2014年9月14日日曜日

SHETLANDFOX 525F INVERNESS

シェットランドフォックスのシリーズ中、ラストのまとまりが最も良いと思うのがインバネス。
ややロングだけれど、主張しすぎないオーバルなトウに低めの甲、小さめのかかとという僕にとってドンピシャな作りではあるのに、ラインナップされているデザインがベーシックとは言えず、残念に思っていた。

過去にもインバネスのプレーントウがあれば「速攻で買い」と書いた。ラストが比較的ベーシック寄りであるが故に、デザインを保守的にし過ぎるとブランドの色を出しにくいとは思うけれど、やっぱりこのラストこそベーシックなデザインが似合うと思う。

そう思っていたら、本家ではなく伊勢丹の別注モデル(ONLY MIモデル)としてプレーントウが登場した。525F。

よく見ると切り返しのデザインに少し遊びが見られるものの、ベーシックなプレーントウといってもいいと思う。シェットランドフォックスはせっかくの定番ラストで変な遊び心をいれてしまい、結果的に(僕にとって)まったく魅力のないモデルばかりのインバネスという感じだったけれど、やっと「コレだよ欲しかったのは!」というモデルが出てきた。
レースステイの切り返し部分がやや後ろに流れているのがインバネスの特徴。外羽根セミブローグからのデザイン流用ということがわかる。

よくあるプレーントウ(写真はイギリス製)はヒールリフトの手前で落ちている。

このモデルを企画した伊勢丹のバイヤーさんもしくは企画担当さんに「ありがとう」と言いたい。
トンガリツーシームが若い人の間で流行るご時世に、一見何の変哲もないプレーントウを税込み5万円近い価格で出すのは結構勇気が必要だったのではないかと思える。
シェットランドフォックス本体だったらこういうモデルは出なかっただろうなぁとさえ思える。どうせならもう一つはアッパー違いのキャップトウではなくてベタな内羽根セミブローグ(キャップトウにちょっと穴開ける程度の)が出たら最高だったなぁ。

伊勢丹の別注は変に中敷きにロゴを入れたりしないのもいいと思う(これは賛否両論あるかもしれない)。同じシェットランドフォックスでさえ日比谷モデルは色違いのライニングになるところ、別注なのにレギュラーと同じ。僕は「ファッションにロゴは不要」という価値観なので伊勢丹のモデルには非常に共感を覚える。

一方で高島屋さんはせっかくの大塚M-5クラスの靴に手を加えすぎに思える。以前はOtsuka表記だったような気がするけれど、気がついたらTAKASHIMAYAロゴになってしまっていた(新宿で見た)。実は僕、大塚の靴を一度履いてみたくて新宿にあるのを確認していたのだけれど、購入資金をためているうちになんだか変な方向に変わってしまっていた。社員向けの制服靴なのかという印象で、ちょっと靴脱ぐと恥ずかしいかなと。これをokした人のセンスを疑う。

ところで、今回から「シェットランドフォックス」のアルファベット表記を「Shetland Fox」から「SHETLANDFOX」に変更。公式サイトを見るとスペースなく大文字で書かれていたことに気がついた。(いまさら)

ブラックの外羽根5穴プレーントウはビジネスファッション本やサイトでは「いの一番」に紹介されるデザインでありながら、スムーズレザーでレザーソールの国産外羽根プレーントウというのは意外に少ない。僕の知る限りだとリーガルでは国産キップのW124くらい。スコッチグレインでは革+ゴムのコンビソールのエントリーモデルのみ、ユニオンインペリアルでは見当たらないし、三陽山長もホールカットのみ。基本と言われていながら売られていない不思議なデザイン。

プレーントウのシンプルすぎるデザインは確かに「面白くない」ようにも思える。そもそも靴に「面白さ」が必要なのかという議論はあるのだけれど、実際に履いている人少ないですし。足元がシンプルすぎると安定感が乏しい印象も与えがちで、おまけにこのデザインはお手入れをきちんとしないと途端にみすぼらしくなる。使いやすいように見えて、実はかなり使いづらいと。

しかしプレーントウはよく見れば見るほど、考えれば考えるほど奥深いデザインで、これを格好良く履きこなすのは、白いシャツを格好良く着こなすのと同じくらいセンスが要求される。プレーントウは「減点を付けない選択」であると同時に、「加点になれば上級者」の試金石のようだ。
靴屋さんや百貨店靴売り場でもプレーントウをはいている人が増えているようで、高級靴ブームの際に少し埋もれていた感もあるブラックのプレーントウも最近やや復権の兆しがみられるような気がする。

アッパーはタンナー名非公開のカーフ。イタリアの老舗タンナーのもので、ブリストルに使われているものと同じだそう。(リーガルは「ブリストルカーフ」と呼んでいる)

いままでシェットランドフォックスはマイナーなタンナーでもタンナー名を公開していたので、ここにきて非公開にする理由がわからない。(工場の写真は公開されているのに)
公式サイトではアバディーンの甲革も単に「カーフ(フランス製)」のように書かれているし、リーガルトーキョーでも具体的なタンナー名を伏せることが多くなってきた。まぁ、この辺りの靴を買う人ならば良し悪し見れば判るでしょ、ということなのかもしれないけれど、ブランドというのは品質の証明でもあるので、タンナー名が判るほうが有難いと思う人のほうが多いと思う。(一方でソールについてはなぜか栃木レザーと明示してひとつの売りにしている)

