2015年12月13日日曜日

2015年を振り返ると

街がクリスマスの色に染まるこの時期、もう2015年も終わりに近づこうとしている。

今年はW13BCFの一足しか靴を買っていないので、Shoes of the year も何も無いのだけれど、このW13BCF は何回か履きこむにつれ、やっぱりなかなかの逸品ではないかと思う。

スエードということもあり、全体的に柔らかい印象。ソールもレザーなので反りが良くて、足を柔らかく包み込むような履き心地。全体的に固いW10BDJとは打って変わって、履き始めから履きやすい。つま先ゴムもあまり減らず、これはこれでカジュアルであまり細かいことを気にしないで履けるいい靴だなと。

また、今年はいまさらながらSNSデビュー(笑)
靴好きもそうでない人も、革靴について話そう。
最近はこっちが気になって、いろいろな人のお手入れの写真だとか、考え方だとかとても参考になる。みなさん磨き方がとても上手で、見習ってレベルを上げたいと思います。

1年間で14記事しか書いていないのだけれど、ありがたいことに今年もたくさんの人が見てくれて、コメントもいただいた。始めた頃は自分の手持ちの靴の印象を単につらつらと書いていたのだけれど、流石に最近は靴そのもののネタが尽きてきたので、お手入れとか単なる思いつき文章が増えてきている。
一記事に時間をかけてしまうと数が増えないので、来年はもう少し軽いものと気合の入ったものの二本立てにしてもう少し更新頻度を増やしていけたらいいなぁと。

ところで、このブログの先月アクセス数は「革靴のサイズ選び」へのアクセスがダントツでいちばんに多い。次が「革靴を水洗い - REGAL 01DRCD -」そして3位がなぜか「ビジネスシーンでのド定番『白シャツ』」になっている。
サイズ選びはやっぱり悩む人が多いのかな。僕も最初に革靴を買ってから10年くらいしてやっと自分のは着心地の良いサイズや選び方がわかった気がする。最初はどうしても大きめのサイズになってしまっていた。次にその反動で今度はきつすぎるくらいのサイズ選びになり、その時期にできたマメがいまでも残っている。いま思えば、最初の頃の大きめサイズも今だから大きめと思うだけで、ジャストサイズ+ちょっとくらいだったので、甲をきつく締めることで、意外と指やかかとへのダメージは少なかったのかもしれない。
素人の僕が書いた記事によって靴選びを左右してしまうかもしれないと思うと、これからもいい加減ではなく客観的に正しいことと主観的なことがわかるようにきちんと書かないとなと身が引き締まる。

また、意外とシャツを検索する人が多いのか、それともシャツ自体の記事が世にあまり無いのか、2015年に書いたもので、トップ5に入ったものはこの記事だけ。
新生蝶矢シャツとか、コンブリオとか国産の良いシャツがたくさんあるので着てみたいなと思いつつも、シャツはやや消耗品的なところもあり今のところ敷島綿布の土井シャツが僕にとってのベストだと思っている。(素材が国産というところにも国産好きの僕は惹かれるわけです)

来年はまだ書いてない何足かの靴と、クリーム比較ネタでもやろうかなと。今月から始めたブートブラックとブートブラックシルバーラインに加えて、メーカー間で比べたら面白そう。
久しぶりにビジネスシューズを買おうと思っているので、どれにしようかなーとネットで見ている。

・シェットランドフォックスブライトンのキャップトウ
・シェットランドフォックスブリストルのセミブローグかキャップトウ
・三洋山長友二郎
・リーガルトーキョー九分ラスト既製のキャップトウかVフロント
・ショーンハイトボックスキップのパンチドキャップトウ
・MIYAGIKOGYOの既製キャップトウ
・RENDOプレーントウ
・ユニオンインペリアルの2Eラストホールカット

あたりは気になるなぁ。

ところで、16日までアマゾンでセールやっているのですね。
上記で言うと山陽山長とRENDO、ユニオンインペリアルが20%オフで買えてしまう。
時々アマゾンはセールしているけれど、サイズがわかっているならいいのかも。




RENDOが3万円ちょっとで買えるってのはちょっと気になる。プレーントウのレザーモデル扱っていればなぁ。
もっとも友二郎も6万円切るのだから、思い切って買ってしまうというのもありかな。山陽山長はトータルファッションブランド化してきて少し安っぽいイメージが(僕にとっては)してきているので、そこがちょっと残念。(コートあたりも商品自体はいいと思いますが)

ブリストルのセミブローグは、チャーチのコンサルのような力強さを意識して、エドワード・グリーンのアスキスみたいな靴を作りました、のような感じでちょっと気になる。
また、ブライトンもケンジントンと同じコンセプトの別ラストということで、履き心地が期待できそう。

年末年始は少しゆっくり靴のお手入れをしながら欲しいものを考えるなんてゆとりある時間ができたらいいなぁ。

2015年12月6日日曜日

Boot Black と Boot Black シルバーラインの違い

最近は靴だけではなくて、靴のお手入れグッズも高級志向にあるみたいで、たくさんの新商品が出てきている。

お手入れが趣味になってくると、どうしても薀蓄が先行(といっても雑誌やネットで得た程度)して、やれこのクリームは、やれこのブラシはとなってきて、ひとつひとつはそう高価なものでもないので、ついつい買ってしまう。

気が付くと、我が家にはクリームだけでも何種類もたまってしまった。

ここしばらくはクレム1925とブートブラックくらいしか使っていないのだけれど、コルドヌリ・アングレーズだとかM.モゥブレイだとかが無駄に下駄箱の一角に置かれている。

ふと思う。

「これらクリームっていったいどんな違いがあるのだろう?」

メーカーや代理店の売り文句に踊らされるのではなく、自らの信じるこれ一本でいく、というのがまっとうな人のスタンスだとは思うけれど、お手入れ好きの僕としてはせっかくなので実際に比べてみようと思うわけです。


比較に使う靴は、先日水洗いしたW134。
きれいさっぱり古いクリームが落ちたところで、これからしばらく片足ずつ違うクリームを塗って、何が違うかを確かめてみたくなった。
(実は新しい靴を買ったら新品状態から比べてみたいふたつがあるのですが、それはまた次の機会に)

今回のターゲットは同じコロンブスがわざわざ別のラインとして販売している黒い蓋のBoot Blackと、銀色の蓋のBoot Black シルバーライン。
このふたつ、わざわざ分けて売る理由がなんかあるのだろうか。

メーカーであるコロンブス社が言うには、Boot Black(以下「ブートブラック」)は満を持して発売した「プロのための」クリーム。
Boot Black Silver Line(以下「シルバーライン」)はブートブラックのコンセプトを受け継ぎつつ、より「一般の人」向けに発売しているクリーム。

前者のほうがよりケア重視で、後者のほうが光りやすいそうだ。

ブートブラックはプロ向けと言いつつ、誰もが訪れる百貨店だったり、靴磨きのプロが立ち寄る感じがあまりしない既製紳士服店で売られていたりする一方で、ケアグッズが豊富でプロが立ち寄りそうな東急ハンズや町の靴屋さんではシルバーラインが売られていたりする。マーケティング的に何か意図があるのでしょうか。


ブートブラックはW10BDJやRendo R7702など、国産キップを使っている靴に使うことが多い。僕は Made in Japan を信じているクチなので、最近はブートブラックでそろえることが多くなってきた。先日スエード靴を買った時もブートブラックのスエードスプレー買ったくらい。


で、クリームをさっそく塗って比べてみることにします。
いまから2年半くらい前にちょっとだけやってみたことがあるのだけれど、今回は長期にわたってやってみようかと。

靴は洗った後、乾燥の過程でこれまたブートブラックのデリケートクリームを軽く入れている。デリケートクリームは左右とも黒蓋のものを使用。ここまでは違い無し。
本当はここから二つのラインの違いを見たら面白いのだろうなぁと思いつつ、そのためだけに買うのもなんなので乾かすまでは同条件。

まずは洗った後中1日置いた状態。ここからスタート。


左足をシルバーラインで、右足をブートブラックで。
まずはいつものように軽くクリームを布にとり全体的にあまり力を入れずに薄く伸ばす。


どちらかというとブートブラックのほうが革に吸収しやすい感じがする。塗っていてもサッと表面から水気がなくなる感じで、気を付けないとついつい塗りすぎてしまいそう。これはブートブラックのほうが水っぽいのでその差かもしれない。o/w型のクリームでw比率が高いのかなぁ。
今回はだいたい同じくらいの量になるようにして塗っている。

クリームを塗ってブラシをかけた状態。
ちなみに、ブラシは黒靴用の新しめのブラシを併用。このためお互いがやや中和されてしまうかな。


以前も思ったけれど、シルバーラインのほうがやや光沢が強い。


左足。シルバーライン。


右足。ブートブラック

光の当たり方やこれまでの歩き癖などもあるので一概には言えないのだけれど、どちらかというとシルバーラインは芯の通った光り方をするのに対して、ブートブラックはやや柔らかな光り方をするような印象を受ける。

いちにち履いてみてブラシがけした感じでは今のところ違いがよくわからない。



まだ初回なのでほどんど差が出ていないのだけれど、3ヶ月、半年、それ以上になると何か変わるのだろうか。
このまましばらく続けてどのように差が出てくるのかやってみよう。




-------- 今回使ったデリケートクリーム


クリームはこちら


記事にはあまり書いていませんが、ソールには今回からブートブラックを使っています。

2015年11月2日月曜日

想い出の靴 - REGAL Y902 -

「ボロボロになるまで着続けて、それでも捨てられない。そんな服を私たちはつくりたい」

いまから20年くらい前にファイブフォックスのカタログに書いてあったセリフ。
(現物が手元にないので正確な表現でないかも。だいたいこんな意味だった。)

モノに執着し過ぎるとモノが増えていき、結局は使わないモノだらけになるので、極力モノには感情移入をし過ぎないように心がけているのだけれど、当時この一節にはとても感動して、こうした作り手の想いを自分はどれだけ受け止めているのだろうという考えがずっと頭の片隅に残っている。

