僕の平成における想いを綴る平成の逸品の最終回、今回は「靴」。
やはり平成を代表する靴といえばこれになる。
「RENDO R7702 Punched Cap Toe Oxford」
平成の時代に登場し、この先もずっと輝きを失わないだろうと思われる靴。
団塊の世代に愛され、信頼されてきたリーガルの 2504NA や 2235NA は昭和という時代を色濃く反映した靴だと感じる。
いま思えば父が僕の今の年齢だったころは世の中がもっと活気づいていたこともあるのか、僕に比べるとずっと骨太な生き方をしていたと思う。
そうした時代を生き抜いた人に愛されてきた 2504NA やサントリーオールドやカミュは、今では価格だけを見ればミドルレンジ(下手したらローエンド扱い)かもしれないけれど、なんとなくごつさというか歴史の重み的なものを感じずにはいられない。
その団塊の世代の子どもたちにあたる団塊ジュニア世代が義務教育を終えるころ平成という時代が始まった。バブルははじけ、繊細かつ弱気な世の中に移っていったように感じる。
こうした時代にも力強い人がいて、いまではだれもが知る企業をスタートアップし、これまでの暗い印象から一転して華やかな世界観を持つようになったテックベンチャーでのスマートな仕事のスタイルが共感を集めるようになってきた。
ベンチャーの成功者は成金が多いので持つもの身に着けるものはより高価でファッショナブルなものとなり、インターネットの普及でそうした人たちのライフスタイルを身近に知るようになった。苦しい時代ではあったものの希望も同じくらいある時代。それが僕にとっての平成だった。
バブルという狂騒曲が終焉し、地に足をつけて地道に生きていくことの価値を見直すことになった平成においては、日本の独自進化すぎた高番手の打ち込み本数を競うソフトスーツよりもややしっかりした生地のクラシックスタイルが合っていた。そしてその足元もビットモカシンよりはクラシックな靴が似合うようになった。
RENDOの靴は英国調のクラシックをベースに、日本の素材を一部使って、ニッポンの感性でまとめ上げた実用靴。
価格は相対的な感覚的なものなので、4万円の靴を妥当を思う人もいれば、ありえないと思う人もいる。20万円の靴を妥当と思う人もいるし、ビスポークがあたりまえの人もいる。そもそもモノを売価と原価の差額といったモノサシだけで測るのは失礼だという意見もある。それらの意見があることを理解したうえでなお言いたい。RENDOの価格設定は極めて良心的で、僕にとっては過度に神経質にならずに履けて、でもここいちばんという時にも履きたい靴なのだ。コストパフォーマンスなどという言葉は似合わない。僕が買うことできて、履いていることがとても嬉しくなる靴だから。
平成に入ったばかりの頃はオールデンやらジョンロブやらがまだ10万円前後くらいに手に入り、ストール・マンテラッシやドゥカルも元気で、とにかく色気、作り、イメージともに海外勢の圧勝だったように思える。
国産も平和堂さんだとかが頑張っていたけれど、いわゆる「靴好き」というカテゴリーに属する人が見ていたのは海外であり、いまでいうとスーツの生地のように海外のブランドが上位、国産はあか抜けないけれど実用的、みたいな位置づけだった。並木通りにあったこのころの REGAL TOKYO は靴のセレクトショップっぽくって確かオールデンのVチップをダブルネームで売っていたり、アルフレッド・サージェントのOEMと思われる靴を自社ブランドで販売したりもしていた(記憶がややあいまいですが)。
平成も20年も過ぎると日本でもチャーチやらクロケットアンドジョーンズやらを履いている人が増えてきて、そうした海外の靴を好んでいた層に直球勝負をするブランドも登場してきた。
そのひとつが RENDO だった。
僕はたまたまAll Aboutの飯野さんの記事で RENDO を知り、単純に文字通りに受け止めてよいものだという先入観を持って購入した。
ところが最初のうちはかかとは痛いわ小指はマメできるわで、フィッティングはそれほどでもないどころかただの痛い靴だった。
よく RENDO の靴を最初に履いた瞬間にピッタリ感を感じるという意見を目にするけれど、そうして購入した人がその後3か月くらいどうだったのかぜひ聞いてみたい。
