2013年8月31日土曜日

社会人3年生のビジネスシューズ

「これから革靴をどう揃えるか?」
というテーマで書かれた本やブログを見ていると、多くに次のパターンが紹介されている。
  1. ブラックのプレーントウ
  2. ブラックのストレートチップ
  3. ブラウンのブローグやUチップなど(記事を書く人のセンスと教養による)
これはこれでひとつの回答なのだけれど、ふつうにスーツを着ることが必要とされる職場であれば僕はもう少し保守的な方がいいと思う。

僕がもし社会人3年目で、もう一度新たに靴を揃え直していこうという立場だったらどんな靴を買うだろうか。

社会人も3年目くらいになると、とりあえず晴れの日も雨の日も毎日履いていく靴は最低限あるだろうけれど、周りからもフレッシュマンと違って「社会人」としてやっと見られ初めるようになるこの時期だから、靴も大人入りを目指すのもいいのではないかと。

まずオシャレであるとか、自分の好みよりも「相手にどう見られるか」をキーにして、どんな場所に行っても恥ずかしくない組み合わせを優先する。

結局、
  1. ブラックの内羽根ストレートチップ
  2. ブラックの内羽根ストレートチップ
  3. ブラックの外羽根プレーントウ
という組合せに落ち着く。

手持ちが少ないうちはまずブラック中心に揃えるのがベストかなと。さまざまな価値観を持つお客様に接したり、年配の人に会うような場合はブラウンはキケンである。
堅い職場でブラックの靴がほぼ暗黙の了解として履かれるのは、決して意味のないルールではなく、大きな商談を決裁するキーマンがどういう人かを考えて、正統的で無難なものが選ばれているのではないかと思う。

ブラックとブラウンではブラックのほうがフォーマル度で格上とされている(冠婚葬祭の定石もブラックのストレートチップ)。ビジネスでブラウンの靴を履いて会うという事は、ややカジュアル態度であり、相手の格をややくだけた服装で会う人とみなしている、というメッセージになってしまう。髪の色でも「黒=真面目、茶=軽い」というイメージを持つ人が結構いるわけで、靴でも同じ事が言える場合がままある。

イギリスでは「ブラック=仕事用」「ブラウン=休日用」という考えを持つ人がいるという。さすがに日本ではそう考える人は少数派なものの、ビジネスシーンでのオシャレ感度が高い人はそういう情報を持っているだろうから、意図せずにその情報が人を判断するときに影響することもある。

そこまでを考える人がいると認識をすることがビジネスシーンにおいてとても重要なはず。とにかくブラックにしておけばマイナス点がつかないのだから、あえて自滅するような選択肢を取る必要は無いと思う。

ブラックで統一すると、カバンやベルトもブラックだけで良いので手持ちが少ない時は使い回しがきくというのもある。
メンテナンスグッズもブラックとニュートラルの乳化性クリーム、ブラシも汚れ落としと磨き用1つずつで事足りるのでかさばらない。靴紐のストックも1色で済む。

それに、ブラックの靴はどんな色のスーツにも合わせやすい。


まず最初はストレートチップを2足。
ストレートチップはマジメなスーツスタイルの満額回答で、社会人であれば必ず持っているべきものといわれている。だから最低2足は欲しい。
というのも、冠婚葬祭はブラックのストレートチップに限るのだけれど、1足しか無いとストレートチップを履いた日に雨に降られて、翌日急なお葬式などが入ってしまうと困ってしまう。濡れた靴を連続するか、違う靴を履くか。天気予報が外れることもあるのだから、やはりストレートチップは2足持っているべきなんじゃないかと。
人によってはかなりドレッシーなデザインなのでややくだけたスタイルに合わせるのに違和感を持つ人がいるかも知れない。でも社会人3年生にとって「正装すぎる」ことが問題になることはまずないので(逆は大いに有り得る)、やはり最初に必要なのはストレートチップではないかと思う。

