リーガルのフラッグシップ、10ELDD。
往年の名作といわれるW10BDJの復刻版。
復刻に際してリーガルシューズ専売モデルのWから始まる型番から、一般流通もする数字型番に変更されました。リーガルが公式に「復刻」と言っているように、ライニングが山陽抗菌仕様の濃いブルーから一般的な生成色に、ソールの刻印がREGAL SHOES ORIGINALから栃木レザーを前面になどいくつかはあるものの、全体に大きな影響を与えるところはW10BDJと変わっていません(たぶん)。
アッパーは姫路のタンナー山陽のグレージングキップ、ソールは栃木レザーのタンニン鞣しベンズを採用した360度グッドイヤーウェルテッドなカントリー仕様のフルブローグ(ウイングチップ)です。
日本でもこれだけの靴を作ることができるのですから、足の形があいにくい米国仕様や英国仕様のフルブローグを無理して履かなくてもいいのではないかと。私は一度クロケット&ジョーンズで痛い目をみているので国産靴派です。
10ELDDはリーガルの名作中の名作です。革靴市場がどんどんシュリンクしていく中で、その中でもニッチなレザーソールウイングチップに2235NAと並べて提供し続けるのは難しいのかもしれませんが、ぜひ今回の復刻が長く続くことを期待します。
リーガルも公開会社ですから好きなことばかりやってはいられません。ステークホルダーに納得してもらえる企業価値を維持し続けなければならず、国内の靴市場だけでそれを支え続けるのって本当に大変だと思ってしまいます。日本人に比較的合いやすい靴であれば、アジアの一定のマーケットでは米国製や英国製の靴よりもフィットする靴として受け入れられると素人目には思えてなりません。
海外にはそもそも市場の有無、それ相応の現地の商習慣や為替の変動リスクを考慮した貿易・流通、また「REGAL」という商標の問題もありそう簡単にはいかないのだろうなと思いつつ、製造は一部アジアでも行っていることを考えると勝ち筋が全くないわけでもない気がします。このあたりは当然にリーガルコーポレーションの経営陣や企画部門も考えているはずなので、外からはわからない課題があるのだろうとは理解できるものの、これだけの靴を作る技術はこれからこうした靴に対する需要が高まる国への提供を通じて、ぜひニッポンに残ってもらいたいと勝手に思ってしまいます。
今年(2025年)の大幅なリブランドがあったのは、これまでのブランド戦略では十分なブランド価値を保てなかったのかもしれません。「リーガル」と検索しようとすると「リーガル 恥ずかしい」のようなサジェストさえ出てきます。
最近リーガルコーポレーション公式Youtubeの存在を知りました。自分のこれまでのイメージと全く異なる、若い人がおしゃれにチョイスする靴、単なる靴の形をしたものを量産するのではなく機能性とデザインを両立させた靴、それを若い人の力でカタチにする素晴らしく格好いい会社に見えます。最近1年間に作られた公式Youtubeを見てもまだ「恥ずかしい」と思うのならばそれはセンスの違いなので仕方ありませんが、私は浅はかなにわか知識で、勝手なイメージでリーガル見ていた自分がそれこそ恥ずかしくなるくらいの衝撃を受けました。
コンサルや広告代理店に多額の費用をかけて広告出す1/10の予算でもこちらに振り分けたら、ブランドイメージを劇的に変える起爆剤になるのではないか、そんな可能性を感じます。おじさんおばさんが会議室で個人的な経験しかよりどころのない議論をぶつけ合っているのではなくて、靴が好きな若い人たちが自分たちが楽しめる靴についてときには感情で、ときには理論的に取り上げられています。少し堅めな私から見るとコンテンツの中にはメーカーの発信する情報としては一貫性がないものもある気がしますが、お葬式場の砂利の話やパンプスを履けない人に向けた説明など、ときどききらりとひかるコンテンツがあります。傾向としては男性の解説はマーケットインというよりは自分の経験やこうした方が良いのではないかという想い中心のプロダクトアウト型、女性の解説としてはユーザー視点のロジカルなものが多くいちユーザーとしての視点のものが多い気がします。メーカー公式Youtubeでも「とぅー」と発音する人が結構いましたので、リーガル的にはここあまりこだわりなさそうです。