僕はもうだめかと何度か思うものの、RENDO 設立のストーリーに共感していたこともあるし、痛い靴でもそのうちフィットが良くなるという教科書的な話も頭の片隅にあるし、そもそもせっかく買った靴なので何とかしようと履いているうちに、驚くほどフィット感が良くなった。
いまはややかかとのタイト感がやや失われている気がするものの、総じてフィット感は良く、履いていて気持ちいい。
長時間歩くような場合は 01DRCD に軍配が上がるけれど、オフィス履きでちょっと外出するくらいならこれほど快適な靴はない、という印象。
僕が RENDO に惹かれたところは、素材がどこ産だとかデザインがどうだとかではなくて、単純にビジネスパーソン(に限らないが)にとって良い靴とは何かを突き詰めていったときの一つの答えがここにあるような気がしたから。
僕がビジネスで履きたいと思っていた靴を具現化したものと出会ったような気がした。
外国コンプレックスなどはなく、単純に「いい靴とは何だろうか」を考えていったらできました、という雰囲気がものすごく素敵に感じた。
アッパーに使われている国産キップは少なくても僕が購入したものはしわが大味に入るなど見た目の良さではおフランスのカーフにはかなわない。
だけど、ソールもヒールも丈夫でほつれてくるようなこともなく、国産キップもいつの間にか柔らかくしなやかになった。厚手に感じるけれど柔らかい。
つくりに関しては製造を請け負っているといわれるセントラルの実力がとてつもないのだろうけれど、きっちりと企画して品質管理して自らのブランドで売っているのは RENDO なのだから、ここは RENDO を評価すべきだと僕は思う。
昭和の時代に生まれた 2504NA が平成になっても全く色あせないのと同じように、RENDO R7702も次の時代、そのまた次の時代になっても決して色あせずに、むしろ輝きが増すだろう。
作り手としてはもう少しお洒落な領域に位置付けているとは思うものの、僕にはとてもビジネス向けの靴に思える。こういう靴がこのニッポンで企画され、Made in Jpaan であることは日本人である僕にとってはこのうえなく嬉しい。
もちろん、RENDO の靴は実用靴である一方で、ちょっとした色気もある。伊達男な色気ではなくて、理系男子的な理詰めな恰好良さ。
RENDO は頑張ってお金をためて買うに値する靴。
だからこそ、初回は絶対に店頭でサイズ合わせをして履いてほしい。リピーターであれば通販を使うのもありかなと思うけれど、初めの一足は店頭でじっくりと履き比べ、見比べて欲しい。RENDO の良さを感じる最初の一歩がそこにある。
2019年3月18日月曜日
2019年3月5日火曜日
平成の逸品 その2「クリーム」 ~ Boot Black Shoe Cream ~
なんとなく思い付きでやっている「平成の逸品」シリーズ。
その1で「汚れ落とし用のクリームと乳化性クリームだけあればよい」とも書いたので、今回はもう一方の乳化性クリームを。
なんといっても平成の逸品を挙げるならばこれになる。
「Boot Black Shoe Cream」
このブログ、国産靴を中心としているブログなので、クリームもニッポン製を贔屓。
一昔前の靴お手入れムックなどを見ていると、サフィールノワールクレム1925の圧勝で、僕もその意見に同感ではあるものの、「平成の」逸品というタイトルで選ぶならばこちらのブートブラックに票を入れたい。
クレム1925のガチンコ対抗馬としてはブートブラックのアーティストパレットがあって、これはこれでかなりいい感じのクリームであるものの、コロンブス社の方針で手に入れにくいのが残念。逸品対象からは外している。コレクションシリーズのクリームもそのストーリーを聞けば聞くほど惹かれるけれど、やはり一つを選ぶならばベーシックなこちらのクリームを挙げたい。
ブートブラックは僕がこのブログを始めてから何度も登場してきたクリームで、RENDO R7702、W10BDJ、ショーンハイト、2504NA など、国産靴の傑作と思う靴に使うことが多い。
最近はやりのビーズワックス強めのしっとり感満載で、クリーナーを使うと結構色が落ちるので、顔料もそれなりに入っているお化粧クリーム。保革だけではなく、ある程度「見せる」クリームなので、使う側の技量によってつややかさに違いが出るかもしれない。
