2018年5月12日土曜日

革靴のお手入れ

前回は革靴の選び方を中心に書いてみましたが、今回は靴のお手入れについて思うことを書いてみようと思います。

お手入れの世界はそれこそ奥が深くて、僕をはじめとしたお手入れそのものが趣味の一つのような人もいれば、それを生業として日々スキルを磨いている方もいらっしゃいます。
頂点を目指すとストイックな領域に入ってしまいますが、一方でお手入れにそれほど時間をかけたくないと思う人が多いのも事実です。

僕自身もワイシャツはコットン100%でないとダメなたちなのに、アイロンがけは結構面倒だったりします。
なので、「そりゃキレイなほうが良いけど面倒なのよ」という人の気持ちもわからないでもないです。

そんななかで、社会人一年生になって初めて本格的にビジネスシューズを履くことになった人向けに、「こんな感じでどうかな」という一つの方法を考えてみました。


以下、いつもの文体で。


革靴のお手入れについてはそれこそ数多くの方法があって、どれももっともらしい理由があってややこしい。

ブラシと乾拭きだけで十分という立場もあれば、クリームを欲しがるだけ入れるという人もいるし、見栄えだけでなく保護のためにワックス必須という人もいれば、ワックスは靴に悪いという人もいる。

こういう議論は目的(ゴール)を決めて適切な評価軸に沿って論じないと結論が出ないのだけれど、お手入れそのものも趣味嗜好の世界な部分もあるので究極的には何らかのマニュアルを参考にしつつ自分の思うとおりにやれば良いとも思う。

ワックスを使うことで見栄えと靴の保護を両立させることができるのは、ときどききちんとワックスを落とすことができる人で、あまり時間をかけたくない人であれば被膜が傷ついてかえってみすぼらしくなったりひび割れの原因になってしまう。

お手入れに時間をかけることができれば前者のほう靴が長持ちするだろうし、そもそもそんな時間がない(興味もない)人であれば中途半端にワックスのせないほうが長持ちする。

ステインリムーバーやサドルソープも一部で科学的に論じられていることもあるけれど、メーカーが言う適切な方法で使っていて靴がダメになっていないという意見もあるので、使い方間違わなければそれほど悪影響は無いのではないかとも思う。



社会人になってスーツを着て革靴を履くような会社であれば、身につけるもののお手入れは必須。
身なりはその人の仕事能力そのものを表すものではないけれど、仕事に対する態度の一端を表すもの。相手に対して仕事のトータルクオリティ判断の一つにもなる。

身なりが汚い高級すし屋や割烹は見たことがない。おもてなしや礼節が重んじられるシーンになればなるほどそれ相応の身なりへの気配りが必要になる。

いくら数十万円のスーツを身につけていても、パンツに折り目がなかったりジャケットがしわだらけだったりしたらそのスーツが持つ本来の力を発揮できない。
逆に、つるしの19,800円のスーツだとしてもパンツはいつもプレスされていて、ジャケットは襟のロールがふんわりしていれば十分すぎるほど格好良い。

革靴についても、高級な靴ほど素材が持つ力がでるものの、一般的なビジネスシーンであればむしろ汚れが目立たないピカピカの靴のほうがお客様にも、上司にも、同期の異性にも評価が高いのは間違いない。

身だしなみに気を配るということはビジネスパーソンである以上、必須の行いともいえる。

靴のお手入れというと「面倒くさい」という印象があるかもしれないけれど、日々のタスクとしてはそれほどでもなく、それでいて周りの印象を良くできるのだから時間の費用対効果はいいと思う。


