2025年7月23日水曜日

REGAL 2177N

 ローファーの定番、リーガル2177N


典型的なビーフロール型のコインローファー。
いわゆるローファーのよくあるデザインのひとつ。

ローファー、特にコインローファーは日本では中高生が履く靴という印象を持っている人も多いけれど、かのマイケル・ジャクソンはG.H.Bassのローファー履いてステージで激しいダンスをしていたという話が良く取り上げられるように、アメリカの一つのシンボルであるともいえる。


リーガルの企業サイトによれば2177は1971(昭和46)年に発売開始されたそうな。2025年現在で54歳。そう思うと歴史が長いのか短いのか微妙。私とあんまり変わらないくらい。

デザインは発売当初から変わっていないとのこと。製造場所が変わったり調達関連で超マイナーアップデートくらいはあるとしても、実態として古き良き時代から現代まで一貫して生き残っているモデル。それだけでもすごい。当時からグッドイヤーウェルテッドで作られていることが読み解ける。

ローファーを含む紐なし靴はスリッポン(Slip-On)と呼ばれる。寝るとき以外は靴を脱がない欧米文化の中では、日本人の感覚でいうならそれこそスリッパ(Slipper)のような位置づけとして登場したようなことが言われている。日本人の感覚ではわかりづらいけれど、欧米人が靴下を見せるのは日本人が下着を見せるみたいな感覚だそうなんで、家の中に入ったからといっても靴はやっぱり必要で、でも少しリラックスした靴が良いよね、といったニーズがある。

それが次第に(マーケティングもあるだろうけど)室外靴としての地位を確立して、これまたアメリカの一つの象徴みたいな位置づけまで上り詰めた。ローファーを履いて大人になった東海岸の学生たちは、今度はそれをビジネスシーンに持ち込もうとする。それがタッセルローファーの始まりとかなんとか。

で、アメリカのブランドと提携して始まったリーガル(当時は日本製靴株式会社)は当然ながらアメリカでの定番がラインナップの主力となるわけで、VANのローファーを経てこの2177Nが登場する、そんな流れかな。


ローファーはマッケイ製法のような返りの良い軽めな製法が採用されることが多いなか、2177Nはリーガル得意のグッドイヤーウェルテッド製法。
紐がない靴をグッドイヤーウェルテッドという堅めになる製法で作っているので、当初は返りが悪く、足になじむまでに時間がかかる。

リーガルの商品紹介でも「履き始めは堅め」と書いてあるように、まっとうなサイズ合わせをした場合は、履きなれるまでに相当な覚悟が必要な靴。いわゆる昔ながらの靴であり、現代に多い当初からの履きやすさを求める靴とは全く設計思想が異なる。

よく言えばなじめばとても丈夫で長持ちする靴でもあり、悪く言えばそれ以前に脱落者を大きく生み出す靴ともいえる。グッドイヤーはリペア面では優位とはいえ、いやこれ丈夫だしリペアまでいきませんって。


アッパー素材は2504NAと同じようなガラス仕上げの革。肉厚なレザーを使い、ライニングがない作り。リーガルはこの手のガラスレザーの定番が多い。発売当初から同じデザインの靴ではあるけれど、タンナーが手に入れることのできる原皮の質は変わっているといわれているし、仕上げの段階で使うことができる薬品も変わってきていると思われる。その中で同じような品質を変わらず提供し続けるって結構大変なことなのではないだろうか。

ガラスレザーは表面に樹脂コーティングをしているので、雨にも比較的強く、日常のお手入れにもそれほど気を使わなくてもきれいな状態を維持できる。そこそこ履きこんで、クリームでお手入れするとなかなかの光沢も出る便利な素材。一般的にはメンテナンスに気を使わないようなことが強調されるけれど、鞣して仕上げる過程においては職人の手触りによる仕上がり感の確認が重要という話を聞くに、やはり革としての「何か」がある。


きれいに保ちやすいこととお手入れをしないでもよいことは別。もしお手入れをしなくてもよいという話をする人がいたら、そこには素材そのものに対しての感謝も、自然界のばらつきを相手に一定の高い品質を保つために精魂込めているタンナーの職人さんにも、それらをもとに履きやすさと丈夫さの両立をする靴の形を作り出した靴職人の方にもまるで敬意がない。靴をお手入れするかどうかを決めるのは素材ではなくて、あくまでの態度の問題ではないかと思う。


ソールはリーガル定番ラインで使われているフラットなゴム底。リーガルの解説による滑りにくくクッション性も意識して作られたとある。実際にこのソールはフラットな見た目にも関わらずレザーソールに比べるとはるかに滑りにくい。