黒い靴にブラック(黒色)のクリームを使うとしっとりとした強めの黒感が長持ちする。
まだ数年レベルではあるものの、ブートブラックでお手入れしている靴にクラック等は発生していないので、保革という観点からも問題なさそう。
(僕はあまりリムーバーなどは使わないので、クリーム重ねがけ状態になることもしばしば)
ブートブラックのクリームはいかにもニッポンのメーカーが靴ブームに乗っかるような形で登場したものの、あか抜けない真面目さが見えてくるようないかにも「ものづくり」しました的なクリーム。ちょっと洒落たデザインを纏っているけれど、やっぱり良くも悪くも工業製品っぽい。
均一な品質管理、幅広い温度レンジといった高スペックを、一瓶ずつ手できっちりぎりぎりまで職人技で充填。感性に訴えるような香りよりも素材組み合わせによる効能を追求したマニアっぽさ。
こういう真面目なものがモテるかどうかは別ではあるものの、ときにはそういうものづくりの姿勢に心惹かれてしまう。大企業の製品でありながら、町工場の技術を感じてしまうのに似た感情を受ける。
なので、日本のタンナーによる素材を使っている日本製の靴にはブートブラックを使うことが多い。Made in Japan つながり。
ブートブラックには多くの色が用意されていて、茶系などもかなり細かな選択ができる。革靴にはあまり見られないストレートすぎる青や黄色があるのもコロンブスならでは。(在庫を抱えなければならないお店は大変だろうに)
ビジネスシーンは黒い靴推しの僕にとっては、黒かニュートラルかという選択で、一つだけ選ぶならば敢えてニュートラル(無色)を選びたい。
ブートブラックは黒蓋の「ブートブラック」と銀蓋の「ブートブラックシルバーライン」がある。前者は当初「プロ向け」みたいな感じだったと思うけれど、いまは「磨きのプロ達が創りあげた」という表現で、後者は「未来のシューシャイニストのための」と書いてある。
意図するところとしてはお手入れがある程度しっかりできる人はブートブラックで、あまりお手入れに時間をかけたくないみたいなライトな人にはシルバーラインという位置づけかな。後者のほうが硬めなクリーム。
それにしても磨きのプロ達が創りあげたというブートブラックシリーズにおいて、プロならまず使わないと思われる小さな使いづらそうなブラシがセットになったシリーズがあるのがなんとも落ち着かない。磨きのプロ達はこれをどう使うつもりなのか。ブランドイメージにイマイチ安っぽさが残ってしまうのはこの辺にもあるような気がする。
前回のブラシの時も思ったのだけれど、どのブランドもこういう小さいブラシを初心者キットに入れてくるのだけれど、これから靴のお手入れを始めようとしている人にこそ大きいブラシを使ってほしい。
カラーについても、もう黄色とか青とかはニュートラルでよいでしょう。色落ちてきたら専門家に染め直してもらえばよいのだから。
ブートブラックはいろいろな商品が展開されているのだけれど、お手入れグッズとしてはこのクリームとソールコンディショナーとコバインキくらいがあればまずは十分かと。お手入れに興味ができたらデリケートクリームとツーフェイスプラスローション(汚れ落とし)買ったらほぼ完成。
靴のお手入れが趣味の領域までくれば、あとは好きなものを好きなだけ買うのでよろしではないかと。
良くも悪くも日本らしさがあるブートブラック。僕の人生において多くの割合を占める「革靴を履いて仕事をする時間」を楽しいものにしてくれる大切なピースだ。
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その1で「汚れ落とし用のクリームと乳化性クリームだけあればよい」とも書いたので、今回はもう一方の乳化性クリームを。
なんといっても平成の逸品を挙げるならばこれになる。
「Boot Black Shoe Cream」
このブログ、国産靴を中心としているブログなので、クリームもニッポン製を贔屓。
一昔前の靴お手入れムックなどを見ていると、サフィールノワールクレム1925の圧勝で、僕もその意見に同感ではあるものの、「平成の」逸品というタイトルで選ぶならばこちらのブートブラックに票を入れたい。
