2024年12月15日日曜日

New Balance ML574

ニューバランスの中で世界で一番売れていると言われているモデル、ML574。


グローバルスタンダードともいえる定番で、文字通り世界中で広く売られています。


私、ふだんのスニーカーは主にニューバランスのM576を履いています。過去にはM1400を履いていたのですが、販売が終了してしまったので同じSL-2ラストということでそれからはM576を履いています。休日も含めて革靴がほとんどであったため、スニーカーは1足を数年単位で買い替えるといったことをしていました。

カジュアル使いがメインのため、色はグレー。汚れが目立ちにくいという色合いもあり、公園でのちょっとしたボール遊びなんかもこれ一本でやっています。


今回はビジネスユースを目的として、ブラックのスニーカーを買い足しています。そのうちの1足がこのML574です。

M576が Made in UK であることに対して、ML574は同じコンセプトで製造をアジアの開発途上国で行うことにより原価を下げ、販売価格を抑えたモデルです。特に日本だと関税面から有利です。


公式サイトによれば、アッパー素材は「環境にやさしいエコな材料」である「ECOGREENスエード/メッシュ」です。メッシュ部分は本革と説明されています。


二層構造のミッドソールはニューバランスおなじみのENCAP。クッション性が高いといわれていて、確かに少しふかふかしたような履き心地です。ENCAPはニューバランスの標準ソール素材の一つであり、クラシック系の多くのモデルで採用されています。


ENCAPは軽さと耐久性を両立するためにEVAをポリウレタンで包んだ構造のため、このポリウレタンが加水分解しやすいと多くのサイトで書かれていますが、これまで私が履いたモデルでは特に問題になったことがありません。ソールより先に足首周りの内側がボロボロになります。

日本をはじめとした湿度の高い国々ではさすがに加水分解をするポリウレタンは厳しいとなったのか、アジアモデルのCM996はソールにポリウレタンを含まないC-CAPが採用されています。

おそらくは履き心地と性能(というかコスト?)的にはENCAPがいいのでしょうけど、店頭や倉庫での保管時に加水分解のリスクがあり、この手のクレーム対応するのもなんなので、アジア系モデルにはC-CAPを使っていると言ったところでしょうか。ややニッチな素材であるのか、CM996が欧米で売られていないことと何か関係があるのでしょうか。

個人的には少し硬めな履き心地ではありますが、接地感を感じるC-CAPもいいところあると思っていますが、膝や腰へのダメージ度合いなどいくつかの条件によってENCAPが有利なんでしょうね。もしくはC-CAPのライセンス料などが高いとか、別な理由があるかもしれません。

現在でも高級扱いとされ、ライセンス料などの価格転嫁がしやすいと思われるUSA/UKモデルにおいて、ENCAP採用がそれなりに多いので、第一優先はENCAPなのではなかろうかと思っています。


日本でおなじみCM996と比べると、ML574がトレイルランからオフロードを出自としていて、当初ロードランニングを目的にしていたCM996とはいちおうの差別化をしているフシも見受けられますが、タウンユースを目的として購入するほとんどの人が、この違いでどちらを買うか決めているケースはまずないでしょう。


ラストの違いを置いておくと、大きな違いとしてはやはりソール周りでしょうか。

日本だと996はC-CAP、574はENCAPとミッドソールの素材からその違いを説明されることがありますが、US製造モデルだと996はENCAPを採用しているので、ミッドソール素材ということよりも、あくまでもデザインコンセプトの違いだと思われます。

靴全体のコンセプトとしては元々はML574はオフロードでの安全性、安定性を意識した作りになっているはずです。

ソールのパターンだけでなく、硬さも違います。トレイルラン向けはソールが硬めになります。なので、街中で履くぶんにはCM996の方が屈曲性がよく感じられて履きやすいと思う人が多いはずです。購入のために多くのブログなどを参考にさせていただきましたが、たいていはCM996のほうが履き始めの評価が高かったです。それもそのはず、ソールが固くしっかりしていることも要求の一つであるトレイルラン出自の靴と、返りがよく軽い履き心地を要求されるランニングシューズを出自とする靴とでは、後者のほうが街中では歩きやすいに決まっています。(極端に言えば下駄と草鞋を比べるようなもの)

舗装されていない道を歩くために、ソールのパターンは前後の動きだけでなく、左右の動き(滑り)にも対応するような形状です。ML574の後継モデルのような位置づけもあるU574だと、このパターンの溝の深さがさらに大きくなっています。


この突起のせいか、雨の日のアーケードなど、もともと滑りやすい路面に対しては弱いです。もともとの靴のコンセプトがカバーする範囲からちょっとはみ出ているようなシーンではこの靴のマイナス側面が目立ちます。足腰が弱っている高齢者にはおすすめできません。

574の踵は大味の作りになっている分なのか、足首を包むように少し高めになっていてアキレス腱を掴むような感触が得られます。足首の保護という観点からしても少し包み込む形状のほうがオフロードでは有利と考えられます。