無難なストレートチップ、リーガルの01DRCD。ふだんのビジネスシーンから冠婚葬祭までオールラウンドに活躍する靴。雨に降られるとシミになりやすいので、どちらかと言うと晴れの日向き。

ややスクエアなトウのリーガルW131。アッパーは国産キップ。この素材はややエレガントさに欠けるものの、傷がつきにくく比較的丈夫で雨でもシミになりにくく扱いやすい。デイリーユース向けにはとても適していると思う。僕は雨の日にこの靴を履くことが多いけれど、今のところアッパーは傷んでいる感じでもない。さすがにレザーソールなので少し経つと水が侵入してくるけれど、この靴はレザーソールにしては濡れた時の減りが少ない。ソールが乾いたあとも毛羽立ち感が少ない。


最後にプレーントウ。
はっきり言ってストレートチップ3足でもいいくらいなのだけれど、せっかくなので3足目はプレーントウにしてみる。
オーソドックスな5穴の外羽根プレーントウでも穴の少ないVフロントと呼ばれるタイプのどちらでもいいと思う。3年目なら5穴のほうがいいかな、くらい。過度にトンガリなものを避ければ長い間履けるしスーツスタイルを選ばない。
まだ社会に出て数年の20代ならプレーントウで冠婚葬祭に出てもまぁ許容されるだろうし、比較的マジメスタイルからやや崩し目のスタイルまでカバーできる便利な靴だから、初期のワードローブにあると便利。ただ、シンプルなプレーントウは意外と売っていないもので、国内でそこそこの価格で容易に手に入るものは少ない。
リーガルW134。都道府県庁所在地にはたいていあるリーガルシューズで購入できるプレーントウ。極めてベーシックな形でサイズのほかウイズ(幅)も3種類から選択できる。アッパーはストレートチップのW131と同じ国産キップ。実用的な靴だと思う。


とりあえずこの3足があればなんとかなる。
僕はレザーソール派なので、3足ともレザーソールをピックアップしているけれど、今後、天候にかかわらず外回りが多い仕事に就くことがわかっている場合はプレーントウとストレートチップのうち1足をラバーソールにするかもしれない。
社会人1、2年生の時にラバーソールの靴を何足か買っているので、雨の日対応はそれに任せるというのもある。

本来、ドレスシューズにはレザーソールが合うし、レザーソールの履き心地に慣れてしまうとラバーソールは履きたくなくなるのだけれど、社会人3年目であればそんなにお給料が多いわけでもなく、また他にも使いたいことがたくさんあるので、減りにくい丈夫なラバーソールを選ぶという選択肢も十分考えられる。一方レザーソールの通気性は間違いなく良く、夏に靴内の温度が上がりにくいので快適。多分悩んでレザーソールを買ってしまうだろう。

ちなみに、レザーソールでもメンテナンスさえしっかりすれば雨の日に履いてもそんなに大きな心配をすることはない。ソールがなんであれアッパーは濡れるわけで、違いは滑りにくさと減りにくさくらいではないだろうか。むしろ歩くことが多いからレザーソールの通気性を取るということもあるだろうし、雨の日もレザーソールのほうが蒸れない。減ったら張り替えれば良いと割り切ることもできる。(ただし、お客様先で靴を脱ぐことが多い仕事であればレザーソールは水が滲み込みやすく靴下を濡らすので避けたほうがいいかも)

ついでにお給料がでたりボーナスがでたら買い増ししたいものは、

4足目「ブラックの外羽根クォーターブローグ」
5足目「ブラックの内羽根パンチドキャップトウもしくはクォーターブローグ」

あたり。夏にクールビズ強制の職場だとストレートチップより少しスポーティな感じが入るブローグがあると便利。トウのメダリオンは(若い)女子ウケがあまり良くないことがあるので敢えてクオーターブローグあたりで。(靴に対して正統派の人からすれば下世話なチョイスだけれど、「社会人3年目」という立ち位置を考えると、礼節を保ちつつ、女子ウケすることも大切なので)
ストレートチップ2足に対して、ブローグ系も2足で。4足目を敢えて外羽根にしたのは、ややドレスダウンを意識している。また5足目とあまり被らないようにというのもある。
ブラックのクオーターブローグならネクタイ締めてもサマになるし、アンタイドスタイルにも合う。ブラックなのでカバンやベルトを買い増しする必要もない。

