらいの登板なら)「まともな革靴は10年くらい持つよね~」という証拠品でもある。手持ちではほかにW131とかW134とかふだん履きしているものの中で年数だけで見ると先輩格の靴はあるけれど、こちらは01DRCDよりやや登板頻度が少ないのでもう少し状態が良い。月に2、3度の登板なら10年なんてまだまだで、20年くらいは持つだろう。

出た当時は「REGAL得意のとりあえずモデル」だと思っていたものの、いまだに終売されることなく販売されている。
途中プレーントウタイプがあったのに、そちらは気が付いたら終わっていた。ちょっとだけノーズ変えてタンナー変更した靴は、さてどれだけ続くか。01DRCDの完成度があまりにも高いので、逆に中途半端なキャップトウがかえって格好悪く見えてしまう。

昨年後半に The Master Regal というものが出てきていたけど、1店舗ワンサイズのみなんて言う靴好きホイホイなモデルで無駄にお客様を店舗に呼び寄せるなんてのはメーカーの都合。顧客志向とは思えないようなマーケティングの意図が良くわからない。いい靴が売れるわけではないが故にいい靴が宣伝でしか使われなくなってしまうのもなんだか残念。

01DRCDはそれこそマスターピースなのではないだろうか。ビジネスでも、冠婚葬祭でもこの靴一足あれば「きちんとした」場所でこんな頼もしい靴はない。供給量も豊富に見えて、それこそ欲しい時に手に入る。

リーガルが本気出してよい靴を作ってしまうと4万円でここまでできてしまう。これだと競合はよほどエッジの聞いた立ち位置にしないと価格では勝負にならない雰囲気。
スコッチグレインの価格もリーガルと同じで、それなりのスケールで販売が見込めれば、4万円で何年もはける靴を作ることができる。
後者は履いたことがないけれど、安易に価格を上げないで定番をしっかり売り続けるきわめて良心的な商売をしていると思う。

SDGsやらカーボンニュートラルなんやらで、「牛」自体もやり玉に挙げられる今日、ただでさえ生活スタイルの変化で利用者が減ってきた本格的な革靴は結構苦境かもしれない。
ただ、食材の副産物からできていて何百回も履くことができる革靴は、大量消費とは真逆のエコな道具なのではないかと思ってしまう。革が欲しいが故に牛が育てられるという話は聞いたことが無く、仮にあったとしても無視できるくらいの規模だろう。

天然皮革は長持ちするが故にサスティナブルだと主張する人たちもいる。これまでよりもカーボンフットプリントが小さい天然皮革の開発も進んでいる。
革靴に限らず、結局のところ一つのものを大切にするということは環境面でも経済面でもそれ以外の面でも良いことが多いのではないだろうか。仮に製品製造の環境負荷が10倍だとしても、利用期間が20倍いくならばメンテナンスコストを入れてもまだまだ分がある。

と、いろいろと革靴を取り巻く環境もありそうだけれど、そういう話は抜きにして大切に使うということ自体が気持ちいい。
10歳の01DRCDをお手入れしながらあらためてそう思う。


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キャップトウ(ストレートチップ)を選ぶなら候補に入れたい01DRCD

2021年4月1日木曜日

靴クリームの比較 - Boot Black と Boot Black Silver Line その後 -

もうずっと前になってしまうのだけれど、W134でずっとやっていた Boot Black(ブートブラック)と Boot Black Silver Line(シルバーライン)の比較。

大きな違いはないような気がする。


この靴自体はそれほど登板機会がないので、クリームをしっかり入れて磨くのは年に数回程度、なので、始めてからいままで合計しても十数回程度しかクリームでお手入れしていない状態。

当初、シルバーラインのほうが青みが強いブラックだとわかったものの、別に靴が青くなるわけでもなくいまに至る。(当然)

結論としては素人には見た目レベルではよくわからないというところだった。

シルバーラインの左足。
ブートブラック(黒蓋)の右足。

区別つきません。


細かく見るとシルバーラインのほうが気持ち光が鋭く、ブートブラックのほうが表面のテクスチャー感を残す仕上がりな気はする。これはクリーム自体の成分的なものよりも、もともとの硬さによるところが大きいと思う。硬い分ワックス効果が大きくなるみたいな。ていねいにブラッシングとからぶきしてしまうとその差は誤差という程度になる。

