2014年4月12日土曜日

雨に降られた靴をケアしてみた - Shetland Fox Glasgow -

ひどい雨に降られました。

シェットランドフォックスのグラスゴー3048SF。
さすがの大雨で、ほとんど水たまりを歩いていたようなものだったので靴の中まで結構水が入ってしまった。

外で濡れて、オフィスに少し戻って、また外で濡れての繰り返しだったので、革靴には相当過酷な環境だっただろう。

家に帰り、その日はまずキッチンペーパーを水で濡らして軽く汚れを落としておく。
キーパーは入れず、靴底に空気が通るように立てかけておいた。
キーパーなしでこういう状態にすると型崩れし易いという話も聞くけど、他にやりようが無いのでいつもこうしている。

次の日見てみると、しばらくトウの部分にクリームを多く塗っていたせいか、ボコボコとしたシミが目立っている。
よく見ると塩も吹いてしまっている。
お手入れの際に堅く絞ったタオルで拭うため、それほどヒドイ塩吹きでは無いと思うけど、やっぱりびしょ濡れになるとどうしても出てしまう。
こうなると、単にクリームを塗るだけでは元に戻らないので、気合を入れてお手入れする必要がある。

まずはこのボコボコを解消するため、42度のお湯でやや緩めに絞ったタオルを被せて5分ほど置いておいた。

これだけで、かなり状態が緩和された。(と、この時点では思っていた)
物の本を読むに、このボコボコした状態は、革の内部の塩分がアッパーの蝋分のせいで外に出られず、中でたまっているという。だったら表面の蝋分を溶かしつつ、浸透圧の関係で塩を抜く方法がいいのではないかと思う。

その後、ステインリムーバをキッチンタオルにたっぷりつけて、表面を軽くなでなでする。なんとなくだけど、浮いた塩分などの不純物が取れるんじゃないかという気がする。
また、ステインリムーバの効果を示した図を見ると、汚れが浮き上がる効果があるわけで、次のステップの下準備だと思ってやっている。

その後もう一度軽く絞ったタオルを被せて20分くらい置いておく。

これでほとんど元通り、一部残ったボコボコを水を濡らしたティッシュでならす。
これも10分くらい置いて終了。

前日にたっぷり水を吸って、さっきまでタオルをかぶせていたので表面はまだしっとりしている。
ここでサフィールノワールレノベイタークリームをたっぷり塗りこむ。

よくサドルソープで洗うとき、泡を流しすぎないというのがある。これはサドルソープに含まれている保革成分を残すという理由。
やっぱり濡れた状態から乾く過程で脂分が不足していると硬くなりやすいのではないかと思い、ここでクリームを入れておいた。

デリケートクリームではなくレノベイターを入れるのは、蝋分が少し含まれているから。乾燥速度がデリケートクリームより遅くなることで、より革へのダメージが少なく元の状態に戻せるのではないかという勝手な妄想。


レノベイタークリームを塗り終えたら、軽くブラッシングしてクリームを均質にならしたらキーパーを抜いて一晩放っておく。


翌日見てみると、出るわ出るわ塩がまだ表面に出てくる。
昨晩の段階でもアッパーはまだ湿っていたわけで、乾燥の過程で残りの塩分がうっすらと表面に上がってきている。

靴には人間の汗に含まれる塩分が溜まるという。雨に濡れるとこのたまった塩分が表に出てくる。
逆に言えば「晴れの日しか履かない靴」というのは塩分が外にでる機会が無いのではないだろうか。濡らさない、洗わないと極度に水を恐れているとこの「定期的な塩抜き」が無いため、かえって靴が傷んでしまいそう。
やっぱり雨に降られるということはマイナスだけではないのではないかなと思えてくる。

