2025年11月1日土曜日

REGAL 10ELDD

リーガルのフラッグシップ、10ELDD。


往年の名作といわれるW10BDJの復刻版。 

復刻に際してリーガルシューズ専売モデルのWから始まる型番から、一般流通もする数字型番に変更されました。リーガルが公式に「復刻」と言っているように、ライニングが山陽抗菌仕様の濃いブルーから一般的な生成色に、ソールの刻印がREGAL SHOES ORIGINALから栃木レザーを前面になどいくつかはあるものの、全体に大きな影響を与えるところはW10BDJと変わっていません(たぶん)。

アッパーは姫路のタンナー山陽のグレージングキップ、ソールは栃木レザーのタンニン鞣しベンズを採用した360度グッドイヤーウェルテッドなカントリー仕様のフルブローグ(ウイングチップ)です。

日本でもこれだけの靴を作ることができるのですから、足の形があいにくい米国仕様や英国仕様のフルブローグを無理して履かなくてもいいのではないかと。私は一度クロケット&ジョーンズで痛い目をみているので国産靴派です。

10ELDDはリーガルの名作中の名作です。革靴市場がどんどんシュリンクしていく中で、その中でもニッチなレザーソールウイングチップに2235NAと並べて提供し続けるのは難しいのかもしれませんが、ぜひ今回の復刻が長く続くことを期待します。

リーガルも公開会社ですから好きなことばかりやってはいられません。ステークホルダーに納得してもらえる企業価値を維持し続けなければならず、国内の靴市場だけでそれを支え続けるのって本当に大変だと思ってしまいます。日本人に比較的合いやすい靴であれば、アジアの一定のマーケットでは米国製や英国製の靴よりもフィットする靴として受け入れられると素人目には思えてなりません。

海外にはそもそも市場の有無、それ相応の現地の商習慣や為替の変動リスクを考慮した貿易・流通、また「REGAL」という商標の問題もありそう簡単にはいかないのだろうなと思いつつ、製造は一部アジアでも行っていることを考えると勝ち筋が全くないわけでもない気がします。このあたりは当然にリーガルコーポレーションの経営陣や企画部門も考えているはずなので、外からはわからない課題があるのだろうとは理解できるものの、これだけの靴を作る技術はこれからこうした靴に対する需要が高まる国への提供を通じて、ぜひニッポンに残ってもらいたいと勝手に思ってしまいます。


今年(2025年)の大幅なリブランドがあったのは、これまでのブランド戦略では十分なブランド価値を保てなかったのかもしれません。「リーガル」と検索しようとすると「リーガル 恥ずかしい」のようなサジェストさえ出てきます。

最近リーガルコーポレーション公式Youtubeの存在を知りました。自分のこれまでのイメージと全く異なる、若い人がおしゃれにチョイスする靴、単なる靴の形をしたものを量産するのではなく機能性とデザインを両立させた靴、それを若い人の力でカタチにする素晴らしく格好いい会社に見えます。最近1年間に作られた公式Youtubeを見てもまだ「恥ずかしい」と思うのならばそれはセンスの違いなので仕方ありませんが、私は浅はかなにわか知識で、勝手なイメージでリーガル見ていた自分がそれこそ恥ずかしくなるくらいの衝撃を受けました。

コンサルや広告代理店に多額の費用をかけて広告出す1/10の予算でもこちらに振り分けたら、ブランドイメージを劇的に変える起爆剤になるのではないか、そんな可能性を感じます。おじさんおばさんが会議室で個人的な経験しかよりどころのない議論をぶつけ合っているのではなくて、靴が好きな若い人たちが自分たちが楽しめる靴についてときには感情で、ときには理論的に取り上げられています。少し堅めな私から見るとコンテンツの中にはメーカーの発信する情報としては一貫性がないものもある気がしますが、お葬式場の砂利の話やパンプスを履けない人に向けた説明など、ときどききらりとひかるコンテンツがあります。傾向としては男性の解説はマーケットインというよりは自分の経験やこうした方が良いのではないかという想い中心のプロダクトアウト型、女性の解説としてはユーザー視点のロジカルなものが多くいちユーザーとしての視点のものが多い気がします。メーカー公式Youtubeでも「とぅー」と発音する人が結構いましたので、リーガル的にはここあまりこだわりなさそうです。

いずれにしてもリーガルの今回のリブランドに合わせて、靴のセレクトショップとSPAが共存する靴を中心とした専門型アパレルなんて位置づけも十分狙えるポテンシャルを感じました。続編が楽しみです。これだけのコンテンツが公式サイトからすぐに辿り着けないのが不思議です。


だいぶ話がそれましたが10ELDDに戻します。

リーガルのウイングチップには不動の2235NAがあるので、W10BDJが出た時には「いい靴だけど早めになくなりそう」と思っていたらやっぱり販売終了とお馴染みのパターンではありました。終盤にはセールなんてのもあったみたいで、もうこういう靴は一発企画なんだなと思っていたところ、およそ10年の時を経てまさかの再登場です。しかもリーガルでは専用ページも作る力の入れよう。

2235NAのスコッチグレインレザー(シボ革)は好みもあるので、スムーズレザータイプのウイングチップというところにこの靴のポジションがあります。ウイングチップは過去にも登場しては消え、また登場しては消えるなんてことを繰り返しているデザインではあるので今回も「いつまでもあると思うな」でしょうか。これを書いている2025年10月現在ではまだ在庫は潤沢なようです。この靴は「買い」です。