ブートブラックの黒蓋は固形のワックス掛けまでやるような向きもターゲットなので、柔らかめのクリームはどちらかというとじっとりと浸透させる方向で、まずは浸透するようなじっとりとした仕上がりにして、ぱっきーんな光り方はワックスに任せるという意図かな。

逆にシルバーラインはこれ一本のオールインワンを狙って、クリームだけでもなかなか光っている感覚が得られるような作りのため、少し硬めに作り上げているのではないかと思われる。

素材自体はブートブラックのほうが高価なものを使っているようだけれど、実用上はシルバーラインでも全く問題がないので、単に仕上がりの好みで選んでもよいという程度かもしれない。

細かいこと言えば靴のお手入れが趣味みたいな人はブートブラックのほうが楽しめるだろうし、どちらかというとお手入れにそれほど時間をかけない人にはシルバーラインのほうが向いている。このあたり、やっぱりもともとの製品コンセプトどおりで、靴のお手入れをこれから始めるような人にとってはシルバーラインのほうが無駄に塗りすぎることもなさそうだし、容易にいい感じの仕上がりが得られるはず。


同一メーカーが同じような目的のために作っている製品なので、基材についてはある程度共有しているところもあるだろうし、一定の品質基準なんてのもあるだろうから、短期的な見た目や使い勝手は変わってくるものの、長期的な保革効果にはそう差がないのかもしれない。

Boot Black に関して言えば、素人がちょっと靴お手入れしています程度の頻度や量ではほとんど効果に差がない。もしかするとワックスをしっかり塗って仕上げると、そのベースとしての感覚は大幅に異なるのかもしれないけれど、ふだんはクリームオンリーなんていう場合はどちらを使っても困ることがない。

もし僕がおすすめをするような立場であるとすれば、どんな靴クリームが良いかを聞いてくるような人にはシルバーラインを薦めるくらい。黒蓋買うような人はわざわざそんな質問してくることないので。

逆に、お手入れが趣味の人が試してみるなら黒蓋のほうがいい。仕上がりの足りない部分は自分で補える人にとっては、多少顔料多めのクリームは靴の表情をはっきりさせやすくほかのアイテムと相性が良い。


長期でやってきたクリーム比較は同一メーカーだとあまり面白い結果にならなかった。
この先も大きく変化するとも思えないし、これからはアーティストパレットでお手入れしよう。


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ブートブラックとシルバーライン、入手しやすいほうでよいのかもしれません。

2021年3月3日水曜日

Arch Kerry - Algonquin Split Toe Blucher Oxford

靴好き界隈ではいまいちばんホットともいえるブランド「アーチケリー(Arch Kerry)」

(写真が影になっていてへたくそですが...これはオーダーと同型のサンプル)


仕事で履く靴はもう打ち止めという感じなので、オフ寄りできればオンでも、という靴を新たにオーダーしてしまった。納品は4か月後あたり。

Arch Kerry Algonquin Split Toe Blucher Oxford、通称アルゴンキン。Vチップと呼ばれることも多い。


Arch Kerry についてはこのブログを見ているような人であればすでにご存じだとは思うものの、少しだけ。

アメリカンビンテージにこだわるあまり、履いていたら気づく人はまずいないであろうラバーのヒールをオリジナルで作ってしまったり、言われなければこちらもまた気づかないであろう靴紐までコットン100%のオリジナルにしていたりなど、見えないところ、気づきにくいところまでも徹底して追及する、そんなブランド。

製造を担当としているTate Shoesさんとしては、もはやこの作りになるとハンドソーンしたほうが早いのではないかという状態なのに、ビンテージはグッドイヤーウェルテッドなんだからわざわざリブ寝かせて機械通すとか、現代ではなかなか手に入りにくい色や質感を実現するためにタンナーに足を運び毎回色の確認をして最終仕上がりのイメージを毎回考えるとか、とにかく自分の思うものに妥協をしない靴づくりに対する熱意が伝わってくる、そんなブランド。

とはいえ靴は履くものだから、木型にもこだわり、特にかかとのおさまりを重視してラストを工夫したり、スマートに見せるために履き口を少し大きめにしたり、ハンドプリッキングで見た目のわかりやすい雰囲気も大切にする、そんなブランド。


単にデザインを再現するのではなくて、そのコンセプトや意味までを再現してしまうアーチケリーにしてみれば、ラインナップに入れているナイロンメッシュの素材感はまだ当時を完全に再現できる域にはいっていないということだし、靴紐についても目の細かさがまだまだ粗くて、当時と同じ細やかさのものは日本では見つけられていないとのこと。