自分はモノを大切にしているのだろうか。
作られたモノが、その使命をきちんと全うするまで使いきっているのだろうか。


一時期、経済的にも精神的にも厳しい時期があって、これまで大切にしていた靴を何足もダメにしてしまったことがあった。
振り返れば、最低限のお手入れをしたり、もう少し大切に扱っていれば十分いまでもローテーションに残っていたであろう靴を何足も失うことをしていた。

その後、わずかばかりの余裕ができたとき、手元にはなんとかみすぼらしくない程度の靴が何足かと、どうしても手放せなかった靴が残った。

そのひとつ、リーガルのY902。
Made in Italy シリーズ。
当時でもたしか7万円くらいで、いまの感覚でいえば10万近いかもしれない。

特別な日に思い切って買った靴。
その日、とても嬉しいことがあって、その気持ちを一生涯忘れないようにという理由で購入。いまでもこの靴を見ると、その日のことが微笑ましくもあり、また恥ずかしくもあり思い出される。
履いた日の出来事に想い出がある靴は多いけれど、これは購入した日を想い出す数少ない靴。いくつか記憶にある履いた日の出来事はつらいことが多かったかな。

当時のリーガルにしては甲の抑えが効いていて(リーガルが作ったわけじゃないからかも)、いまでいうとインバネスに近い履き心地。長時間履くと中指が当たる感じも似ている。
イタリアというとマッケイ製法の軽めな履き心地の靴に強いという印象があるのだけれど、このシリーズはどれもグッドイヤーウェルテッドの手堅いデザインで、僕のイタリア靴のイメージとはちょっと違う。わざわざイタリア製を選んでこの靴ってところが、リーガルの海外製造シリーズって直球勝負だったんだなと。
定番のキャップトウだけれど、当時の店内では独特の色気を醸し出していた。

当時はこの Made in Italy シリーズと Made in England  シリーズがあって、どちらもクラシックなデザインの本格靴。その後シェットランドフォックス復活に影響を与えているように感じられる。

履き心地が良かったということもあり、ローテーションが高めだった。
雨の日も気にせず履いて、お手入れも不十分だったから、いまとなっては単なる古い靴のような印象だけれど、この靴はどうしても手放すことができない。
後悔とともにお手入れをしても、当初の輝きを取り戻すことはできなかった。
洗っても、クリームを塗っても一度失われたものは戻らない。

途中の手入れが悪かったので、細かいしわが無数に入ってしまっている。
ただ、ここまで細かくしわが入っていても、大きなクラックは1か所くらいしかない。
それはもともと使われている革が良いのもしれないし、たまたま購入後しばらくのていねいなお手入れが功を奏しているのかもしれない。

一度ていねいに水洗いして、クリームを十分浸透させるようにしても古傷が残る。
それでも、レノベイタークリームを中心にうす塗りを何度かして、トウ先には少し多めに重ね塗りをしたら、何とか味のある靴のように見えなくもなくなってきた。レノベイタークリームはこういうダメージの大きいときには安心感がある。この靴なりの良さを活かすように付き合っていきたい。

過ぎてしまった過去は変えられないけれど、いまから将来に向かってどうするかは自分の意志で決めることができる。
いまでは足を通すことはほとんどないけれど、自分への戒めとしてときどき履いて、ときどきお手入れしながら大切にしていこうと思う。




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くたびれてしまった靴にはレノベイタークリームをよく使います。これを少し多めに塗った後にクレム1925を使うと、結構きれいに見えてしまうことが多いので。

表面のちょっとしたしわ隠しならクリームで十分。今回は革への負担を考えてそこまで厚塗りせずにトウ先だけごくごくうす塗り。

2015年10月25日日曜日

職業としての靴磨き

最近ネットで靴のお手入れについての記事をあれこれ見ていたら、とても心に残る記事があったので、今回はひとりごとを書いてしまいました。


靴のお手入れ。

多くの人にとってはどうでもいい話で、一部の靴好きにとっては尽きることのないテーマ。
いまはインターネットでたくさんの人の試行錯誤を知ることができて、僕のような素人にはありがたい一方で、ときどき正反対の意見があったりして迷うことも多い。

どんなお手入れ方法が良いのかということは、素材の違いにもよるだろうし、その履かれるシーンにもよるだろうし、どのような仕上がりを求めるかにもよるだろうし、その靴を履く目的にもよる。

それぞれの目的に合わせて科学的に検証すればケースごとの答えはあるのだろうけれど、目的の組み合わせが千差万別(保革を優先したいとか、ハイシャインの完成度にこだわりたいとか、防水・防汚が大切だとか、結婚式で履きたいとか、ビジネスシューズとしてお手入れ頻度を下げたいとか)で、目的が違うからこそ、これといったひとつの答えが無いのだろうと。


ここ十年くらいで「靴磨き」というジャンルに参入する若い人が増えてきた気がする。
これまでの靴磨きの印象とは異なる場所・スタイルでサービスを提供する形態が徐々に一般化しつつある。そういう若い人たちがインターネットを使って、その技術とか経験の一部を公開してくれることはとてもありがたいと思う。

ただ僕、そういう自称「靴磨き職人」さんに少し懐疑的な印象を持っていた。

僕のイメージする「職人」さんとは、すでに技術を確立した職人さんの下で厳しい指導を受けながらの下積みを経て、他人には為しえない高度な技術はもちろんのこと、その仕事の意味や技術の奥深さを体得している人だと考えている。門をたたく人は多いけれど、職人として一人前になるまでに脱落する人もたくさんいる。生業としてその仕事をしているひとすべてを「職人」と呼ぶには違和感がある。

すし職人は単に魚を切ってしゃりを握っているのではなく(それは単なる寿司屋の従業員である)、素材の良し悪しの判断から、それにあわせた切り方、出し方、しゃりやワサビの調節、お客様の好みや雰囲気、予算に合わせた料理の提供や場の雰囲気づくり、ネタの期限管理やら衛生管理や仕入れの管理、後進の指導など多岐にわたるはず。
(僕は素人なので判らないが、これ以外にも「職人が職人であるがための」違いが多分にあるはず)
皿洗いから始まって、でもただ皿を洗っている人はそれで終わりで、そんな皿洗いの過程でもどんなお皿が使われているのか、職人間で汚れの付き方に差があるのか、何が残されるのかなどわかることはたくさんあるし、先輩職人がどんなことをしているのか垣間見ることができる。それにそもそも衛生管理というのは食品業界ではもっとも重要で、その一端を任されているという重責をしっかりこなすことが期待されているということに気が付けるかどうかも試されている。食器が汚い高級料理店は見たことがない。

自称「靴職人」さんは靴好きが高じて靴を磨くことによる喜びをお客さんと共有したいというとても大切な志は感じるものの、「職人」と呼ぶに足りる技術と経験の裏打ちがあるのか無いのかイマイチわからなくて、僕の中でいわゆる経済学でいうところのレモンの話みたいになっていた。

そんな僕のもやもやとした思いを一発で払拭する記事をたまたま見つけてしまった。
かの有名なブリフトアッシュの長谷川さんが、同業者である靴磨き処ダンディズムの宮田さんについて書かれている次の文章の中の一節。

昨今の靴磨き屋の増えていることはとっても良い事だと思いますが、大した経験もせずにお客様の靴を磨いていることに僕はちょっとどうなのかなと思ってます。
暑い夏の路上で磨くと、ワックスがとろとろになって靴が光らない。
寒い冬の路上で磨くと、水を付けた手が冷たくてワックスが溶けなくて馴染まない。
高い靴の良い革を磨くこともあれば、合皮を磨くこともある。
多種多様な靴を、いろんな状況下で同じクオリティを出すことで、靴磨きの技術はかなり向上します。
良い靴を磨いて、光った~とか言っているうちは全然お話になりません。良い靴は革が良いので光って当たり前なんです。 - 靴磨き処ダンディズムに行ってきました。 | Brift H -

興味を持ってほかも調べてみたら対談で次のような発言もされていた。

これは靴においても言えることで、今から100年くらい前の靴は、ミシンもない時代だから手縫いで作られていますが、糸目が細かかったり、どうやって作るんだろうと思うような靴がけっこうあります。靴磨きも同じで、今のように道具がそろってなかった中で、きっとすごい技術はあったと思います。昔はそれだけしかやらないから、普通の人が追いつくことができないところに行けたのだと考えると、靴磨きに一点集中しないと、誰も及ばないレベルに到達することはできないだろうなと思います。 -  ~21世紀の世界を見据えて~"今″を変える力 -

ほんと、「職人」ってそうだと思う。

僕ら素人でもひとつの靴を2か月の間に1回は磨くとすると年間6回前後は磨いている。それが10足あれば年間で60足分、20足なら120足分くらい磨いていることになる。20年も革靴を履いていれば平気で数千回の靴磨きを経年変化も見ながら試行錯誤やっている人はたくさんいる。「数千」の数をどう経験したかによって数だけではないことも理解できるけれど、「職人」を名乗るなら最低でも数万を期待したくなる。「桁違い」ってこういうことなんではないかと。(1日10足のペースでも、たった3年で1万になる)

教科書で技を習得してそれを正確にきっちり再現しているのではなく、サービス提供側の経験に裏打ちされた判断と技術がサービスの源泉(と思える)のだから、やっぱり一定数の経験ってとても大切だと思う。

比較的少ない足数で職人になるためには、優秀な職人に指導を受けるほかない。優秀な職人が回り道した経験の一部をショートカットすることはできる。技術の進歩とは先代を能力で超えるのではなく、先代が一生かけて体得した技術を一生かけずに体得することで、残りの時間を先代が時間が無くてできなかったことに充てることができることにある。

社会的な価値を考えるなら、現代において、その存在を知らなかった人が二次方程式の解の公式を一生かけて発見することより、先人の智慧である解の公式はありがたく使わせてもらって、ほかのことを研究して新たな発見をするほうがありがたい。