デザインは2235NAとは異なり、ヒールカウンターが独立しているフルブローグタイプ。全体的なデザインは英国靴寄り。トリッカーズやチャーチ、ジョンロブあたりを意識して極めて普遍的なデザインで作っていったらこうなった、という印象。トウスプリングはあまりとっておらず、いわゆる変な現代的解釈がないクラシックな靴です。

カントリーテイストを強めにする外ハトメやノッチドウェルト、ダブルソールの360度グッドイヤーウエルト製法が採用されており、スーツスタイルに合わせるには少し野暮ったく、カジュアル専用なデザインではないでしょうか。カントリーテイストな靴を狙っていてトリッカーズのバートン買うことを検討している人はぜひ一度どこかでバートンに足入れをした後、リーガルの店頭でこの靴にトライしてみてほしいです。


ラストが伝統的なものと比べるとつま先側を少し内側に振っているものの、少しトウが狭いのかボールジョイントと親指の先が当たります。小指側もトウに向けてシャープなラインとなっていることもありタイトな気もします。ただここは面で当たっているようでタコになるようなことはありません。ふまずも絞ったややメリハリの利いたラストであり、見た目から受ける印象とは異なり、フィッティングはシビアかもしれません。



履き口が少しキュッとしているので履き始めはタンが足首に少し刺さってきます。インソールのヒール部分はややカップ状になっていたり、踏まずの絞りが効いていることもあって、足が前滑りしている感じは受けません。W10BDJの時も思いましたが、タンが靴の外側に向けて少しオフセットされているものだと考えられます。ここはあまり硬くないパーツなので少し履きならせば気にならなくなります。

私は足が薄めなので二の甲(ウエスト)から三の甲(インステップ)が少し大きめに感じます。羽根の形状もあり、二の甲にはやや空間を感じ、歩くときに無理な力が靴にかかるのを感じます。一番足首側の羽根の開きが5mmほどなのでW10BDJと同様に履きこむにつれて締め付けるのが難しくなりそうなのが唯一の難点でしょうか。

くるぶしのあたりは少し下がっていて食い込むようなことはありません。ここのラインは2235NAなどのリーガル定番のパターンから大きく改善(?)されています。足が薄めな人でも問題ないでしょう。

フィッティングは私にとってはリーガルの中では緩め系で若干緩く感じます。とはいえ多くの人ちなみに私、ビジネスシーンではスーツしか着ない人時代が長かったので、ビジネスではドレスの黒靴、カジュアルは茶系の靴と完全に用途が分かれていて、かつざっくり履くような2235NAやらW10BDJやらは厚手の靴下前提でフィッティングを考えていました。今回の黒色はオフィスカジュアルで履いていることもあり、靴下はそこまで厚くなく、それがより一層の緩さの感覚につながっているようです。


インソール、アウトソールともに栃木レザー。ソールにもデカデカと栃木レザーの刻印があります。

栃木レザーのダブルソールはミンクオイルを塗ったうえでベランダと玄関で少しずつ曲げました。家族がいると新品の靴とはいえ靴を履いたまま室内を歩き回るわけにもいかないので狭い玄関で挌闘です。

ある程度靴が曲がるようになったころを見計らって、室内業務中心の日に履き始めました。室内はカーペットやタイルが中心なのでアスファルトの道路を歩き回るよりつま先のヘリが抑えられそうなのと、足が痛くなっても脱げばいいという気楽な環境です。室内でそこそこ歩くと、自然に自分の足の形に合わせて屈曲しますので、1日が終わるころには最後のプレメンテナンスがしあがる感じです。

実際には初日から足が痛くなるようなことはなく、それなりに屈曲の癖をつけてから履いていますのでつま先の減りも気になるほどではありませんでした。

靴は履いてなんぼですので、よく言われるような無理やりキャッチャーすわりをしたり手で折り曲げるなんて苦行をしなくても、痛くなっても何とかなる環境で歩くのがベストです。外回り中心の仕事であれば通勤時だけでも、もしくは土日のショッピングセンターあたりである程度履きこめば十分です。足に合わせながら曲がりの癖をつけるのが自分にとっては気持ちがいいです。

私は新品時にソールにミンクオイルを入れるため、履き始めはかなり滑ります。徹底した本気ソールメンテナンスの後も似たような感じなので慣れっこではありますが、革靴を履きなれていない人はこうした滑る状態で動き続けるのも危険ですので、逆にソールが少し剥けるように硬い路面を歩くもありなのかもしれません。革靴が滑るのは結構最初のうちだけで、ソールが少しすれてくると私はそれほど滑るような印象はもっていません。

いろいろな人がレザーソールについて語っている内容を見るに、レザーソールは滑るとか、雨の日はもっと滑るなんてことが書かれていますので、スニーカーなどのゴム底に慣れている人にとっては結構違う感じなのかもしれません。いずれにしても、履きはじめのうち人が革靴に慣れるまでと、革靴が履いている人に馴染むまでは注意が必要なのかもしれませんね。

室内履きを最初のうちにたっぷりしたことあってつま先のヘリは最小限です。靴の構造的にはどうしても歩くと新品状態からはつま先が削れるはずです。その削も多少は意識してパーツが組み合わさっているのが革靴だと思っています。私はつま先スチールはめちゃくちゃ格好悪いと思う人なので、多少に減りはレザーソールならではと思っています。初回のうちはつま先の削部分にしっかりとミンクオイルを入れて、かつ革を締めるようにしてヘリを減らします。スチールの取り付けも、信頼できる職人さんや工房でない限り、帰って靴を傷つけてしまうようなので、あえて履き始めからつま先をいじることはないと思っています。