このブリストルカーフ、根強い人気のイルチア社ラディカ代替の位置づけだけにネット上でも賛否両論あるっぽい(否が多い感じ)。個人的には初見ではラディカのような感動がなくて、ブラック以外はむしろ安っぽいプリント風のムラに感じてしまい、レザーそのもののポテンシャルと仕上げ質感のバランスが悪いような気がした。

一方でブラックは陳列棚ではパッと見アニリン仕上げの純粋なブラックカーフという感じだけれど、よくよく見てみるとムラ感があったりして好印象。クレム1925で磨くと結構簡単にみずみずしく光る。

僕はブラックのクリームを使っているが、ニュートラルで仕上げていくのもありなのではないかと思う。イルチアのラディカみたいに光の角度で劇的に色味が変わるようなことはないけれど、ブラックの国産キップと並べてみるとやっぱりうっすら赤みがあるブラックに思える。写真で見てもやや赤みを感じる。

この革は結構柔らかくて、シワが繊細にはいる。ただ、シワを記憶しやすいのかツリーを入れてもあまりシワがピンと伸びない感じで、履いている時は結構シワが深く入っているように見える。
また、表面の艶感が大きいため、ちょっと擦ると表面が曇ってしまう。拭けば元に戻るとはいえ、プレーントウは特につま先目立つのでチョットばかり意識して履いたほうが良いかもしれない。

履いた感じは内羽根モデルとほぼ同じ。
甲の押さえは結構効いている一方で、ボールガースは少しゆとりがある。標準から薄めの足に合いそうなラスト。足入れして紐をしっかり結んだ状態でいちばん上のハトメの部分をみると、内羽根モデルより若干開きがあるので、かなりタイトに履くことができる。キャップトウで羽根が閉じきらない人ならばプレーントウの外羽根が閉じきることはないはず。
かかとは小さ目であるけれど、内羽根モデルに比べれば外羽根モデルは少し緩めに感じる。これはどのモデルでも同じ傾向。
僕は右足のほうが全長は短いのに、なぜか履きなれるまで右側小指に痛さを感じたところもキャップトウの3029SFに似ている。

総じてインバネスラストはとてもまとまりが良い靴。

ややロングノーズなため、自然な立ち姿ではつま先が少し持ち上がる感じになる。つま先部分が薄いのとソールが薄めに仕上がっていることもあり、上がりやすいのかなと。これが結果的に歩きやすさにつながっているのかな。全身が写る写真の時などは、少しばかりつま先に力を入れたほうが見栄えが良いかも。

ツリーはシェットランドフォックス純正で。サイズ6だとディプロマットヨーロピアン39でも良いかもしれない。

正直、履き心地は甲の外側や土踏まずのフィット感時優れるケンジントンや、メリハリの効いた細マッチョラストのアバディーンといった特色のあるラストには負けるけれど、スーツに合わせた時の一体感はこのふたつを凌駕する(と思う)。

それにしてもベーシックなプレーントウを買うのに税込み5万円を出す人ってどのくらいいるのかなぁ。コベントリーが出た今となってはよほどインバネスが好きとかレザーソールじゃないと嫌だという人でないとあえて手を出す理由は無いし。

意外とコベントリーは革の質感も悪くないし、あれがもしレザーソールだったら僕のビジネスラインはコベントリーで完結しそうなくらいベストなラインナップだ。
まぁ、アスコットのように両方揃えて中途半端に行くより、ラバーソールはコベントリーに任せて、レザーソールはインバネスでカバーすれば良いのかな。

525Fは国産プレステージラインのプレーントウという点において、いまのところ唯一無二と燃える存在。伊勢丹別注はいつも良い線をついてくる。前回のイルチアエジンバラのキャップトウなんて、まさにセミスクエアのど真ん中を攻めてきたという感じだし、今回のインバネスプレーントウも40代の人がプレーントウに抱くあこがれを具現化したのではないかと思う出来。僕は両方ともそう思って、両方とも買ってしまった。
アッパーに使われているカーフの質感が好きならばキャップトウと揃えても良いくらい。
遅れてレギュラーモデルでもプレーントウが出るようだけれど、この伊勢丹別注が果たした役割って大きいよなぁ。

靴にあまり興味のない層も含めた大きな市場で勝負をするには「差別化」によるブランドイメージ確立が有効なのは解る。靴を尖らせてみたり、色でごまかしてみたり、ギミックを加えたり。
一方で靴そのものに興味があるという層(言い換えれば「靴好き」)は外見は保守的、素材への要求は高く、また歴史的・伝統的価値観とブランドイメージで靴を選ぶ。(そして多くはインポートものが好まれる)

そんな中で、国産でこういう「ふつう」なモデルを出してくるところが、さすが日本一ともいわれる靴売場を有する伊勢丹だなと思わずにはいられない。これまで輸入モノと真っ向勝負を避けてニッチな市場を作り出すことを狙っているインバネスという感じがしていたが、伊勢丹はニッチな空白地に奇を衒わずに攻めてきた。勝負のかけ方が違う。

伊勢丹は製造中止モデルを継続して別注で出していたという実績もあるし、本当に長い間飽きないベーシックなものを企画してくれるので、次もどんな別注が出てくるのか楽しみ。その時のためにコツコツとお金を貯めようと思うのです。