と、あれこれメンドクサイ理由付けを抜きにしても、身につけるものがきれいであるって単純に気持ちが良いって感じでしょうか。



そこで、お手入れは面倒だけれど、やっぱりきれいなほうがいいよな、という人向けに「いったい何をするの?」ということについて考えてみたい。


まず、用意するものから

買うものは

・大き目な馬毛のブラシ

・乳化性の靴クリーム


だけ、これ以外はひとまず不要。
お手入れが習慣化されてきたり、その行為自体に面白みを感じてきたらいろいろ追加すればいいと思う。

家にあるもので賄うのが

・使い古しのインナーシャツ(コットン100%のもの)
・使い古しのタオル
・使い古しの歯ブラシ

の3点。

ない場合は専用のお手入れグッズを購入してもよいと思う。
靴のお手入れに慣れてきて消費量が増えてきたら改めて入手方法を考えるくらいでいい。

あと、直接お手入れには関係ないけれど

・シューツリー

はあったほうが良いかも。




毎日のお手入れ

家について靴を脱いだら「大き目な馬毛のブラシ」で靴全体をサッサッとブラシ掛けする。汚れを落とすのが目的なので片足5秒もやれば十分だと思う。
5秒やろうとすると、思ったより汚れていれば10秒以上やるので、まずはブラシを手に取る習慣が大切。
そのうち、寝る前に歯磨きをしないと気持ち悪いのと同じように、靴を脱いだらブラシをかけないほうが気持ち悪くなる。



週に1回くらいのお手入れ

使い古しのタオルを濡らしてからしっかりと絞って、それで靴全体を優しく拭う。
目的は泥汚れなどを落とすこと。あまり神経質にゴシゴシする必要は無し。むしろあまり強い力でこすってしまうと革にダメージを与えかねないので、あくまでも拭う程度。
タオルに前回の靴クリームの色が移るようであればクリームを追加で塗らなくてもよい。

夏場はカビやすいので、お手入れが終わったら風通しの良いところにおいておく。
エアコンが効いている部屋の片隅あたりが良いのだけれど、家族がいる場合は難しいケースもあると思うので、その場合は玄関に置いておく。(シューズクローゼットには最低一晩は入れない)



1カ月から数カ月に1回くらいのお手入れ

使い古しのタオルで拭う際に色があまり移らないと感じたらクリームを塗る。
クリームは使い古しのインナーシャツに少量を取り、全体に薄く塗る。
たいていは塗りすぎる傾向になるので、意識的に少なめにして表面に薄い皮膜ができればよいという程度。目安は片足米粒5個くらい。

次に歯ブラシでこれまた少量のクリームを掬ってコバの部分にも塗り込んでおく。

最後に使い古しのインナーシャツのきれいな部分で靴全体を磨いておしまい。
全体で10分もあれば終わる。
もし時間に余裕があれば、インナーシャツで磨く最後の工程の前に30分くらいおいておいてもよいと思う。

靴の中を軽くウェットティッシュで拭いてもよいかもしれない。特につま先には埃がたまりやすいので。

ここまでやれば隣の同期と比べて何倍ものお手入れがされている状態になるので、わかる人が見ても好印象なスタイルが出来上がる。
もし、靴のお手入れそのものが楽しくなってきたのであれば、自分の靴なんだし好きなようにやっていけばよいと思う。小さな失敗はあるかれもしれないけれど、今はネットで先人の智慧を拝借できるので調べながらやれば大きな失敗は避けることができる。仮に失敗してしまってもそれが経験値となり、次に買う高級靴では同じ過ちを繰り返さないはず。




僕自身は靴のお手入れ自体は好きなものの、普段履きのビジネスシューズは日々の汚れ落としくらいで、ブラシをかけて拭いておくくらいで十分と思っている。
見た目を重視するならある程度クリームの塗り直しが必要であっても、単なる保革というのであればそう頻繁に塗る必要もないのかなと。

数ヶ月に1度もクリームを入れないと保革ができないというのであれば、デッドストックの革なんてボロボロで使えないじゃん、ということになってしまうし、ずっと塩水漬けだったロシアンカーフなんて商品価値が出るはずが無い。

乾燥は大敵、油分を切らさないようにというのはそのとおりではあるけれど、その頻度や量についてはクリーム屋さんの過剰なセールストークに乗せられているのではないかと思う。商品が多すぎて、何を買えばよいのかわからなくなってくる。


とはいえ、僕のようなお手入れ好きはお手入れすること自体も好きなので、靴を極端に悪くしないのであれば、必要十分以上と解っていても、何らかのお手入れをしたくなる時もある。
これは栄養に必要な物を過不足無く食べればいいじゃんという意見に対して、カロリー超過や特定の栄養素に偏っても美味しいものを食べる事自体に価値を持つのと同じではないかと。

