2016年2月7日日曜日

靴クリームの比較 - Boot Black と M. Mowbray -

ブートブラックとブートブラックシルバーラインの比較に次いで、同時並行第二弾を始めてみました。

靴のお手入れ方法なんてもう百年以上も変わることは無いのだろうけれど、情報の発信者が、より広く多くの情報を容易に届けることができるようになった今の時代では、より多くの情報を付加した新商品を開発していかないと競争力が落ちてしてしまうのだから販売者も大変だと思う。

もちろん、科学技術が発達することで今までよりもより良い商品が開発されることもあるだろうし、高付加価値商品を開発することはビジネスとして正当な行為なので、市場が活性化することはいいことだと思う。一方で新商品については売り手と買い手の情報格差があるため、新しい商品の真のメリットはわかりにくい。なんとなくプレミアム感を与えて、かつあまり意識しないで買うことができる数千円という価格設定は絶妙である。

また、あまりにも商品が増えてきて、お手入れに興味が無い人に取っては余計に面倒さが強調され、何をやれば良いのかかえってわかりづらくなっているのもあると思う。

僕は新しいものが出ると使いたくなるミーハーなので、こういう新商品が出てくるとついつい欲しくなってしまう。けれど、新しいクリームを買っても、それを使い続ける靴が無ければ結局は使い道がないし、いまでも数年はクリーム買わなくても大丈夫なくらいあったりもする。
よく言われる「米粒数粒」しかクリームを使わなければ、毎月お手入れしても一足あたり年間で米粒100粒分も減らないわけで、ひと瓶使いきるのはなかなか大変。

そんなあまたに出てくる靴お手入れグッズの中で、定番としてこれから先も残ってほしいなぁと思うものがある。

「M. Mowbray シュークリームジャー」と「Boot Black シュークリーム」

M. Mowbray(以下「モゥブレイ」)はかつての英国王室ご用達であった旧メルトニアンの流れをくみ「欧州の靴クリーム作りの伝統と品質、こだわりを現代に受け継いで」いる定番クリーム。日本のR&D社が旧メルトニアンのレシピを求めて再現させたクリームということで、古くからの靴好き(特に英国靴好き)に人気がある。
永い間使われ続けているということは、それだけ多くの靴に使われ、その経年変化による影響の実績が証明されているわけで、雨後の筍のように出てきた新商品よりはずっと安心感がある。

Boot Black (以下「ブートブラック」)は日本のコロンブスが(恵比寿のリファーレの協力を得て)「その知識と開発力を集結して作り上げた」渾身のクリーム。日本では大量に使われる仕上げ材や長年にわたる製造販売の経験が投入された新商品。職人の知識や技術の蓄積をきっちり均一な製品に仕上げてくるところが日本の製品っぽい。極寒の地でも固まらないとかテレビでやっていた。この製品発売以降、百貨店におけるコロンブスの扱いが変わっている気がする。

どちらも百貨店やネットで購入でき、また国内革靴ブランドでもお手入れ用品として推奨されている。(モゥブレイは山陽山長やRENDOなど、ブートブラックはスコッチグレイン)

「おまえはいつもクレム1925を使っているだろうが!」
という声が聞こえてきそうですが、これはもう独自のポジションを確立しているので100年後も相変わらず存在していると思います、ハイ。


今回は、そんなふたつのクリームを比べてみようかと。

All About の飯野さんの記事によれば、モゥブレイは「やや青み、緑みがかかったダークグレイ」、ブートブラックは「モゥブレイよりは青みの少ないニュートラルかつしっかりとしたダークグレイ」とのこと。実用品としての靴に対するお手入れは「細けぇことはどうでもいいんだよ!」という話もあるけれど、お手入れ好きとしてはこういう違いを見るのが面白かったりするわけです。

ところで、よく雑誌などでは「養分が~」とか「施術が~」とか書かれているけれど、皮革製品になった時点で生き物ではないのでこの比喩にはやや違和感を感じる。(この辺は感覚の問題だけれど、特に施術って言葉はなぜか見ている方が恥ずかしくなってしまう)

なんとなく革(レザー)を人間の肌(スキン)と混同させることで、天然素材・成分が良くて、化学合成されたものが良くないものという印象を与え、高いものを売る理由を作っている気がする。
以前、ある化粧品メーカーの人が言っていたけれど、合成のシャンプーと天然素材のシャンプーで、化学式レベルまで見ていくとそれほど差がないものを作ることはできるし、合成はきちんとその効果と安全性を確かめている。天然素材は科学的に解っていない効用もあるだろうから否定はしないが、盲目的に天然素材というだけでよいと思ってしまう人が多いのは技術者としては残念であると。

