2016年1月10日日曜日

SHETLANDFOX 3054SF ABERDEEN

シェットランドフォックスのラスト(木型)の中でも、わかりやすいロングノーズのアバディーン。

この手のロングノーズは好き嫌いが大きく分かれて、どちらかというと靴好きといわれる人にはあまり人気が無いようにも思える。ラウンドトウが正統派みたいな。
僕自身も、どちらかといえば古典的なラウンドトウのほうが好きだし、履いた姿はインバネスのようなちょっと長いラウンドトウがバランスが良いと思っている。

ロングノーズ度合いはシェットランドフォックス最高。

比較的長いと思われているグラスゴーより遙かに長い。最近出たこれまたロングのブライトンよりも気持ち長い。おまけにちょっとだけつま先が反っている。
長くて反っているのだけれど、僕のサイズが小さい(サイズ6)ためか見慣れたせいか、履いてみるとロングはロングなのだけれど巷にあるピエロ靴のような印象は受けない。
他の人が履いているのを見ても、目立つほどロングに見えない不思議な靴。

ま、周りにそれ以上のトンガリ靴が多いため感覚が麻痺しているのかもしれない。
このデザインでスワールトウにしたら巷のトンガリ靴のボカルー版ができそうだ。
実際履いていると無意識につま先を傷つけることがある。思ったより先まで靴があるので。

古典的なラウンドトウからみるとかなりアグレッシブな印象を受ける異端児だと思っていたら、エドワードグリーンも創業記念ラストとしてシャープなロングノーズモデルを出してきた。シェットランドフォックス(リーガル)が言うには「ブリティッシュスタイル」とのこと。格好よく履きこなすのは難しいけれど、これはこれで一つの答えなのかもしれない。

シェットランドフォックスの中ではタイトなラスト。
幅はそれほど絞っている感じは受けないものの、甲の低さは際立っている。特にボールジョイント周りの低さが特徴的で、購入当初はフロントタイト、リア(かかと)標準という感じだった。最近のシェットランドフォックスは甲低め、踵小さめがトレンドか。
甲が低いため、幅はともかく薄い足に合う。ボールジョイントの幅からすると細い足と言うよりは薄い足のほうがフィットする。細い場合でも捨て寸が多めの靴のため、サイズをハーフ下げることでフィットするかもしれない。

素材はもうこのクラスの定番の一つ、仏アノネイ社のボカルー。
購入当時(2013年)は公式通販サイトで「ボカルー」と明示されていたし、オフィシャルブログでも「フランスアノネイ社のカーフ」と書かれていたが、いまは公式通販サイトでの説明も単に「牛革」とものすごく大雑把な表記になっている。ひょっとすると調達先が変わっている可能性があるかもしれない。僕は最近では正直どこの革であってもメーカー(リーガル)が一定のクオリティを担保してくれていればいいかなという感覚なのだけれど、使用している革も品質の保証のひとつなのだから公開してくれてもいいのになと思う。
シェットランドフォックスで使われているボカルーは質のばらつきが多いような気がしているけれど、今回の個体はそこそこ良く光る。ただ、相変わらず硬めな感じ。

細かいミシンステッチ、ソールのステイン仕上げはクオリティが高い。ウェルトの糸も隠れているし極めて繊細な印象の靴。このVフロントもキャップトウも冠婚など華やかな式典に似合いそう。いわゆる最近の結婚式場でレンタルされる細身のブライダル用タキシード(ふつうのタキシードではない結婚式用のもの)に合わせるとかなり決まりそう。逆にモーニングなどやや格式を上げたスタイルならケンジントンIIのほうが合いそう。(※受ける印象には個人差があります)

余談になるけれど、この印象を確かめるために新郎の衣装で検索してみたところ、靴に関してはめちゃくちゃなものが多かった。ウィングチップがプレーントウよりフォーマルと書かれていたり、そもそもタキシードとブライダル用のタキシード、フロックコートの区別がついていなかったりと。「タキシードにはエナメル靴」はパーティ用の装いで、結婚式で新郎が着るブライダル用のタキシードはモーニングの略式と考えるべきなので、新郎の足元はやっぱりエナメルではないスムーズレザーのキャップトウが正解といえるのではないかな。