アメリカンビンテージの再現にあたっては、表面的な形をコピーするのではなくて、その時代考証も含めて数多くの資料にあたられていて、そのうえでステッチ一つの意味、素材の意味などを考えて企画されているそう。

ほかの革製品についても当時はどういうものを使っていたのかも調べているのだけれど、靴以外は資料が足りなくてきちんと時代考証ができないことが悩みだったり、財布などの小物系はその時代に必要とされた機能による作りがなされていて、そのまま再現すると現代では意味をなさないものになってしまったりと、いろいろ難しいらしい。

ここまでいくと「再び現れた」という「再現」という文字どおりで、その時代の一部が切り取られて現在にタイムスリップ、そこで単に作っている側から見ればごくごくあたりまえの靴を作っていることと同じとしか思えない。シンプルにオリジナル。


僕が購入する前にすでにご購入されている方々に、日本の革靴界隈での超有名人が多いということは、単なる話題性だけではなくて、それに裏打ちされるプロダクトの群を抜く立ち位置があるからこそ。

正直なところ、単に革靴を履いている人レベルの僕にはこの靴の意味や本当の良さなんて解っていないなんてことには気づいているものの、靴好きが自分の作りたいものを徹底して作ったというストーリーにわくわくしてしまう。そう、機能を中心とした道具を買うのではなくて、大げさに言えば文化や歴史に投資する感覚すら感じてしまう。


とはいえ、10万円レベルの靴なので僕にとっては気分でホイホイ買える靴ではないのもまた事実。
「欲しいけど、やっぱり手を出せないな」という気持ちでずっといたものの、ちょっとしたきっかけがあり「頑張れば手が届くし、やっぱり欲しい」に変わってきていた。

RENDOが始まった頃もそう思ったのだけれど、本格的な革靴が衰退するのではないかと思われるこのニッポンで、世界に通用しようとする革靴を企画し、作っている人がいて、それが自分の目の前にあって、なんとか(かなり)頑張ったら買える価格で手に入る。

そういう靴ってものすごくわくわくしないだろうか。安藤坂に行けばそういう作り手の声を聞きながら靴を選ぶことができる。ステッチ一つ、靴紐ひとつまで作り手の熱い思いを聞きながらどれにしようか選べるなんて、国内でそんな体験はジョン・ロブでさえできない。


デザインはいわゆるVチップ。アーチケリーでいうところのアルゴンキン。
40代以上であれば、若いころにAldenのコードバンVチップにやられちゃっているひと多いのではないだろうか。ほしいほしいと思っていても、結局手に入れられずいつの間にか歳とっちゃいました、なんて人いないだろうか。

全体の印象を決める素材として僕が選んだのは大東ロマン社のブラウン。直近の仕上がりは気持ち赤味が差したダークブラウンという感じだとか。この手の茶系は自然素材だけに毎回きめの細かさや色合いなどが微妙に違うらしい。それを「あたり」だとか「はずれ」だとかいう月並みな言葉ではなくて、個性としてどれも楽しめるところがアーチケリーの楽しいところでもある。

サンプルを触れた感じではいわゆる国内メーカーが使っている国産キップに比べると遥かに薄手に仕上げられていてとても柔らかな印象。試作段階ではイタリアの革なども試してみたが、大東ロマン社のカーフにたどり着いたそう。クリームをよく吸う革なので染料などによる変化も楽しめるとか。せっかくだから手元に来たら少しだけ色合いの違う染料系クリームを使って楽しんでみようか。

ラストはDウィズということになっているが、芯の入れ方や素材で使われているカーフそのものの柔らかさによって窮屈さを感じない。

サイズ把握のためのサンプルシューズは内羽根で、今回のアルゴンキンは外羽根なのでおそらく完成時点でのフィッティングは違ってくる。アルゴンキンのラストはつま先が少しゆとりあるつくりという話もあるので、どう出るか楽しみでもある。

試着した感じでいうならば、サイズ感はシェットランドフォックスのケンジントンあたりに近い。ただ、実際に数字無視して足入れしてみるといいかも。かかとの包み込みや甲の外側のフィット感を感じるのは少し小さめのサイズにしたとき。サイズバランスが良かったこともあるのか、かかとのおさまりはこれまで履いた靴の中でもトップクラスどころか明らかにトップ。