5足あれば当面はビジネスシーンで困ることはなくなる。
3足だと2日連続雨となった時、十分に靴を乾かせたり休ませたりすることが出来ないことがあるので、できれば頑張ってベーシックなものを5足揃え、ここを新たなスタートにしたい。

6足目以降は職場の雰囲気を見ながら好きなものを揃えていけばいいと思うし、少しずつ高い靴を揃えても良いと思う。別にビジネス用の靴はこれで当面(ヘタすれば数年)買う必要もないので他のモノにお金を回してもいいと思う。

靴はその人のファッションに対する意識と傾向をいちばんはっきりと表す。クラシックな基準に合わせればどんな場所でも誰にあっても外すことがない無駄のない選択になるのは間違いない。

実際に僕が3年目あたり(もう20年近く前だけど)に買った靴は旧ジョンストンアンドマーフィーアリストクラフトの外羽根ストレートチップ(なぜかこんなモデルがあった)、モンクストラップ、Uチップ(色は全てブラック)と今考えてみるとビジネスシーンにはちょっとズレたものばっかりだった。当時は雑誌でもスーツスタイルにUチップなんてのもわりとふつうに紹介されていたし、プレーントウといえばオールデンがあちこちで取り上げられていた。初めて内羽根のストレートチップを買ったのは30歳を超えてからと、いま考えると遠回りな揃え方をしていた気がする。



--------

2013年8月1日木曜日

Shetland Fox 3029SF INVERNESS

シェットランドフォックスが定番として位置づけているインバネス(Inverness)。


とはいえラインナップされているものはデザインがかなりアグレッシブなので、定番とはいえベーシックなモデルといえるのはこのストレートチップ(3029SF)くらいなんじゃ...
ホールカットのようなウィングチップだったり、羽根の部分だけ色違いのプレーントウだとか変わり種のデザインを用意しているのに、ストレートチップはブラックしか無い等、正直商品開発の人は何を考えて定番としているのか謎なモデルといえる。

丸めのトウ、小さめのかかと、低いけれどあまりそう見えない甲周り。ややロングノーズ。

アッパー素材は仏アノネイ社のボカルー。
キメの細かさとか、手入れしてる時の楽しさとか、磨きこむにつれて鈍く光るところとか、価格を考えるとかなり満足度の高い靴。
ボカルーやベガノは購入時点だとやや艶やかさが足りなくて、どちらかと言うとさらっとした感じなのだけれど、手入れを繰り返すと恐ろしいほどに底光りしてくる。イルチアのラディカとは異なり、ムラ感は無くて極めてシンプルにブラック。クリームの乗りというか吸収が他の革よりも良くて、極めて薄く塗るとどこまで塗ったかわからなくなるくらい。

ボカルーはちょっとでも水が跳ねるとすぐにシミになる。濡れた直後は少し水ぶくれっぽくなって、その後乾いてくるに従いシミとして残る。この手のアニリンカーフの靴を購入するたびに、「今度はていねいに扱おう」と思うのだけれど、帰宅後ていねいにブラッシングすればある程度目立たなくなることが多いし、きちんとメンテナンスすればほぼ元通りになることが多いのでしばらく経つと気にしなくなってしまう。(ズボラになる)