クリームは購入当初からサフィールノワールクレム1925を使っている。
この靴は登板頻度が少ないため、クリームを塗るのは数ヶ月に一度くらいで、ふだんはブラッシングくらいしかしていない。これまで大雨に降られたことがない(小雨程度は結構ある)ので、他の靴に比べるとあまりクリームを塗る必要がないということもある。
小雨とはいえ、雨に振られるとボカルー特有の情けない感じにふやけるが、乾かしてブラッシングすればほとんど元通り。その時に使うブラシはクリームを塗りこんだ後になじませるために使っているブラシなので、多少のクリーム効果はあるかもしれない。

しわも結構細かく入っている。

全体的に銀が浮きそうなしわの入り方が気になるところだけれど、これはクリームの艶感によるところかもしれない。
リーガルのボカルーはロットによるばらつきが大きい気がする。今回の3054SFはかなりみずみずしい艶が出るが、少し後に購入した3055SFは磨いてもあまり光らない。

ラストは少し足に合っていないのか、履き口の内側が少し変形してしまう。
同じラストの内羽根モデルである3055SFではこういうことが無いので、外羽根の作りこみによるものなのかな。フィット感は内羽根より少し劣る。

アバディーンは踵の造形が今ひとつな気もする。踵の底面から履き口にかけて直線的なため、踵を掴む感じが弱い。

踵のこだわりがあるRENDO 7702とくらべてみると一目瞭然。

底面をコンパクトにしても上面が開き気味な印象を受けるアバディーンに対して、RENDO 7702は上面に向けてグラマラスな曲線を描いており、いかにも踵を掴みそう。
RENDOのラストは一般的な既成靴よりワンサイズ踵が小さいとされているけれど、底面はむしろアバディーンより大きめに見える。その上で上面に向かって絞り込む作り。

ちなみに、ペルフェットのパラティーノもやっぱり曲線気味だった。

横から見てもRENDOのほうが曲線を活かしている。左側がアバディーン。

この写真をとってから、自分の足をよく眺めてみたら、やっぱりRENDOのような曲線のほうが(少なくとも僕の)足の形に近い気がする。

このあたり、せっかく踵を小さめに設計してもいまいちその効果が出ている感じがしない理由ではないだろうか。ただ全体的に小さくすればフィット感が上がるわけではない。シェットランドフォックスの公式ブログによると、2015SSモデルとして販売開始されたウイングチップモデルでは踵周りのフィット感が向上しているとか。とはいえリーガルは百貨店などでも販売することを想定して、敢えてあまり攻めた踵にしていない可能性もありそうだ。

内羽根モデル同様に、前半部分はとてもタイト感の感じる靴。
紐をキツ目にしても羽根が閉じることが無いので、この靴はコルクがだいぶ沈み込んでも閉じきることは無さそう。
ただ、内羽根よりも長時間履いた時の左足の感覚が違う。内羽根キャップトウでは一日の終りには左足薬指に違和感を感じることが多いのだけれど、このVフロントはそれが無い。

3055SFの時も同じ印象を受けたように、この靴は履き始めからタコやマメができることがなかった。
僕はたいてい履き始めは左足小指にできることが多い。最もダメージが大きかったRENDO 7702の時は綺麗になるまで半年以上かかった。また、踵の外側には大きめなものが残っていて、もう治る気配が無い。
このことから僕にとって靴の合う、合わないの観点は左足の小指がどうなるかと、両足の踵外側がフィットするかが重要になっている。アバディーンはその点が合っているのだと思う。もしかするとすぼめ過ぎない踵のデザインが足に優しかったりして。

一方でこれまでの靴ではあまり受けたことがない親指に革が当たる(刺さる)というダメージを履き始めに受けた。よく親指に絆創膏という話の理由がわかった。甲が緩いとなるのだろうと漠然と思っていたけれど、むしろタイトなフィッティングだと購入当初のしわの入り方によってはあり得るなと。キャップトウだとキャップがあるので指にはあまり来ないけれど、プレーントウ系だと起こりやすいかも。
よく最初にボールペンなどを使ってしわの位置を調整する人がいる理由もなんとなく解る。(僕は自然にできるしわこそ靴の縫い糸に負担が無いと思って室内履きで自然にしわを入れるタイプ)