いずれにしてもリーガルの今回のリブランドに合わせて、靴のセレクトショップとSPAが共存する靴を中心とした専門型アパレルなんて位置づけも十分狙えるポテンシャルを感じました。続編が楽しみです。これだけのコンテンツが公式サイトからすぐに辿り着けないのが不思議です。
だいぶ話がそれましたが10ELDDに戻します。
リーガルのウイングチップには不動の2235NAがあるので、W10BDJが出た時には「いい靴だけど早めになくなりそう」と思っていたらやっぱり販売終了とお馴染みのパターンではありました。終盤にはセールなんてのもあったみたいで、もうこういう靴は一発企画なんだなと思っていたところ、およそ10年の時を経てまさかの再登場です。しかもリーガルでは専用ページも作る力の入れよう。
2235NAのスコッチグレインレザー(シボ革)は好みもあるので、スムーズレザータイプのウイングチップというところにこの靴のポジションがあります。ウイングチップは過去にも登場しては消え、また登場しては消えるなんてことを繰り返しているデザインではあるので今回も「いつまでもあると思うな」でしょうか。これを書いている2025年10月現在ではまだ在庫は潤沢なようです。この靴は「買い」です。
デザインは2235NAとは異なり、ヒールカウンターが独立しているフルブローグタイプ。全体的なデザインは英国靴寄り。トリッカーズやチャーチ、ジョンロブあたりを意識して極めて普遍的なデザインで作っていったらこうなった、という印象。トウスプリングはあまりとっておらず、いわゆる変な現代的解釈がないクラシックな靴です。
カントリーテイストを強めにする外ハトメやノッチドウェルト、ダブルソールの360度グッドイヤーウエルト製法が採用されており、スーツスタイルに合わせるには少し野暮ったく、カジュアル専用なデザインではないでしょうか。カントリーテイストな靴を狙っていてトリッカーズのバートン買うことを検討している人はぜひ一度どこかでバートンに足入れをした後、リーガルの店頭でこの靴にトライしてみてほしいです。
ラストが伝統的なものと比べるとつま先側を少し内側に振っているものの、少しトウが狭いのかボールジョイントと親指の先が当たります。小指側もトウに向けてシャープなラインとなっていることもありタイトな気もします。ただここは面で当たっているようでタコになるようなことはありません。ふまずも絞ったややメリハリの利いたラストであり、見た目から受ける印象とは異なり、フィッティングはシビアかもしれません。
履き口が少しキュッとしているので履き始めはタンが足首に少し刺さってきます。インソールのヒール部分はややカップ状になっていたり、踏まずの絞りが効いていることもあって、足が前滑りしている感じは受けません。W10BDJの時も思いましたが、タンが靴の外側に向けて少しオフセットされているものだと考えられます。ここはあまり硬くないパーツなので少し履きならせば気にならなくなります。
私は足が薄めなので二の甲(ウエスト)から三の甲(インステップ)が少し大きめに感じます。羽根の形状もあり、二の甲にはやや空間を感じ、歩くときに無理な力が靴にかかるのを感じます。一番足首側の羽根の開きが5mmほどなのでW10BDJと同様に履きこむにつれて締め付けるのが難しくなりそうなのが唯一の難点でしょうか。
くるぶしのあたりは少し下がっていて食い込むようなことはありません。ここのラインは2235NAなどのリーガル定番のパターンから大きく改善(?)されています。足が薄めな人でも問題ないでしょう。