僕は素人なので長谷川さんの技術が日本一なのか、それともこの道60年のベテランに負けてしまうのかはわからない。
でも、(フィルターは多分にあるだろうが)彼の発言を見る限りでは単なる営業やコネではなく、サービスにおいて日本の靴磨き職人としてトップランクの評価を受けている理由はなんとなく理解できる。

照り返しの強い都会において真夏の路上で力を込めて靴を磨くことがどれだけ息苦しいのか、乾燥した真冬の路上で素手でクリームを塗りこむことがどれだけ冷たく、痛いのか。心を籠めて仕上げても紳士的なお客様ばかりでもないだろう。自分の靴だけしかお手入れをしたことが無い僕には決してわからない。でも彼は、高い志を持ってそれを超えて、靴磨きというビジネスを再構築した。その地位とイメージ向上に果たした貢献度は計り知れない。文字通り血と汗と涙によって築いたビジネスの矜持があるからこそ、お客様は安心して大切なたいせつな靴を預けることができるのだろう。


本当の職人さんは自分の苦労話は積極的には語らない。
インターネットで多くの情報が交換されることになったおかげで、ちょっとした文章や対談の中で垣間見ることができるようになった。
最近時間が無くてずいぶん先にはなってしまうだろうけれど、ブリフトアッシュと靴磨き処ダンディズムにはぜひ行ってみたいなぁ。

2015年10月3日土曜日

REGAL W13BCF Navy Blue Suede Full Brogue

昨年から欲しいと思っていた靴。W13BCF。

ネイビースエードのフルブローグ。
W10BDJに続き、本格派(?)のカジュアルな革靴。
上品なカーフスエードにレザーソールと、まさに好みのど直球ど真ん中。
個人的にはソールは単なるレザーで十分なのだけれど、カジュアルユースを意識してなのか、つま先には大き目なゴムが最初からあてられている。
ソールコンディショナー塗ったばかりなので少しつやつやしていますが。
気楽に履く靴ということを考えると、耐久性が高いゴム張りもいいのかもしれない。

今回、久々のスエードです。

スエードは過去にブラックチャッカブーツを買ったきりで、もう10年ぶりくらいの購入。カジュアルには結構合わせやすくて便利。W13BCFはもともと秋冬モデルとして出ているけれど、ステッチと靴ひもに取り入れられた白色が明るめな印象で夏でも合うのではないかと。
スエードという素材自体は本来オールシーズンだし、素材の出自からすればきちんとお手入れすれば雨にも強いはず。
公式通販サイトによるとイギリス製スエードとのことなので、これまでのリーガルからするとおそらくはCharles F Stead & Co.のSUPER BUCKと思われる。(でもわざわざ「カーフスエード」て書いてあるからJANUS CALFかも)

このところリーガルはSciarada社のスエードを使うことが多かったけれど、違いが判らない僕でもこうしたクラッシックなモデルはなぜかイギリス製のほうがテンションが上がる。
スエードは毛並みが命なのできちんとブラッシングし続けよう。

サイズ感は01DRCDより少し緩く、同サイズだと羽根がほぼ閉じきってしまう。
二の甲から三の甲の外側があまり押さえられておらず、伝統的なリーガルのラストに近いかも。
ふだんのフィッティングに近いハーフサイズ下げることも考えたのだけれど、この靴は休日靴としてざっくりとした靴下に合わせて楽に履こうと思ったので01DRCDと同サイズを購入。今回はいつもと違い足長の長い左足にサイズを合わせてみた。
きれい目系で裾をロールアップするような履き方を意識するのであれば01DRCDよりハーフサイズダウン、W10BDJと同サイズのほうがよいかも。

まだあまり履いていないので最初の印象。
40代以降を意識していると思われる甲高ラストと土踏まずの絞り込みが弱いこともあり、長時間歩くとすこしばかり足が疲れる気がしないでもない。
ただそれは靴を脱いだ後も長時間尾を引くようなものではなく、数時間歩きまわった時に軽く土踏まずが緊張しているような印象を受ける程度。
反りがまだ追いついていないということもあるので、履き心地についてはもうしばらく様子見が必要か。

この靴を購入する人って、カジュアルにまでレザーソールを要求するタイプだからかなりニッチなゾーンを突いてきたなと。ネイビー以外は特に目立つところもない極めて正統派っぽいスエードブローグ。茶系のスエードフルブローグなんて、単なるおしゃれ靴としてより、少しくらいの汚れを気にしないで公園や丘の小道みたいな土の上を歩くのが似合う気がする。
いまはぬかるみやあぜ道にはもっと適した靴があるにしても、散策程度だったら紳士気取りで履いてみるのも悪くない。

一方でこのネイビーはタウン向け。
ジャケパンのようにきれい目に持っていくのもよし、チノパンや濃いめのジーンズに合わせてもよしのちょうどいい感じのカジュアル感がある。
色落ちがあるので、白色の紐は青に染まってしまいがち。汚れも目立つので早めの交換が良いのかな。

土踏まずに最初からパッドが入っている。

ウエストをぐっと絞り込んだ01DRCDと比較するとそれほど攻めていないソールが付いているので、内側でサポートするつくりになっている。本来であればウエストそのものを絞り込めばよいのだろうけれど、スエードということもありつり込みが難しいのかな。

僕はタイトフィット好きなので通常はきつめから入ることが多いけれど、先に書いたように今回はゆったりとした休日靴として最初からあまりきつくないサイズにしてみた。登板頻度を考えると、沈み込むまで我慢してその後快適にするほど履かない可能性があるので。かかとは少しだけ小さ目なので、きちんと紐を締めて足が前のめりしないようにすれば十分。指が自由に動かせる分、楽な履き心地。
店頭では沈み込みによるサイズ変化のアドバイスを受けたけれど、その時はレザーのインソール一枚入れてもよいのかなと。インソール嫌いな僕でも、なんとなくそれもありかなと思わせる気負わなさがこの靴にはある。

ソールはつま先ゴムのレザーソール。
レザー自体にも凹凸が刻まれている。これ滑り止め防止とかに効果があるのでしょうか?
かといえば、いちばん滑りに影響すると思われる踵は一般的な革の積み上げとなっている。新品状態の感覚ではふつうに滑るところは滑るので、あまり効果がないような気がするが僕が鈍感なだけだろうか。
購入時最初のお手入れは、軽くブラッシングしてからBoot Blackのスエードスプレー(ニュートラル)をかけ、ソールにいつものコンディショナー。ソールは新品ということもありあまり吸収しない。冒頭の写真はソールに塗ってから半日以上経ったものだが表面がつやつやしている。
スムーズレザーはやれ栄養補給がどうのといわれているけれど、スエードはあまりそういう話を聞かない。スプレーしてブラシだけみたいな。
お手入れ自体が楽しみの一つである僕にとっては少し物足りない。

ずっと手に入れたいと思いつつ、後手後手になっていたW13BCF。1年越しにやっと手に入れることができた。
レザーソールのスエードモデル、しかもカジュアル寄りというなかなか難しい立ち位置なので作り切りで廃盤ということも予想されてヒヤヒヤしていたけれど、いまのところまだ継続かな。
今回はW29BCFというこれまたドンピシャ感のあるローファーと迷ったのだけれど、初志貫徹でブローグを買った。
ここ数年、リーガルは正統派に近いモデルを毎シーズン出してくる。もうW29BCFのブラウンとダークブラウンなんてスエードローファーの鉄板でしょう。奇を衒わない正統派。
W12BCF/W13BCF/W29BCFともに、靴の価格が高騰するなか英国カーフスエードにレザーソールで4万円でおつりがくる価格設定も家計に(おこづかいに)優しい。歴史ある国産靴メーカーの面目躍如ですね。


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余談ですが、今回かみさんと買い物をしたので女性の靴売り場にもいきました。
女性の靴売り場って男性よりもみなさん積極的に試着しているんですね。
そのせいか、すべての靴が片足だけ置いてあって(展示スペースか盗難防止?)、デザイン違い、色違いがたいてい3つくらい並んでいて、それぞれ23.0、23.5、24.0あたりでサイズをずらして置いてある。この靴いいな、と思ったらその中から自分の足に近いものを選んで試すことができる。
店員さんに「試着していいですか?」と聞いてから両足を履いて確かめる紳士靴とは全く違う世界がそこにはありました。
各自が好きなように試し履きするのだけれど靴べらも用意されていないので無理やり足入れたりしていて、かかとが潰れないか見ているこちらがハラハラしてしまう。
プライスゾーンも違うので一概に比較できないとしても、両足のサイズは違うことが当たり前で、片方だけで決められるものかなと思うし、店員さんもフィッティングしている様子は無いし、踵緩い靴を履いているひともたくさんいてこれで大丈夫なのかなと他人事ながら心配になってしまいました。


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スエードのスプレー。単なる防水スプレーより何か効果があるのでしょうか。色はニュートラルを購入。



2015年9月27日日曜日

革靴を水洗い - SHETLANDFOX 3029SF INVERNESS -

シェットランドフォックスのインバネス。

晴れの日も雨の日もあまり気にせず履いていたせいか、なんとなく艶もなくなってきて、おまけにシミや塩吹きも目立つようになってきた。登板頻度が高いこともあり、ちょっと型崩れもしている。

インバネスに使われている仏アノネイ社ボカルーのようなアニリンカーフは一般的には水に弱いとされている。染料によって仕上げられた透明感のあるブラックが失われてしまうそうだ。
確かに、これまで土砂降りも含めて酷使してしまったので、ボカルー本来のみずみずしさが無いのだけれど、なんとなくインバネスのボカルーは最初からこんな感じだったような気がしないでもない。

毎度まいどの話だけれど、ビジネスシューズは雨に降られることは致し方ないと思って履くしかない。「雨の日履くな!」「天気予報見ろ!」というご意見は一理あるとは思うけれど、それじゃ雨の日は会社に何履いていくんだ、という話になってしまう。(わざわざ雨の日に履くこともない靴も世にはありますが、僕が想定しているのはスーツを着る一般の社会人が仕事上履く靴です)