ソールの返りはレザーに負けるものの、サイズがあっていればかかとがしっかりついてくるので十分なしなやかさはある。


サドルサイドのビーフロールやかかとのキッカーバックなど、アメリカンスタイルを意識したデザイン。いわゆる拝みモカ縫いもシンプルな印象。これもあってキレイ目ファッションよりも少しカジュアル強めのスタイリングに合うと思う(と、センスのないといわれる私が言ってみる)

キッカーバックはもともとは靴を脱ぐときに他方の足で引っ掛けて手を使わないで脱ぐことができるためのものといわれている。ただ、そもそも紐のないローファーって脱ぐのそんなに大変かな。手でつかんで引っ張るだけで脱げるから、紐を扱わないでいいので手間が少ない。(それすら面倒というLoaferな靴?)
むしろこのキッカーバックがあることで、それこそアメリカンスタイルなデニム(ジーンズ)を合わせるとキッカーバックに裾のステッチが引っかかって歩きにくい。


全体的にはノーズも短く、サイズが小さい人であれば丸みが強調されて実サイズよりコンパクトな印象になる。


定番ラインとしては珍しく製造国はタイ。シンプルな作りでもあるし、価格はそれなりに抑えて定番を維持したいしでの選択かな。おそらくは関税も比較的安いゾーンにあると思われる。

みなさんおなじみ矢野経済研究所さんのレポートによると、紳士靴市場は2025年度予測で1,361億円。コロナ前の2018年度は1,833億円あったので、コロナ禍から戻しつつあるとは言え4分の3。日本では革靴の売上が減りつつある中で、本格靴を作ることができる靴職人さんも減少しているということは予想できる。最近では円安だから日本の丁寧な靴職人さんが作った靴を海外で販売するなんていうこともできそうだけど、日本発だとこれまた関税がかかったりでうまくもいかなそう。




リーガルの歴史が長めな靴は、丈夫であるがゆえになじむのに相当な時間を要する。

購入して半年くらいわりと集中して履いて、延べ50日分くらいは履いてやっと終日履けるようになった。私の体重が軽いこともあるのか、本来多少沈み込むはずのインソールにほとんどフットプリントがつかず、沈んでいる気配がない。ローファーだからあまり靴の内寸が変わらないようになっているのだろうか。相変わらずかかとの外側が痛い気がして、少しサイズがタイトな感じは続いている。

リーガルの公式サイトでは「疲れにくい」と書いてあるけれど、それ以前に「痛い」を通り越すのが大変。次第に革が柔らかくなってきて、そうなると終日履くことに問題はなくなるものの、「履き心地」にフォーカスするような靴でもないと思うので、リーガルの中の人がいうほどの期待感を持つのも危険だなぁという気がしている。

発売当時は当初は固くてもそのうちなじんで、その分丈夫みたいな靴がいい靴の一つの指標だったのかもしれないけれど、その常識がなくなった現代では誤解を招きやすい靴。


ローファーに限らず本格的な革靴はある程度の靴の変形を想定して選ぶ必要もあって、最初はややきつめを選ぶのがセオリーといわれている。だからきちんとしたフィッティングができるお店で相談しながら選ぶ靴になる。サイズを無視して、フィッティングの印象だけで買うほうがいい。

紐がないローファーはその中でもかなりフィッティングがシビア。私は最寄りのリーガルシューズで試し履きして購入。2504NAと同サイズを中心に前後ハーフずつを出してもらい、ふだんやや緩いと思っている2504NAと同じサイズを最初に履いたところ「足がはいらん!なにこれタイト!」という印象だったのでその下のサイズは止めてハーフ上と比較して比べてみた。

ハーフサイズアップだとふだんの履き心地に近い気はするものの、甲の外側にゆとりがありすぎる感じがした。履きなれるにつれ以前のパカパカになりそうな予感がしたため、結構きつめに感じた2504NA同サイズをチョイス。まさか同じサイズ表記でも履いた感じがここまで違うとは、という印象で店を後にした。

紐がなくてアジャストできないがゆえに、ちょっとしたきつい緩いがダイレクトに一日中伝わってくる。

これまで自分で履いた限りだと、最初からいい感じで継続していい感じが継続するローファー(ケンジントン)もあれば、この2177Nのように文字どおり最初は血だらけになるくらい痛いけれど、1年くらいたってやっと履けるようになった靴もある。ただそれでも「履きやすい」という感覚はまだないので、となるとなじむまでにどれだけ履き続ける靴なんだ、という印象。

