2014年7月1日火曜日

Soffice & Solid S701

いい靴を作る実力がある会社だとは思うけれど、いまひとつ履いている人を見かけない世界長ユニオン。その中でもさらにニッチに展開するブランドであるソフィスアンドソリッドのS701。

アイレットの周りにちょっとしたパーフォレーションがあるけれど、カテゴリーとしてはクオーターブローグというよりはパンチドキャップトウといった方が近い気がする。
(僕はこの2つの厳密な定義を知らない。キャップ以外に穴飾りありだと、もうそれはパンチドキャップトウではないの?)
サイドの流れるようなデザインは、ガチガチの定番好きの僕としては少し軽いかなとも思ったのだけれど、このくらいの遊びゴコロだったらいいよね、という範囲。

ロングノーズで一応チゼル。トウは小さめなポインテッド。サイドは少し丸みがある。小ぶりなパーフォレーションと合わせて、一見繊細に見える。

ボロネーゼ式グッドイヤー製法という、他にはないマニアックな作りの靴。
どんな作りなのかというのは世界長ユニオンのサイトを見てもらうのがいちばんだとおもうので省略。

ボロネーゼ式グッドイヤー製法は返りの良さが売りだという。そう言われてみるとそのような気もするのだけれど、履きこんだグッドイヤーウエルテッドと比べるとそれほど違いがないかも(僕が違いの分からない人なのかもしれない)
どちらかと言うと、足が包まれている感が強いところが特徴。本来のボロネーゼ製法は靴下のような履き心地と言われていて、確かに全体に丸みを帯びているからなのかつま先にかけて包み込まれるような感じを受ける。
一方で、土踏まずは少し盛り上げている。なんとも言えないソフトタッチの前半部と、多少攻めを感じる後半部とアンバランスな感じがしないでもない。ただ、このメリハリによって靴下ではなく靴としての履きごこちが生まれているのかな。

ウイズがシングルEのため、ボールジョイントからかかとの手前まで靴全体の細さを感じるなかなかタイトなラスト。実測EEの僕にとってはやっぱり少し幅が狭く、長時間はいていると外側全体が痛くなる。点であたるではなく、思いっきり面であたる。
他の靴を比べてみると明らかに幅が細い。細く見えるというのではなく、単純に細い。このため足の外側全体がかなり窮屈に感じるが、捨て寸が多いのか小指の先端が当たって痛いというのはない。
ここまで細めに攻めている靴の印象からするとかかとが小さいかとおもいきや、それほどでもない。ボールジョイントに合わせてハーフサイズ大きめを選択してしまうと、今度はかかとがかなり緩くなってしまうため、サイズにはちょっと悩まされた。

全体では細めかつ甲低め。シェットランドフォックスのアバディーンとほぼ同じくらい羽根が開く。僕は薄めの足だと思うけど、キツメに紐を結んでも1cmくらい開くので、細め薄めの人にはかなり合うのではないかな。

この靴はラストも工夫されていて、前半部と後半部で中心線がずれている。これは人間の足の形に忠実にした結果ということらしい。

ソールを覗いてみると、完全に足(指)がインソールからはみ出ている。
でもこの靴の製法を考えると、インソールも含めて袋状に縫うようなので、グッドイヤーウエルテッドに比べると同じ周囲だとしても、インソール自体はもともと小さいような気がする。逆に考えると、インソールで足を支えるのではなく、あくまでもインソールは安定性と丈夫さに貢献する接地面の一部なだけで、アウトソールでカバーされる足幅全体の部分がソール機能を果たすことができる柔軟な作りになっているとも思える。アッパーがコバよりはみ出るようなこともないので、やっぱりそういう作りなのだろう。

アッパー素材は仏アノネイのボカルー。
4万円台の国産靴ではウエインハイムレダーと並んでよく採用されている。ボカルーはクリームを入れるのに少々コツがあるのかロットによるのか、非常にみずみずしい艶感が出る場合と曇った感じをなかなか抜け出せないことがある。今回のS701は当たりのようで、最初の数回はなかなか艶が出なかったものの、だんだんといい感じに仕上がってきた。最低でも10回弱メンテナンスしないと(数ヶ月から半年ほど経たないと)ボカルーは真価がわかりづらい気もする。

ソールはヒドゥンチャネル仕上げ。この仕上げって確かに見た目高級感があるのだけれど、底は地面にすりすりされ、すぐに元の見た目が失われるわけで、機能的というよりは販売時の差別化という気がする。隠されていることで縫い目からの浸水が少しばかり抑えられるという実用的な面があるのかもしれないけど、誤差の範囲でしょう。
どうせソールにこだわるならペルフェットくらいやって欲しい。あれはさすがに気合を感じる。S701はシェットランドフォックスのアバディーンと同じように、工業製品的精巧さを感じるソール。
雨に降られたあとのソールは、グラスゴーと同じような感じでフヤフヤになる。乾燥した後のパサツキ具合もなんとなく似ているのでソールの素材は近いと思う。アニリンカーフのアッパーとあわせて、雨には弱い靴という印象。
新品時はかなりソールが滑る。かかとの釘打ちもあり硬い床だとかなり気をつけないと危険かもしれない。何度か雨に降られてソールが削れてくると、前半部はそれほど滑らなくなるが、やっぱりヒールは滑るので、結局のところ雨の日は滑りやすい靴。

ソフィスアンドソリッドはトレーディングポストだけで買えるモデル。
同じ世界長ユニオンのユニオンロイヤルは百貨店で買えるけれど、こちらはラストがEEE。店頭で履いてみたらかなり緩かった。
日本で歴史のある靴メーカーが展開しているブランドは大きめにできていることが多い気がする。リーガルの定番もそうだけれど、ハーフサイズは落とさないとゆるゆるになってしまう。ユニオン・ロイヤルは最低サイズが24cmで、僕にとってはこれだと緩かった。その下のサイズは無いので諦めた経緯がある。ユニオンロイヤルでEEモデルがあったらそっちを買っていたかな。

ボロネーゼ式グッドイヤー製法というこれまでにない作りは、差別化というところでは面白いけれど、実際に靴として飛び抜けて有利な点があるわけではない(と、鈍感な僕は思う)ので、結果的にコレクション的にポジションになってしまう。
もちろん、単なるボロネーゼではなく修理を前提とした製法になっているところは安心材料だし、まぁ、東京近郊に住んでいるもしくは職場があればトレーディングポストで修理に出せばよいので、それほど心配する必要はないか。

幅そのものがタイトなのでアバディーンでも幅がゆるいなぁという人にはいいかもしれない。すこしかかとが大きめなので、足が薄かったり小さかったりする華奢な足よりは単純に幅が狭いという人に合いそう。

靴のデザインやラスト、プライスゾーンを考えると、20代で靴に目覚めた人や30代で定番じゃ物足りない感を覚える人向けかな。どちらかと言うとガチガチの靴屋よりもツープライススーツの最上級ラインあたりに置いてあるとしっくりとしそうな、って感じがしないでもない。
スタイルや製法は繊細なのに、ウエルト周りに少し無骨さが残っているのが残念。
定番ものに飽きが入りつつも、やっぱり靴は定番しか買えないという保守的な人がちょっとだけ外す靴という印象。違うデザインでもう一足買うか、と言われるとそれなら僕の足にはカンピドリオの方が良いかな。