アッパー側はBoot Blackのデリケートクリームを気持ち多めに塗ってから、これまたBoot Blackのクリームを薄めに塗りました。製造から1年ほど経過したモデルということもあるのか、初回はデリケートクリームがよく入ります。その後ブラックの乳化性クリームをまんべんなく塗りました。Boot Blackのクリームは程よく艶が出るのでカジュアルには重宝します。アッパーだけでなく、ウエルトの部分もブラシでよく塗りこみました。

色の違いなのか素材の微妙な違いなのか、それとも初回のお手入れの違いなのか、黒色のほうが少し大雑把なしわが入ります。ただこれまでREGALや初期RENDOで採用が謳われていた国産キップに比べると明らかにきめが細かく、それでいてしっかりとした革という印象です。


これまで黒のカントリーテイストなウイングチップはどのようなシーンで履くものなのかイマイチわかっていませんでした。ビジネス寄りな堅めのスーツスタイルの足元には少しヘビーすぎるきらいがありますし、かといってブルージーンズや明るめのチノに合わせるには今度は靴だけがお仕事モードのような雰囲気になってしまう気がします。

このデザインであればどちらかというと茶系の方が合わせる服が多そうに思えます。

黒についてはこればかりは私のセンスのなさではあるとしても、暗めのジャケパンやフランネルのグレーくらいしかスイートスポットないんじゃないかとさえ思っていて、このデザインだったら茶系だよね、とずっと思っていました。

毎日スーツ族であった私も、最近はビジネスカジュアルでブラックデニムなんて日が増えました。当初は足元にスニーカーを合わてこれはこれで歩きやすさや気軽さなどいいところはたくさんあるものの、やはり足元が軽快すぎてなんとなく物足りなさを感じていました。単に革靴が好きだというところも大きいかもしれません。

そんなわけで、少し足元を大人に戻してみたらどうかなと思えてきました。ここで黒のウイングチップの登場です。

パンツが黒系なのでいちばん下の靴に黒をもってきてもまったく違和感がありません。むしろ中途半端にカジュアルな明るい色のほうが大ハズレです。ドレス寄りの靴だと、今度は靴がないから仕事用を休日に無理やり履いているおっさんになってしまい、これまた逆効果。

外羽根スタイルの重厚な黒のウイングチップだと、それなりに大人感のあるカジュアルスタイルに落ち着く感じです。ダブルソールのコバ張り出したがっちりな見た目も、大人の重厚感に一役買っています。



不思議なことに、わざわざ一般流通可能か型番で再登場しているにもかかわらずリーガルの公式サイトくらいでしか買えません。近くに店舗があれば店舗でお試し対象なので2235NAと同サイズと上下ハーフサイズくらいを取り寄せれば自分にあったサイズが見つかります。私はW10BDJを履いているため同サイズ狙い撃ちでしたが、個体差があるのであまりサイズ表記に拘らずに直感的にその日履いている靴と比べてどうかでいい気がします。

これを書いている2025年11月現在で税込52,800円(税抜48,000円)。
スニーカーも含めた紳士靴全般のなかではとても高い靴ではありますが、これだけこだわった靴をある程度手作業も入れて作ったらこのくらいしないとニッポンの所得も増えないわな、という印象です。

流通や小売りがあるので私たちは実物へのアクセスが容易になり、素材や色をこの目で確かめたりフィッティングについて相談に乗ってもらえます。一度に複数の商品を比べながら選択できるなど必ずしも流通マージンが悪いわけではありません。海外のブランドなどでは正規代理店には一定品質の合格品の中でも特に高い品質のものを回しているなんて話もあります。

せっかく全国のパートナーと開拓しているREGAL SHOESがあるのに、やっぱり価格が高い靴も一般流通(特に通販)を狙いに行くあたりが大きなメーカーの苦しいところでしょうか。各地のフランチャイジーが十分な利益をあげるモデルって作れないもんでしょうかね。靴全般が売れなくなる中、真っ先に高級靴を扱っていた法人が苦境に立たされているようです。フランチャイジーは独立して経営しているので各自の経営努力に委ねるほかありませんが、リブランドをしてまで守ろうとしているリーガルというブランドこれまで一緒に支えてきたパートナーを単なる販売のエンドポイントとしてではなく文字どおりのパートナーとして共生できるしくみができるといいですね。

「リーガルを扱いっていたから苦境を乗り越えられた」と全国各地のREGAL SHOESオーナーが思えるようなリブランドの成功を願ってやみません。


10ELDDはとても素晴らしい靴です。見た目も、作りも、履き心地も。

これが私の手元にあるということは、企画をする人がいて、靴を作る人がいて、それを工場から運ぶ人がいて、販売をする人がいて。

そうした仕組みを作って維持している会社があって、インフラを支える企業があって、そこに人を送り出す学校があって。そうした多くの繋がりの中からこの靴ができたことが一つの奇跡です。この靴に関わる人の誰か一人が違う人生を歩んでいたら、この靴が私の手元にきていたかどうかわかりません。

多くの人の関わりがあって、10ELDDという靴がここにある。


2025年8月1日金曜日

New Balance CM996

クラシックなスニーカーではひとつの定番、ニューバランスCM996。


CM996はニューバランスの直営店のほか、日本全国に店舗があるABCマートさんからセレクトショップまで、購入できるところがたくさんあり入手が容易です。世界全体でみるとニューバランスの本場米国では996は販売されておらず、英国やフランスではMade in USAモデルだけが取り扱われ、アジアでも大きな市場である中国大陸では扱われず、日本と韓国くらいでしか売られていないリージョナルモデルです。