一足を履きつぶすみたいな履き方であればもう少し早くなじみ、丈夫であるがゆえにそのいい感じの状態が続くといったところだろうか。


ローファーを選ぶ際には「きつめを」というのはある意味あっていると思う。間違いなく多少は緩くなり、それを紐で修正できないので。ただ、この「きつめ」という言葉が独り歩きして間違った解釈でとらわれていることが多い気がする。
(いきすぎて「きつめ」ではなく「小さめ」と書かれることもある)

「きつめ=サイズダウン」ではない。

紐に頼らず靴の構造だけで足を支えるローファーと紐を使って調整が可能なオクスフォードシューズでは靴を作るためのラストの設計思想がそもそも異なっている。

同じリーガルの定番モデルであるローファー2177Nと、プレーントウの2504NAとでは同じサイズでも明らかに履き心地が異なる。2177Nは2504NAと比べてかなり甲を抑え、かかともややタイト目な作りになっている。2504NAだと、仮に紐を結ばないと全長も少し余裕がある感じがする。一方の2177Nはそのゆとりを感じるサイズと同じサイズ表記のものを選んでも、靴ベラなしには絶対に履けないくらい全長全幅ともにタイト。

これまで2504NAを2足、2177Nも2足買って履いているので、この同一サイズだけど履いた感じが全く違うというのは個体差ではなくモデル差だと思っている。2504NAだと少し緩めに感じるから、ローファーということもありハーフサイズ落そうなんて感じでネットで買ってしまうととんでもないことになりそう。

よく「ローファーはハーフサイズ落せ」という意見を目にするけれど、これは「きつめにする」という意味を誤解している。ローファーは専用のラストで作られているので、たいていはオクスフォードシューズと比べると同サイズでも「きつめ」に感じるはずである。

むしろ、同サイズできついからといってサイズアップするな、ローファーなら紐靴と同サイズならきつめになるのだからそれを正解と思いなさい、というアドバイスではないだろうか。

こればかりは実際に履いてみないとわからない。2177Nは2504NAと同サイズだと明らかにタイトに感じる。むしろ同じ感じのサイズ感はローファー側をハーフ上げたくらいかと。シェットランドフォックスのケンジントンのように同一ラストで紐靴とスリッポンを作っている場合については同じサイズだと二の甲からつま先まではそれほど変わらない印象なので、やはり2177Nは専用のラストが使われているか、甲の部分を抑えるために相当きつめにサドル部分を設計している。

ローファーをハーフ落として選択するということは普段の靴のサイズがよほど大きいか、緩めのフィッティングに慣れてしまっているのではないかと。内周のためだけにハーフサイズ落してしまうと全長が変わるので、小指やかかとになんらかのダメージが出る気がする。このあたりは個人の足の形にもよるだろうから、やっぱりローファーはフィッティングしてなんぼであるといえる。

この靴を履いてみると、2177Nを起点にラストを考えた場合2504NAや2235NAがゴツ目の足を想定して大きめに作られているという話は本当にそうなのか、という気さえしてくる。私は足は結構薄目なほうだけれど、それでも購入当初はサドルの部分がかなりタイトで、甲側にマメができそうなくらい痛めつけられた。かかとについては今も外側のあたりが気になっている。

ゴツ目の足だとむしろ入らないか、入ったとしても甲の血管切れてしまうんではないかと思うほど、かなりタイトな作りに感じる。フィッティングのためにサイズを落として履くような靴ではなく、むしろ上げて履く人が出てきてもおかしくない。リーガルが日本人はすぐ緩めの靴を履きたがることを見越して、同一サイズでかなりタイトに仕上げているのではないかと思うくらい。

リーガルの靴は大量生産を前提としているので、ある程度平均的かつ許容度が高めなラスト設計をしているはず。その前提でこれだけフィット感が違うのだから、やっぱりローファーはきちんと履いてみるということが大切。


お手入れはあまり気にせずブートブラックを使っている。ふだんの簡単なメンテナンスにはニュートラルを使い、5回に1回くらいブラックを使う感じ。毎回ブラックでないのはそこまで色を載せてもガラスレザーには色がつかないし、逆に合わせるパンツの裾に色が移りやすいという理由。でもニュートラルだけだとしわの部分やモカの折れ目などが目立つので気休めに。

お手入れはやや回数多めに。この手のローファーは汚れが目立ったりすると急に学生の指定靴っぽさが強くなるので、ピカピカにメンテナンスされているほうがいい。


2177Nは日本のローファーの一つの定番。

高校生が履くには少し値段が高いという気もするけど、一度は履いたことがあるなんて人は結構いるのではないだろうか。

ちなみに私は高校時代はスニーカーオンリーだったので、革靴に目覚めるのは大学生になってからだった。最初に買った靴は2236NAだった。

若気の至りで20代前半のころにJJ17という当時の若者がどうしてこうなったのかというローファーを買ったのだけれど、明らかにサイズミスをして結局履き続けることができずに手放したことがある。当時はスニーカーサイズに比べて大幅に小さなサイズになることが信じられなくて、お店の人の意見もあまり聞かずに購入してしまい、毎日パカパカ履いていた。

