クラシックなスニーカーではひとつの定番、ニューバランスCM996。
CM996はニューバランスの直営店のほか、日本全国に店舗があるABCマートさんからセレクトショップまで、購入できるところがたくさんあり入手が容易です。世界全体でみるとニューバランスの本場米国では996は販売されておらず、英国やフランスではMade in USAモデルだけが取り扱われ、アジアでも大きな市場である中国大陸では扱われず、日本と韓国くらいでしか売られていないリージョナルモデルです。
同じアジア製造でもグローバルモデルといえるML574とはだいぶ違いますね。大谷翔平選手がニューバランスの574をスパイクにしちゃったのは、単に574がグローバルの誰もが知るスタンダードモデルだったからなんでしょう。
一方で、このニッポンではどちらかというとML574と比べても力を入れて販売されているのがこのCM996です。
日本ではすでにスニーカーとして一定のポジションを確立したニューバランス、ML373とかML565とか公式サイトに販売されていないモデルも量販店向けに流通しています。いまやいたるところで「N」マークの靴が売られていて、全国のイオンとか靴流通センターでも価格を抑えたラインが売られています。実際に街中で意識してみるとML373は結構履いている人多いです。
ニューバランスの1万円から2万円の主力ラインはスニーカーの一つの基準点のような作りです。これだけのものを作れるのに、なぜか数千円しか安くないのにあらゆる良さをなくしてしまったモデルがまた量産されているのも不思議なメーカーです。
安物カラコン然り、外しちゃいけないポイントを外した低価格品ってのはどうなんでしょうね。売る側の技術者倫理みたいなものの観点からどうなんでしょう。
そんな靴世界中にいっぱいあるし、歩けなくなる致命傷を与えるようなものでもないし、それなりに真面目に作っている部分はあるってことでしょうか。だとすると矯正靴という出自に対する矜持を期待するのは勝手な部外者のノスタルジーかな。
CM996に話を戻すと、この靴は2万円以下のファッションスニーカーの一つの答えのような気がします。
ランニングとかトレイルランとか特定の目的を持って靴を選ぶ場合を除いて、日常のタウンユースとして出かけるために履く靴、としたらここから引き算をせずにこれ以上を求めるとなかなかいい感じのものが見当たりません。
強いていうならこれに「防水」を求めるとCM996のゴアテックス版、ってことになりますが、ここまで行くともう普段使いの終着点とさえ思えてきます。
このCM996、元々は1988年に登場したランニングシューズM996のアジア製造版です。
M996は米国の工場で半ば手作りしているので値段が高くなってしまいます。製造原価が高いのに加えて関税もかかり、日本では3万円をゆうに超える金額です。グローバルではこちらの米国製996が売られています。
スニーカーは長年履き続けるということに重きを置いていないこともあり、こうなるといくらいい靴と言ってみたところで、国内のアシックスあたりには太刀打ちできません。CM996は関税と製造コストの安いアジア圏で製造している案外ニッチな市場向けモデルです。
オリジナルのM996と比べると、ソールの素材が少し変わっていたりと、まんまレプリカではなく、微妙にアップデートがされているようです。
CM996はランニングシューズを出自としたタウンシューズなので、いまではファッション性で履かれているケースがほとんどとはいえ、デザインだけで勝負をしているような靴ではない基礎力があるような感じです。
まずソールから。
ソールは平坦なロードで履かれることを前提としているため、ML574よりソール全体は薄く見られがちですが、実はそこそこかかとにはボリュームがあります。店頭で見た限りでは米国製のM996より、アジアCM996の方がソールが少し薄い気もしますし、実際に履いてみた感じではML574よりは明らかに薄く軽く感じます。
アウトソールのパターンは基本的には前後(ほとんど前方)に向かって進むことを前提にしているようです。屈曲性がよく、かつ前後に滑りが少ないことを意識したパターンです。
あまり意識したことないですが、ソールの形状的には横滑りには弱いように見えます。タウンユースだと濡れたタイルなんてシチュエーションもあるので、前後全振りなソールは微妙に影響が出そうですがいまのところそのような経験をしたことがありません。凹凸が少ないソールがゆえに水はけがよいのでしょうか。
全てが平行なソールパターンなので屈曲性は良いです。細かく筋が入っていることもあって時計のベルトみたいな感じで足の屈曲に合わせてロールしやすい形状です。
全体的なラストは足なりに内側に振られていますが、ソールパターンは進行方向に垂直になっています。この辺りの割り切りはさすがランニングシューズ。最近ではここまで露骨に並行なのはNIKEの一部モデルくらいでしょうか。
カーボンプレートの登場以降厚底化する以前の考え方であれば、ソールは薄いほうが軽いけどクッション性がなくなる。ランニングの際に母指球から親指に力が抜けていくときには進行方向に向けて靴が垂直な状態になっているので、開発は40年近く前の時点での技術と考えたとき、少し厚めのソールにしても屈曲性が保たれるCM996のソールパターンは理にかなっているように思えます。