ビジネスシューズではなくドレスの領域だって、娘の結婚式が大雨だったとしても手持ちで最高のキャップトウ履くべきだし、同じ靴を大切に履き続けて孫の結婚式でも履きたいと僕は思う。
天気がどうであれ出来事がまず中心にあって、それにふさわしい靴を履きたい。そのために僕が知りたいのは「○○するな!」の禁止ではなくて、それでもお気に入りの靴が雨に降られてしまったらどうすればよいのかというプロの意見。
ビジネスパーソンはビジネスをするために靴を履いているのだから、朝から大雨はともかく、天気予報まで気にして履く履かないを決めないとならない靴があったとしたら今の僕には無用の長物。

本格靴を扱う靴屋さんや靴の専門家の方にはぜひ、雨に降られた場合のお手入れをもっと情報公開してほしいと思う。リペアや顧客との対話を通じてお手入れのケーススタディを集められる環境で、靴の製法や素材による特徴などの情報も得やすい立場だけに、一消費者だけの経験則に比べてより多くのケースに基づくアドバイスができるのではないかと強く思う。禁止という安易な結論ではなくて、起こりうる(しかもかなり高い確度で起こる「雨」の)ケースに対してどう対処するかという専門家の意見にはとても興味がある。

僕自身は雨を否定的に捉えすぎないようにしている。もちろん買ったばかりだったり、思い入れのある靴が雨に降られるとちょっと悲しい。
また、どうしてもお気に入りのこの靴を履く、と決めている日は晴れて欲しいと思う。

でもたいていの靴は天気を気にしないで履けるようになった。
それは「雨が降ってもいい日用に格下げ」した靴ではなくて、晴れていても妥協が無く、雨だけの理由で避けることが無い靴で、どれもお気に入りの靴だ。

...と、ちょっと熱くなってきたところで、本題に戻ります。


先日、台風による連日の大雨でひさびさに外から中までびしょ濡れになったので、いっそのこと水洗いすることにした。
インバネスは購入してから何度も雨に降られていたけれど、いまだ一度も水洗いをしたことが無かった。

最近では「革靴に水は厳禁」のようなトーンが少し影を潜めて、むしろお手入れ次第では洗ったほうが良いという雰囲気もある。

「革靴を洗う」という行為は、一歩間違えると靴をダメにするというリスクと隣り合わせだし、実際に洗っている僕も、本当に大丈夫なのかという科学的な確証は全く持っていない。あくまでも実験的な意味合いでやっていて、なんとなく経験則的に大丈夫そうだという程度。見える部分はきれいになっていても、中物は大丈夫なのか、シャンクや釘はどうなっているのかなど見えない部分の状態は不明なまま。繰り返した場合どうなるかということも未知数。

僕がもし靴を縫うことができる技術があれば、一度ばらしてまた戻してみたいけれど、そういう技術を持ち合わせていない以上、見えない部分のリスクを負いながらやるしかないわけで。


※重要※
ここからは個人的な趣味による実験です。
素材や色、靴の作りによっては水洗いすることで取り返しの付かないダメージを与えてしまうことがあります。
高価な靴、大切な靴などは専門家にお任せすることを強くお勧めします。
(だからこそ、大きく濡れたときどうしたらよいかという専門家のアドバイスが欲しいわけです)

これまで、グラスゴー01DRCDを水洗いした記事を書いたので、かぶるところも多いのですが、いくつかやり方を変えたところもあるので、詳細に書いてみようかと。とても面倒な手順です。


今回は、これまでの水道水ではなく、より塩分や余計な脂分が抜けるように摂氏40度のお湯でチャレンジ。
ボカルーの染料まで溶け出してしまいそうとは思いつつ、その時はていねいにクリームで補色すれば良いのかなと。


今回使った道具
  • ステインリムーバー(M. Mowbray)
    ふだんのお手入れでは全く使わなくなったステインリムーバー。今回はお湯に付ける前に軽く塩を浮かせられないかなと思って使用。
  • 洗濯用中性洗剤『エマール』
    ウールなどの動物性繊維を洗うときに、よくある弱アルカリ性の洗剤を使うとごわごわした仕上がりになりやすい。おしゃれ着用として洗浄力は弱めだが生地にやさしい中性洗剤を使う。僕が靴から取り除きたい塩分と古いクリームはお湯で溶け出してしまうだろうから、洗剤はどちらかと言うと全体を清潔にする効果を期待。
  • スポンジ、ナイロンブラシ
    スポンジは全体を洗うために。ナイロンブラシはコバ周りを洗うために使用。
  • タオル、キッチンペーパー
    洗いあがりの水気取りに。最初にタオルで全体を拭って、キッチンペーパーを詰める。コンビニで2ロール100円くらいなので吸水性も良いキッチンペーパーは重宝する。スーパーとかホームセンターだともう少し安く手に入る。
  • サフィールノワールデリケートクリーム
    ずぶ濡れから乾燥に至る過程で、蝋分抜きで適度に加脂したいときはデリケートクリームがちょうどいい。蝋分がないか極力少ないものを選ぶ。
  • サフィールノワールレノベイタークリーム
    乾ききった後のコンディション調整に使う。ブートブラックのリッチモイスチャーもこのタイミングで使うのに良さそう。
  • サフィールノワールクレム1925
    補色と表面保護の仕上げ用。
  • M.モゥブレイモールドクリーナー
    靴の中のカビ防止スプレー。ふだんはめったに使わないが、水洗い後はカビやすいので必需品かと。
  • ソールコンディショナー(シェットランドフォックスでかったコロンブス製)
    水洗いでソールは相当油が抜ける。靴が完全に乾ききってから最後に多めに入れる。
  • コバインキ
    コバインキで仕上げると靴の印象が格段に良くなる。普段からコバの色抜けに注意すると新しい靴を履いているように見える。

汚れ落とし

靴ひもを外し、まずは固く絞った布で汚れ落とし。表面の泥やほこりを落とす。キズをつけないようにていねいに払うような感じで。その後全体を馬毛ブラシでブラッシング。コバの部分にはほこりなどがたまりやすいのでブラシの角をうまく使って落とす。

ソールは小石などが挟まっていたらできる限り取り除いておく。

今回はひさびさにステインリムーバーを使ってみた。

ボトルをよく振ってから布に多めにつけ、塩が吹いているところを中心に靴を湿らせるように軽く拭う。その後、乾いた部分でふき取ると結構色が落ちる。ついでに余計なクリームの一部も取れているようで、全体をぬぐった後はややテカリが無くなっている。

水洗い

全体を水で洗う。黒色の靴なのであまりシミは考えず(というかどうせ目立たないだけでシミはある)、水をかけてしまう。

ここでは洗剤をつけずに、まずソールを指で撫でて汚れ落とし。その後アッパーをよく撫でて表面の塩気やステイリムーバーの残りを落とす。最後に靴のなかによく水を入れてを軽くブラシ掛け。インソールを最後にしているのは、ある程度水が浸みるのに時間がかかるため。

お湯に漬ける

摂氏40度のお湯をためて、その中に漬けておく。洗剤はこの段階では使わない。今回は20分ほどつけて、その後お湯を入れ替えて15分ほど漬けておいた。

水につけておいたときと比べると、明らかに水(というかお湯)が茶色に変色している。それだけ色が落ちているということかな。
あまり高温だとそれこそタンパク質が変性してしまいそうなのでもう少し低い温度のほうがよいのかもしれない。
途中で1度入れ替えるのは、せっかく水に溶けだした塩分や古いクリームが靴全体に再付着するのを防ぐため。

洗剤で洗う

エマールをスポンジにつけてアッパーとインソールを洗う。
最近デザイン変わりましたね。
片足1~2分程度。アッパーは泡で表面を洗うような感じでなでるように洗う。インソールはもう少し力を入れるけれど、それでも軽くこするといった程度。
サドルソープってどうなんでしょう。アルカリ性の洗浄液は牛革のたんぱく質を壊すので良くないという意見がある一方で、靴に造詣が深い方で愛用されている人もたくさんいる。仕上げも洗い流すのではなく、拭きとるだけ。これって次に雨に降られたらまた石鹸成分が溶けだしてしまうのでは無いかといつも思う。
中性洗剤は汚れ落ちがイマイチとされているけれど、今回の洗う目的は雨の中歩いたことによる汚水由来の汚れとか塩分を取り除くため。なので、漬け置きした後は表面に残っている汚れを落とすという感じで。

すすぎ

洗い終わったら水で洗剤を流す。まずは水道水でジャバジャバ水洗いして、泡が無くなったと思った頃に靴の中をシャワーでよく洗い流す。すすぎは泡切れが良いようにふつうの水で。
革靴用ではない洗剤を使っているので、洗剤が残らないようにていねいにすすぐ。

最後に流水に1時間くらい漬けておく。
洗剤と塩分を完全に抜くために少し時間を長くしている。洗剤で洗ったため少し毛穴が開いていたらそこから余計な汚れが取れたらいいなぁと。
ここまでが洗い工程。

水気取り

すすぎ終わってからが靴洗いの難所。完全に濡らしてしまう洗いの工程まではあまり神経質になることもないけれど、ここから乾燥する間は一歩間違えると靴を台無しにしてしまう。
革靴は種類の違う革が縫い合わされていたり、縫い糸は麻だったりナイロンやポリエステルだったりで革とまた伸縮率や乾燥のしやすさも違うだろうから一気に乾燥させるとどこかに負荷がかかりそう。そんな心配もあるのでごくごくていねいに。

