2014年2月16日日曜日

冠婚葬祭の靴

冠婚葬祭にはキャップトウ(ストレートチップ)が正解、と言われている。
ブローギングなどの華やかな装飾を一切まとわず、控えめであり折り目正しいキャップトウはフォーマルの模範解答。

日本語では「冠婚葬祭」とひとくくりにしているが、「冠」「婚」「葬」「祭」では靴に求められるものも少し違うのではないかと思う。前者ふたつは華やかさが求められ、後者ふたつは厳かにという感じで。

結婚式のような晴れやかな舞台に無骨なキャップトウ(まぁ、これはいいのかもしれない)だったり、お葬式にエレガントなロングノーズのキャップトウは少し違うのではないか、と思う。単純に「冠婚葬祭=キャップトウ」というのは「冠婚葬祭=黒い靴」というカテゴライズと考え方としてはあまり変わらない。

思うに、「冠婚」はある意味派手であっても構わない(むしろ派手な方が良いくらい)なので好きなモノを履けば良いと思うけれど、「葬祭」は100%他の人のための儀式なのでそこに用いられる靴も、礼節をわきまえて目立たないものが筋なのではないかと。

「冠婚」にはやっぱり華やかなデザインのキャップトウが似合う。
特に結婚式あたりでは定番のラウンドトウはもちろんのこと、ピカピカ鏡面仕上げのビスポークチックなロングノーズも似合いそう。クロケットアンドジョーンズのオードリー、ペルフェットのパラティーノあたり。
参加者として出るのであれば、シェットランドフォックスのアバディーンのようなロングノーズなVフロントもOKなのではないかな。

一方で「葬祭」では目立たない靴がいい。
デザインで言えばごくごくふつうのラウンドトウ、アッパーはムラ感のない均質なもので、ワックス仕上げはしないで、クリームだけであまり艶出ししすぎないように手入れをしたもの。
ある意味冠婚とは真逆のチョイス。


いちおう自分ではこんなルールで靴を選ぶし、もし人に聞かれたら(聞かれたこと無いけど)やっぱりこんな回答をするんだと思う。
ただ、こうした分け方にこだわるのは実はあまり意味がないのではないかと思うようになってきた。どんな靴を選ぶかという基準は別のところにあるのではないかと。

日本の葬儀では結構靴の脱ぎ履きが多い。
葬儀場でも火葬場でも、また食事の席においても一日に何度も靴を脱ぎ履きする。タイトフィットの靴だと周りに迷惑をかけることもある。みんなが並んで待っているところでポケットから出したシューホーンで靴を履き、紐を結んでいては他の参列者たちから「なにモタモタしているんだ」と余計なイライラを買いかねない。多くの人は葬儀関係では靴の脱ぎ履きが多いことを知っているのでローファー系の靴やエラスティックを履いている。どちらが正しいのやらと思うこともあるけれど...

正統なスタイルなのになぜこのような批判があるのかといえば「本来目立つものでない『靴が』目立ってしまっている」から。結果、「目立たず、礼節を持った」キャップトウの役割が、形を変えて果たせなくなってしまったからではないだろうか。

もともと座敷文化の日本では靴の脱ぎ履きが必要になる状況は欧米に比べて多い。
日本の文化的背景を無視して「スリッポンは不適切、キャップトウが正統」と画一的に考えるのは短絡的思考(欧米コピー思考)のような気がする。お寺での葬儀であれば紋付羽織袴に黒鼻緒の草履じゃないの?「革」靴?という人から見ればキャップトウだろうがローファーだろうが場違い感は一緒。
和洋は気にしないけれど、靴のデザインは重要、という考えと、靴のデザインまでは気にしないけれど、色は重要という選択の程度問題なのではないかと思う。そもそも日本の歴史的には、参列者が「喪服」を着るってどういうわけ?となるわけで、結局は、その場に参加する人たちが何を優先するかによるし、最大公約数でみて「お前おかしいよ」と思わなければ良いのではないかと。
もちろん、いまではほとんどの人が短靴を履くし、それならそのカテゴリーで本質的に正統なチョイス、ということを心がけるべきだろうけど、他の人を見下したり、逆に過度に目立ってしまうのは「過ぎたるは及ばざるが如し」といったところか。

僕は葬儀でも結婚式でもローファーやエラスティックの人がいてもそれだけでマナー違反であるとは思わない。
どのシーンでどんな靴を選ぶのかは欧米での歴史的なルーツも大切で尊重すべきだけれど、ほんの数世代前に日本に輸入したものを、日本の文化に適するように独自に発展させるのは日本人の得意とするところ。黒い靴ならばOKという社会的コンセンサスが日本の文化であるのであれば、黒のエラスティックやローファーも喪服の範疇なのだろう。


さてそんな中、僕の葬シーンはREGAL TOKYOのローラ。フラットな目立たないアッパーで、単純なラウンドトウのオーソドックスなデザイン。コバの張り出しも控えめで、まさに「目立たない」を地で行くようなデザイン。
結果的に大きめを買ってしまったこともあって普段履きにはチト緩い。これが功を奏して脱ぎ履きの多いシーンだと楽。パープルのライニングは黒い靴だらけの中で自分の靴を探しやすいし、そもそもこの紫という色は仏教では高尚な色とされているので問題になることもなさそう。ソールは黒のコンビ仕上げ。
元々のこの靴のコンセプトとは違うのだろうけど、葬儀の場で脱ぎ履きに手間を掛けたくない、だけどやっぱりローファーを履くのは違和感がある僕にとってこの靴はワードローブから絶対に外せない。

2 件のコメント:

  1. 初めまして。検索していて辿り着きました。私も歴史的社会的背景も考慮せず「フォーマルと云うのはぁ・・・」等と上から語る人を怪訝に思っておりました。それでも実際は冠婚葬祭、どの場面でも黒短靴内羽根ストレートチップを履く小心者です。一応冠婚はハイシャイン、葬祭はテカリ抑えめにと自分なりの区分けはしておりますが。。。脱ぎ履き対策は最近いくつかある、ゴム製の靴紐にしてスリッポン仕様にしています。(結構便利ですよ)

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    1. コメントありがとうございます。
      日本人は他から導入したものを独自の文化として昇華するのが得意ということもあり、細かいこと見ると「それ、ちがうんだよな~」というケースがしばしばみられる気がします。

      最近は少し丸くなったのか、「みんなが黒でいいっていうならそれでいいや」というスタンスに落ち着いています。

      私も冠婚は艶やかにして少し派手目に、葬祭はデリケートクリームくらいでお手入れしている靴にしています。
      ゴム紐っていうアイディアもいいですね。タンを引っ張ったら靴ベラで押し込めそうな感じがします。もっとも、私の場合葬祭用の靴はサイズがそもそも大きく、そのままでもひも付きスリッポン状態になってしまっています。

      お返事が遅くなりましてすみません。
      相変わらずののんびり更新頻度ですが、気が向いたときにまた見に来てもらえると嬉しいです。

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