もう一度タオル掛けて置いておいたらなんだかまた表面にシワが出てしまった。
相当汚れがたまっているのかなぁ。


塩抜きという観点でいえば、靴を丸洗いしてしまうのがいちばんだと思う。

というわけで革靴を水洗いしてみることにしました。

(※ここからは完全に僕個人の趣味の世界なので、高級靴や思い出の靴などをお持ちの方は専門の業者さんにご相談されることを強くおすすめします。※)

まずは、表面の汚れ落としも兼ねて、水をかけながら指で表面をなでなでする。
さすがに脂分が染み込んでいることもあり、この段階では表面はほとんど水を弾く。

ある程度表面の汚れ落としが終わったら、洗剤などは使わず、単純に水の中にドボン。

元々の目的は表面のボコジミ抜きなので。
10分くらい漬けておくと、水がうっすらと茶色になる。
その後よくすすいでまた水を張っての繰り返しを3回くらい。回数には特に意味がありません。洗濯機のすすぎが最大3回だったので。

すすぎの時に、つま先に溜まっていたホコリの固まりがどんどん出てきた。
ふだんのメンテナンスでは取りきれない奥の方に詰まっていたホコリが水で浮いて剥がれたっぽい。

ある程度塩が抜けたかなと思ったあたりで
花王のエマール。
おしゃれ着用の中性洗剤なので、とりあえずダメージ少なめの処方がされているのではないかと勝手な推測で。
サドルソープはアルカリ性の溶液なので革にはよくないのではないかという記事を読んでから使う気がしなくなってしまった。これだけサドルソープを使っている人がいるのだから、きちんと使えば問題無いとは思うけど、「ブーツ」ソープではなくて「サドル」ソープなんだよなぁ。(たまたま歴史的に呼び方が定着しているだけなのだろうか)

革の性質からすると弱酸性が良さそうだけれど、酸化を助長してハトメが錆びたりするとそれはそれなので、真ん中とって中性洗剤に。
これをサドルソープ用のスポンジに少量付けて泡立たせ、アッパーや靴の内部を軽く洗う。

洗い終わったらよくすすぐ。
風呂場のシャワーでこれでもかというくらい水を掛けて泡立ちが全くないくらいまで洗剤を落とし、一度繊維の奥に残った洗剤を抜くためつけ置き。最後にシャワーで全体を流して終了。

乾いたタオルで内側の水分を吸い取り、アッパーの水気も取る。
ウェルトのあたりはキッチンペーパーを使ってていねいに水気を取り除く。
ある程度取れたらキッチンペーパーを中に詰める。
だいたい片足で14、5枚くらい。
ちなみに、僕はいろいろキッチンペーパーを使うので、1ロール近い量を使ってしまうのだけれど、このコストは50円以下。かける価値があると思う。

この時点でだいぶ表面が戻ってきた感じがする。
この時点でボコシミは目立たない(ほとんどなくなっている)
最初30分くらいしたところでいったんキッチンペーパーを詰め替える。
新しいものを使っても良いけれど、後ろの方に詰めたものはほとんど水気がないので、入れ替えるくらいで十分かも。その後は一晩風呂場に置いておいた。
ちょうどうちの風呂場は24H換気の空気が通るため、つねに微風の環境にある。

10時間くらい経って見てみると、表面はそこそこ乾燥していた。さっそく取り出して中のキッチンペーパーを取り除く。
さすがに内側はまだ湿っていたので、カビ防止も兼ねて軽く日光に当てることにした。

まず最初に保湿のためサフィールノワールのデリケートクリームを全体に軽く塗って、キーパーは入れずに天日干し。特に靴の内側に陽がさすように靴を置いておいた。
およそ2時間くらいたったら今度はレノベイタークリームを少し多めに塗って、ていねいにブラッシングしてからキーパーをセット。ソールにも少しコンディショナーを塗ってまたしばらく置いておく。

全体が表面的に乾いたところでいつものサフィールノワールクレム1925のブラックを薄塗り。
ウェルト部分にも少しクリームを入れて、コバはコバインキで塗り直した。
表面がリセットされているせいなのか、ブラッシングをていねいにすると、いい感じに。