ミッドソールは日本の技術も入っているC-CAP。日本の月星化成(いまのムーンスター)がかかわっているとかいないとか。というか、ムーンスターはニューバランスの日本法人設立に大きくかかわっていますし、いまでも会社経営にかかわっている感もありますので、ある意味グループ内技術みたいなものかもしれません。
何となくENCAPよりへたりが早い気がしないでもないですが、トレイルラン向けの靴と比べているのでそう感じるだけかもしれません。
インソールはあまり特長が書かれていることがないですね。ニューバランスからはより高性能なインソールが販売されています。そのレベルのものに取り換えるということであれば初めから最新の技術を使ったランニングシューズを買えばよいので、もともと入っているもので日常使いは十分かと。
傾斜はそれほどでもなく、靴の前半部でつかむような印象のML574と比べると、もう少し足の後ろ側を使う靴です。脛を少しつかむような形になっていることもあり、サイズを合わせてはくと足首周りが安定します。
舗装が行き届いた日本の都市部で履くならCM996のほうが合う人が多そうです。
外見はメッシュとスエードのコンビ。
革の部分は本革を採用しており、なんとなく丈夫そう。人工皮革だとどうしても加水分解したり破けたりがあるので、ボールを蹴ったりなどのシーンも考えると本革が使われているのはいいですね。加水分解しないソールと合わせてそれなりに長持ちするかもしれません。
実際に、これまでも何足かこの手の靴を買っていますが、ニューバランスの本革採用モデルは、たいていは革の部分よりも履き口のビニール系の部分からボロボロになります。
親指側の革は少し大きめに取られており、指先側から穴が開くようなことはないでしょう。
ラストはSL-1ラストと書かれており、ニューバランスの中ではスリムなラストといわれています。とはいえ、この靴もう何十年も前に欧米人向けに開発されているので、甲高幅広が過去の記憶となったいまの日本人にとっては、それほど狭さを感じることはない人も多いかと思います。私も少し幅はタイトに感じることがあるものの、しばらく履いていると(やや形が崩れているような気もしつつ)あまり気にならなくなります。逆に2Eなんてモデルがあったらゆるゆるではないでしょうか。
ランニングシューズだからか、かかとの部分とNマークが反射板になっています。タウンユースとしては少し薄暗いところを歩くとき、車やバイクと事故を起こす可能性が減るのでいいですね。この辺りはトレイルラン用を出自とするML574と異なる設計思想です。
冒頭でも書きましたが、このCM996、北米やヨーロッパ、オセアニアでは販売されていません。Made in USAモデルのM996が扱われている国は多いですが、作っているはずの米国ではM996自体が販売されていません。
グローバルもであるであるML574は世界中のニューバランスショップで売られています。国内ではML574と双璧の人気ともいえるCM996が、海外では全く売られていないのは意外です。ほとんどが日本と韓国向けに作られているような靴なのに、なぜかウイズがDなのも不思議です。
日本国内には565というイオン系で売られているニッチなモデルがあり、別に574か996でいいんじゃない、と思っていましたが、このCM996もグローバルで見ると結構ニッチなモデルだったんですね。
円安をはじめ様々な理由から価格が上昇していても、十分価値ある靴ではないでしょうか。確かに Made in USA モデルはいいのでしょうけれど、このCM996も十分な靴に思えます。ある意味ローカルモデルなのにカラーバリエーションも豊富なのは、それだけ日本ではニューバランスが売れているということの裏返しです。
人と被ることも多いですが、革靴の世界であればみんな同じような靴履いているし、本来のドレスコード的には堅めのビジネスシーンだとよほど靴に興味がない人でなければ区別できない程度の違いしかありません。
靴が被っても、トータルコーディネイトが異なればその印象は全く別モノでしょうから、変に意識せず、定番だからゆえの安心感を買うというのもありです。
実はこれまでCM996はちょっと避けていました。
スニーカーはそんなにいらないし、なんとなく米国製か英国製に惹かれるし、どちらかというと公園で遊ぶ用の靴が欲しかったのでランニング用よりはもうちょっと汎用的な靴のほうが良かったしということで購入する理由がありませんでした。
あまりにもメジャーすぎる感じがするというのも一つの理由だったかもしれません。
ここにきて、仕事上でスニーカーのほうが都合がよいことがあり、そんな中で選ぼうとすると、逆にCM996があっている気がしました。
運動比率が少なくて、むしろタウンユースで普段使いということになると、ML574よりCM996に軍配が上がります。なにせ歩きやすいしML574よりは滑らない。
ML574に比べると少しだけ値段が高いのも、加水分解しにくい素材が使われていることで耐久性が伸びればイーブンではないでしょうか。
湿度が高くて、路面は舗装されていることが多くなったニッポンではCM996が必要だったんですね。
ある意味、ニッポンらしい靴なのかもしれません。
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