ニューバランスはブランドロゴを入れるためにぐるっと二の甲周りを大きな部材が一周しているので紐を締めた時の安定感があります。甲側を包み込んで、踵をスタビライザーで固めるという安定感重視の作りこみです。

踵の大きさについていうならば、ブーツなども踵が大きめですが、トレイルラン向けってほかの靴もこんな感じなのでしょうか。ニューバランスの利点であるスタビライザーの良さがちょっとだけ減衰してしまうのがもったいない。クロケットアンドジョーンズのオードリー3みたいにかかとが小さいモデルが出たら日本人にはいい感じになりそう。

シューレースの一番上から踵にかけての造形が、CM996はなだらかなカーブを描くのに対して、ML574はL字型になっていて、やや足との接地面積が多めになっています。

いまとなってはML574でトレイルランしようとする人はいないとは思うものの、公園で遊んだり、未舗装道路を散策するなんて時には適していると思います。


ラストはSL-2ラスト、SL-1がランニングを目的とした細めのシルエットであることに対して、ロードからトレイルランまでをカバーするために少し汎用性重視です。継続して単調なクッションを要求されるランニングと、ある程度の力のベクトルが一定ではなく臨機応変な対応が必要とされるトレイルランとの違いなのか、SL-1ラストよりは快適さと堅強性の両立を目指しているバランスがこのラストの最も売りなところです。

履いた感じ全体的にはSL-1ラストのCM996よりゆとりを感じるものの、やや前方へのドロップ気味な感じを受けますので、母指球から指先までを使ってしっかりと地面をつかむような感覚が得られます。

ラストの踵サイズに比べてアウトソールの底面積自体はそれほど大きくはなく、その割にはボールジョイントあたりは広めなことと併せて、やはり靴の前方での踏ん張り重視な印象です。


令和のいまとなっては、トレイルランにはもっと適した靴がたくさんあります。ML574をその目的をメインとして購入する人はいないと思います。もはやファッションとしてデザインが評価されているわけですから、そういう出自のストーリーをもとにした履きやすさ論ではなく、もっと気軽にこの靴は履くものだと思います。ニューバランスも、いまとなっては広くタウンユースも想定してのラインナップとして、オンオフ兼用のふだん使い靴として売っています。

ML574はカジュアル系OKな職場であればビジネスでも使いやすいです。ブラックのML574ではNロゴもブラック、ランニングシューズによくある反射板もないおとなしめのデザインです。購入時点の紐もややトーンが落ち着いたものとなっていて、全体的におとなしいデザインです。

全体的に少し丸っこいためカジュアル感が出がちですが、ボトムにややスリムなパンツを選択すれば全体としてはまとまるのではないでしょうか。(ただ、私はこの辺のセンスはあまりないですのでそんな気がするだけ)

機能面だけを優先して選ぶとどれもデコラティブなデザインに行き着いてしまい、私のセンスではまとめきれずビジネスでは浮いてしまう気がしてなりません。そんなわけで結局のところニューバランスでは定番と言われるML574かCM996が個人的には無難な選択として残ります。

校庭や公園など未舗装のところでちょっと遊ぶなんてケースもカバーできて、全国どこでも入手がしやすい。ミッドソールは高級モデルと同じだしスタビライザーなど機能面でもしっかりとしている。大量に出ていることもあり価格も1万円くらいとそれこそバランスが取れている靴だと思えます。グローバルモデルだからこその価格だと考えます。


スニーカーは一部のコレクターを除いては、履きつぶしてしまって買いなおすという運命になります。運動をするときに履くとなると靴が汚れたり傷ついたりすることは避けられませんし、私にとってはむしろそういうことをするときに必要とする靴です。

いつかは買い替えることになるからこそ、そのいつかの日にもまた手に入るだろうと思える安心感がこのML574にはあります。テクノロジーの進化の中で、でも変わらないモデルをニューバランスが作り続けるのは、こうした「変わらない安心感」もブランドイメージの一つとして大切に残しているからではないでしょうか。

革靴の世界にはリペア(修理)という考え方があって、ソールが減ったら直すことができます。なぜまた新しい靴を買わずにソールだけ直して履き続けるのかといえば、履き心地を重視するからです。ソールを変えてもいわゆるアッパー側はなじんだものを残すことで、少しでも見た目、履き心地を継続させようとします。修理してもどこか一部は「うん、やっぱりこれだよな」を感じることができるのです。

スニーカーの世界ではリペアができない(できるの?)分、全取り換えしつつも、以前の履き心地を再現するためには同じ素材、同じつくりと外観のモデルが必要なんです。そういった意味でニューバランスは「うん、やっぱりこれだよな」という人と靴の関係を大切にしているメーカーとして私の目に映ります。


ふだんはタウンユースがメインだけど、休日たまには舗装されていないところで走り回ったりボールを蹴ったりなんて時にはやっぱりこの靴になります。ニューバランスは574の良さを「汎用性」といっています。

そう、用途に分けて細かくスニーカーを分けるなんてことじゃなくて、とにかくいつもこれを履いていればいい。ML574が世界中で売れているからこそ得られる安心感。