この手の長い靴は好き嫌いがはっきり分かれる。
どちらかと言うと強烈に好きという人はあまりいなくて、絶対に履かないという人はワリといそう。僕も従来はなんとなく避けていたタイプのデザインだし、いまでもラウンドのほうが好きで、セミオーダーするならラウンドタイプの内羽根キャップトウか外羽根プレーントウがいいなと思う。
そんな僕が結局外羽根Vフロント(3054SF)、内羽根キャップトウ(3055SF)とふたつ買ってしまっているのは、タイトに履ける靴でありながらタコにならない気持ちよさ、履いてみたら意外とふつうな気がするデザイン、購入当時はボカルーの質感がわりと好きだったということにある。
靴って一日中履いているものだからやっぱり履いていて意識をしないか、気持ちいい感じがするようなものがいい。


シェットランドフォックスは「ミリ単位で修正を加えながら完成させた木型」を短期で廃盤にすることが多い。木型(ラスト)って資産だと思うのだけれど、こうすぐに廃盤になることを振り返ると、この文言も軽く見えてしまう。開発にコストを掛けた大切な木型なら償却するまでは素材の調達先変えてもモデル継続するほうが財務上良さそうに思える。顧客の立場からしても、例えばペルフェットとか三陽山長ってレザーの調達先変えてもモデル継続なので革の好みと馴染みに差はあれど、リピートできる安心感がある(ペルフェットは最近ちょっと違ってきている感じがするけど)。

逆に継続販売が無いかもしれないという不安感を煽ることで数多く買わせようというマーケティングもありかもしれない。ただ、これを繰り返していたら結局流行に乗るだけの軽いブランドになってしまう。良く言えばお客様の声を拾って改良を続けているといえるけれど、一方でいつまでも半完成品のようなものをその場の思いつきで出してくるようにも見える。流行を追い続けて商品開発をすることが主流の会社が故なのか、シェットランドフォックスはこういう売り切り型の雰囲気がしつつある。少なくても男性向けドレス・ビジネスシューズで5万円以上の靴を売るブランドって、10年以上(というか、開発時点では永遠に)販売するつもりの気合の入った製品を作るところが評価されているのではないだろうか。2235NAなんてデザインが今風でなくても、ラストが最近の若い人に合わなくても、定番として販売され続けていることがリーガルの底力を担保している。その場限りの商品はそれはそれで必要だとしても、100年前からあるようなデザインの定番モデルについては流行がどうなろうが素材の調達先が変わろうが、とにかくいつまでもあり続けるような安心感が欲しい。
リーガルによれば、過去モデルの木型はすべて修理用に保管している(リウェルト前提の修理だから全サイズあると思われる)ということだから、廃盤するくらいならリピータ向けパターンオーダー専用にして販売継続すればよいのにな。履き心地が気に入っている人にとってはものすごくありがたい。
ケンジントンなんて捻れラストによる履き心地の良さがひとつの売りだったし、事実僕のようにケンジントンがものすごく気に入っている人もいる。「ケンジントン(国産キップモデル)」「ブリストル(国産キップモデル)」とか買えるのであれば10年後あたりに買いたい。

アバディーンは素材が比較的安定供給されそうなボカルーなので当面は継続するかな。僕はもうこのモデルは打ち止めするつもりだけれど、それこそ10年後、セミブローグが欲しくなるかもしれない。そんなとき手に入れることできるかな。

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クリームは定番のサフィールノワールクレム1925を使っています。




ときどきレノベイタークリームで保湿しています。

2 件のコメント:

  1. タンナーについては刺さってくる同業他社対策、ケンジントンll のタンナーとの"お約束?"のため明記しないようになったようですよ。

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    1. 情報ありがとうございます。

      なるほど、確かにケンジントンIIのあたりから一斉に表示されなくなっていた気がします。ケンジントンIIってブランド最高モデルなのだから、表示される方がタンナーにもメリットありそうですけど、イルチアの問題でいろいろあるのでしょうか。

      個人的には靴は店頭で買うのでタンナー名不明でもあまり困ることは無いのですが、通販で買うような場合は情報が減る分不便ですね。

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