コバの仕上げはホワイトステッチナチュラルトップを選択。

こんな色。
ビジネスユースを考えるとブラウンの糸にしてコバも塗りつぶすのだろうけれど、カジュアル用途にはこっちのほうが圧倒的に格好いい(と思う)。
当然目付はハンドプリッキング。3月以降の改定でハンドプリッキングが標準化されるためあえてこのオプションは外そうかどうかちょっとばかり悩んだものの、やっぱり実物目にするとやりたくなってしまったので。

アメリカンビンテージという位置づけとしてはキャンバスライニングで、それはそれで格好良いところもあれど、内側が破れた時のメンテナンス性などは革に一日の長があるということだったので、超長期ユースを考えている僕はそのあたり踏まえてライニングはレザーを選択。


今後は2235NAのようなウイングチップや、Alden 990 のようなプレーントウも作ってみたいとのこと。そういえばアメリカではAlden 990、イギリスではシャノン、日本では2504みたいな少しぽってりしたプレーントウって息長い。
(しかもどれも素材の違いはあれテカテカしているモデルというのも共通)

休日に2235NAなどを履いてはいるものの、僕自身は実はアメリカンビンテージよりはブリティッシュクラシックが好み。そんな僕に新しい世界を見せるための神さまのちょっとした計らいなのか、ひょんなご縁がありアーチケリーの靴を手に入れることになった。

僕はいつの日か息子とおそろいで2235NAを履くことが夢のひとつで、そんな話をディレクターの清水川さんに話したところこんな一言が。

「リーガルで無くなってもアーチケリーで作りますよ」

僕の中でアーチケリーが「買いたい靴」から「買う靴」に変わった瞬間だった。
うん、息子がちゃんとした革靴を履くようになったら今回購入したアルゴンキンでお揃いにしよう。


アーチケリーはアメリカンビンテージを推しているとされているけれど、実は推しているのは「アメリカンビンテージそのもの」ではなくて、「好きな靴を現実化する楽しさ」ではないかと思えてならない。その一つの形として、清水川さんは自らが使命感とさえ考えているアメリカンビンテージの次時代への継承という「こだわり」をアーチケリーというブランドの製品を通じて見える化しているのではないかと。靴の形という外形的な分類だとアメリカ靴ということになるだけれど、では、いま店頭で売られているジョンマーやアレンと同列の靴を日本人が作った、というとそれは違う。そもそも勝負している分野が違う。

アーチケリーは単なるレプリカとしての靴を売っているわけではない。

僕にとってアーチケリーはもちろん歩くために履く靴という道具の面はあれど、それだけではない。靴はこれからたくさん積み重なる想い出を詰めていく入れ物でもある。家族の想い出、仲間との想い出それぞれの瞬間をともにする靴だからこそ、機能性や数字だけでは語れない「何か」を感じる靴であることが大切なのだ。

靴を10足以上持っている人であれば、11足目、12足目、13足目に買おうとしていた靴をちょっと後にして、その3足分の予算をもってアーチケリーの門を敲くのも有りではないかと強く思う。靴に対する考え方、単なる既成靴を超える細やかなつくりはもちろん、オーダーの際の会話によってよい革靴の基本について学ぶことができる。

比較的お金が自由に使える若手にもありではないかと。不透明な時代で手堅くお金を残すという選択も悪くはないけれど、将来の投資とみてボーナスの一部を使えば手に入れることができる。単に商品としての靴を買うのではなく、日本の靴界隈の有名人の心をつかむ靴をプロデュースする人の話を聞けるというサービス付きで靴を選ぶことができるなんでいまのうちだけかもしれない。いまなら著名人のClubhouseでも聞けない「濃い」話が聞けるかもしれない。


お客様がこの革で作ってほしいといえばできる限り持ち込み対応も考えたいという驚きの発言もあるくらいなので、ステッチやパイピングなどのデザインもある程度は希望に沿ってくれる。

ディレクターとして自分が妥協せずに目指して作り上げたデザインについて、いろいろな人が好き勝手に手を入れるのはどう感じるのかと尋ねてみたら、自由に楽しんでもらえればという回答だった。この安藤坂コインにアーチケリーのユーザーが集まって、みんなでそれぞれのこだわりをあれこれ言い合ったり、思い思い好き勝手に「こんな靴どうだろう」みたいな話ができたら面白いですね、なんて話で盛り上がった。


自分の好きなことに対して徹底的にこだわることに楽しみを見出した人だからこそ、同じように自分の好きなようにあれこれ考える人の気持ちに共感できる。安藤坂の一角から始まったブランドの想いや志は、果てしなく大きい。