履き心地としてはグラスゴーが見た目以上にゆったりなのに対して、こちらは見た目よりタイト。
甲が低いので、シワが出にくく、また二の甲、三の甲ともに低めで薄めの足でも羽根が適度に開くため、紐でキリキリ締めることができる。購入時点ではキツ目に締めて左足で1cmくらい、右足で1.5cm弱開いていたが、20回くらい履いて左足で数ミリ、右足で5mmちょっとくらいに落ち着いた。
グラスゴーはボールジョイントのどちらかと言うと親指側で支持する感じが強いが、インバネスは親指側のフィット感はそのままに、小指側のフィット感をさらに強めた感じ。ロングノーズとはいえ靴の先端のカーブに入るところが早いのかもしれない。。
土踏まずの感じはグラスゴーとそれほど差がないと思う。
このラストはかかとがコンパクトなため、いい感じにかかとを掴む。このかかとのフィッティングを体験してしまうと、緩めのかかとでは物足りなくなる。

ソールの返りもよく、歩きやすい。ソールのデザインも新品状態ではややもするとゴム底っぽい見た目のグラスゴーよりインバネスのほうがクラシックな感じがする。(誰も見ないけど)
しかも、エジンバラやグラスゴーのソールより減りにくい。

シェットランドフォックスはフラッグシップのケンジントンがかなりマニアックな作りをしているため他の靴が目立たないのだけれど、このインバネスはボカルーを使いていねいな縫製。シンプルなグッドイヤーウェルトであればソールの張替えが何度かできるので、長く履くことができそうなのも安心感。目立たないけど、優等生な靴。
価格もほぼ4万円で、靴が好きな人から見たら高くない、というかむしろ安いくらい。靴はある程度履きこまないとその良さがわからないし、10年後どうなるかはまだわからないけれど、海外のスタンダードクラスの靴と比べても決して劣るところは無いのではないかと期待している。

返すがえすもなぜ定番ラストといっておきながら、セミブローグだとかプレーントウだとかの定番デザインが出てこないのだろう。(REGAL TOKYOの九分仕立てにあるようなプレーントウがあったら速攻で「買い」なのだが)この手の先端が丸い靴のほうがプレーントウとして使い勝手が良いと思う。Vフロントよりは5アイレット外羽根あたりが似合いそう。

インバネスはシェットランドフォックスのパターンオーダーでもモデル別2位と人気なモデルだし、とんがり靴が苦手な人にはベーシックなデザインはウケると思うけどなぁ。
インバネスのようなモデルはチャーチのコンサルやディプロマットのような長く愛されるモデルになってほしい。この辺りのポジションは比較的新しいアーバインがその役割を担うのか?アーバインは甲が緩すぎるのが欠点。

シューツリーは靴のサイズ6に対して、ディプロマットヨーロピアンの39を入れている。
購入当初はバネが完全に閉じるくらいキツキツだったが、今だと5mmから1cmくらいの隙間がある。
バネ式ツリーは常にテンションが掛かった状態になるので、長期に(1ヶ月以上)入れたままだとトウスプリングがなくなってしまうので、ネジ式がいいらしいと日比谷のシェットランドフォックスでは言っていた。プロが言うんだからそうなのだろうけれど、ただネジ式でもそれなりにパンパンにセッティングしたらやっぱり伸びた状態で固定されるんじゃないかなと素人的には思ったりもする。ま、テンションが掛かったままなのと、一定以上は伸びないのとでは確かに長期保管に差が出るかもしれない。

メンテナンスは日々はブラッシングだけ。だいたい3、4回履いたら薄めにサフィールノワールクレム1925を塗り、何回に一回かM.モゥブレイのデリケートクリームを薄く塗る(気休め)。10回も繰り返せば見た目もしなやかになってきて、ソールも馴染んできてかかとが抜けなくなる。

シェットランドフォックスで最初のストレートチップを買うならば、インバネスの3029SFがイチオシ。デザインは奇をてらったものではないし、アッパーも手入れ次第でどんどん成長する。リペアも全国のリーガルシューズで受け付けてくれるしで、安心してガンガン履ける。ブラックはシミになるといっても目立ちにくいので雨に降られてもきちんとアフターケアすれば良いのだから。

Shetland Fox 3014SF KENSINGTON

シェットランドフォックスのフラッグシップ、ケンジントン (Kensington)。

Made in Japan の量産型既製靴最高峰クラス。
素材、製法、ラストも含めたデザインにおいてこだわりが随所に見られる靴。

メダリオンのないフルブローグは個人的にはスーツスタイルに合わせやすいので好印象。メダリオンがないセミブローグがクォーターブローグなら、これは3/4ブローグなのか?