同じアジア製造でもグローバルモデルといえるML574とはだいぶ違いますね。大谷翔平選手がニューバランスの574をスパイクにしちゃったのは、単に574がグローバルの誰もが知るスタンダードモデルだったからなんでしょう。


一方で、このニッポンではどちらかというとML574と比べても力を入れて販売されているのがこのCM996です。

日本ではすでにスニーカーとして一定のポジションを確立したニューバランス、ML373とかML565とか公式サイトに販売されていないモデルも量販店向けに流通しています。いまやいたるところで「N」マークの靴が売られていて、全国のイオンとか靴流通センターでも価格を抑えたラインが売られています。実際に街中で意識してみるとML373は結構履いている人多いです。

ニューバランスの1万円から2万円の主力ラインはスニーカーの一つの基準点のような作りです。これだけのものを作れるのに、なぜか数千円しか安くないのにあらゆる良さをなくしてしまったモデルがまた量産されているのも不思議なメーカーです。

安物カラコン然り、外しちゃいけないポイントを外した低価格品ってのはどうなんでしょうね。売る側の技術者倫理みたいなものの観点からどうなんでしょう。

そんな靴世界中にいっぱいあるし、歩けなくなる致命傷を与えるようなものでもないし、それなりに真面目に作っている部分はあるってことでしょうか。だとすると矯正靴という出自に対する矜持を期待するのは勝手な部外者のノスタルジーかな。



CM996に話を戻すと、この靴は2万円以下のファッションスニーカーの一つの答えのような気がします。

ランニングとかトレイルランとか特定の目的を持って靴を選ぶ場合を除いて、日常のタウンユースとして出かけるために履く靴、としたらここから引き算をせずにこれ以上を求めるとなかなかいい感じのものが見当たりません。

強いていうならこれに「防水」を求めるとCM996のゴアテックス版、ってことになりますが、ここまで行くともう普段使いの終着点とさえ思えてきます。


このCM996、元々は1988年に登場したランニングシューズM996のアジア製造版です。

M996は米国の工場で半ば手作りしているので値段が高くなってしまいます。製造原価が高いのに加えて関税もかかり、日本では3万円をゆうに超える金額です。グローバルではこちらの米国製996が売られています。

スニーカーは長年履き続けるということに重きを置いていないこともあり、こうなるといくらいい靴と言ってみたところで、国内のアシックスあたりには太刀打ちできません。CM996は関税と製造コストの安いアジア圏で製造している案外ニッチな市場向けモデルです。

オリジナルのM996と比べると、ソールの素材が少し変わっていたりと、まんまレプリカではなく、微妙にアップデートがされているようです。

CM996はランニングシューズを出自としたタウンシューズなので、いまではファッション性で履かれているケースがほとんどとはいえ、デザインだけで勝負をしているような靴ではない基礎力があるような感じです。


まずソールから。

ソールは平坦なロードで履かれることを前提としているため、ML574よりソール全体は薄く見られがちですが、実はそこそこかかとにはボリュームがあります。店頭で見た限りでは米国製のM996より、アジアCM996の方がソールが少し薄い気もしますし、実際に履いてみた感じではML574よりは明らかに薄く軽く感じます。


アウトソールのパターンは基本的には前後(ほとんど前方)に向かって進むことを前提にしているようです。屈曲性がよく、かつ前後に滑りが少ないことを意識したパターンです。


あまり意識したことないですが、ソールの形状的には横滑りには弱いように見えます。タウンユースだと濡れたタイルなんてシチュエーションもあるので、前後全振りなソールは微妙に影響が出そうですがいまのところそのような経験をしたことがありません。凹凸が少ないソールがゆえに水はけがよいのでしょうか。

全てが平行なソールパターンなので屈曲性は良いです。細かく筋が入っていることもあって時計のベルトみたいな感じで足の屈曲に合わせてロールしやすい形状です。

全体的なラストは足なりに内側に振られていますが、ソールパターンは進行方向に垂直になっています。この辺りの割り切りはさすがランニングシューズ。最近ではここまで露骨に並行なのはNIKEの一部モデルくらいでしょうか。

カーボンプレートの登場以降厚底化する以前の考え方であれば、ソールは薄いほうが軽いけどクッション性がなくなる。ランニングの際に母指球から親指に力が抜けていくときには進行方向に向けて靴が垂直な状態になっているので、開発は40年近く前の時点での技術と考えたとき、少し厚めのソールにしても屈曲性が保たれるCM996のソールパターンは理にかなっているように思えます。


ミッドソールは日本の技術も入っているC-CAP。日本の月星化成(いまのムーンスター)がかかわっているとかいないとか。というか、ムーンスターはニューバランスの日本法人設立に大きくかかわっていますし、いまでも会社経営にかかわっている感もありますので、ある意味グループ内技術みたいなものかもしれません。

何となくENCAPよりへたりが早い気がしないでもないですが、トレイルラン向けの靴と比べているのでそう感じるだけかもしれません。

インソールはあまり特長が書かれていることがないですね。ニューバランスからはより高性能なインソールが販売されています。そのレベルのものに取り換えるということであれば初めから最新の技術を使ったランニングシューズを買えばよいので、もともと入っているもので日常使いは十分かと。

傾斜はそれほどでもなく、靴の前半部でつかむような印象のML574と比べると、もう少し足の後ろ側を使う靴です。脛を少しつかむような形になっていることもあり、サイズを合わせてはくと足首周りが安定します。