フィッティングは私にとってはリーガルの中では緩め系で若干緩く感じます。とはいえ多くの人ちなみに私、ビジネスシーンではスーツしか着ない人時代が長かったので、ビジネスではドレスの黒靴、カジュアルは茶系の靴と完全に用途が分かれていて、かつざっくり履くような2235NAやらW10BDJやらは厚手の靴下前提でフィッティングを考えていました。今回の黒色はオフィスカジュアルで履いていることもあり、靴下はそこまで厚くなく、それがより一層の緩さの感覚につながっているようです。
インソール、アウトソールともに栃木レザー。ソールにもデカデカと栃木レザーの刻印があります。
栃木レザーのダブルソールはミンクオイルを塗ったうえでベランダと玄関で少しずつ曲げました。家族がいると新品の靴とはいえ靴を履いたまま室内を歩き回るわけにもいかないので狭い玄関で挌闘です。
ある程度靴が曲がるようになったころを見計らって、室内業務中心の日に履き始めました。室内はカーペットやタイルが中心なのでアスファルトの道路を歩き回るよりつま先のヘリが抑えられそうなのと、足が痛くなっても脱げばいいという気楽な環境です。室内でそこそこ歩くと、自然に自分の足の形に合わせて屈曲しますので、1日が終わるころには最後のプレメンテナンスがしあがる感じです。
実際には初日から足が痛くなるようなことはなく、それなりに屈曲の癖をつけてから履いていますのでつま先の減りも気になるほどではありませんでした。
靴は履いてなんぼですので、よく言われるような無理やりキャッチャーすわりをしたり手で折り曲げるなんて苦行をしなくても、痛くなっても何とかなる環境で歩くのがベストです。外回り中心の仕事であれば通勤時だけでも、もしくは土日のショッピングセンターあたりである程度履きこめば十分です。足に合わせながら曲がりの癖をつけるのが自分にとっては気持ちがいいです。
私は新品時にソールにミンクオイルを入れるため、履き始めはかなり滑ります。徹底した本気ソールメンテナンスの後も似たような感じなので慣れっこではありますが、革靴を履きなれていない人はこうした滑る状態で動き続けるのも危険ですので、逆にソールが少し剥けるように硬い路面を歩くもありなのかもしれません。革靴が滑るのは結構最初のうちだけで、ソールが少しすれてくると私はそれほど滑るような印象はもっていません。
いろいろな人がレザーソールについて語っている内容を見るに、レザーソールは滑るとか、雨の日はもっと滑るなんてことが書かれていますので、スニーカーなどのゴム底に慣れている人にとっては結構違う感じなのかもしれません。いずれにしても、履きはじめのうち人が革靴に慣れるまでと、革靴が履いている人に馴染むまでは注意が必要なのかもしれませんね。
室内履きを最初のうちにたっぷりしたことあってつま先のヘリは最小限です。靴の構造的にはどうしても歩くと新品状態からはつま先が削れるはずです。その削も多少は意識してパーツが組み合わさっているのが革靴だと思っています。私はつま先スチールはめちゃくちゃ格好悪いと思う人なので、多少に減りはレザーソールならではと思っています。初回のうちはつま先の削部分にしっかりとミンクオイルを入れて、かつ革を締めるようにしてヘリを減らします。スチールの取り付けも、信頼できる職人さんや工房でない限り、帰って靴を傷つけてしまうようなので、あえて履き始めからつま先をいじることはないと思っています。
アッパー側はBoot Blackのデリケートクリームを気持ち多めに塗ってから、これまたBoot Blackのクリームを薄めに塗りました。製造から1年ほど経過したモデルということもあるのか、初回はデリケートクリームがよく入ります。その後ブラックの乳化性クリームをまんべんなく塗りました。Boot Blackのクリームは程よく艶が出るのでカジュアルには重宝します。アッパーだけでなく、ウエルトの部分もブラシでよく塗りこみました。
これまで黒のカントリーテイストなウイングチップはどのようなシーンで履くものなのかイマイチわかっていませんでした。ビジネス寄りな堅めのスーツスタイルの足元には少しヘビーすぎるきらいがありますし、かといってブルージーンズや明るめのチノに合わせるには今度は靴だけがお仕事モードのような雰囲気になってしまう気がします。