そもそも皮が革になる過程を考えれば、顔に塗っても問題ないクリームである必要性がないことはなんとなく想像できる。むしろ革(レザー)肌(スキン)を混同することで、本当に革に必要なモノを与えることができなくなっている可能性だってある。
永い間使われているレシピよりもこれまで靴クリームを手がけていなかったメーカーが「人間のスキンケアに使われている天然素材」を作って作ったクリームが本当に良いのか。靴磨き屋さんが素手で塗りこんでも皮膚に優しいという理由はあるだろうけれど、そもそも僕のような素人には優位点がよくわからない。

給油、給水、補色のバランスと、履かれた状況(暑い寒いや雨に降られたなど)、汚れの除去、保管の状況(風通し、光、温度、湿度)の相互作用が経年変化ではないかと思うし、であればある定点での特定の項目で優劣を論じるよりも、長期戦の比較結果があったら面白いのになと思う。

そこで、まず自分でやってみようということで、最近購入した靴で試してみることに。個人の興味ベースなので一般消費者が気づく程度の目線で。(違いが判るプロがやったら相当面白いだろうなと思いつつ...)

今回使った靴。
ショーンハイトSH111-4(レザーソールモデル)
素材は国産のキップ。購入時点ではあまりクリームが入っていないと思うのでちょうどいいかなと。
靴を買って、初めてクリームを塗る段階から分けてみた。

左足はモゥブレイ
・M.モゥブレイ デリケートクリーム
・M.モゥブレイ シュークリームジャー(ブラック)
・M.モゥブレイ ソールモイスチャライザー
を使う。

右足はブートブラック
・ブートブラック デリケートクリーム
・ブートブラック シュークリーム(ブラック)
・ブートブラック レザーソールコンディショナー
を使った。

デリケートクリームは新品の状態の時に使ってみた程度でふだんは乳化性クリームのみ。またソールはそれぞれのコンディショナーを使って体感的に違いが出るのかを。
ちなみに僕は鈍感なので細かい違いは判らないと思うけれど、それでも気が付くほどの違いがあればやっぱりそれはクリームの特徴なのだろう。


ここからはいつもの購入時のお手入れに近い感じでスタート。
ショーンハイトのこのモデルは仕上げにワックス等は使われていないようなので、タオルにもあまり色が移らない。比べる前提としてはちょうどいい感じ。

まずはデリケートクリームを軽く塗る。
M.モゥブレイのデリケートクリームは独特の香りがする。しばらく使っていなかったけれどなんとなく懐かしい香り。水分が多いこともあり、塗っている途中では表面が濡れるような感じになる。ワンテンポ遅れて浸透していく感じ。
一方のブートブラックは昔のチューブ糊みたいな感じでプルプルとした感じであまり香りはない。比べてみてわかったのだけれど、ブートブラックのデリケートクリームは驚くほど浸透性が高い。塗っている傍から浸透していくので最初は布にクリームがついていないのではないかと一瞬思ったほど。またどこまで塗ったのか判りにくい。でもこれすごいな。


そのあと、左足はモゥブレイ、右足はブートブラックのクリームを入れる。ここでもブートブラックは明らかに浸透が早い。いくらでも入りそうな錯覚を受けるけど、実際に同じくらいの量を使うと、最後に表面に残る皮膜はモゥブレイと同じような感じ。

ちなみに、新品の靴だとクリームがよく入る。今回は薄塗りを繰り返し、いったん革がおなか一杯になるくらいまでクリームを塗っている。塗りすぎの是非はあるにしても、履き始めは多めでも良いのではないかという気分的な問題。ウェルト部分には小さなブラシで少し多めに塗りこんでおく。

クリームの後は豚毛のブラシを軽くかける。ブラシは今回それぞれのクリーム用に2つのブラシを新調した。

最後にソールにそれぞれのコンディショナーを塗る。
新品なのでソールに処理がされていることもありあまりクリームが入らない。一度クロスにとってから強めに塗りつける。
モゥブレイはラノリン主体のクリーム。濃い目のデリケートクリームみたいな。歯磨き粉のジェルのような形状保持するクリーム。勢い余って出過ぎることが多い。一方のブートブラックはオイルに加えて防カビ剤配合など日本の靴箱の状況を踏まえているのかなと思わせるトロッとした乳液。
塗った感じはモゥブレイのソールモイスチャライザーはステインの色を結構落とす。

モウブレイを塗った直後。全体的にステインが落ちる。

ブートブラックもやや落ちるが、モゥブレイ程でもない。

翌日もう一度軽くブラシをかけてから仕上げにクリームをていねいに塗りこむ。
クリームが良く入る部分には気持ち多めに、入らないところはごく薄くと調整しながら全体に塗りこむ。
クリームを塗り終えたら、片足3分くらいのブラッシング。