デザインは一見ごく普通のラウンドトウ(ややポインテッドか)。しかしその造形はめちゃくちゃ曲線が複雑に入り組んでいる。中心線を入れようとしても無理みたいな。

前半部分は耐久性と履き心地に有利なグッドイヤー・ウェルテッド、土踏まずあたりの中央部分は薄く仕上げることのできる(屈曲性が良い)マッケイの合わせ技。こういうマニアックな作り方って海外のメーカーにもあるのだろうか?


トウは少しばかりボリュームがある一方で、土踏まずのあたりは思いっきりえぐってあり、しかも厚みも薄い。甲とかかとはシェットランドフォックス再スタート時からのモデル、つまり初期モデルのためやや保守的に大きめ。同じシェットランドフォックスのインバネスやグラスゴーに比べるとハーフサイズ大きい感じで、実際僕はインバネスは6でも指先にキツさを感じるが、ケンジントンは5ハーフでもキツさを感じない。

ハースサイズ落としても、むしろ指周りはインバネスより余裕があって、新品時の小指の圧迫感がほとんど無い。同サイズで比較すると旧ジョンストンアンドマーフィーよりも指周りははるかに大き一方、かと言って全体が緩いわけではなく、甲周り、特に外側が少し薄めにできているようでフィット感はいい。インバネスだとハーフサイズ大きいにもかかわらず小指の先に行くほど圧迫感があるが、ケンジントンではボールジョイントの外側全体がタイトな感じ。(サイズを落としているためボールジョイント周りが小さいのかもしれない)
特に土踏まずの内側もそうだが、外側から甲を抑える感覚は他の靴に無い独特のもの。
比較的緩いと言われるかかとも、ハーフサイズ下げていることとソールの返りの良さのおかげで特に問題ない。
エジプト型の自分の足との相性という意味では、これまで履いた靴の中で1、2を争う履き心地。

アッパーはシェットランドフォックスがイチオシの伊イルチア社ラディカ。独特のムラ感と艶は素晴らしい。
この革(ブラック)は購入時はややムラ感のあるブラックで、ニュートラルでお手入れを繰り返していくと、少し赤みがかってくる。こうなると、光加減、光の種類(日光、蛍光灯、白熱灯)、角度によってさまざまな表情を見せる。

冠婚葬祭用ストレートチップであればブラックを使い続けてみるのもありだろうし、ニュートラルだけでお手入れをしていってブラウン度合いを増すのもありなのかと。表情が多彩なだけに化粧のさじ加減が印象を変える革。

エジンバラの時にも書いたのだけれど、このラディカはリーガルの通販サイトではニュートラルで手入れをしたほうが良いと書いてあるが、リーガルトーキョーではブラックのクリームを使っていた。ニュートラルだけだと全体的に色が抜けてくるので、補色をしつつ、色が入り過ぎたらニュートラルで落とすとか。

ブラックといってもどちらかと言うと赤系のブラックなので、ブラックのクリームを使うならサフィールノワールあたりと相性が良さそう。隠し味としてネイビーを使うのはラディカにおいてはやめたほうが無難かも。僕の中でこの靴はビジネスシーン用とはいえややくだけたポジションなので、ニュートラルでメンテナンスをしている。

ところでこのケンジントン、履き心地に関しては全く問題ない最高の靴なのだが、敢えて苦言を言うならば検品がいい加減なのではないかと感じるところが見られる。

僕の購入したブローグは、ブローギングがきちんと繰り抜かれていないところが3か所あった。ちょっと見ればすぐわかるし、そもそもブローグのウリのひとつはこのブローギングにあるのだから、1足(左右合わせて)で3つもある事自体検品しているのかと疑う。
写真真ん中あたり。他にも大きいもので1つ、小さい穴で1つきちんと抜かれていないものがあった。穴を抜くときにも、縫うときにも、検品でもすり抜けてしまうとはいかがなものか。