アッパーは上から押さえるように、中はふき取るような感じでタオルで水分を取る。ある程度取れたらキッチンペーパーを靴の前半部分だけきつめに詰めて15分くらい放置。その後入れ替えて1時間くらい放置する。靴は風通しの良いところに置いておく。うちでは24時間換気をONにして浴室においている。浴槽は湿気を防ぐために風通しがよく設計されているので、ちょうどよく乾燥できる。靴の置き場所によっては風が当たりすぎるので適度にそよ風が当たるような場所に設置。浴室乾燥機能は温度が高くなるので使わない。あくまでも送風のみで。

靴全体に加脂

1時間くらいたって一度キッチンペーパーを取り除いたら、この段階でアッパーにごく薄く、インナーには少し多めにデリケートクリームを入れる。特にインソールはクリームの塗った量がわかるように指で塗りこむ。キッチンペーパーを入れ替えて一晩放置。
この段階では光らせる必要もないし、そもそも表面に膜を作るようなものは乾燥の邪魔なのでデリケートクリームがベストと思っている。サフィールノワールはミンクオイル配合なので、こういう塗れ状態の保革にはラノリン主体のM.モゥブレイのデリケートクリームのほうが良いのかな。

陰干し乾燥

翌朝にはキッチンペーパーを取り除き、室内でそのまま夜まで放置する。この時表面を触ってみて、ある程度革に柔軟性があるかチェック。今回は少し硬い感じがしたのでごく少しだけデリケートクリームを追加。
カビ防止と乾燥しやすいようにツリーなどは入れない。

調整

夜になったらほぼ靴の表面は乾燥するので、いったんツリーを入れ固く絞ったタオルで表面を吹く。これは乾燥の過程で内部に残った塩分やデリケートクリームが表面に浮き出ているかもしれないという気休め。全体を軽く拭ったらデリケートクリームを再度入れ込む。デリケートクリームは薄く二度塗り。一度目で革に浸透する度合いを見ながら、よく吸収される部分には少し多めに二度目を塗る。
全体が少し息を吹き返したような感じになる。


クリームがリセットされるので、表面はざらざら感が目立つ。最後にクリームで仕上げるのが楽しみな状態。
デリケートクリームを塗り終わったらツリーを抜いてさらに乾燥させる。

保湿

また1日おいてから最後にレノベイタークリームを入れる。この段階では仕上げの調整みたいな感じで薄塗り。
お手入れの時にはツリーを入れるが、お手入れが終わったらモールドクリーナーを靴内部に軽くかけてツリーは抜いておく。モールドクリーナーは屋外まで靴を持っていき、片足2プッシュくらい。1プッシュでもかなりの量が出るので、靴の中が結構湿る。カビは靴の中で甲が当たる側にも生えるので、上側にもよくかかるようにする。
過去にここで靴の形を整えようとしてツリーを入れておいたらカビが生えたことがあった。せっかく洗って清潔になったので、確実に乾燥する前にツリーは入れないことにした。

仕上げ

もう一日くらい置いて、水分がある程度抜けきったら仕上げ。ツリーを入れてから、アッパーに補色も兼ねてクレム1925のブラックを薄塗り。コバ部分にはペネトレイトブラシでクリームを塗りこむ。
ボカルーの黒はブルー系の黒なのでサフィールよりイングリッシュギルドのほうが相性が良いのかなという気もしつつ、使い勝手のよくわかっているクレム1925を使っている。
エッジも色が落ちているのでコバインキを塗る。
最後にソールコンディショナーで乾ききったソールに潤いを与える。中のコルクがなかなか乾燥しないはずなので、ソールのメンテナンスは一番最後がいいと思う。あまり早い段階から油分を入れてしまうと内部の乾燥が遅れてしまいそう。

あとはツリーを入れてしばらく部屋に置いておく。
乾いているように見えても、まだまだ内部には湿り気が残っているのではないかという気がするので、1週間くらい放置しておく。

水分が抜けて元通りになったと思われるころを見計らって、クレム1925を再度塗る。
さすがに油分が抜けているのか、クリームが良く入るのでいつもより気持ち多めに塗る。
つま先やかかとなど保護が必要なところがより多めに。

豚毛のブラシでよくよくブラッシングしてから、最後に乾拭き。
乾拭きには少し時間をかけてていねいに。


仕上がりは想像以上に艶が回復している。
毎度水洗いの後の仕上がりを見ると、靴を全部洗いたくなる。
紐も新品に交換して完成。


今回はインバネスに続いて01DRCD洗ったので比較の参考画像。

インバネスの仕上がり


同時に洗った01DRCDの仕上がり


01DRCDのほうが少しきめが細かい。
思ったより靴全体に艶が出ているので、つま先をちょっとだけポリッシュしたほうがメリハリがついてよいかな。

ちなみにグラスゴーは洗った直後はこんな感じ。
この靴は独特の光沢が出る。

どの靴も洗ってていねいに仕上げた後は、新品とは異なる何とも言えない仕上がりになる。
僕はこういうことが趣味なので時間を費やすことにためらいが無いけれど、実際にこれをメンテナンスと考えてやったら大変だなと。やっぱりプロの技術や機材はすごいなと思うのです。


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ステインリムーバーは表面を湿らせて拭う程度に使えば汚れ落としには便利。水性だからワックス落ちないという人もいるみたいだけれど、界面活性剤なのだからそれなりに落ちると思う。小さいサイズがあれば十分かと。


デリケートクリームはサフィールノワールを使用。M.モゥブレイでも良いかも。


保革にはレノベイタークリーム。補色は無いけれど、下地にこれを入れると仕上がりが恐ろしく艶やかになる気がして、よく乾燥させた後に塗るようにしている。


仕上げのクリームはサフィールノワールクレム1925で。


カビ防止のモールドクリーナー。カビが生えた靴でもこれを使ってお手入れをすると、その後はカビが生えてこないので効き目は絶大かと。片足2プッシュくらいで靴の中がしっかり湿るくらいにかける。


ソールが完全に乾いたころにソールコンディショナーを入れる。僕はシェットランドフォックスのものを使っているけれど、ソールケアを目的に出されているものならなんでもよさそう。


仕上げはコバインキ。水洗いをするとコバ周りの艶がなくなってしまう。黒のワックスでもよいとは思うけれど、水性インキはお手入れが楽。コバクレヨンよりも簡単かつ結果が安定している。ざらざらな表面はやすりがけしたほうが良いと思う。

2015年9月5日土曜日

SHETLANDFOX 3048SF GLASGOW 2nd Report

ここ最近、このブログのいちばん人気の記事は「革靴のサイズ選び」で、次が「革靴を水洗い - REGAL 01DRCD -
靴個別で見るとW10BDJ01DRCD、に続いてこのグラスゴーが3番目に付けている。


シェットランドフォックスでもいま風のロングノーズ、抑えめな価格、比較的懐が深いラストで、入手もし易いこともあり人気のモデル。
購入から3年くらい経過したので、その後について書いてみたいと思う。

一部、というか結構な人が残念としているアッパーのフラスキーニ社チプリアは後からワックスなどで色を乗せたような革。アニリンカーフとは全く異なる質感で、それがきめ細かな素材感と奥からじわりと光る革を好む通からみるとややチープな印象をもたれてしまいがち。ちょうどその逆張りで、これはこれで良い所もたくさんある。
特に、履きこむとかなり柔らかくなり、薄めのソールと相まってとても履きやすい靴。柔らかくなるということは型崩れもしやすいのだけれど、長時間履いた時の足への負担は小さい。

チプリアはクリームを多めに入れると簡単に艶が出る。ボックスカーフのような湿った感じの鈍い光り方ではなく、ワックスなどを活かすような艶やかな光り方をする。こういうわかりやすい光り方は派手目を好む向きには向いている。クリームを多めに塗っても曇ることが少なく、革靴のお手入れになれていない人にも優しい。

僕はこの靴はサフィールノワールクレム1925を使ってお手入れしている。よく乾拭きしているせいか、ちょっとした雨くらいなら余裕で水をはじいてくれる。クリームが十分浸透した後はそれほど神経質にならなくてもいいかも。シミにもなりにくい。
ただ、クリームの量が多いのか、それとも登板頻度が高いのか、塩を吹きやすい靴のような気がする。この靴はこれまで2度ほど水洗いをしているのだけれど、それでも塩を吹くということはひょっとすると内部の湿気を吸収しやすい素材なのかもしれない。

 
かなりの雨に濡れて乾いた後はこんな感じ。ここまで出るようになると、水洗いをしないと跡が取れない。

購入してから週に1回弱程度の登板で、天候を気にせず履いている。これまで一度つま先の補修をしたくらいで、そろそろかかとの補修をしようと思っているところ。

ワックスを使った鏡面仕上げをしない僕でも、クレム1925だけで靴全体が強烈に艶やかになる。一度ごく少量の水を浸けて少し多めにクリームを入れたら、簡単に鏡面の手前くらいになってしまった。
水洗いをしても型崩れをしないように乾燥させ、適宜クリームをいれているせいか大きな型崩れもないし、むしろアッパーの革が馴染んできていい感じ。

よく言われる擦り傷も、クリームをていねいに入れると目立たない。

しわも当初は深く入っていたのが、履き続けていくうちにたいていの部分は細かなしわに落ち着いてきた。インバネスのボカルーのほうがよっぽどキツイしわが入る。
ツリーはシェットランドフォックスの純正か、ディプロマットヨーロピアンをつかっている。

ある程度時間が経つと脂分が浸透して革の表面が強くなるみたいで、購入当初感じていたパサつき感はそれほど感じない。購入直後にはわからない特長がじわじわ出てきている感じ。

グラスゴーは履き始めからあまり痛いところがない靴だった。実はゆったりとしたラストであることもその理由のひとつ。この靴は同サイズで見るとインバネスよりもはるかにゆったり。特に二の甲あたりはその後に出たシェットランドフォックスのモデルよりもはるかに大きい。

グラスゴーはエジンバラの廃止に入れ替わるような形で出てきたため、当初はエジンバラのリファインモデルのように受け取られる事もあった。(製造元も同じっぽいし)
スクエア寄りのデザインということを除いてはエジンバラとは全く異なる別コンセプトの靴だと思う。