ツールである靴に必要十分なお手入れをするだけでは味気なくて物足りない。目的が革本来の力を活かすのであれば過剰なお手入れは本来の革が持つ力を発揮できないだけでなく、時間と材料費の無駄だけれど、お手入れすることが楽しいというのであればそれを優先させても良いのではないかと。
よくあげられるメイクで言えば、肌のコンディションを整えたいということはあるけれど、それ以上にメイクをすることが自体が楽しい、みたいな。

クリーム屋さんが高額商品を次々に出す反動で、実はそれほどお手入れをしなくても良いという意見が強くなりつつあるのは、緩履きに対するタイトフィッティングと同じで後者のほうが「わかっていること人」的な位置づけになっているだけな気がする。

なので、僕は好きな時に好きなだけお手入れをする。
忙しいときはお手入れどころでもないのでお手入れの優先度が低い靴にクリームを塗るのは年に1回くらいになってしまうこともある。

履く頻度が高い靴は雨に降られる確率も高く、塩も出てくるので水洗いをする。そのため、きっちりお手入れする頻度も上がる。

結局、必要に応じて靴のお手入れがなされる、と。


人生、必要十分なことだけを費用対効果で考えるだけでは面白くない。
革靴のお手入れそのものが趣味ならば、明らかにダメにすること以外ならばやってみるのも悪くない。お手入れの後、きれいになった靴はそれだけで気分がいい。

時間の使い方でどこに価値を見出すかは人それぞれ。単に面倒ならばごくごくシンプルに、何をもって必要十分なのかがわかれば、それをとりあえずやっておくだけでもいい。一度靴のお手入れに価値を見出すことができれば、それが喜びにつながり、楽しくなるのもまた事実。


靴のお手入れ論はもうそれこそ山のようにあるけれど、本当の最低限度ができるようになればあとは好きなようにすれば良いのだから、意外とシンプルな話。

まずは今日履いた靴をブラッシングしてみませんか。



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まずは汚れ落とし用のブラシと靴の色に合わせた乳化性クリームを用意します。とりあえず店頭で購入しやすいのはコロンブスのブラシとブートブラックのクリームかな。シルバーラインなら近くのお店で入手しやすいかも。




できればシューツリーを用意します。しわを伸ばす目的なので長さと幅がしっかり取れるものが良いです。
僕の使ったものの中でいうとディプロマットヨーロピアンがいい感じでした。




ちなみに歯ブラシは古くなったものをきれいに洗って使えばよいのですが、お手入れ用に安いものをまとめ買いしてもいいかなと思っています。



今回はクリームをなじませるためのブラシなどは用意していませんが、ブローグの靴などの穴があいているところやギザギザの部分にクリームを入れるためにはブラシがあると便利です。
布でクリームを塗ったら、すぐにブラシをサッサッとかけます。




仕上げもコットンのインナーシャツよりはネル生地っぽいもののほうが艶が出やすい感じです。

2 件のコメント:

  1. すごく良い事が書いてあると、共感します。本当にその通りだと思います。贅沢なのかもしれないけど、必要最低限の強要だけじゃ、楽しく続けられないし、その先に愛情ある靴の手入れ、道楽があると感じます。

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    1. コメントありがとうございます。

      革靴のお手入れって、一度習慣化されると苦にならないですし、その時間が贅沢に感じられるような道楽になるのがいいですよね。

      革靴の良いところはお手入れを繰り返すうちに出てくる雰囲気で、必ずしも新品がいちばんというわけではないところかなと。ダメになるのは雨に降られたり他の人に踏まれたことではなくて、そういうダメージを受けたことで靴に対しての愛情が失われることにあるのではないかと思うのです。

      ビジネスシューズである以上傷や汚れは避けられませんが、それ自体が自分自身の活動の記録でもあり歴史です。お手入れはそれをさらに深める手段の一つだという気がします。多少の傷があってもていねいにお手入れされている世界にたった一つの靴のほうが私には格好良く見えます。

      更新に間が空きがちですがこれからもどうぞよろしくお願いします。

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