舗装が行き届いた日本の都市部で履くならCM996のほうが合う人が多そうです。


外見はメッシュとスエードのコンビ。


革の部分は本革を採用しており、なんとなく丈夫そう。人工皮革だとどうしても加水分解したり破けたりがあるので、ボールを蹴ったりなどのシーンも考えると本革が使われているのはいいですね。加水分解しないソールと合わせてそれなりに長持ちするかもしれません。

実際に、これまでも何足かこの手の靴を買っていますが、ニューバランスの本革採用モデルは、たいていは革の部分よりも履き口のビニール系の部分からボロボロになります。

親指側の革は少し大きめに取られており、指先側から穴が開くようなことはないでしょう。


ラストはSL-1ラストと書かれており、ニューバランスの中ではスリムなラストといわれています。とはいえ、この靴もう何十年も前に欧米人向けに開発されているので、甲高幅広が過去の記憶となったいまの日本人にとっては、それほど狭さを感じることはない人も多いかと思います。私も少し幅はタイトに感じることがあるものの、しばらく履いていると(やや形が崩れているような気もしつつ)あまり気にならなくなります。逆に2Eなんてモデルがあったらゆるゆるではないでしょうか。


ランニングシューズだからか、かかとの部分とNマークが反射板になっています。タウンユースとしては少し薄暗いところを歩くとき、車やバイクと事故を起こす可能性が減るのでいいですね。この辺りはトレイルラン用を出自とするML574と異なる設計思想です。



冒頭でも書きましたが、このCM996、北米やヨーロッパ、オセアニアでは販売されていません。Made in USAモデルのM996が扱われている国は多いですが、作っているはずの米国ではM996自体が販売されていません。

グローバルもであるであるML574は世界中のニューバランスショップで売られています。国内ではML574と双璧の人気ともいえるCM996が、海外では全く売られていないのは意外です。ほとんどが日本と韓国向けに作られているような靴なのに、なぜかウイズがDなのも不思議です。

日本国内には565というイオン系で売られているニッチなモデルがあり、別に574か996でいいんじゃない、と思っていましたが、このCM996もグローバルで見ると結構ニッチなモデルだったんですね。


円安をはじめ様々な理由から価格が上昇していても、十分価値ある靴ではないでしょうか。確かに Made in USA モデルはいいのでしょうけれど、このCM996も十分な靴に思えます。ある意味ローカルモデルなのにカラーバリエーションも豊富なのは、それだけ日本ではニューバランスが売れているということの裏返しです。

人と被ることも多いですが、革靴の世界であればみんな同じような靴履いているし、本来のドレスコード的には堅めのビジネスシーンだとよほど靴に興味がない人でなければ区別できない程度の違いしかありません。

靴が被っても、トータルコーディネイトが異なればその印象は全く別モノでしょうから、変に意識せず、定番だからゆえの安心感を買うというのもありです。


実はこれまでCM996はちょっと避けていました。

スニーカーはそんなにいらないし、なんとなく米国製か英国製に惹かれるし、どちらかというと公園で遊ぶ用の靴が欲しかったのでランニング用よりはもうちょっと汎用的な靴のほうが良かったしということで購入する理由がありませんでした。

あまりにもメジャーすぎる感じがするというのも一つの理由だったかもしれません。

ここにきて、仕事上でスニーカーのほうが都合がよいことがあり、そんな中で選ぼうとすると、逆にCM996があっている気がしました。

運動比率が少なくて、むしろタウンユースで普段使いということになると、ML574よりCM996に軍配が上がります。なにせ歩きやすいしML574よりは滑らない。



ML574に比べると少しだけ値段が高いのも、加水分解しにくい素材が使われていることで耐久性が伸びればイーブンではないでしょうか。

湿度が高くて、路面は舗装されていることが多くなったニッポンではCM996が必要だったんですね。

ある意味、ニッポンらしい靴なのかもしれません。



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2025年7月23日水曜日

REGAL 2177N

 ローファーの定番、リーガル2177N


典型的なビーフロール型のコインローファー。
いわゆるローファーのよくあるデザインのひとつ。

ローファー、特にコインローファーは日本では中高生が履く靴という印象を持っている人も多いけれど、かのマイケル・ジャクソンはG.H.Bassのローファー履いてステージで激しいダンスをしていたという話が良く取り上げられるように、アメリカの一つのシンボルであるともいえる。


リーガルの企業サイトによれば2177は1971(昭和46)年に発売開始されたそうな。2025年現在で54年。そう思うと歴史が長いのか短いのか微妙。私とあんまり変わらないくらい。

デザインは発売当初から変わっていないとのこと。製造場所が変わったり調達関連で超マイナーアップデートくらいはあるとしても、実態として古き良き時代から現代まで一貫して生き残っているモデル。それだけでもすごい。当時からグッドイヤーウェルテッドで作られていることが読み解ける。

ローファーを含む紐なし靴はスリッポン(Slip-On)と呼ばれる。寝るとき以外は靴を脱がない欧米文化の中では、日本人の感覚でいうならそれこそスリッパ(Slipper)のような位置づけとして登場したようなことが言われている。日本人の感覚ではわかりづらいけれど、欧米人が靴下を見せるのは日本人が下着を見せるみたいな感覚だそうなんで、家の中に入ったからといっても靴はやっぱり必要で、でも少しリラックスした靴が良いよね、といったニーズがある。

それが次第に(マーケティングもあるだろうけど)室外靴としての地位を確立して、これまたアメリカの一つの象徴みたいな位置づけまで上り詰めた。ローファーを履いて大人になった東海岸の学生たちは、今度はそれをビジネスシーンに持ち込もうとする。それがタッセルローファーの始まりとかなんとか。