エジンバラや初代ナイツブリッジなど、シェットランドフォックス復活直後に設計されたモデルで評判があまり良くなかったかかとはコンパクトに修正され、登場当時人気のあったチゼルなロングノーズに変更。甲の高さも気持ち抑えている。
正統なクラシックど真ん中からみると異端ともいえるこれらのキーワードを、無難かつスマートにまとめているデザインは秀逸で、意外と似たような靴が見当たらない。

またこのグラスゴーはかかとのクッションが少し集めでおわん形に整形されていることもあり、やや立体的な履き心地。この作りもかかとの収まりが良いような印象につながっている。

グラスゴーは最近のモデルと比較すると履き口まわりは少し大きい。登場当初は薄めな若い人向けのラストのような意見もあったけれど、いまとなってはシェットランドフォックスの中では大きめなモデル。
グラスゴー。右側くるぶしのあたりに少し余りがある。グラスゴーは足首回りはゆったり取っていて、甲もそれほど果敢に攻めていない。わりと万人向けかも。ただ、かかとの収まりはとても良いので、ゆるい感じはしない。僕の足では1cm弱羽根が開く。

インバネス。履き口がグラスゴーよりコンパクト。くるぶしの外側がフィットしている。甲の開き具合も少し広く、抑えめな甲であることが解る。グラスゴーとそれほど違わない時期に買ったけれど、こちらはまだ革が硬い。ボカルーにもピンキリでインバネスに使われているもののグレードは高くなさそう。

01DRCD。こちらも甲から履き口まわりはインバネスと似た印象。インバネスより少し羽根が閉じている。二の甲に余裕がある。指周りはこちらのほうがゆったり。

アバディーン。さすがに甲が低い。足が薄いけれどロングノーズが履きたい人はこっちでしょう。僕の場合は二の甲あたりからすでに羽根が開いていて、ちょっとばかり格好悪い。

全体のデザインはややカジュアルに振られている。
キャップトウのモデルはスワンネックを採用しながらも、ステッチの糸が少し太めで切り返しの内側にもステッチがある。開発時のターゲットは少し若い人向けかな。

スマートな印象を受けるシングルソールは真ん中がへこみやすい。
グラスゴーのソールはドットが配されていて独特。ややグリーンが入ったようなブラウンの色合いも独特で、新品の状態だと一風変わったラバーソールのようにも見える。

また、雨の日に履くことが多いこともあって、革の締りが良くなった。細かく見るとひび割れらしきものもあるけれど、革が割れるようなことはない感じ。底を押した感じではもう少しいけそうな。

屈曲部分はステッチが表に出てきているけれど、切れることもなく案外丈夫。

コバ周りは普段はホコリ取りのブラッシングくらいで余りクリームも入れてないのだけれど、ほつれも全く見られず、ウェルトもまだ行けそう。

そんな状態なのでもう少しいけそうな感じもしつつ、今度ヒールの修理に行ったときにオールソールにすべきかどうか聞いてみよう。

登場してからもう5年くらいになるけれど、いまでも売れ筋モデルではないかと思う。このモデルは価格も比較的抑えられていることもあり、伊勢丹をはじめとした百貨店、ミマツ靴などの一般的な靴屋さんでも売られている。(逆にREGAL SHOESではあまり見ない気がする)
かかとのように抑えても余り違和感を感じないところは収まり良く抑えて、ボールジョイントや甲の部分は控えめに押さえる作りは、革靴を初めて履く人でも受け入れやすい。
そんな懐深いラストであることからも、売りやすいモデルなんだろうと思う。

ロングノーズといってもとんがりでもなく、足がスマートに見える靴。どちらかというと細めのスーツに合いそう。店頭では結構きれいな鏡面仕上げがされていたりもするので高級そうな靴にも見える。
僕は最初アバディーンを見たとき、これはやりすぎだろうと思ったけれど、グラスゴーを初めて見たときは少し長いとは思いつつ、キャップが気持ち大きめなせいか全体ではバランスが取れていて格好良く見えた。

およそ3年経って当初受けた印象よりもずっと良い靴であることを実感する。これだから革製品(特に靴)は経年変化を見るまではわからないな、と思わずにはいられない。
長時間歩くとき、天気がどうなるかわからない時、マメができて痛い時などはこの靴を自然に選んでしまう。まさにビジネスシーンで活躍する靴。僕の身の丈に合った靴と言えるかな。



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グラスゴーにはサフィールノワールクレム1925が合う気がする。気持ち多めにいれてよくブラッシングと乾拭きすると当初の欠点に思えた部分が解消されるかも。

2015年8月29日土曜日

Saphir Noir

革靴を履いて、磨いてもう20年以上になるけれど、いまの定番クリームはこれ。

サフィールノワールクレム1925。(Saphir Noir Crem 1925)

いろいろな雑誌でも取り上げられて、プレステージの靴クリームとしてはNo.1のポジションを確立しているように感じられる。

僕が最初に革靴を買った頃(20年以上前)に使っていたのは、日本の定番コロンブスのチューブ入りだった。いま思えばかなり厚塗していて、頻度も高く、おまけにクリーナーなんかもつかっていたので、相当靴にとっては厳しい状況だっただろう。
この頃はそれほどインターネット上にも靴のお手入れなんて情報はなかったし、なんかあれこれつけて磨いていると楽しいのでついついやりすぎにやっていた。

時が経って、靴だけでなく、お手入れ用品にもちょっと興味が出てきた頃に出会ったのが、コルドヌリ・アングレーズ(LA CORDONNERIE ANGLAISE)のビーワックスクリーム。

これまでのチューブ入りと違って瓶入り。この瓶は格好よかった。店頭でも「このクリームは伸びるので、ごくごく薄く塗ってください」とアドバイスされた。
さっそく家に帰ってわくわくしながら蓋を開けてみると、いままで僕が知っていた靴クリームと違う独特の香りがして、これまた靴磨きが楽しくなった。
コルドヌリ・アングレーズはコードバン専用のクリームもあって、素材ごとに必要なクリームが違うんだということを初めて知った。
当時は確かコロンブスが代理店で、リーガルブランドでもサフィールが売られていた。

サフィールのクリームはとても甘い香りがして、これまでの有機溶剤っぽいにおいとはまるで違う、靴磨きをしたくなるような香りだった。

さらに時は経ち、代理店がルボウになったころからサフィールノワールブランドが百貨店や通販で簡単に手に入るようになった。
当初の丸瓶から四角い瓶に代わって「量が少なくなった」なんて批判も受けたけれど、結果として高級感を出した差別化に成功したと思う。
靴を磨く頻度と1回に使う量からすれば、業者さんでもない限りなかなか使い切ることはないはず。靴を磨くのが趣味の一つの僕でも数年前に買ったクリームがまだ半分以上残っている。使い切る前に変質が進んでしまいそうなくらい。
シアバター配合で浸透力がアップとかいう薀蓄があるのだけれど、個人的にはそれがどう良い影響を与えているのかわからない。それよりも、なんといってもあの香りが好きだということが使い続けている大きな要因。
同じサフィールでももう一つの定番のビーズワックスクリームは香りが全然違うので、やっぱりクレム1925ということになる。

サフィールノワールシリーズには、マルチパーパスの「スペシャルナッパデリケートクリーム」、靴だけでなく革全般に控えめな光沢を与える「レノベイタークリーム」、靴磨きの定番「クレム1925」などがある。

デリケートクリームといえばM.モゥブレイが定番と言われている。ラノリンベースのモゥブレイとミンクオイル配合のサフィールノワール。後者のほうが水分配合度合いが少ないのか、比べると少し固い。

レノベイタークリームはまさにアニリンカーフクリームと言う感じ。デリケートクリームより水っぽく、クリームと言うか小岩井乳業のプレーンヨーグルトみたいな感じ。

そのせいか、レノベイタークリームは革のダメージ補修力は相当に期待できる。
僕は靴を水洗いした後は、生乾きの状態まではデリケートクリームを軽く入れるのだけれど、一旦乾いたと思った時にレノベイタークリームを気持ち多めに塗る。少しおいてからブラッシングすると恐ろしく革が復活したように光りだす。

もしクリームを1つだけ選ぶなら、レノベイタークリームがまさに万能選手だと言える。
注意していることは、サフィールノワールのデリケートクリームと同様にミンクオイル配合なので、必要以上に塗りすぎると革が柔らかくなりすぎて型崩れの原因になりそうなこと。僕はクレム1925をメインに使うので、レノベイタークリームは極稀に使うくらい。

クレム1925は、仕上がりからちょっとした艶出しまでカバーするまさに靴磨きのためのクリーム。

このクリームの特徴は、油性ということによる伸びの良さ。浸透するというよりは伸びるという印象のクリームで、少量でもかなりの面積を塗ることができる。伸びるということは瞬間的な浸透をあまりしないということだから、単に伸びるだけでは革の内部まで必要な量の油分がいきわたりづらいか、不足になってしまう。

サフィールノワールクレム1925、ブートブラック、モゥブレイを比べてみると、後者ふたつは乳化性特有の「革に水が染み込む感じ」が得られるのに対して、クレム1925は表面にとどまって油膜を形成する感じが強い。

クレム1925は油分が多い(というか油性)ためか、クリームそのものも少し硬い感じで、ブートブラックが少しプルプルとした感じであることに対して、クレム1925のブラックはしっとりとしたマーガリンのような感じ。ニュートラルはもう少し水々しい感じなのだけれど染料配合すると何か違うのだろうか。どちらにしてもスッと革に浸透するような感覚がある乳化性クリームとは違い、しっとりと表面に残る。これが特有の光沢を生み出している。

表面にとどまる理由の一つがクリームそのものの硬さによるのだろうけれど、それが表面の凹凸を多少滑らかにする効果があるようで、他のクリームより光りやすい印象を受ける。あるかないかくらいのほんのちょっと水をつけながら多少厚塗りすると恐ろしく光沢の出る靴になる。
では浸透していないのかといえば、薄い色の靴にニュートラルを塗ってみると、ごく軽く表面を湿らせたような色変化をするので革に浸透していることが伺える。時間をかけてじわじわ浸み込んでいくクリーム。