この印象を引きずっていたのでローファーは自分に合わない靴という決めつけと、ローファーはビジネスシーンには合わないという教科書による余計な知識があって、毎日スーツスタイルで働く自分としては目を向けることがなくなっていた。

40近くなり(いまさらではあるけど)やっと靴の適正サイズ感が持てるようになってきたころ、やっとローファーに手を出した。当時、シェットランドフォックスのケンジントンの履きやすさに感心していたころ、同ラストのローファーをみて、何となくローファー履いてみたいという気持ちが沸き起こってきた。試着したところこれがまた足にピッタリであることに気をよくして、同じラストで2足も買ってしまう。この体験が自分のローファーイメージを変えることになり、1週回って2177Nにも手を出すことになる。


ローファーは大人が自分の選択で履く靴で、結構履き初めは大変なこともあって、実店舗でじっくりフィッティングしながら買う靴。靴のサイズ感について購入者側もわかっていたほうがいいし、紐がないがゆえに靴全体で足を締め付ける履き方になる。歩き方も微妙に紐靴と違ってくる。若い人は無理して履かなくてもいいデザインの靴だと思う。

このデザインの靴を指定している学校の先生方に聞きたい。なぜこのデザインが必要なのか。紐がないことによって紐が巻き込まれてけがをする事故を減らせるというメリットくらいはありそうなものの、ローファーを指定するメリットが思い浮かばない。

ローファーをまっとうな靴屋さんで買ったことがある人ならば気づいているはず。きちんとしたフィッティングをして選んだとしても、それなりの伝統的な作り方で作られている革靴は履き始めの日から終日歩き回れるほど足にやさしくない。履き始めはかなり修行が必要なので、終日履けるようになるまでかなりの期間を要するということを。

もちろんこれはローファーだけのことではなくて、作りがしっかりしている革靴はたいてい最初は痛いものだし、逆に作りによって柔らかくもできるので全部が全部最初にカチコチなものばかりでもない。ただ、この紐のない構造はどうしても体に負荷がかかる。アジャストするパーツがないので、緩んだら最後、足が緩んだ靴を抑えるために必要以上の負荷を歩くたびにかけ続けてしまう。

外反母趾、ハンマートウ、靴ずれによる障害、腰痛...

靴はそういうものだとして気づかず体を痛め続けてしまう。

学校の先生方(というより理事とか経営の人たち)には声を大にして言いたい。外部が知ることがない明確な理由がないのであれば、ローファー指定を本気で考え直して欲しいと。
将来あるこどもたちが、このローファーで痛いのは嫌だから大きめを買う、ということがどれだけ健康を損ねているのか。

体のことに詳しい体育の先生とか、歴史から学ぶことが身についている社会の先生とか、合理的なデータを集めて分析することを教えている数学の先生とか、そもそも怪我を目の当たりにしている保健の先生とか。みなさんローファーの弊害に気づかないのだろうか。

将来外反母趾やハンマートウで苦しむをことになる児童・生徒をひとりでも減らすことができるのは現場の先生や学校運営に決裁権を持つみなさんにかかっている。


ここまで書くと、ローファーが体に悪い靴みたいになってしまっているけれど、適切なサイズを選んで、きちんとなじませる時間をとって、お手入れしながら履く分には問題ない靴なのだから、その選択する自由と時間の自由ができたときからでも遅くはなくて、若いうちにはもう少し足に対して優しい靴を履いてもらいたいと心から思う。

若い人が化粧をしないでもいい(しないほうがいい)理由と同じで、若いころの体へのダメージはのちのちの人生に大きな影響を与える。どうしてもローファーなら、本格ローファーは半年かけて休日に十分なじませて、最初の一足はスニーカータイプの構造のものにしましょうよ。ただ、ここまでするなら初めから足にやさしい靴履けばいいんじゃないかと...


2177Nはあまりにも定番的なデザインであるがゆえに恥ずかしさを感じてしまう人もたくさんいると思う。それだけ日本ではローファーは一定のポジションを確立しているわけだ。革靴の価格がどんどん高くなって、ローファーも気軽に履く靴ではなくなってきている。


ローファーはいろいろな意味で間違った場所で間違って履かれてしまっている靴。
50を過ぎたおっさんが格好良く履くのは難しいってことはわかっていても、なぜかときどき履いてみたくなる不思議な魅力がある靴。