で、アメリカのブランドと提携して始まったリーガル(当時は日本製靴株式会社)は当然ながらアメリカでの定番がラインナップの主力となるわけで、VANのローファーを経てこの2177Nが登場する、そんな流れかな。


ローファーはマッケイ製法のような返りの良い軽めな製法が採用されることが多いなか、2177Nはリーガル得意のグッドイヤーウェルテッド製法。
紐がない靴をグッドイヤーウェルテッドという堅めになる製法で作っているので、当初は返りが悪く、足になじむまでに時間がかかる。

リーガルの商品紹介でも「履き始めは堅め」と書いてあるように、まっとうなサイズ合わせをした場合は、履きなれるまでに相当な覚悟が必要な靴。いわゆる昔ながらの靴であり、現代に多い当初からの履きやすさを求める靴とは全く設計思想が異なる。

よく言えばなじめばとても丈夫で長持ちする靴でもあり、悪く言えばそれ以前に脱落者を大きく生み出す靴ともいえる。グッドイヤーはリペア面では優位とはいえ、いやこれ丈夫だしリペアまでいきませんって。


アッパー素材は2504NAと同じようなガラス仕上げの革。肉厚なレザーを使い、ライニングがない作り。リーガルはこの手のガラスレザーの定番が多い。発売当初から同じデザインの靴ではあるけれど、タンナーが手に入れることのできる原皮の質は変わっているといわれているし、仕上げの段階で使うことができる薬品も変わってきていると思われる。その中で同じような品質を変わらず提供し続けるって結構大変なことなのではないだろうか。

ガラスレザーは表面に樹脂コーティングをしているので、雨にも比較的強く、日常のお手入れにもそれほど気を使わなくてもきれいな状態を維持できる。そこそこ履きこんで、クリームでお手入れするとなかなかの光沢も出る便利な素材。一般的にはメンテナンスに気を使わないようなことが強調されるけれど、鞣して仕上げる過程においては職人の手触りによる仕上がり感の確認が重要という話を聞くに、やはり革としての「何か」がある。


きれいに保ちやすいこととお手入れをしないでもよいことは別。もしお手入れをしなくてもよいという話をする人がいたら、そこには素材そのものに対しての感謝も、自然界のばらつきを相手に一定の高い品質を保つために精魂込めているタンナーの職人さんにも、それらをもとに履きやすさと丈夫さの両立をする靴の形を作り出した靴職人の方にもまるで敬意がない。靴をお手入れするかどうかを決めるのは素材ではなくて、あくまでの態度の問題ではないかと思う。


ソールはリーガル定番ラインで使われているフラットなゴム底。リーガルの解説による滑りにくくクッション性も意識して作られたとある。実際にこのソールはフラットな見た目にも関わらずレザーソールに比べるとはるかに滑りにくい。

ソールの返りはレザーに負けるものの、サイズがあっていればかかとがしっかりついてくるので十分なしなやかさはある。


サドルサイドのビーフロールやかかとのキッカーバックなど、アメリカンスタイルを意識したデザイン。いわゆる拝みモカ縫いもシンプルな印象。これもあってキレイ目ファッションよりも少しカジュアル強めのスタイリングに合うと思う(と、センスのないといわれる私が言ってみる)

キッカーバックはもともとは靴を脱ぐときに他方の足で引っ掛けて手を使わないで脱ぐことができるためのものといわれている。ただ、そもそも紐のないローファーって脱ぐのそんなに大変かな。手でつかんで引っ張るだけで脱げるから、紐を扱わないでいいので手間が少ない。(それすら面倒というLoaferな靴?)
むしろこのキッカーバックがあることで、それこそアメリカンスタイルなデニム(ジーンズ)を合わせるとキッカーバックに裾のステッチが引っかかって歩きにくい。


全体的にはノーズも短く、サイズが小さい人であれば丸みが強調されて実サイズよりコンパクトな印象になる。


定番ラインとしては珍しく製造国はタイ。シンプルな作りでもあるし、価格はそれなりに抑えて定番を維持したいしでの選択かな。おそらくは関税も比較的安いゾーンにあると思われる。

みなさんおなじみ矢野経済研究所さんのレポートによると、紳士靴市場は2025年度予測で1,361億円。コロナ前の2018年度は1,833億円あったので、コロナ禍から戻しつつあるとは言え4分の3。日本では革靴の売上が減りつつある中で、本格靴を作ることができる靴職人さんも減少しているということは予想できる。最近では円安だから日本の丁寧な靴職人さんが作った靴を海外で販売するなんていうこともできそうだけど、日本発だとこれまた関税がかかったりでうまくもいかなそう。




リーガルの歴史が長めな靴は、丈夫であるがゆえになじむのに相当な時間を要する。

購入して半年くらいわりと集中して履いて、延べ50日分くらいは履いてやっと終日履けるようになった。私の体重が軽いこともあるのか、本来多少沈み込むはずのインソールにほとんどフットプリントがつかず、沈んでいる気配がない。ローファーだからあまり靴の内寸が変わらないようになっているのだろうか。相変わらずかかとの外側が痛い気がして、少しサイズがタイトな感じは続いている。

リーガルの公式サイトでは「疲れにくい」と書いてあるけれど、それ以前に「痛い」を通り越すのが大変。次第に革が柔らかくなってきて、そうなると終日履くことに問題はなくなるものの、「履き心地」にフォーカスするような靴でもないと思うので、リーガルの中の人がいうほどの期待感を持つのも危険だなぁという気がしている。