水分が少ないということは少なからず革がふやける方向を抑制するわけで、これもまた仕上がりの艶やかさに影響していると思われる。みずみずしさの補給が足りないと感じる向きにはクレム1925の前にデリケートクリームかレノベイタークリームを入れれば十分だと思う。というか、光らせるということをあまり重要視しなければレノベイタークリームだけでも十分。(蝋は入っているので控えめに光る)

クレム1925の少しギラつく感じは好き嫌いがあれど、上手に使うとワックスが無くてもそこそこ光らせることができる。乳化性だけでワックス並みに光らせることが出来る人もいるくらいだし。

このクリームはやっぱり靴磨き好き向けで、当初の僕のように、クリーム塗布が少なすぎる方向より多すぎる方向に行く人には向かないのではないかな。却って光沢が無くなり、また保革上もワックス厚塗り状態みたいになってしまう。ブラッシングや乾拭きをあまりしない人だと古いクリームが皺に残ってクラックの原因にもなってしまう。その点、乳化性の水分多めのクリームはさらっとした感じもあり、多めに塗ってもべたつき感が出にくく、さっとブラッシングするだけでシワの間に入ったクリームも均しやすい。

なので、もし靴に興味がない人にクリームを一つだけ選んでほしいと言われたら、本当のクリームってこういうもんだよ、という前置きをしたうえでレノベイタークリームを薦めると思う。

僕は靴磨きが趣味みたいなものなのでクリームを何種類も塗りたくっているけれど、忙しい時期にはレノベイタークリームだけ軽く塗っておくことがある。このクリームは適度に光るし、ブラッシングもそれほど神経質にならなくても良いし、靴の染料にもどちらかと言えば優しめ。靴によっては春夏しか履かない物があって、そういう靴をしまっておく時に塗っておくのもレノベイタークリーム。

一つの靴には同じブランドで固めたいので、ほとんどの靴がこの3つの組み合わせで塗っている。残りの靴は日本の最高峰クリーム(と思う)BootBlackを使っている。なんとなく国産キップの靴には国産クリームを使いたくなってしまう性分なので。

デリケートクリーム、レノベイタークリーム、クレム1925とソールコンディショナー(僕はシェットランドフォックスで買ったコロンブス製)、コバインキがあればメンテナンスは十分にできるかな。

と、頭ではわかっているのだけれどときどき新しいクリームが気になったりしちゃうのが困ったところです。



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サフィールノワールシリーズではレノベイタークリームで下地を作って、クレム1925で保護するみたいな使い方をしています。レノベイタークリームは万能選手だから一つあると結構重宝します。 (真ん中)



コルドヌリ・アングレーズも根強い人気です。個人的には香りはこちらのほうが好き。


2015年6月20日土曜日

革靴を選ぶ

6月も後半です。

4月から社会人になった人は、会社によってはそろそろ最初のボーナスが出ることではないかと。
そんな時期、靴を新たに新調しようとしてインターネットで調べてみる、なんてことをしている人も多いかと思います。

誰もが限られた予算の中で最良の選択をしたい。調べる動機はそんなところにあったりするわけですが、玉石混交のネットの世界で提示されているアドバイスは、いったい誰をターゲットにしているかわからないものがしばしば見られます。ファッションに唯一の正解はないけれど、王道や正統はあると思いますし、狭い範囲に限定すれば求める答えに近いものが得られることもあります。そんなことを考えながら軽く僕なりの革靴の選び方を考えてみました。

以下、いつもの文体で。

僕は靴に関しては堅めな人なので、巷にあふれる革靴を3足選ぶみたいな記事を見るたびに「?」な気がすることが多い。

僕自身、人様に靴の選び方を偉そうに語るほどの素養があるとは思っていないのだけれど、それでもあまりにも個々人が置かれる「環境」を無視した「靴選びの基本」が蔓延していて不安になる。書き手の「企業」に対する理解度があまりにも限定的、というかどういう職場を想定して書かれているのかわからないものが多い気がする。

その靴選びはどの業界のどんな仕事に従事する人のためのものなのか?

商社や金融、コンサルやファッションなど業種や日系、外資などマネジメント層のカラーによって靴選びの基準は千差万別であるのに、誰に向けての記事なのかが書かれていることが殆ど無い。
文脈から想定するに、日本企業の最大公約数的なビジネスパーソン向けではないかと思われるが、そこには最も大切な視点が抜け落ちている。

「靴選びは平均ではない、最も手堅い路線で選ぶべき」

いまでこそ茶靴も許容される職場が多いけれど、黒靴が暗黙の了解として履かれている職場がある。そういう企業に内定を受けたフレッシュマンが、3足目は茶色のUチップなんて話を真に受けて購入してしまったらどうだろうか?会社で減点をくらい、靴はお蔵入り。残りの2足でローテーションというハメになってしまう。

最初の3足というテーマであれば、どんな職場でも外しのない、極めて保守的な選択をするほうがリスクが少ない。そうでなければ、たとえばこんな企業を想定みたいなガイドがあってもよいと思う。

ビジネスシーンで要求される個性とは、環境を無視した身勝手な主張とは全然違う。社会にはそれ相応の職場観があって、そこから逸脱していると一般的な評価はマイナスに傾く。
金髪鼻ピアスの小学校の先生だとか、古着Tシャツから見える腕にタトゥーの住職だとか、ジャージ姿のホテルフロントなど、実際に能力が高かったとしても僕は避けたい。

それぞれの場には相応しい(=他者がそうであると期待する)スタイルがあり、スーツを着る職場であれば、その範疇で期待されるスタイルが存在する。

集団の中で、外見は同じようなのだが何かが違う。突き詰めていえば外見は同じなのに、ほかの人とは同じとは思えない、というのが社会人に要求される個性なのだと思う。

手堅い選択をして外すケースは少ない。
手堅いということは基本であり、基本が基本たるゆえんは時代を超越して存在するからだ。人類の進化レベルの話まで行くと靴を履いている期間なんでごく最近始まったのかもしれないけれど、それでも個々人の一生からみたら十分長い間クラシックな靴の基準は変わっていない。

どうしても見た目の差別化をしたいというのであれば、靴がいつもお手入れされていてメチャクチャ綺麗だとか、実はツープライススーツでも、いつもプレスがきちんときいているだとか、そういうところにまず気を配る差別化のほうが受け入れられやすい。仕事をするうえでのモノに対する情熱はビジネスシーンという場に限定すれば人に仕事上より良い印象を与えるのは間違いない。

ここでは一般的なスーツ着用が求められている職場をイメージしている。だから、ジャケパンスタイルやブレーザーが許されたり年中ノータイでも構わないような職場向けではなくて、ファッションにあまり興味のない上司が大半で、でも顧客はあなたがスーツを着ることが当たり前だと思っている職場で通用する靴選びというテーマで考えることにする。


よくある3足の選び方でまず違和感を受けるのが、どれもこれもストレートチップ(キャップトウ)が1足しかチョイスされていないこと。

前回の記事でも書いたのだけれど、ストレートチップが冠婚葬祭に必要と言うのであれば、むしろ最初の3足すべてストレートチップにするべきだと思う。
結婚式の日が雨で、次の日お葬式で、その次お堅い会社の大切な商談だったりしたら同じ靴を3日連続して履くのだろうか。「婚」はともかく「葬」はいつ起きるかわからないし。
シーン、TPOを語るなら、連続してストレートチップが必要とされる状況を当然に考えるべきではないのか。なのに1足しかないというのも変な話。よく言われているからストレートチップを入れているだけで、真のTPOを考えていないのではないかとさえ思ってしまう。

次に茶靴やUチップが出てきてしまう点。
茶靴をダメとする職場がある。僕の最初に勤めた会社は「黒い靴」というドレスコードがあった。こんなドレスコードがある会社で、それ知る前に茶靴買っていたら悲劇。
よほどカジュアルな職場ならまだしも、スーツを着るということが要求されている職場であれば入社した後に慎重にチョイスすべき靴になる。
確かに茶靴は女性にもウケがいい。色にグラデーションがついていたりするとさらにポイントが上がったりする。茶靴を履くことが洒落者というような風潮さえある。
しかし、大半のビジネスシーンでは「洒落者であること」が評価されるのではない。

最後に「ストレートチップ」「プレーントウ」といった靴のカテゴリだけが紹介されていて、靴全体の形に関する考察がない。
いくらストレートチップと言ってもロングノーズつま先反り返りでは本来「なぜストレートチップ選ぶんでしたっけ?」という視点からすれば疑問符が付く。
実際にはほとんどのシーンで、「ふさわしいストレートチップ」が要求されることはない。だから一般論的には黒を選択しさえすれば後はなんでも良いということになるのだけれど、「冠婚葬祭に必要だから〜」の件でストレートチップというのであれば、「冠婚葬祭に使える」ストレートチップをチョイスしないことには話の辻褄があわない。


それを踏まえて3足選ぶなら、次のチョイスになる。

1足目:ブラックのストレートチップ(キャップトウ)
2足目:ブラックのストレートチップ(キャップトウ)
3足目:ブラックのプレーントウ

これ、以前に書いたものと同じ組み合わせ。何回考えても、この組み合わせしか考えられない。

まず色は黒に限る。
少なくとも手持ち5足までは全部黒でいいくらい。
男の革靴は「黒に始まり、黒で一息つき、黒を追い求める」とさえ思う。(終わりは無い)
こと日本社会でいえば、黒の靴、白のシャツ、紺のスーツを極めるのが王道なんではないかと。この格好で就活生とはまるで違う、エグゼクティブな雰囲気が出せたら、その人のビジネスファッションは超一流といえるのではないだろうか。僕もそうでありたいといつも思う。