このデザインであればどちらかというと茶系の方が合わせる服が多そうに思えます。
黒についてはこればかりは私のセンスのなさではあるとしても、暗めのジャケパンやフランネルのグレーくらいしかスイートスポットないんじゃないかとさえ思っていて、このデザインだったら茶系だよね、とずっと思っていました。
毎日スーツ族であった私も、最近はビジネスカジュアルでブラックデニムなんて日が増えました。当初は足元にスニーカーを合わてこれはこれで歩きやすさや気軽さなどいいところはたくさんあるものの、やはり足元が軽快すぎてなんとなく物足りなさを感じていました。単に革靴が好きだというところも大きいかもしれません。
そんなわけで、少し足元を大人に戻してみたらどうかなと思えてきました。ここで黒のウイングチップの登場です。
パンツが黒系なのでいちばん下の靴に黒をもってきてもまったく違和感がありません。むしろ中途半端にカジュアルな明るい色のほうが大ハズレです。ドレス寄りの靴だと、今度は靴がないから仕事用を休日に無理やり履いているおっさんになってしまい、これまた逆効果。
外羽根スタイルの重厚な黒のウイングチップだと、それなりに大人感のあるカジュアルスタイルに落ち着く感じです。ダブルソールのコバ張り出したがっちりな見た目も、大人の重厚感に一役買っています。
不思議なことに、わざわざ一般流通可能か型番で再登場しているにもかかわらずリーガルの公式サイトくらいでしか買えません。近くに店舗があれば店舗でお試し対象なので2235NAと同サイズと上下ハーフサイズくらいを取り寄せれば自分にあったサイズが見つかります。私はW10BDJを履いているため同サイズ狙い撃ちでしたが、個体差があるのであまりサイズ表記に拘らずに直感的にその日履いている靴と比べてどうかでいい気がします。
これを書いている2025年11月現在で税込52,800円(税抜48,000円)。
スニーカーも含めた紳士靴全般のなかではとても高い靴ではありますが、これだけこだわった靴をある程度手作業も入れて作ったらこのくらいしないとニッポンの所得も増えないわな、という印象です。
流通や小売りがあるので私たちは実物へのアクセスが容易になり、素材や色をこの目で確かめたりフィッティングについて相談に乗ってもらえます。一度に複数の商品を比べながら選択できるなど必ずしも流通マージンが悪いわけではありません。海外のブランドなどでは正規代理店には一定品質の合格品の中でも特に高い品質のものを回しているなんて話もあります。
せっかく全国のパートナーと開拓しているREGAL SHOESがあるのに、やっぱり価格が高い靴も一般流通(特に通販)を狙いに行くあたりが大きなメーカーの苦しいところでしょうか。各地のフランチャイジーが十分な利益をあげるモデルって作れないもんでしょうかね。靴全般が売れなくなる中、真っ先に高級靴を扱っていた法人が苦境に立たされているようです。フランチャイジーは独立して経営しているので各自の経営努力に委ねるほかありませんが、リブランドをしてまで守ろうとしているリーガルというブランドこれまで一緒に支えてきたパートナーを単なる販売のエンドポイントとしてではなく文字どおりのパートナーとして共生できるしくみができるといいですね。
「リーガルを扱いっていたから苦境を乗り越えられた」と全国各地のREGAL SHOESオーナーが思えるようなリブランドの成功を願ってやみません。
10ELDDはとても素晴らしい靴です。見た目も、作りも、履き心地も。
これが私の手元にあるということは、企画をする人がいて、靴を作る人がいて、それを工場から運ぶ人がいて、販売をする人がいて。
そうした仕組みを作って維持している会社があって、インフラを支える企業があって、そこに人を送り出す学校があって。そうした多くの繋がりの中からこの靴ができたことが一つの奇跡です。この靴に関わる人の誰か一人が違う人生を歩んでいたら、この靴が私の手元にきていたかどうかわかりません。
多くの人の関わりがあって、10ELDDという靴がここにある。