発売当時は当初は固くてもそのうちなじんで、その分丈夫みたいな靴がいい靴の一つの指標だったのかもしれないけれど、その常識がなくなった現代では誤解を招きやすい靴。


ローファーに限らず本格的な革靴はある程度の靴の変形を想定して選ぶ必要もあって、最初はややきつめを選ぶのがセオリーといわれている。だからきちんとしたフィッティングができるお店で相談しながら選ぶ靴になる。サイズを無視して、フィッティングの印象だけで買うほうがいい。

紐がないローファーはその中でもかなりフィッティングがシビア。私は最寄りのリーガルシューズで試し履きして購入。2504NAと同サイズを中心に前後ハーフずつを出してもらい、ふだんやや緩いと思っている2504NAと同じサイズを最初に履いたところ「足がはいらん!なにこれタイト!」という印象だったのでその下のサイズは止めてハーフ上と比較して比べてみた。

ハーフサイズアップだとふだんの履き心地に近い気はするものの、甲の外側にゆとりがありすぎる感じがした。履きなれるにつれ以前のパカパカになりそうな予感がしたため、結構きつめに感じた2504NA同サイズをチョイス。まさか同じサイズ表記でも履いた感じがここまで違うとは、という印象で店を後にした。

紐がなくてアジャストできないがゆえに、ちょっとしたきつい緩いがダイレクトに一日中伝わってくる。

これまで自分で履いた限りだと、最初からいい感じで継続していい感じが継続するローファー(ケンジントン)もあれば、この2177Nのように文字どおり最初は血だらけになるくらい痛いけれど、1年くらいたってやっと履けるようになった靴もある。ただそれでも「履きやすい」という感覚はまだないので、となるとなじむまでにどれだけ履き続ける靴なんだ、という印象。

一足を履きつぶすみたいな履き方であればもう少し早くなじみ、丈夫であるがゆえにそのいい感じの状態が続くといったところだろうか。


ローファーを選ぶ際には「きつめを」というのはある意味あっていると思う。間違いなく多少は緩くなり、それを紐で修正できないので。ただ、この「きつめ」という言葉が独り歩きして間違った解釈でとらわれていることが多い気がする。
(いきすぎて「きつめ」ではなく「小さめ」と書かれることもある)

「きつめ=サイズダウン」ではない。

紐に頼らず靴の構造だけで足を支えるローファーと紐を使って調整が可能なオクスフォードシューズでは靴を作るためのラストの設計思想がそもそも異なっている。

同じリーガルの定番モデルであるローファー2177Nと、プレーントウの2504NAとでは同じサイズでも明らかに履き心地が異なる。2177Nは2504NAと比べてかなり甲を抑え、かかともややタイト目な作りになっている。2504NAだと、仮に紐を結ばないと全長も少し余裕がある感じがする。一方の2177Nはそのゆとりを感じるサイズと同じサイズ表記のものを選んでも、靴ベラなしには絶対に履けないくらい全長全幅ともにタイト。

これまで2504NAを2足、2177Nも2足買って履いているので、この同一サイズだけど履いた感じが全く違うというのは個体差ではなくモデル差だと思っている。2504NAだと少し緩めに感じるから、ローファーということもありハーフサイズ落そうなんて感じでネットで買ってしまうととんでもないことになりそう。

よく「ローファーはハーフサイズ落せ」という意見を目にするけれど、これは「きつめにする」という意味を誤解している。ローファーは専用のラストで作られているので、たいていはオクスフォードシューズと比べると同サイズでも「きつめ」に感じるはずである。

むしろ、同サイズできついからといってサイズアップするな、ローファーなら紐靴と同サイズならきつめになるのだからそれを正解と思いなさい、というアドバイスではないだろうか。

こればかりは実際に履いてみないとわからない。2177Nは2504NAと同サイズだと明らかにタイトに感じる。むしろ同じ感じのサイズ感はローファー側をハーフ上げたくらいかと。シェットランドフォックスのケンジントンのように同一ラストで紐靴とスリッポンを作っている場合については同じサイズだと二の甲からつま先まではそれほど変わらない印象なので、やはり2177Nは専用のラストが使われているか、甲の部分を抑えるために相当きつめにサドル部分を設計している。

ローファーをハーフ落として選択するということは普段の靴のサイズがよほど大きいか、緩めのフィッティングに慣れてしまっているのではないかと。内周のためだけにハーフサイズ落してしまうと全長が変わるので、小指やかかとになんらかのダメージが出る気がする。このあたりは個人の足の形にもよるだろうから、やっぱりローファーはフィッティングしてなんぼであるといえる。

この靴を履いてみると、2177Nを起点にラストを考えた場合2504NAや2235NAがゴツ目の足を想定して大きめに作られているという話は本当にそうなのか、という気さえしてくる。私は足は結構薄目なほうだけれど、それでも購入当初はサドルの部分がかなりタイトで、甲側にマメができそうなくらい痛めつけられた。かかとについては今も外側のあたりが気になっている。

ゴツ目の足だとむしろ入らないか、入ったとしても甲の血管切れてしまうんではないかと思うほど、かなりタイトな作りに感じる。フィッティングのためにサイズを落として履くような靴ではなく、むしろ上げて履く人が出てきてもおかしくない。リーガルが日本人はすぐ緩めの靴を履きたがることを見越して、同一サイズでかなりタイトに仕上げているのではないかと思うくらい。

リーガルの靴は大量生産を前提としているので、ある程度平均的かつ許容度が高めなラスト設計をしているはず。その前提でこれだけフィット感が違うのだから、やっぱりローファーはきちんと履いてみるということが大切。