ブラックのストレートチップが2足になるのは、先に上げた2日連続冠婚葬祭でも対応できるようにするため。また冠婚葬祭+堅い営業先などの組み合わせも考えられる。
それと単純にストレートチップならスーツスタイルに外しがないという理由。

ストレートチップが真面目で面白くないと考える人もいるかもしれない。たいてい基本とか基礎というものは面白くないもの。基礎トレーニングとか、基礎問題とか、つまらないものかもしれないけれど極めて応用範囲が広い。基礎問題・基本問題で満足してしまうのではなく、その過程を経て鋭い応用に活かすのが大多数の人の定石ではないだろうか。基礎をしっかり作るのが真面目な大工の仕事。ゲルニカなどの作品ばかりが注目されるが、ピカソは普通に絵をかいてもやっぱり一流。

靴に変化を求めるならば、某靴ファクトリーの社長さんのように人様から賞をいただくという大切なシーンでもカジュアルで攻めればいいのではないかと。なぜそういうシーンでこそ自社最高のドレスシューズを履かないのかは僕には理解できないけれど、そういう真面目な仕事として作ったプロダクトより、コンセプトシューズのほうが会社を代表するということなのだろう。このブランドは真面目さを売りにしていて好印象をもっていたけれど、ブランドが言う「真面目」の定義が少し僕の感覚と違う気がして、購入意欲がガクッと減ってしまった。
(頑張っている職人さんの名誉のために書き足せば、お店で見た限りはとてもいい靴で、それを比較的リーズナブルに展開できるのはよい職人さんがいてよい技術があるからだと思います)

最後がプレーントウなのは、最低限の変化をつけるならこれという選択。プレーントウは冠婚葬祭でも許容範囲であるため、意味合い的には3足ストレートチップとそう変わらない。3日連続ストレートチップが必要になる確率は小さいこともあるし、1足くらいは違ってもいいのかなと。

2015年時点で、この基準にあてはまり、現実的なプライスの靴は次のものあたりでないかと思っている。ストレートチップのみ書いてみる。

「リーガル 01DRCD」
これはリーガルの新定番と言ってもいいくらいのベーシックなストレートチップ。アノネイベガノは水に弱いと言われているけれど、ボカルーよりはふやけの度合いも少ないし、水洗いしても大丈夫だった。5万円以下のビジネスシーンでは最強クラスの靴。

「リーガル W131/W121」
01DRCDが出るまでは、これが定番ともいえた靴。国産キップでデザインも古典的と普通すぎるためあまりヒットしていないと思うけれど、これこそ日本の靴ではないかな。

「シェットランドフォックス インバネス」
リーガルの回し者みたいな感じになってしまうけれど、この靴も比較的手に入りやすいオーソドックスな靴。01DRCDより薄く、小さく作ってあるので若い人向けかな。ボカルーは雨に降られるとかなりふやける感じがするので天気を気にしてしまう人は最初の靴に選ばないほうが精神上よいかもしれない。

「RENDO R7701」
W131を現代風に再構築したような靴。いまイチバンのおすすめかもしれない。最初はかなり固い靴なので、足が頑張れるかどうか。かかとは確かに小さめ。入手が困難なので東京以外に住んでいる人は通販でしか買えないのが難点か。

国産以外に目を向けると、アルフレッドサージェントのEPSOMもビジネスっぽい。
サージェントは輸入で関税がかかっていることを考えると、手に入れやすい価格でいい靴を作る。以前は履き心地がふかふかしていて革靴の概念を覆してくれた。いまはどうなのかな。


電車に乗っても、街を歩いても、意外と定番の靴をしっかりお手入れして履いている人は少ない。だから、ちゃんとお手入れして、適度に履きこんだ靴を履くだけでも十分な差別化になる。よほどの上級者でないと形や色の差別化は難しそう。
僕はあまりファッションは得意ではないので、どうしてもこういう定番から抜け出せないのだけれど、僕の身の程からするとこのくらいがちょうどいいのかなと思いながらパンチドキャップトウでささやかな差別化を楽しんでたりするのでした。

2015年6月14日日曜日

RENDO R7702 2nd Report

RENDOの7702が10か月経過した。

この靴、いままで履いた靴で購入直後に初めて小指に強烈なタコができたりかかとが擦れたり、第一印象は自分に合わない靴だった。

ところが10ヶ月経ったいまでは当初こうなるとは思えなかったほどにジャストフィットになっている。購入当初といまとの印象はまるで別の靴のよう。

RENDOの靴は芯地がほかの靴に比べて固いと感じる。またラストは細いと言われている。
おそらくはEEの僕の足では少し横幅が窮屈なことと、このような靴作りのコンセプトから最初に固いと感じたのだろう。

いまはそういう痛い思いは全くない。
だいたい週に1度くらいの登板頻度なので延べ50回くらい履いたことになる。
底面の減り具合から想像するに、比較的詰められているコルクも厚い。これも購入当初からの変化の一因か。
ヒドゥンチャネルの部分が減らないのはコルクが体重で変化することを想定してある程度中央を盛っているからだと推察される。
この靴は天候を気にせず雨の日も履いているが、ソールのヘリは少ないし、乾くと何事もなかったように戻っている(気がする)。ソールにはごくごくたまにソール用のクリームを入れている。

RENDOはビジネスマンの靴というコンセプトもあるみたいで、その通りの真面目で朴訥な印象で、これはこれである意味日本の靴っぽい。

いまのところほつれたり型崩れしたりもなく、あまりロングノーズでないこともあるのかつま先の減りも少ない。僕の場合は週1ローテーションなら1年くらいは軽く持ちそう。

アッパーに使われている国産キップは履きこむにつれてだんだんと柔らかく、しなやかになる。購入時は固い印象を受けるが、きちんとクリームを入れて履きこむことで、想像以上に変化する。

リーガルの国産キップと同じタンナーなのか、それともキップというグレードに共通なのか、しわはかなり大味に入る。購入するときに受けた説明では良い部分を使っているとのことだけれど、僕のレベルではよくわからない。表面のつぶつぶ感が目立つことからも、W10BDJ1のようにしっかりグレージング仕上げされたキップとは違う気がする。

太いしわが入ってもクラック防止のため丁寧にブラッシングさえすれば実用上は全く問題がないと思うのだが、しわの入った靴は一般的にウケが悪い。うちの家庭内でもこの靴のほうが、これよりはるかに履きこんでいる01DRCDより「古く見える」といわれる。

この靴のお手入れにはBoot Blackを使っている。
Boot Blackの乳化性クリームは革に浸透し易いため、表面は素材を活かす仕上がりになる。このクリームのみだとキャップの部分も凹凸感が残ってしまうので、鏡面寄りに仕上げたいときはサフィールノワールクレム1925を使うか、ワックス併用のほうが良さそう。

表面の仕上がり点ではヨーロッパタンナーのボックスカーフとは傾向が違う。表面の凹凸が目立つ感じで、これが光の反射を分散させてしまい、結果として艶が出にくい。
ガラス仕上げの靴が格好良く見える向きには向いていないかもしれない。
左がウェインハイムレダー、右が国産キップ。艶感がだいぶ違う。これは仕上げによるものかな。グレージングをしまくれば意外と近いものができたりして。
ただ、ネットでRENDOの靴を見ると、僕のものとはまた違った艶をもっているものがちらほらあるので、クリームやワックスの使い方でより高級感が出せるはず。

若いサラリーマンでも、お小遣い制のお父さんでも何とか頑張って買える範囲で長く使える本格的な靴。履きこむことでわかる靴の良さがこの靴にはある。

冒頭にも書いたように購入した当初は小指にもかかとにも結構なダメージがあって、この靴でできたタコがいまだに残っているが、いつの間にかこの靴はどこも痛くないジャストフィットの靴になっている。固い作りではあるけれど、きちんと足に合わせて変わる靴。
購入時にも「足の形状からすると、ラストのほうが少し細いのできついかもしれない。その時はストレッチします」という提案を受けたのだけれど、結果としてストレッチなしで十分なフィットを得られる靴になった。このあたりは試着だけではわからない。そこが靴購入の難しいところ。
逆に言えば、僕のようなEEではなくもう少し細いい人だとコルクの沈み込みなどによって少し余ることが出てくるのかもしれない。

よく言われる「小さめのかかと」については、確かに他のブランドの靴よりコンパクトな仕上がり。前回も書いたように購入時そのまま履くとかかとのサイドがかなり当たり、まともに履けたものではなかった。当たる部分の芯地を指で慣らしてみることで、ちょうどいい感じのコンパクトさを感じられるかかと周りになった。

ところでこの靴、ネット上の情報からするとセントラル製だと思われるのだけれど、同じセントラル製と思われる三陽山長のおよそ6割の価格。アッパーで使われている革が違うにしても、かなり良心的な価格設定なのではないだろうか。

RENDOって、靴好きの人ならそのコンセプトとそれから導き出される良さが理解できると思うのだけれど、これから靴好きになる予備軍である若い世代に訴求するには今ひとつパンチが足りない気がする。いわゆる真面目すぎてモテない君で、作り手の伝えたいメッセージを受け取る側もこの真面目さを受け止めるだけの余裕が必要とされてしまう。
一巡して、クラシックな普段履きが欲しくなった人が立ち返る靴なのではないかと。

個人的にはこうした真面目なコンセプトにもっと光があたって欲しいし、こういう靴こそが日本のベーシックとして広まったらいいなと思う。実際に自分で購入してみて履いてみて解ったのは、本当に期待を裏切らない靴。目立たないけれどなぜか安心。

足馴染みも良いし、ビジネスシーンで必要十分なRENDO。これからも天気を気にせずどんどん履いていきますよ。


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AmazonでRENDOの取り扱いが始まっています。いまのところ7702はダイナイトソールモデルのみみたい。キャップトウはレザーもある。万人向けでいい靴だと思う。中でもAmazon専売のネイビースエードはかなり格好いい。これがレザーソールだったらなぁ...



ツリーはディプロマットヨーロピアンを入れています。


クリームは何となくブートブラック。