ここでふと思うのだが、インソールやライニングの脂分も水洗いで抜けてしまっているわけで、それはどう補給したら良いのだろう?とりあえずデリケートクリームを超薄塗りしてみたけど、インソールは水分をよく吸うので上手く塗れない。この辺りのケアはノウハウを豊富に持つ専門の業者さんに一日の長があると思う。自己流は思わぬ落とし穴があるかもしれない。

半日おいてから最後のお手入れ。
もう一度クレム1925を薄塗して、ブラッシング、ウエスでよく磨く。

完成。
トウのシミもなくなり、チプリア独特のつややかな感じが復活。
チプリアはクレム1925だけでも結構光る。写真だと少しわかりづらいのだけれど、水飴のような感じ。クリームオンリーなのでひび割れなどの不安も少し少ない。

念のため数日間は部屋の片隅あたりに放っておく予定。表面はほぼ乾いていても、おそらく中のコルクだとかヒールの積上部分だとかはまだ湿っているはずなので。

ふぅ。今回は結構手間だった。


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レノベイタークリーム。万能クリームなのでひとつあってもよいかも。




クレム1925。いまのところベストクリームかと。


4 件のコメント:

  1. こんにちは。
    グラスゴーは雨に強い感あったけどさすがに大雨となると。。

    思いつくこと、やりきりましたね。
    ここまでいじれるのもこの靴の良いところ?また勉強になりました。

    ところで、私もサフィールクレム1925を試してみました。ビーズクリーム、ディアマンテでは履いたあとすぐに甲が細かなしわでくすんでしまうところが、1925では艶が持続する。これはこの靴だけの特徴なんですが、×10ルーペでの観察では特に差異を確認できないので顕微鏡を購入しました。またあらためて報告します。

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    1. コメントありがとうございます。

      今回は冷水を使って、洗剤もあまりゴシゴシしすぎずとかなり穏やかにやりましたが、それでも洗い上がってクリームを塗ったら驚くほどに復活しました。

      フラスキーニのチプリアはクレム1925をやや多めに塗ると結構艶が出るとは感じていましたが、水洗い後はそれほど大量に塗らなくても表面が恐ろしいほどにツヤツヤしました。
      この革はパサついている状態だと傷もつきやすく、また見た目もなんとなくみすぼらしい印象を受けるのに、いざそれなりにクリームを塗ると強烈に艶が出る面白い革だなと思います。

      顕微鏡で見てみると面白そうですね!洗う前と洗った直後とそのあとクリームを塗ったあとで表面ってどう変わるんでしょうか。もし実験された暁にはぜひこの感性だけで書かれているブログに科学的なコメントを貰えたら嬉しいです。

      今年はあと1足しか靴を買ってはいけないとのお達しが出ているので、靴ネタが尽きたらシューケア実験ネタでも書いてみようかと思っています。次はアクセス数の多い01DRCDあたりをやってみようかと。

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  2. おおっ。ベガノとの比較 大変興味があります。耐水特性が対称的だし。
    となると私も水洗いしないといけませんね。
    サドルソープで他の革製品しかやったことないのでなんかドキドキします。
    乾燥プロセスがなかなか我慢できないんですよね。

    誰もが再現できる実験結果を残しましょう。

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    1. コメントありがとうございます。

      01DRCDもこれまで結構雨に降られたのですが、表面のボコシミの出る程度が他の靴より少ない気がしています。
      洗ってみるまではなんともとはいえ、案外いけそうな感じです。

      確かに、乾燥プロセスがキモだと思っています。アイロンがけの工夫を紹介しているサイトを見ると、水に濡らして乾燥する過程で分子の並びが崩れることがシワの原因とあるので、靴も乾燥間違えるとダメなのかなぁと。
      完全に乾き切らないタイミングでクリームを入れようと思うと、休みの前日夜に水洗いして、次の日ある程度加脂ってパターンが取れる日を選んで実行しようと思っています。

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