お手入れはあまり気にせずブートブラックを使っている。ふだんの簡単なメンテナンスにはニュートラルを使い、5回に1回くらいブラックを使う感じ。毎回ブラックでないのはそこまで色を載せてもガラスレザーには色がつかないし、逆に合わせるパンツの裾に色が移りやすいという理由。でもニュートラルだけだとしわの部分やモカの折れ目などが目立つので気休めに。

お手入れはやや回数多めに。この手のローファーは汚れが目立ったりすると急に学生の指定靴っぽさが強くなるので、ピカピカにメンテナンスされているほうがいい。


2177Nは日本のローファーの一つの定番。

高校生が履くには少し値段が高いという気もするけど、一度は履いたことがあるなんて人は結構いるのではないだろうか。

ちなみに私は高校時代はスニーカーオンリーだったので、革靴に目覚めるのは大学生になってからだった。最初に買った靴は2236NAだった。

若気の至りで20代前半のころにJJ17という当時の若者がどうしてこうなったのかというローファーを買ったのだけれど、明らかにサイズミスをして結局履き続けることができずに手放したことがある。当時はスニーカーサイズに比べて大幅に小さなサイズになることが信じられなくて、お店の人の意見もあまり聞かずに購入してしまい、毎日パカパカ履いていた。

この印象を引きずっていたのでローファーは自分に合わない靴という決めつけと、ローファーはビジネスシーンには合わないという教科書による余計な知識があって、毎日スーツスタイルで働く自分としては目を向けることがなくなっていた。

40近くなり(いまさらではあるけど)やっと靴の適正サイズ感が持てるようになってきたころ、やっとローファーに手を出した。当時、シェットランドフォックスのケンジントンの履きやすさに感心していたころ、同ラストのローファーをみて、何となくローファー履いてみたいという気持ちが沸き起こってきた。試着したところこれがまた足にピッタリであることに気をよくして、同じラストで2足も買ってしまう。この体験が自分のローファーイメージを変えることになり、1週回って2177Nにも手を出すことになる。


ローファーは大人が自分の選択で履く靴で、結構履き初めは大変なこともあって、実店舗でじっくりフィッティングしながら買う靴。靴のサイズ感について購入者側もわかっていたほうがいいし、紐がないがゆえに靴全体で足を締め付ける履き方になる。歩き方も微妙に紐靴と違ってくる。若い人は無理して履かなくてもいいデザインの靴だと思う。

このデザインの靴を指定している学校の先生方に聞きたい。なぜこのデザインが必要なのか。紐がないことによって紐が巻き込まれてけがをする事故を減らせるというメリットくらいはありそうなものの、ローファーを指定するメリットが思い浮かばない。

ローファーをまっとうな靴屋さんで買ったことがある人ならば気づいているはず。きちんとしたフィッティングをして選んだとしても、それなりの伝統的な作り方で作られている革靴は履き始めの日から終日歩き回れるほど足にやさしくない。履き始めはかなり修行が必要なので、終日履けるようになるまでかなりの期間を要するということを。

もちろんこれはローファーだけのことではなくて、作りがしっかりしている革靴はたいてい最初は痛いものだし、逆に作りによって柔らかくもできるので全部が全部最初にカチコチなものばかりでもない。ただ、この紐のない構造はどうしても体に負荷がかかる。アジャストするパーツがないので、緩んだら最後、足が緩んだ靴を抑えるために必要以上の負荷を歩くたびにかけ続けてしまう。

外反母趾、ハンマートウ、靴ずれによる障害、腰痛...

靴はそういうものだとして気づかず体を痛め続けてしまう。

学校の先生方(というより理事とか経営の人たち)には声を大にして言いたい。外部が知ることがない明確な理由がないのであれば、ローファー指定を本気で考え直して欲しいと。
将来あるこどもたちが、このローファーで痛いのは嫌だから大きめを買う、ということがどれだけ健康を損ねているのか。

体のことに詳しい体育の先生とか、歴史から学ぶことが身についている社会の先生とか、合理的なデータを集めて分析することを教えている数学の先生とか、そもそも怪我を目の当たりにしている保健の先生とか。みなさんローファーの弊害に気づかないのだろうか。

将来外反母趾やハンマートウで苦しむをことになる児童・生徒をひとりでも減らすことができるのは現場の先生や学校運営に決裁権を持つみなさんにかかっている。


ここまで書くと、ローファーが体に悪い靴みたいになってしまっているけれど、適切なサイズを選んで、きちんとなじませる時間をとって、お手入れしながら履く分には問題ない靴なのだから、その選択する自由と時間の自由ができたときからでも遅くはなくて、若いうちにはもう少し足に対して優しい靴を履いてもらいたいと心から思う。

若い人が化粧をしないでもいい(しないほうがいい)理由と同じで、若いころの体へのダメージはのちのちの人生に大きな影響を与える。どうしてもローファーなら、本格ローファーは半年かけて休日に十分なじませて、最初の一足はスニーカータイプの構造のものにしましょうよ。ただ、ここまでするなら初めから足にやさしい靴履けばいいんじゃないかと...


2177Nはあまりにも定番的なデザインであるがゆえに恥ずかしさを感じてしまう人もたくさんいると思う。それだけ日本ではローファーは一定のポジションを確立しているわけだ。革靴の価格がどんどん高くなって、ローファーも気軽に履く靴ではなくなってきている。


ローファーはいろいろな意味で間違った場所で間違って履かれてしまっている靴。
50を過ぎたおっさんが格好良く履くのは難しいってことはわかっていても、なぜかときどき履いてみたくなる不思議な魅力がある靴。


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