最後にクロスで片足1分くらい気持ち強めに磨く(1分と書くと短いようだけれど、仕上げと思うと結構な時間)。

ブラシはとりあえずコロンブスのジャーマンブラシ、クロスはモゥブレイにした。(ここまでブランドごとにそろえようとは思わかなったため、同じ種類のものを使っている)

ここまでのプレメンテで思うのは、ブートブラックの浸透性の良さ。
とにかく革にどんどん吸い込まれていく感じは独特。瓶に入っている状態ではモゥブレイより水分が少ない感じなのに、塗り始めるとサラッと表面から吸い込まれていく。伸びるというよりさらさら吸い込まれていく感じ。
それが逆にお手入れの感覚値がない人にとってはクリーム入れすぎにもなりかねない。なんか塗れてない気がしてしまうので。(これが「プロ用」の所以?)

概ね5、6回くらい履いてクリームを2度ほど入れた状態ではブートブラックのほうが素人目に見てもわかるほど光る。

写真右(左足)がモゥブレイ、左(右足)がブートブラック。ブートブラックのほうが明らかに艶がある。色も少し濃くなっている。これはクリームを塗った直後ではなくて、ふつうに1日履いてていねいにブラッシング、乾拭きした後の状態。これが革の個体差によるものなのか、クリームの特性によるものなのかはもう少し続けてみないと確定できないにしても、思ったより早くから傾向が違うことに気づく。

サラッとした仕上がりで、元の素材感そのままに近い状態をキープするモゥブレイに対して、

やや湿り気のあるような仕上がりになるブートブラック。

クリームを拭きとったクロスは左がモゥブレイ、右がブートブラック(靴の写真と逆)。
確かにモゥブレイのほうが少し青みがある。ブートブラックはより暖色系に近い黒というところだろうか。

ソールは左(右足)がブートブラック、右(左足)がモゥブレイ。歩き方の癖もあるので削れ具合に差が出るとしても、全体的にはブートブラックのほうがしっかり浸透しているように見える。ただ、僕はどちらかと言うと左足が軸足なので削れが多いだけかもしれない。
履き始めに一度塗って、その後多少削れた段階で追加で塗った結果、体感的にはブートブラックのほうが滑りやすい。

ブートブラックは浸透力が高い気がするので、メンテナンス回数が少ないうちから色に深みが出やすいのかもしれない。またワックスがそれなりに入っていそう。逆にモゥブレイは昔ながらのレシピだから、それほどワックスが無いか、光らせるための役割を過度に期待しない仕上がりになっているのかもしれない。長期で味を出す可能性もあるので、もうしばらく様子を見ていきたいと思う。

また、いまのところ雨に遭遇していないけれど、これから晴れの日雨の日経験することで差が出るかもしれない。今回は長期レポでいこうと思う。


※ブートブラックが「Artist Palette」という油性クリームの新製品を出している。なんか、このパッケージっておもいっきりパクリに見えてしまう。満を持して発表する新製品に対するジャパン・ブランドとしての矜持はどこにあるのかと。これだけデザインのパクリが問題になるご時世に、どう見てもオリジナルとは言いがたいパッケージングはどうかと。しかも本家の瓶形状より高さが低くて口と瓶の幅比が大きいのでクリーム取りづらいのではないのかな。僕はメイド・イン・ジャパン推しだし、コロンブスの技術は信頼しているけれど、これを海外の人に「某フランス製よりも優れている日本の最高級クリームだ!」と紹介するのはちょっと恥ずかしい。


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左足はモゥブレイ。もう定番すぎて何も言うことがありません。今回の比較では艶がおとなしめなのでピカピカ靴が好きな人には向かないかも知れませんが、モゥブレイのもとになった旧メルトニアンは「これ1つですべてOK」という人もいるくらい鉄板です。



右足はブートブラック。日本の技術を集めて作った期待のクリーム。程よく光り、革もしっとりとした感じになるので僕は国産キップ系の靴にはよく使います。



今回ポリッシングコットンとブラシも新調しました。差がわかるように今回のレポで使うブラシはクリームごとに分けています。

2 件のコメント:

  1. そろそろ、ブートブラックとブートブラックシルバーラインの比較の続編に期待しております!このblogの記事はどれも秀逸で、読んでいて非常に楽しいです。
    なお、アーティストパレットは、デザインはともかく使ってみると非常に良いですよ~。ぜひお試しあれ!

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    1. コメントありがとうございます。
      お返事がありえないくらい遅くなりまして申し訳ありません。

      ブートブラックの続編、まとめてみたいと思います。
      その後雨に降られたりなんだりで結構経過しました。

      アーティストパレットも興味あります。
      最近はクリームばかりが増えすぎてなかなか消費が進みません...

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