クレム1925のガチンコ対抗馬としてはブートブラックのアーティストパレットがあって、これはこれでかなりいい感じのクリームであるものの、コロンブス社の方針で手に入れにくいのが残念。逸品対象からは外している。コレクションシリーズのクリームもそのストーリーを聞けば聞くほど惹かれるけれど、やはり一つを選ぶならばベーシックなこちらのクリームを挙げたい。
ブートブラックは僕がこのブログを始めてから何度も登場してきたクリームで、RENDO R7702、W10BDJ、ショーンハイト、2504NA など、国産靴の傑作と思う靴に使うことが多い。
最近はやりのビーズワックス強めのしっとり感満載で、クリーナーを使うと結構色が落ちるので、顔料もそれなりに入っているお化粧クリーム。保革だけではなく、ある程度「見せる」クリームなので、使う側の技量によってつややかさに違いが出るかもしれない。
黒い靴にブラック(黒色)のクリームを使うとしっとりとした強めの黒感が長持ちする。
まだ数年レベルではあるものの、ブートブラックでお手入れしている靴にクラック等は発生していないので、保革という観点からも問題なさそう。
(僕はあまりリムーバーなどは使わないので、クリーム重ねがけ状態になることもしばしば)
ブートブラックのクリームはいかにもニッポンのメーカーが靴ブームに乗っかるような形で登場したものの、あか抜けない真面目さが見えてくるようないかにも「ものづくり」しました的なクリーム。ちょっと洒落たデザインを纏っているけれど、やっぱり良くも悪くも工業製品っぽい。
均一な品質管理、幅広い温度レンジといった高スペックを、一瓶ずつ手できっちりぎりぎりまで職人技で充填。感性に訴えるような香りよりも素材組み合わせによる効能を追求したマニアっぽさ。
こういう真面目なものがモテるかどうかは別ではあるものの、ときにはそういうものづくりの姿勢に心惹かれてしまう。大企業の製品でありながら、町工場の技術を感じてしまうのに似た感情を受ける。
なので、日本のタンナーによる素材を使っている日本製の靴にはブートブラックを使うことが多い。Made in Japan つながり。
ブートブラックには多くの色が用意されていて、茶系などもかなり細かな選択ができる。革靴にはあまり見られないストレートすぎる青や黄色があるのもコロンブスならでは。(在庫を抱えなければならないお店は大変だろうに)
ビジネスシーンは黒い靴推しの僕にとっては、黒かニュートラルかという選択で、一つだけ選ぶならば敢えてニュートラル(無色)を選びたい。
ブートブラックは黒蓋の「ブートブラック」と銀蓋の「ブートブラックシルバーライン」がある。前者は当初「プロ向け」みたいな感じだったと思うけれど、いまは「磨きのプロ達が創りあげた」という表現で、後者は「未来のシューシャイニストのための」と書いてある。
意図するところとしてはお手入れがある程度しっかりできる人はブートブラックで、あまりお手入れに時間をかけたくないみたいなライトな人にはシルバーラインという位置づけかな。後者のほうが硬めなクリーム。
それにしても磨きのプロ達が創りあげたというブートブラックシリーズにおいて、プロならまず使わないと思われる小さな使いづらそうなブラシがセットになったシリーズがあるのがなんとも落ち着かない。磨きのプロ達はこれをどう使うつもりなのか。ブランドイメージにイマイチ安っぽさが残ってしまうのはこの辺にもあるような気がする。
前回のブラシの時も思ったのだけれど、どのブランドもこういう小さいブラシを初心者キットに入れてくるのだけれど、これから靴のお手入れを始めようとしている人にこそ大きいブラシを使ってほしい。
カラーについても、もう黄色とか青とかはニュートラルでよいでしょう。色落ちてきたら専門家に染め直してもらえばよいのだから。
ブートブラックはいろいろな商品が展開されているのだけれど、お手入れグッズとしてはこのクリームとソールコンディショナーとコバインキくらいがあればまずは十分かと。お手入れに興味ができたらデリケートクリームとツーフェイスプラスローション(汚れ落とし)買ったらほぼ完成。
靴のお手入れが趣味の領域までくれば、あとは好きなものを好きなだけ買うのでよろしではないかと。
良くも悪くも日本らしさがあるブートブラック。僕の人生において多くの割合を占める「革靴を履いて仕事をする時間」を楽しいものにしてくれる大切なピースだ。
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