ソールの仕上げも結構いい加減である。(購入時に撮った写真)
かかと部分なら試着で多少減るだろうが、全く他に触れることがない土踏まずが全体的に白っぽい。染料が悪いのか検品が悪いのか、そもそもこの程度のクオリティなのか不明。リーガル通販サイトの写真ではもう少し綺麗な感じがする。ちなみに他のケンジントンもソールのヒドゥンチャネル仕上げが雑だったりと、パターンオーダーでオプション価格払ってこの仕上りが出てきたらさすがに怒るわな。
こちらも購入時の写真。この前シェットランドフォックスのBグレードセールの時に似たようなものを見た気がする。(これは正規品)

よく「職人が〜」という表現がなされるが、どう見てもこれは熟練ではない作業員レベルの完成度。手作業の工程があって、さまざまな熟練度の人が作っているのだから、製造過程である程度のエラーは当然に起きるだろう。ただ、製品に最終責任を持つ人がフラッグシップを作っているという自負があれば素人でも気になる程度ものはハネるのがあたりまえで、それが十分にできていないのはリーガル社の体制にどこか問題があるのだろう。リーガルの検品は厳しいということが書かれているブログもあるけれど、安定していないのかもしれない。
ビスポークは別として、既製靴は工業製品なのだから、きちっと仕様どおりに作るってことが大切なわけで、今後のクオリティの向上に期待したい。

ま、このあたりは靴としての実用には全く問題がないので個人的にはどうでもいいのだけれど、靴作りの姿勢や情熱が足りない感じがしてしまうのが残念だった。気になる人はケンジントンを買うときに良くチェックすると良いと思う。
(ブローグのところはむしろ盗まれた時など特定できるから却っていいかもしれないな)

とまぁ、細かいところでのオイタはあったにしても、やっぱりケンジントンはトータルでは素晴らしい靴で、買ってよかったという気持ちに変わりはない。メイド・イン・ジャパンの靴として応援したいし、日々一生懸命作っている現場の人には敬意を示したいとおもう。より品質を向上してもらって、世界に打って出るくらいの気持ちでやって欲しい。

フィッティングはこれまでにない感覚で、レースアップのほかローファー(3043SF)に足入れした時も紐がないのに足に吸い付くというかなんとも言えない感覚。この靴は指周りに余裕があるので、いつもより小さめなサイズにしたほうがフィッティングの真価を発揮しそう。内羽根はこのセミブローグの3014SFのほか、キャップトウの3013SFがある。ぜひケンジントンのラストでセミブローグやVフロントあたりを作って欲しいと本気で思う。タッセルよりも需要がありそうな気がするけど。

シューツリーはケンジントン専用の291を入れている。専用にしては値段も税込み10,500円と良心的だと思う。このツリーはトウスプリングがしっかり取ってあるのがありがたい。入れるときはわりとゆるく、どちらかと言うと抜くときに気合がいるツリー。ちょっと生産量が少なすぎるかな。もう店頭販売の在庫全部オンラインショップに集めて、もう少し在庫をおいてほしい。靴が売っているのにツリーがいつも売り切れではなんのための専用ツリーかわからないので。

ケンジントンの最大の特徴である前半グッドイヤー、後半マッケイという特殊な作りのためリペアが心配だったが、状態にも依るが1、2回はできるっぽい。靴の構造からすればマッケイ部分の状態次第ということだろうか。ただ、オールソールは2万円くらいになるだろうとのこと。
僕は歩く時間が多い日はもちろん、雨でもお気に入りの靴を履きたい人なのだけれど、それは革底はリペアできるという理由だから。グッドイヤーウェルテッドより交換回数が少ないのは気になるところではあるけれど、ケンジントンのソールはシェットランドフォックスの中でも減りにくいと感じているし、いままでも3度以上交換した靴は無いのでローテーションを工夫すればそれほど気にする必要はないかもしれないかな。